俳優・久保史緒里の凄さとは?『誰よりもつよく抱きしめて』で3度目タッグの内田英治監督が語る

伊藤沙莉、北川景子、土屋太鳳、浜辺美波、松本まりから人気女優と組んできた内田英治監督が、乃木坂46の久保史緒里を主演(※三山凌輝とのダブル主演)に迎えた映画『誰よりもつよく抱きしめて』が公開中だ。本作で映画『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』(2022)、ドラマ「落日」(2023・WOWOW)に続いて久保と3度目のタッグを組んだ内田監督が、久保の俳優としての魅力を語った(※一部ネタバレあり)。
久保の俳優としての特徴について「伊藤沙莉さんと芝居のやり方が似ていて、その場でローディングするタイプ」と語る内田監督。映画『誰よりもつよく抱きしめて』は、新堂冬樹の同名小説に基づき、愛する人と触れ合うことができない男女3人の人生が交錯するラブストーリー。久保が演じるのは、強迫性障害による潔癖症から常にビニール手袋着用で生活する絵本作家・水島良城(三山)と同棲中の書店員・桐本月菜。良城の病を理解しつつも彼の手すら触れることが出来ず、自身の書店に現れた訳アリの韓国人シェフ・ジェホン(2PMファン・チャンソン)との出会いによって一層葛藤していくこととなる。

高校時代に運命的な出会いを果たした良城を愛し、理解し、支えながらも自分の力ではどうにもできない状況を前に希望を失っていく月菜。そんな等身大の月菜に久保を起用した理由について、内田監督はこう語る。
「久保さんとは3本目になるんですけど、2本ご一緒して芝居がめちゃめちゃ上手なのはわかっていて。実力的にはもっともっといろんな作品に出て映画業界を面白くしていく人だと思うんですよね。当然、アイドルとしての活動もお忙しいとは思うのですが、一度は主演の形でご一緒したいなと。ただ、今回の役は彼女にとって難しいとは思っていて。おそらく『落日』の悪女のような真逆の役は得意で、等身大の役である方が難しいんじゃないかと。それは久保さんに限らないことではありますが」
実際、久保も「まさに、月菜はこれまでに演じた人物像と違うので、自分としても挑戦になる役だと思いました。どう演じたらいいか悩みながら臨んだのですが、内田監督にはそれを本読みの段階で見抜かれていて」とプレス資料で語っていたが、内田監督も「かなり迷っていたと思います」と振り返る。
「月菜は決して善人ではなく“グレー”な人物です。これまでよし君を一筋に愛してきた中で、ジェホンという新たな男性の出現によって揺れていく。そこの揺れ幅をどこまで広げればいいんだろうという悩みだったと思うんですけど、それは俳優にしか表現できないものなので、その部分は彼女に任せましたが、一か所久保さんの方から意見されることがありました」

内田監督が挙げたのは、良城が病院で同じ症状を持つ千春(穂志もえか)と親しげに話す様子を見た月菜が嫉妬し、言い争いになるシーン。月菜は「わたしだって二人に負けないぐらいつらい」「触れることも触れてもらうこともできず、いままでずっと耐えてきたじゃん」とこらえてきた感情を吐露する。
「僕は声を荒げてほしかったんですけど、久保さんが“今はまだそこまで声を荒げる気持ちではない”といったようなことをおっしゃって。現場で話し合って、最終的には声を荒げる方向でまとまったんですけど、映画が出来上がってみるとやっぱり僕が間違っていたなと感じて……。やはり役の噛み砕きは、すごく繊細にやられていたなと思います」
劇中、特に久保に目を奪われたシーンを問うと、内田監督は「月菜が海辺で一人佇むシーン」を挙げた。良城との仲が取り返しのつかないほどこじれてしまった月菜が夕暮れに一人、哀し気に海を見るシチュエーションだ。
「あの場面は、彼女が得意な芝居だとわかっているので2つの気持ちがありますよね。予測できない驚きがあったシーンでいうと、先に触れた月菜が声を荒げるシーン。彼女が凄いのは、日常的な表情をちゃんとできるところ。小津安二郎の映画みたいな芝居ができる女優さんは珍しいと思う」
本作では胸を締め付けるような久保の涙も印象的だ。月菜が目の前でパニックに陥る良城を見て一筋の涙が頬を伝う場面や、土砂降りの中でむせび泣く場面など、静と動で演じ分けている。
「泣くシーンって、タイミングとか技術も必要だし、気持ちも必要だし、大変ですよね。北川景子さんもそうですけど、久保さんもいつでもどこでもポロっと涙を流すことが出来て、なおかつ気持ちも持続させられる。きっと感情移入に長けているんじゃないかな」と言葉が尽きない様子だった。(取材・文:編集部・石井百合子)