『劇場版ドクターX』田村監督、亡きライバルと築いた唯一無二の世界観 12年の歴史で幕「夢を叶えてくれた」
連続ドラマ「ドクターX ~外科医・大門未知子~」シリーズ(2012~)の演出を担当し、シリーズ完結編となる『劇場版ドクターX』(全国公開中)のメガホンを取った田村直己がインタビューに応じ、念願だった劇場版に対する思い、シリーズを共に作り上げてきたベテランキャスト&スタッフについて語った。(編集部・倉本拓弥)
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「ドクターX」は、大学病院の医局に属さず、専門医のライセンスと叩き上げのスキルだけを武器に様々な病院を渡り歩くフリーランスの外科医・大門未知子(米倉涼子)の活躍を描いた医療ドラマシリーズ。初の劇場版となる本作では、未知子に最大の危機が訪れ、これまで謎に包まれていた彼女の秘密が明かされる。
劇場版で本当にやりたかったこと
Q:『ドクターX』が劇場版でファイナルになることは、どの段階で知ったのでしょうか?
実は第3シリーズ、第4シリーズを終えたくらいから「後は映画にしたい」と思っていたんです。テレビシリーズは、ずっと続けることも難しいじゃないですか。もちろん、連続ドラマが一番いい形ですが、終わるなら映画がいいなと。一つのテーマで最後を迎えると気持ちよく終われるので、監督としては嬉しい限りです。米倉さんも最後のつもりでやってらっしゃったと思いますし、他のみなさんも何となくファイナルになるだろうという雰囲気で臨んでいたので、余すところなく出し切ろうという感じがありました。(岸部)一徳さんも西田(敏行)さんも迫真の演技をしてくださいました。
Q:エグゼクティブプロデューサーの内山聖子さん、脚本の中園ミホさんとは劇場版についてどのような話し合いをされましたか?
中園さんとは、未知子のエピソードゼロをやりたいと話しました。私の双子の弟は呉で医者をやっていて、未知子の出生は呉にしようと中園さんに相談したら、中園さんも昔呉に親戚がいたそうで、いいねって言ってくださりました。今回、中園さんが活かしてくれて、個人的には嬉しかったです。
また、劇場版で本当にやりたかったのは、未知子と“父”の関係です。未知子の父は死んだことになっているので、彼女にとってのお父さんは誰だろうと考えたら、やはり神原晶さん(岸部一徳)しかいないんです。
西田敏行さんから学んだ、テレビと映画の違い
Q:蛭間重勝先生を演じた西田敏行さんについてもお伺いします。今作でも蛭間先生の存在感は抜群でしたが、劇場版での西田さんとの撮影はいかがでしたか?
西田さんや一徳さんは、映画をたくさん経験されているので「テレビと映画は違うんだよ」ということを教えてくれた気がします。テレビドラマという枠を意識するのではなく、連ドラがより面白くなればという感じで撮っていたので、逆に言うと、テレビと映画の境界はあまり関係ないと思っていました。テレビの制約がある中で、映画でも通用するような、大画面でも見られるようなものを撮っているつもりで常にいるので、一徳さんとは「別に意識していませんよ」という会話はしました。
逆に、西田さんは「映画は監督のものだ」とおっしゃってくれたので、テレビの時よりもスムーズに言うこと聞いてくれました(笑)テレビでは、いい意味で演出家に挑んでくるじゃないですか。12年経っても全く変わらないし、どの演出家に対しても全力勝負だったと思うんです。面白くすることが自分の仕事だと思っていらっしゃっていましたし、私たちもバランスとかを考えなきゃいけないので、いい意味の勝負があるわけです。なので、映画の時はいつもよりこちら側を尊重してくれている感じがしました。
映画が完成した後、西田さんが「映画としてすごいよ」と褒めてくださり、 嬉しくもあり、照れる部分もありました。「やっぱり映画は違うんだ」ということを教えてくださいました。
Q:西田さんといえば、撮影現場でアドリブが多かったことでも知られています。田村監督は、西田さんのアドリブをある種の挑戦状として捉えていたのでしょうか?
いいえ。西田さんは、面白いことをやろうとしていただけだと思うんです。もちろん、セリフを変えることはこちらが計算していたものを全部壊すわけですから、演出家にとっては挑戦状です。シリーズ当初は私も若かったですし、他の監督さんも「ちゃんとやってくださいよ」と思っていた部分はあったはずです。それは、山田洋二さんのような大ベテランでも変わらない。役者さんたちも、(アドリブが)来ることに慣れていれば、面白くなります。私の場合は、最後まで慣れはしませんでした。そういう意味では、馴れ合いにならない緊張感っていうのはありました。
米倉さんもそういうエネルギーがある方なんです。完璧に覚えて、自分の中でやるんですけど、彼女のすごいところは、緊張感が常にあるんです。戦っているわけではないけど、馴れ合いには絶対ならないんです。テレビドラマから妥協するシーンが一つもないので、大門未知子はこの人じゃなきゃできなかったのかなと本当に思います。
『ドクターX』成功の裏に亡きライバル監督の存在
Q:田村監督にとって『ドクターX』はどんな作品でしたか?
私も弟と同じく医者を目指して医学部を受けて、今の仕事に就きました。運よく内山さんが医療ドラマをやりたいと言ってくださり、メインでやらせてくださいと直談判して、米倉さんとずっと組んでいた松田秀知さんというライバル監督もいらっしゃるなかで、内山さんは私を起用してくださいました。だからこそ、プレッシャーもすごかったです。でも、人が作っているものを真似しても意味がないと思い、手術シーンもアクションのようにしたかったですし、医療ドラマをエンターテインメントにするためにはどうするかを私なりにも考えました。最後となる劇場版も双子の話になっているので、勝手に自分のストーリーと重ねています。
ドラマとしても最高ですし、個人的にもやりたかったことができて、こんなにも長く皆さんが愛してくれて、映画化までされたことは感無量です。ここまでハマるのは運や役者さんのハマり具合もありますし、そういう意味では、すごく恵まれた番組でした。(視聴率)20パーセントは目標だったので、夢を叶えてくれました。
そして、亡き松田さんが一緒に作ってくださったこと。私はチーフでしたが、 松田さんとダブルチームみたいに切磋琢磨しながら作った感じがします。年齢も私より20歳ぐらい上でしたが、遠慮なくガンガン来てくださるので、最初は衝突こそありましたが、そのおかげでここまで面白くなりました。 そういう意味では、本当にありがたいし、修行にもなりました。最終的に『劇場版ドクターX』では監督をやっていますが、世界観は松田さんと一緒に作ってきたもの。松田さんに感謝しています。