吉柳咲良、神田沙也加さんとの出会いが転機に 歌うことが一番の幸せ

映画『白雪姫』(3月20日全国公開)で、レイチェル・ゼグラー演じる白雪姫のプレミアム吹替版声優を務める俳優・吉柳咲良(きりゅうさくら)。ミュージカルで鍛え上げられた圧倒的な歌声を披露し、白雪姫の軽やかさと力強さを表現。これまでもミュージカル「ピーター・パン」「ロミオ&ジュリエット」をはじめ、連続テレビ小説「ブギウギ」でも新進気鋭の歌姫を演じるなど、吉柳と歌は切っても切り離せない印象を受ける。そんな彼女が「歌は命同然」と熱い思いに至った過程には、あるミュージカル女優の存在があったというーー。吉柳が歌への思いや、ディズニープリンセスを表現した先に見る大きな夢などを語った。
【画像】日米白雪姫、美の共演!吉柳咲良&レイチェル・ゼグラー
沙也加さんがいてくれたから、ミュージカルを続けてこられた

小学校6年生のとき、第41回ホリプロタレントスカウトキャラバン PURE GIRL 2016 で当時歴代最年少グランプリを受賞した吉柳。当時から歌うことは「大好き」で、家族でカラオケに行って歌ったり、車の中でずっと音楽を聴いて口ずさんだりしていたというが、そのときはミュージカルというジャンルが存在することも知らず、オーディション応募の特技欄には「ダンス」と書いていたという。
まだ「歌が大好き」という思いだけだった少女が、グランプリ受賞後、帝国劇場で開催された「ミス・サイゴン」を観劇し、ミュージカルというものがこの世に存在することを知った。あまりの壮大な世界観に「震えた」と衝撃を受けた。
そして臨んだ初ミュージカル「ピーター・パン」。吉柳は13歳で初舞台を踏んだ。初演では「本当に言われたことをやるだけ」でカンパニーについていくことで精一杯だったという。そのなかで出会ったのが、ウェンディ役の神田沙也加さんだった。
吉柳は「沙也加さんは、当時『アナと雪の女王』のアナも演じられていましたが、歌声に感銘を受けました。ミュージカル1年目で、めげずに続けられたのは、沙也加さんがいてくれたおかげなんです。何にも代えられない沙也加さんの歌声が大好きで、沙也加さんみたいになりたいと思っていました。次に会ったとき『成長したね』と言ってもらいたい思いがあったから、頑張れたんです」と溢れる胸の内を明かす。
「ピーター・パン」の公演が終わったあとも、神田さんは数々のミュージカルで輝きを見せていた。吉柳も「沙也加さんの『キューティ・ブロンド』なども大好きで、自分自身もどんどんミュージカルの魅力にはまっていったんです」と大きなきっかけになったことを明かすと、「いま歌はわたしの命同然。歌えなくなることが何よりもストレスに感じます。歌がないと生きていけない。わたし自身も自分の声帯が武器だと思うし、何より歌っている時が一番幸せを感じるんです」と強い視線で語る。
白雪姫役で背負った責任

ミュージカルに魅了され、歌に心を奪われた吉柳。当然のことながらディズニープリンセスが主人公の作品にも熱い思いを持っていた。「ちょっと喉の調子が悪いなとか、声が出しにくいなというときは、ディズニー作品の曲を歌うんです。夢が詰まっているので前向きになれるし、歌うだけでそのメッセージ性で背中を押してもらえる。本当に大好きです」
イベントなどでは「プリンセスとは遠いところにいると思っていた」と話していた吉柳だが、本作でディズニープリンセスの元祖といえる「白雪姫」を表現した。
「作品に触れて、参加して、改めて『白雪姫』が長年愛され続けている理由がわかりました。実写版になっても、伝えたいメッセージはまったく変わっていません。白雪姫の優しさ、思慮深さ、人を思いやる気持ちは、現代に通じるものばかり。さらに実写になったことで、より人間味のある白雪姫が見られると思います。夢を見るところから、どう成長していくか……という過程がすごく楽しめるんです」
そんな大きな存在の当事者になったからこそ、強い責任も感じた。吉柳は「これまでたくさん夢を見させていただいたからこそ、しっかりその夢を届けなければいけないという思いはあります。携わらせていただいたからには、そこまでがセットだと思うんです」と語り、「それがどんどんとまたほかの人に繋がって幸せの連鎖が続けば、こんな素敵なことはないですね」と笑顔を見せる。
どんな価値観でも受け入れられる、器や余裕を持てる人間になりたい

大きな目標であったディズニー作品への参加。主演のレイチェルとは、先日行われた来日イベントで魅力的なコラボレーションを見せた。吉柳は「本当に気さくで優しい方でした」と人柄にも魅了されたといい、「第一声を聴いただけで鳥肌が止まらなかったんです。音域も広いし、とても繊細。そして表現力にも長けている。わたしはとにかくレイチェルさんの歌声を聞き込んで、心情の変化をどのように音で表現しているのか、研究しました」としっかりと準備をして収録に臨んだ。
本作を経て、歌への思いはもちろん、さまざまなことへのモチベーションが上がったという吉柳。「レイチェルさんとは『白雪姫』でご一緒し、作品は違いますが、『ロミオ&ジュリエット』でもお互いジュリエットをやっているんです」と明かし、「いつかレイチェルさんが演じた『ウエストサイド・ストーリー』のマリア役もやってみたい。わたしはやっぱりミュージカルが好きなので、もっとたくさんのミュージカル作品に参加したいです」と目を輝かせる。
さらに吉柳は、人間としての目標について「漠然とした表現ですが、優しい人間になりたい」と微笑む。「白雪姫のように誰にも見返りを求めることなく、愛を与えられる存在でありたいし、誰かの支えになれる存在でありたいというのが、わたしのなかの大きなテーマなんです。そうなるために、どんな価値観でも受け入れられる器や余裕を持てる人間になりたいです」と理想の人物像に思いを馳せていた。(取材・文・撮影:磯部正和)