松下洸平、「光る君へ」周明はまひろを愛していたのか?大河初出演で挑んだオリジナルキャラは「異質さ」がキーに
吉高由里子が紫式部(まひろ)役で主演を務める大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で日本生まれ、宋育ちの見習い医師、周明(ヂョウミン)を演じるシンガーソングライター、俳優の松下洸平。大河ドラマ初出演作となった本作で演じたオリジナルキャラクターへのアプローチをあらためて振り返ると共に、主演・吉高との再共演を経て生まれた新たな目標について語った(※ネタバレあり。第47回の詳細に触れています)。
「光る君へ」は、平安時代に、のちに1000年の時を超えるベストセラーとなる「源氏物語」を生んだ紫式部の生涯を、大河ドラマ「功名が辻」(2006)、ドラマ「セカンドバージン」(2010)などの大石静によるオリジナル脚本で描く。松下演じる周明は、5月26日放送・第21回から登場。まひろが越前守となった父・為時(岸谷五朗)と共に越前に赴いた際に出会った人物で、まひろに宋のことばを教え二人は親しくなっていくが、6月9日放送・第23回では周明がある目的のためにまひろに近づいていたことが発覚。翌第24回で悲劇的な別れを迎え、まひろは都に戻り父の友人・宣孝(佐々木蔵之介)と結婚、周明は一度故郷の対馬に渡ったのち大宰府で再び医師の道を歩んでいた。
オリジナルキャラクターである周明に抱いた印象について、松下は「コンプレックスの塊のような青年」と振り返る。
「どこか人を寄せ付けない。まひろとの会話で“信じるな”というセリフが時々出てくるんですね。人を信じるな、俺を信じるな、国を信じるなと。信じられるものがない人というか。それはとても悲しいことだと思うし、人は一人では生きていけないし、誰かの支えや何か信じるものがあってこそ生きていけるはずで。彼にそれがないというのがキーワードかなと思って役づくりを始めた記憶があります」
周明のそうした人となりには、複雑な生い立ちが関係しているという。彼は12歳の時に口減らしのため父親に海に捨てられたところを宋の船に拾われた。
「やはり親からもらうものがとても大切だと思っていて。大げさな言い方かもしれませんが、生まれてから幼少期を経て、自我の芽生え、思春期に至るまで、親からどういう愛情を受けて育つかということが、その人の人生を決めるような気がしているんです。だからこそ、彼は幼い頃に親に捨てられてしまった時点で一つ信じるものを失っている。僕は37になった今でもそうですが、どんなことがあっても親が僕のことを信じてくれたから、そして僕自身も親のことを信じていたからここまで頑張れてきたと思っています。周明は1つ大きく欠落したものがあって、そこから宋に渡り、馬車馬のように働かされ、気づけば一人ぼっちになってしまったんだろうなと」
まひろと再会した際、周明は「俺のこと、恨んでないのか?」と20年前にまひろを傷つけた贖罪の想いを吐露しつつ、道長(柄本佑)の元を離れ、物語を書く気力もないまひろの支えになろうとする。「まだ命はあるんだ、これから違う生き方だってできる」「お前がこれまでやってきたことを書き残すのはどうだ?」「松浦(まつら)にまで行きたいと思った友のこととか、親兄弟のこととか、何でもよいではないか」と励ます姿は、20年前とは別人のようだ。こうした変化について、松下はどのように捉えたのか。
「まひろと別れてからが彼の新しい章の始まりだったと思うのですが、最終的に今いる場所が、彼にとって心安らぐ場所になっていたはずで。お芝居をする中で、(チーフ演出の)中島(由貴)監督から“あの頃の周明とは違って、憑き物の取れたような少し優しいおじさんでいてほしい”とも言われました。当時は自分の使命であったり、生きる意味や場所がないことへの葛藤、そういったものが渦巻いていたから、どこか人を寄せ付けないところがあったと思います。まひろに対しては笑顔で優しく接していたけれど、それも偽りの姿だったと思うと、今はそういったしがらみはないので。最後、大切な人を守り、命を落としたというのは、まひろに想いを伝えられなかったことに唯一悔いが残るでしょうけれど、彼にとっては最良とは言えないかもしれないけれど結果的に良かったんじゃないかなと思っています。悲しい死ではあるけれども視聴者の皆さんにもそういう風に思っていただけたらと思いますし、最後は大切な人の前でその人に触れながら逝ったことに、周明も天国でよしとしようと思っているんじゃないかなと」
第46回のラスト、異国の勢力が襲来し、周明はまひろをかばって射貫かれ、命を落とした。前の場面では、松浦に発とうとするまひろに「松浦に行って思いを果たしたら必ず大宰府に戻ってきてくれ。その時に話したいことがある」と告げていたが、彼にまひろへの恋心はまだあったのか。そして「話したい」こととは何だったのか?
