藤田まことさん没後15年　「剣客商売」大治郎役・山口馬木也、“恩師”の存在が今も支えに

　名優・藤田まことさんの没後15周年を記念して、代表作「剣客商売」の第3シリーズ＆第4シリーズ、スペシャル版（全6作）が「没後15年 藤田まこと特集」と題して、2月からCSホームドラマチャンネルで一挙放送される。同作の第4シリーズから主人公の秋山小兵衛の息子・大治郎を演じ、現在『侍タイムスリッパー』の大ヒットで注目を浴びる俳優・山口馬木也がインタビューに応じ、「恩師」である藤田さんから影響を受けたことを明かした。

【画像】山口馬木也＆藤田まことさんが共演「剣客商売」シリーズ

　「鬼平犯科帳」「仕掛人・藤枝梅安」と並ぶ池波正太郎の代表作を藤田さん主演で映像化した「剣客商売」シリーズは、江戸時代中期を舞台に、悠々自適な生活を送る剣の達人・秋山小兵衛（藤田さん）と、剣の道一筋に生きる生真面目な男・大治郎（山口）という、対照的な親子の生き方と、二人を取り巻く人々の人情を絡めた時代劇。藤田さん版は、1998年から2010年にかけて5つのテレビシリーズと、6つのスペシャルドラマが制作されており、息子の大治郎を演じた山口は、2003年の第4シリーズから参加している。

　今回の一挙放送は、2010年に亡くなった藤田さんの没後15年に合わせて実施される。山口は「（寺島）しのぶちゃん、（小林）綾子ちゃんとみんな同学年だったんですが、その中で僕は末っ子でした。藤田さんにとって僕らは、孫にあたるような存在だったので、芝居のことで怒られたことはなかったですし、本当にかわいがってもらいました」と藤田さんとの共演を振り返る。

　山口の役者デビューは、1998年の日中合作映画『戦場に咲く花』。当時はまだ俳優としても新人だった。「僕がこの仕事を始めたきっかけも、芝居なら誰でもできるだろう、という勘違いから始まっているので、当時は芝居のなんたるかも、藤田さんがこの現場でどれだけすごかったのかということさえ、全然わかっていなかった。だから教わるというよりも、ただ見ていただけでした」。それが少しずつわかってきたのは“最近のこと”だそうで、「最近、自分の足跡などに藤田さんの影響を感じます」という。

　その一例として、山口は『侍タイムスリッパー』における、主人公の侍がおにぎりを美味しそうに食べるシーンを挙げる。「あの時の“会津磐梯山の雪のような白いめし”という表現はアドリブだったんですけど、あれはこの人が見ていた景色はなんだろうなと思ったところから出てきたもので。藤田さんと接してなかったら出てこなかった気がします」

　そんな藤田さんの現場でのあり方を、山口は今でも思い出すという。「藤田さんはとても頭のいい方で、家でセリフを覚えなくて、現場で頭に入れるんです。そして現場に身を置いて、景色を見て、その温度を感じて、そこで何かを加えるんです。もちろん藤田さん自身がどうやってそこに存在していたか、どこに目を向けていたのかというのは僕の勝手な解釈なんですが、藤田さんが何かを言うとまるで光が差し込んだような感じで、監督をはじめスタッフがニコニコとうれしそうにする。きっと、ものづくりとしての純度が高かったんだと思います。ただし、藤田さんから直接的な言葉をいただいたわけではないので、そういうことを学んだというよりも、知らず知らずのうちに影響されていたんだと思います」

　「剣客商売」の大治郎は、これまで加藤剛、渡部篤郎らが演じてきた大役だ。「当時は若かったから、それがどれだけ大役かということも何もわかってなかった。今の自分なら過去の自分に向かって、『こんな大きな役が俺にできるのかって、もっと不安に思えよ』と言ってやりたくなるくらい、何も考えてなかった」と笑う山口。時代劇初参加となった小泉堯史監督の映画『雨あがる』でも、「乗馬と立ちまわりの経験者」が出演の条件だったにもかかわらず、両方とも未経験の状態で現場に飛び込んだというエピソードがあるくらいに無鉄砲だった。「本当にバカでした。確かに若い時はそういう勢いも重要なのかもしれないですけど、それにしてもどうかと思いますよね……」と苦笑いすることしきり。

　だが、それゆえ藤田さんのことを今でも恩師だと感じている。「月並みですけど僕の中にはいつも藤田さんがいるんです。困ったときの藤田さんとして。舞台で緊張して困ったときや、疲れてきた時などは“今日は藤田さんが見に来ているから頑張らなきゃ”と自分を奮い立たせたりして。そうやって都合良く利用させていただいています」と冗談めかした。（取材・文：壬生智裕）

「剣客商売スペシャル」全6作品、2月11日（火）ほか一挙放送