高倉健さんは映画人生における神 キャメラマン・木村大作、没後10年特集「若い人に観てほしい」
名キャメラマンで映画監督の木村大作が7日、丸の内TOEIで行われる特集上映「没後10年 高倉健特集 銀幕での再会」(11月7日~22日)を記念したトークイベントに出席。9本の高倉健さんの作品でキャメラを回した木村が高倉さんの思い出を回顧した。
「没後10年 高倉健特集 銀幕での再会」は、これまでデジタル上映されなかった『花と嵐とギャング』(1961年)、『悪魔の手毬唄』(1961年)、『ジャコ萬と鉄』(1964年)、『狼と豚と人間』(1964年)、『山口組三代目』(1973年)、『現代任侠史』(1973年)など10本の初デジタル上映作品を始め、鶴田浩二、藤純子(現・富司純子)の主演作品に客演した「脇役でも輝く健さん」作品、東宝・松竹、KADOKAWA配給作品も含む珠玉の19作品が上映される。
この日は、1981年に公開された『駅 STATION』が上映。本作でキャメラマンを務めた木村は「この映画のことなら何時間でも話せますよ」と笑顔を見せると「初めて健さんと出会ったのが『八甲田山』。3年間も過酷な現場を経験して、健さんからジッポのライターと“戦友・高倉健”というのを終わった後にもらいました。『八甲田山』の撮影が過酷で、健さんはタバコをやめたんです」と振り返る。
その後も『夜叉』(1985年)、『鉄道員(ぽっぽや)』(1999年)など合計9本の映画で高倉さんとタッグを組んだ木村は「日本の俳優でスタッフまで指名してくるのは、高倉健さんしかいません」と言うと「いまでいうエグゼクティブ・プロデューサーのような立場。健さんがOKしないと作品は完成しない。俳優を超えた存在でした」と影響力のすごさを語る。
さらに木村は「健さんはオーラがあるという俳優でしたが、最近はオーラがあると表現する俳優は増えています。そうなると『健さんはどういう人か?』と聞かれると、ただただすごい俳優となる。僕らは対面できないような、すごい俳優。これからも健さんのような俳優は出てこない」と断言していた。
また高倉さんは、撮影したラッシュ映像をくまなく自身で観る人だったというと、『駅 STATION』のラストシーンも、高倉さんの希望で台本から変更したという裏話を披露。そして「高倉健さんは現場で座らない」という伝説も「自分が出演していないシーンでも現場に立っていて、本当に座らない。俳優さんだけではなく、スタッフ一人一人をものすごく見ている人。映画作りに対して、精一杯自分の身を捧げた人なんです」と語っていた。
キャメラ越しから見た高倉健さんの俳優としてのすごさについて、木村監督は「あの人は感情で芝居をしている。無言でもすべてを表現している。後ろ姿で人生を魅せることができる。“感じる人”なんですよ」と述べていた。
「とにかく若い人に観てほしい」と高倉さんの特集上映への思いを語った木村。高倉さんが亡くなってから10年になるが「以前は健さんのことを誰かが話すのはご法度だった」と言い「でも誰かが健さんのことをしゃべらないと何も出てこないということで、『鉄道員(ぽっぽや)』あたりから(話しても)いいよという風向きになった。僕にとって黒澤明監督と高倉健さんは映画人生において神です」と語る。
木村は現在85歳。「あと5年、90歳になったらさすがにダメだと思うけれど、市川崑さんは90歳、新藤兼人さんも100歳で映画を撮った。山田洋次さんも93歳で、まだ次回作もあると聞いています。僕も負けていられない。こんな面白い世界、なんで辞めなければいけないんだ」と生涯現役を宣言すると「『なぜ、日本の映画界は木村大作に仕事をさせないんだ』と書いてくださいよ」と笑顔で訴えていた。(磯部正和)