北村匠海、衝撃の“闇堕ち”演技…河合優実が現場で「本当にびっくり」した姿とは

唯一無二の存在感と圧倒的な演技力で、世代を代表する俳優となった北村匠海と河合優実。染井為人の傑作小説を城定秀夫監督が映画化した『悪い夏』(3月20日公開)では、気弱な性格ゆえに犯罪に巻き込まれていく男と、色仕掛けで彼をワルの世界へと引き込んでいく女として、ドキドキ&ヒリヒリするような結びつきをスクリーンに刻み込んだ。恋心を感じながらも、裏切りや絶望にまみれていく関係性をどのように表現したのか。そして河合が驚いたという、北村の新境地とはーー。
北村匠海&河合優実が難役にトライ!

“クズとワルしか出てこない”と話題を呼んだ染井の小説を実写化した本作。市役所の生活福祉課でケースワーカーとして働いていた佐々木守(北村)が、ある日「同僚が生活保護受給者のシングルマザーに肉体関係を迫っているらしい」という相談を受け、真相を確かめようと彼女のもとを訪ねる。しかしシングルマザーの愛美(河合)は裏社会の住人らと通じており、守は思いも寄らない犯罪計画に巻き込まれていく。
真面目で堅物な守が、転がるように地獄へと転落していく。クズやワルが入り乱れてカオス状態となるクライマックスまで、息もつかせぬ展開で観客を釘付けにするような映画だ。北村は、『アルプススタンドのはしの方』や『女子高生に殺されたい』『ビリーバーズ』など幅広い作品で、人間の欲や輝きを浮き彫りにしてきた城定監督とのタッグは念願だったと語り、続けて「ケースワーカーや生活保護、シングルマザーなど、丁寧に描いていかなければいけない社会的な側面も込められた映画。そういったリアリティーの積み重ねがある一方でクライマックスに向けて劇的なことがたくさん巻き起こったり、強烈なエンタメ性があったりして。その面白さに惹かれました」と原作や脚本にも魅了されたと振り返る。

犯罪に巻き込まれていく守は、次第に瞳から光が失われていくが、闇堕ちしていくキャラクターについては、「実は役的にはそこまで、チャレンジングだという気持ちはなかったんです。昔から陰りや暗さを体現する役柄を演じることも多くて」と照れ笑いを見せながら、「自分の原点に立ち返るような感覚もあった」と吐露。一方、城定監督作品には3度目の参加となる河合は「またお声がけしてくれたということがうれしく、その気持ちに応えたいと思った」と再会の喜びを明かしつつ、「愛美役は、チャレンジングな役柄だという捉え方をしていました」と告白する。
育児放棄寸前のシングルマザーである愛美は、ソーシャルワーカーから肉体関係を迫られながらも拒否できず、あらゆる気力や意欲を失っている。闇にのみ込まれてしまっているような女性のやるせなさを見事に体現した河合は、「体や自分の中にあるものをさらさなければ描けないシーンも、たくさんありました。そこに悩んだ時間もありましたが、自分が演じることで愛美という人を請け負えればと思い、引き受けさせていただきました」と覚悟を握り締め、撮影に臨んだと明かす。
闇堕ちを体現した北村匠海に驚がく…!「びっくりしました」(河合)

守と愛美は少しずつ距離を縮め、思いを寄せ合っていく。視線の絡め方や手の触れ方など、些細な仕草からも彼らの思いが見て取れるが、北村と河合はどのように2人の関係性を紡いでいったのだろうか。
「男女の関わり合いでは、よく『どちらがリードする』ということもあると思いますが、守と愛美は『歩幅が一緒だ』と感じられるような2人」と切り出した北村。「それは、河合さんとの芝居においても感じられたことです。芝居における歩み寄り方が、同じテンポで進んでいるような感覚がありました。日常においても、『この人といると沈黙も心地よい』と思うような人と出会うことがある。それに近いかもしれません。芝居の間など、お互いの沈黙が心地よかった」と笑顔。河合も「北村さんはそこにある空気のようなものを、その時その時に感じながら演じられていました。そこに対する安心感もあり、最初から同じ思いを共有しながら進んでいける方だと思えたことが、私にとってとても大きかったです」と、お互いに役者としての信頼感を打ち明ける。

さらに河合は「後半にかけて守が壊れていくんですが、撮影が進むにつれて『私が守をこんなところまで連れてきてしまった』と思うとやるせない気持ちになりました」と愛美の気持ちになって話しつつ、「壊れていく守には、きれいではない人の状態というか、こんなに“手付かず”の北村匠海は初めて見たという印象がありました」と目尻を下げると、北村は大笑い。愛美に裏切られたと感じた守が「『いなくならないで』ってなんだったんだよ」と彼女の言葉を思い出しながら絶望するシーンでは、「すごく緊迫感があって、私も北村さんの中で生まれているものを壊さないように……と思いながら慎重に演じていました。その表情には、本当にびっくりしました」と北村の見せた新境地に衝撃を受けたと明かした。
「楽しんじゃったんです(笑)」(北村)
陰りや暗さを体現する役も多かったと話した北村だが、その中でも“壊れていく守”がまとう闇は深い。北村は「試写を観ていただいた方から『こんな北村匠海は見たことがない』と言っていただけることもありますが、それはすごくうれしいこと。役者として、自分に対するイメージを良い意味で常に壊していきたいという思いがある」とにっこり。「守は、小爆発のようなものを繰り返しながら、最後は爆発して骸(むくろ)になるような役。自分にとって原点に返るような役でありつつ、爆発的なシーンに至るまでの過程では『引き出しが増えているな』と感じることもできました」と振り幅のある役柄を演じきり、充実感も覚えた様子。

守が畳み掛けるように独白するシーンは、彼の狂気や悲しみがあふれだすなど、北村の芝居のすごみを実感できるような場面だ。クランクインして2日目にそのシーンの撮影が行われたそうで、北村は「本当にチャレンジングでした」と苦笑い。「守を演じる上で、一番制限がないと言えるシーンでもあって。(感情の振れ幅が)どこまで行ってもいいし、上も下も決めなくていい。『どうぞ、壊れてください』と丸投げされたようなシーン」だと分析。演じる役者にとっても精神的に辛いのでは……? と感じるような闇堕ちキャラも「楽しんじゃったんです」といたずらっぽく笑う。連続テレビ小説「あんぱん」(3月31日スタート)では、まったく違うキャラクター、間柄として再共演を果たす2人。「私もずっと変わらず、演じるということが楽しくて。どんな作品に出会えるのか、どんな時間を過ごせるのかわかりませんが、これからも面白いものを作っていきたいと思っています」と原動力を語った河合とともに、北村も役者としての醍醐味を噛み締めたような撮影現場だと同調していた。(取材・文:成田おり枝、写真:高野広美)
北村匠海:スタイリスト・鴇田晋哉 ヘアメイク・中島康平、藤村はる香(UNVICIOUS)
河合優実:スタイリスト・高橋茉優 ヘアメイク・秋鹿裕子(W)