「恋心はあると思います。久しぶりに再会して、年を重ねて位も変わり、激動の人生だったとは思うけれど、当時の周明が知っているまひろのままで。政庁で飲んだことのない宋の茶に興味津々の様子を見て“あぁ、この顔懐かしいな”と思いましたし、二十数年前、自分の気持ちに気づけなかったぶん、再会してあらためてとても素敵な人だなと。独り身だということも知って、もちろん道長のこともあるし、いろいろなことがあるけれど、最後は自分の想いを伝えて死にたかったでしょうね。まひろが戻ってきたら一緒になろうなのか、一緒にいたいなのか、そこまで具体的な話をしたかったわけではない気がしていて。ただ、彼女を大切に思っているということ、あの日裏切ってしまったことや傷つけてしまったことの懺悔と共に、離れたことで気づいたまひろのことが好きだという想いを、ちゃんと言いたかったんだと思います」
あらためて、周明というオリジナルキャラクターが本作で担った役割を問うと、「異質な存在」であることが重要だったという。
「頂いた台本を演じるので本当に精一杯ではありましたが、最終的には窮地に立たされたまひろを救う存在であれたらとは思います。彼自身も救われたから。不思議な関係ですよね、まひろと周明って。会った回数で言えば数えられるほどではあるんですけど、大切なタイミングで救われたり救ったりしていた仲で。周明ってある種、異質な存在だと思うんです。刀伊の入寇という実際に起きた事件を反映した台本にはなっているけど、周明は当時いなかった人で、どこか浮世離れした部分もあって。そこが周明の面白さであってほしいとも思います。史実に関心を持たれる方も多くいらっしゃると思うんですけど、そこにふっと現れる本当にいたのかいなかったのかわからないような、もしかしたら幻だったんじゃないかぐらい、ある種ファンタジックな存在としていることで、作品全体の1個のカラーとして誰にも似ない新しい色として、この作品が色づいていく中の一つになればいいなと思いました」
最後に、本作で大河ドラマ初出演を果たした心境について「大河ドラマを初めてやらせていただいて、限られた出演ではありましたし、関わる人数も少なかったですが、吉高さんの頑張る姿を見ていて、1年半をかけて一つの役をやりきるというのは俳優にとってすごく大きなことなんだろうなっていうのは、今回現場に入らせてもらって感じたことで、“いつか自分も”と思うようになりました。時代劇の経験はまだ少なく、知識もあまりないので、あらためて勉強しなきゃいけないなとも思いました。知っていないとできないことばかりで、決して何となくじゃ務まらない現場だなと。もう少し力を蓄えて、いつか自分も1年半かけてやれる役に巡り合えたらいいなと。また大きな目標をいただきましたし、頑張らなきゃなと思いました」と語り、決意を新たに。
そして、最終回までの展開に「最終回の台本を読んでないのでこの物語がどう終わるのかはわからないんですけど、周明が亡くなってからまひろが周明のことをひきずる描写もあるので、まひろにとっては大きな存在だったのかなと。何度も大切な人の死を目の前で見てきた上に周明まで失い、そんな彼女が最後に何を選び、何を話すのか。いち視聴者としてすごく楽しみです」と目を輝かせていた。(編集部・石井百合子)