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デンゼル・ワシントン、ホームレス救出からハリウッドの光と影まで貫く信念

デンゼルはいつも応えてくれる
デンゼルはいつも応えてくれる - Steve Granitz / FilmMagic / Getty Images

 先月、驚きのニュースが世界中を駆け巡った。名優デンゼル・ワシントンが俳優業からの引退を宣言したのだ。『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』(2024年)では最凶の悪役を怪演していただけに、この知らせは衝撃的だった。デンゼルが語ったところによると引退は数年以内、そして残りの出演作も決めてあるという。すでに撮影済みの黒澤明監督作『天国と地獄』(1963年)のリメイク版を含め、数本のラインナップが語られた。その中にはマーベル映画『ブラックパンサー』シリーズ(2018年~)の続編が含まれおり、これまた世界中の映画ファンを驚愕させた。

そんなデンゼルの思いは尊重したいが、やっぱり惜しいと思ってしまうのがファンの心……などと、思っていたら、さらに驚くべきニュースが入って来た。デンゼルが『イコライザー』(2014年)の新作を撮るというのだ。しかも「4」「5」と2本連続で。同シリーズはデンゼル演じる元凄腕工作員ロバート・マッコールが、悪党を容赦なく抹殺していくアクション映画であり、ここ日本でも人気の大ヒットシリーズだ。そしてデンゼルはこう語っている。「多くの人々は『イコライザー』が大好きなんだ」「みんな私に悪を懲らしめてほしいと望んでいる。“我々にはできないから、やってくれ”と。だから私は“オッケー、やるよ。必ず復帰するから、少しだけ待っていてくれ”と答えるんだ」この発言から察するに、ファンに激しく背中を押されての決断だったようだ。さすがデンゼル! と拍手を送らざるを得ない。いつだってデンゼルは“こう”なのだ。我々ファンの期待に応え続けてくれている。

 デンゼルのデンゼルらしさを物語るエピソードは、枚挙にいとまがない。ここ数年でもいくつかデンゼルらしさ全開の行動が世界中で目撃されている。コロナ禍に陥った2020年。デンゼルは道端を徘徊している黒人ホームレスの男性を保護し、駆けつけた警察官に事情を説明したうえで、その場に留まって事態の収束を最後まで見守っていた。アメリカと言えば銃である。こういう場面でも一歩間違えば命取りになりかねないが、彼は人を助けるための行動を躊躇しなかった。それが、デンゼルなのだ。

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 ウィル・スミスが起こしたアカデミー賞でのビンタ事件も記憶に新しい。司会のクリス・ロックにビンタをかまして動揺するウィルのもとへ、いち早く駆けつけたのはデンゼルだった。そしてデンゼルはウィルに「人生最高の場面で、悪魔は囁く。気をつけるんだ」と、大塚明夫の吹き替えの声が聞こえてきそうな言葉をかけたという。そしてデンゼルは駆けつけた俳優仲間たちやウィルと共に、神に祈りを捧げた。このおかげか、ウィルは最優秀主演男優賞を受賞したのだが、壇上で無事にスピーチを終えることができた。

そして近年になって明らかになったのは、ショーン・コムズ事件関連である。ラッパーで実業家のショーン・コムズが夜な夜な怪しげなパーティーを主催し、そこに多くのアメリカンセレブたちが参加していたという、衝撃的な事件が発覚したのだ。実はこのパーティーにデンゼルも呼ばれていたという。そのとき、デンゼルがとった行動は……激怒してパーティー会場を出て、主催者のコムズをこんなふうに一喝した。「お前には人へのリスペクトがない!」。その後も後輩にはコムズのパーティーに近づかないように警告を続けていたそうだ。コムズはアメリカの超セレブであり、同時にギャングとの繋がりも噂される人物である。警察に通報しても無駄に終わる可能性もあるし、最悪の場合は自分や、自分の愛する人に被害が及ぶかもしれない。そんな状況でデンゼルは堂々と正面から啖呵を切り、後輩たちを守ろうと努力したのは称賛に値する。さすがデンゼルとしか言いようがない。

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 こういったエピソードが大量に出てくるのがデンゼルという男なのだ。デンゼルはいつだって信頼に応え、期待以上のものを観客や同業者に届け続けている。何故にここまで周囲の期待に100%応え続けるのか? 恐らくだが、デンゼルがまだ修行中だった頃に体験した、あるエピソードが関係しているだろう。学生として演劇を学んでいたデンゼルは、その才能を見出され、教授から舞台関係者への紹介状を書いてもらうことになった。すると教授は紹介状の中にこんな挑戦的な一文を盛り込んだ。「もしこの青年(※デンゼルのこと)を育てるほどの才能がキミにないのなら、彼を受け入れないでほしい」。この文章を見たデンゼルは、大いに感動したという。自分にそれだけの才能・価値があるという話ではなく、自分をそこまで信じてくれる人間がいることに感動したのだ。誰かに心から信じてもらえること、心から応援してもらえること、その心強さをデンゼルは知っているのだろう。だからこそ人々の期待に応え続けているのだ。実際、『イコライザー』の復活について、デンゼルはこうも語っている。「『イコライザー』は私のための映画だ。何故ならこれは、人々のための映画だから」。人々の望みに応えることが、自分のためだと言うわけだ。圧倒的な器のデカさ、決してブレない信念。デンゼルはいつだってデンゼルである。この調子だと引退宣言を急に撤回しそうな気もするが、その活躍を引き続き注視していきたい。(加藤よしき)

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