「東京コミコン」来日セレブ側から「出たい」の声も 副実行委員長・杉山すぴ豊が明かす現在地と課題
ポップカルチャーの祭典として、2016年から千葉・幕張メッセで開催されている「東京コミックコンベンション」(以降、東京コミコン)。2023年からは、インテックス大阪を会場とする「大阪コミックコンベンション」(以降、大阪コミコン)が実施されるなど、日本でも“コミコン”文化が浸透してきている。大阪と通算して10回目となる「東京コミコン2024」の開催が迫る中、副実行委員長兼トータルプレゼンテーターを務めるアメキャラ系ライターの杉山すぴ豊がインタビューに応じ、東京コミコンの現在地、歴代開催を振り返って見えた課題、今後の展望について語った。
東京コミコンの始まりは、長きにわたりマーベル・コミックスの編集長を務め、“ポップ・カルチャーの父”として愛された故スタン・リーと、“テクノロジーの王”と称されるAppleの共同創業者スティーブ・ウォズニアックとの出会いがきっかけ。ウォズニアックは、最新のテクノロジーと最高のポップ・カルチャーを融合させたコミコンを、彼の住むシリコンバレーで開催し、グローバルな祭典として盛り上げたいと考えていたが、「それならば日本を巻き込まなければならない」と東京を会場に選んだ。2016年の第1回以来、海外の有名俳優や著名アーティストを来日セレブとして招き入れ、豊富なステージイベント、映画で実際に使用されたプロップ(小道具)の展示、セレブとの撮影&サイン会、コスプレイヤー同士が交流する機会などを提供し続けている。
来日セレブはいつ頃から調整している?
東京コミコンは、毎年11月下旬から12月上旬の開催が定着している。そもそも、なぜ冬開催となったのか? 杉山は「12月は比較的ハリウッドで(映画やドラマの)撮影が少ないと言われていて、俳優たちが稼働しやすいんです」とその経緯を明かす。「真夏だと映画が絶賛撮影中であることが多く、さらに、夏はサンディエゴ・コミコン、秋はニューヨーク・コミコンとバッティングしてしまいます。そういったことが、12月開催の理由として挙げられます」
毎年目玉となるのは、来日する豪華な海外セレブたちだ。これまで、ジェレミー・レナー、トム・ヒドルストン、クリス・ヘムズワース、マーク・ラファロ、ユアン・マクレガー、ノーマン・リーダスといった名だたる俳優陣が参加してきた。「東京コミコン2024」でも、ジュード・ロウ、マッツ・ミケルセン、ベネディクト・カンバーバッチ、ジェイソン・モモアらの来日が予定されている。
来日セレブの調整は、毎年夏ごろから始まっているという。「仮に12月に予定していた人が来られなくなってしまった場合は、翌年の東京コミコンや大阪コミコンで調整することもあります。交渉自体は年がら年中しています。おかげ様で、東京コミコンの評判がセレブ間では良いらしく、セレブの中でも『出てみたい』という声があがるみたいです」
また杉山は、マーベル、DC、『スター・ウォーズ』や『ハリー・ポッター』シリーズの出演者はもちろん、ストリーミングサービスの普及に伴い、ここ数年は人気配信ドラマに関連したセレブの来日も増えていると分析する。「配信ドラマの時代になってから、映画で活躍されている方もドラマに出ますよね。例えば、トム・ヒドルストンさんは、映画俳優であると同時に、ドラマシリーズ『ロキ』にも出ています。そういう方も増えましたね」
コミコンは“プラットフォーム”
昨年12月開催の「東京コミコン2023」は、来場者数8万5,682人以上と過去最高の数字をマーク。今年は史上初の動員数10万人突破が見込まれるなど、東京コミコンは日本のポップカルチャーファンに支えられる一大イベントになりつつある。
歴代の東京コミコンを振り返った杉山は、「クリス・ヘムズワースさんたちが来日した2019年開催が、コミコンとして一番完成された形だったんです」と打ち明ける。
「あのコミコンをベースに、これからどう伸ばしていこうかと考えている最中、コロナ禍に突入してしまいました。(2020年に)コミコンをオンラインで初開催しましたが、やはりリアルで会えることが楽しみなので、リアル開催を大事にしようと思いました。2022年にリアル開催が再開した時はまだコロナ禍で、マスク着用が必要など(条件が)いろいろありました。昨年の『東京コミコン2023』は、一度掴みかけた(2019年の)モデルを、自分たちで立ち位置に戻す意味合いも含まれていました」
世界のコミコンと肩を並べるためには、改善すべき課題もある。大きな課題の一つとして、杉山は「日本のIP(知的財産)の展開」を挙げた。「コミコンをアメコミやハリウッドコンテンツを扱うイベントだと思っている方が多いですが、コミコンは“プラットフォーム”なので、そこに何を乗せるかは自由なんです。これから世界のコミコンといい意味で競い合っていくためには、日本のコンテンツやゲーム文化も積極的に取り入れなければならないと思っています」
コンテンツを充実させるには、他の巨大イベントと競い合わなければらないと杉山は指摘する。「アニメの祭典で言えばコミケがあります。12月にはコミコンと別に集英社さん主催の巨大フェスがありますし、ゲームコンテンツは秋の東京ゲームショウに出展されます」
何よりもファンを大切に
もちろん、東京コミコンは来日セレブや出展企業のみならず、会場に足を運ぶファンを大切にしている。杉山は「コミコンはファンが来ないと盛り上がらないので、セレブと同じぐらいに、ファンがゲストだと思っています」と強調する。
「セレブを気持ちよく迎えてくれるのがファンなんです。彼らにちなんだコスプレをする人もいれば、応援うちわを作って掲げてくれたり、ファンの熱気と愛情でコミコンが盛り上がっていると言っても過言ではありません。そういう意味で、ファンに対してすごくリスペクトしているので、なるべくファン同士が会える場を作ってあげたいと思っています」
“コミコン”という単語がSNSでトレンド入りするなど、ここ数年でイベントの知名度は飛躍的に上昇した。「昔は映画の情報といえば、アカデミー賞や映画祭のレポートが中心でした。近年は、コミコンで作品の発表があったということがニュースになり、サンディエゴやニューヨークのコミコンがすごいという流れから、『コミコンが日本に来てくれるといいな』というムーブメントが高まり、東京コミコンが誕生しました。そういう意味で、映画メディアの皆さんには本当に感謝しています」と杉山は感慨深げに語る。
副実行委員長として「これから先、もっと大きなコミコンにしていきたい」と意気込んだ杉山。「重複しますが、映画・海外ドラマといったハリウッドコンテンツの人気を高めていくと同時に、日本のコンテンツを並べていく場所になっていけばいいなと願っています。エンターテインメントは、ジャンル、フォーマット、メディアを超えて広がっていきます。コミックからドラマ・アニメ・映画・ゲーム・2.5次元の舞台になっていきます。『コミコンはこうあるべきだ』『こういうものしか取り上げない』などとは考えず、そういったものを乗せていく懐の広いイベントとして、これからも広がっていくといいなと思います」(取材・文:編集部・倉本拓弥)