実写映画『キングダム』王騎が登場しない選択肢も 松橋P、反響呼んだ“大沢版王騎”のスタートを振り返る
原泰久の累計発行部数1億部(2023年11月時点)を突破する漫画を実写映画化するシリーズの第4弾『キングダム 大将軍の帰還』(公開中)。シリーズを通じてプロデューサーを務めた松橋真三は「この物語を作るために『キングダム』をやってきたと言っても過言ではない」と語るが、第4弾のキーパーソンとなるのが大沢たかお演じる王騎将軍。第1作の時から大きな反響を呼んだ“大沢版王騎”だが、シリーズ化が決まっていなかった当初は王騎を登場させない選択肢もあったという。
紀元前・中国春秋戦国時代を舞台に、天下の大将軍になる夢を抱く戦災孤児の少年・信と、中華統一を目指す秦国の若き王・エイ政(吉沢亮※エイは、上に亡、中に口、下左から月、女、迅のつくり)を描く本シリーズ。大沢演じる王騎は、信が憧れ背中を追い続ける天下の大将軍。第4作では、秦国総大将・王騎が因縁の関係にある趙国総大将・ホウ煖(吉川晃司※ホウはまだれに龍)と激突することになる。
松橋Pは、第4作の物語について「原作でもすごく大事なエピソード。“キングダムが大好き”って言っていた人たちが“愛してる”に変わったタイミングなんじゃないかと思うんですよね」と『キングダム』を語るうえで欠かせないエピソードであることを強調する。シリーズ化が決まっていない第1作のときから「ここまでが一区切りだから、もうなんとかここまでは走りきりたいっていう強い情熱を持ってやってきた。これまで描かれてきたさまざまな事柄が集約されていくような構成になっている」とも語るが、その「さまざまな事柄」の一つが王騎だ。
「王騎は“何やら怪しい男がいる”というようなところからスタートして今に至るわけですが、第1作を作った時、原作者の原先生との打ち合わせをさせていただいた際、続編を作れるかわからない状態だったこともあって“2時間の物語の中で、いっそのこと王騎はカットした方がいいんじゃないですか?”と言われたことがあって。 だけど私は“先々絶対に王騎将軍が必要になる”“少しでもいいから出しておきたいんです”とお話しして。大沢さんにも“ここから先続くかわからないし、第1作ではそんなに出番がないんだけど、それでもお願いしたい”とお話ししてここに至っています。続編のめどがなかったとしても『キングダム』を続けていきたいという思いが少なくとも私にはないとダメ。シリーズを引っ張る大きな原動力が王騎であり、今回の物語だと思っていたので、シリーズ化するには第1作で王騎を登場させることが不可欠だった。ですから、ようやく第4作にたどり着いて感慨深いの一言につきますね」
今でこそ、大沢演じる王騎は実写映画シリーズの中で屈指の超人気キャラクターとなったが、第1作の時はここまでは予測できなかったという。
「昨今『るろうに剣心』『キングダム』を経て、漫画の実写化に対する世間の見方もだいぶ変わってきていると思うんですけど。発表したら大炎上するであろうことも承知の上で“炎上をひっくり返しましょう”っていう話をスタッフ、キャストのみなさんにしながら作っています。大沢さんにも“中でも王騎将軍が一番炎上するかもしれません”という話もさせていただきました。でも大沢さんは挑戦するハードルが高ければ高いほど燃えてくださる方なので、だからこそやりましょうよっていうような話をしました」
大炎上も危惧していた大沢版王騎。だが、ふたを開けたらその存在感と再現度の高さに原作ファンも熱狂した。その理由については「やっぱり大沢さんの役に対する真摯な向き合い方なんだと思います」と松橋P。
「大沢さんにオファーしたときには、世間はおそらくスマートでスラッとしたイメージを持っていたと思うので、“いやいや、そんなの無理でしょ”と不安視するご意見は必ず出てくるだろうと。でも、私は大沢さんがものすごいアプローチをする方だとわかっていたので不安はありませんでした。結果、当時16キロも体重を増やし体をつくってくださって期待以上の王騎が誕生したので、観てくださる方も感じ入るものがあったのだと思います」
その王騎について、第4作での見せ場をネタバレなしを前提に聞くと、第一に吉川晃司演じる宿敵・ホウ煖とのバトルを挙げた。
「日本ではあまり見たことのないようなヘヴィー級のバトルを実現したかった。例えば『るろうに剣心』では日本人の体型に合わせ飛んだり跳ねたりと俊敏さを生かした軽量級のアクションが表現されましたが、ハリウッド映画の『ハルク』『ダークナイト』シリーズのように巨大なキャラクター同士がぶつかる衝撃を表現するのは日本映画ではなかなか難しいと思うんです。でも、今回の物語であればそれができると。そのバトルの中にちゃんと王騎、ホウ煖それぞれの物語があり、それを取り巻くみなの物語が集約されていく。本作を一言で表すなら継承の物語。加えて“今がどういう状況で、どういう危機を迎えていて、敵からどんな作戦が仕掛けられたのか”といった戦局を細かいところまで、費用をかけてビジュアルで見せることで“本当にこんなヤバい状況になったら一体どうなってしまうだろう!”と、彼らと共に戦場を体感するかのように、ドキドキしながら観ていただけたら」と自信を見せた。(編集部・石井百合子)