『お嬢と番犬くん』小林啓一監督、ジェシーは「照れていた」 至近距離のシーンは「たっぷり」がキーワード

累計発行部数336万部を突破する、はつはるの漫画を福本莉子とジェシー(SixTONES)のダブル主演で実写映画化する『お嬢と番犬くん』(公開中)。本作のメガホンをとったのが、『殺さない彼と死なない彼女』(2019)、『恋は光』(2022)などのラブストーリーを手掛けた小林啓一監督。極道の孫である女子高校生と、彼女のボディガードを務める若頭の恋を描く本作では、「ときめき」をキーワードに撮影を進めたというが、小林監督がその裏側を語った(※一部ネタバレあり)。
こんな部屋に住みたい!『お嬢と番犬くん』一咲の和室インテリア【画像】
2023年にアニメ化もされた人気ラブコメ漫画を原作とする本作は、幼いころに両親を亡くし、瀬名垣組組長の祖父(杉本哲太)に引き取られて育った瀬名垣一咲(福本)が高校生活をスタートさせるところから始まる。これまで周囲に避けられてきた過去を持つ一咲は、何としてでも極道の孫であることを隠し通し、“普通”の青春を謳歌しようと決意する。しかし、瀬名垣組の若頭で一咲の世話役も務める宇藤啓弥(ジェシー)が一咲を守りたいあまり、年齢を詐称して同じ学校に裏口入学。かくして、一咲の波乱含みの新生活が幕を開ける……。
映画版は原作の世界観、ストーリーに忠実に進み、一咲と啓弥の至近距離での胸キュンのシチュエーションも盛りだくさん。冒頭は、一咲が祖父に志望高校に合格したことを報告するめでたい場面から始まり、オープニングタイトルが登場するまでのわずか約4分ほどで一咲のキャラクター設定や啓弥との関係がわかるようなテンポの良さ。ストーリー自体はスピーディーに運ぶのに対して、間を持たせているのが一咲と啓弥のやりとりだ。
「歌舞伎の掛け声に“たっぷり”というのがありますが、福本さんとジェシーさんには“たっぷりやってほしい”と伝えました。それはシーンを長く引き伸ばすとかいうことじゃなくて、間を持たせたりじっくりやってほしいという意図です。俳優にとっては至近距離で目を合わせたりするのって結構恥ずかしいんじゃないかと思うのですが、福本さんもジェシーさんも間が持たなくなるぐらい見つめたりというのを、意識してくださっていたと思います。特に、一咲は啓弥のことが好きなので簡単に目をそらしたくないんですよね。だけどあまり見てしまうと啓弥に好きな気持ちがバレてしまう。福本さんが、ぽーっとなりながらも理性が働くという、微妙な塩梅で表現してくれていたなあと思います」
一咲の鼓動が聞こえてきそうな至近距離のシーン。実際、福本、ジェシーは照れることはなかったのか?
「照れていたと思いますよ(笑)。特にジェシーくんは“緊張しますよ~”と、ずっとおっしゃっていたので。福本さんも同様でしたが、撮影ではお二人ともそんな気配はまったく感じさせることなく演じてくださいました」
極道との恋など身の破滅とわかりつつも啓弥への恋心を募らせていく一咲と、まるで「一咲がこの世の全て」と言わんばかりに、一分一秒を全力でボディガードする啓弥。真面目な顔をしてドキリとさせるような甘い言葉を連発する啓弥だが、一咲は彼にとって自身は保護対象でしかないのではないかと思い悩み、彼の言葉に一喜一憂する。そんなもどかしい関係を繰り広げる二人のキャラクターを描くにあたって、小林監督はこれまで以上に男女、双方の目線で「キュン」とくるのかを意識したという。
「特に一咲に関しては、もちろん福本さんが演じられるので安心はしていましたが、漫画だったら緩和される部分が生身の人間になるとあざとく感じられてしまうかもしれないという危惧がありましたし、啓弥も男から見てもかっこいい野性味あふれる男でなければと。なので初めは(企画・プロデュースの)小池祐里佳さんに観ていただき“今の一咲、かわいいですか?”とか逐次確認していました。二人のシーンに関してもメイクさんや記録係の女性スタッフにキュンとくるかこないかと確認していましたが、そうするうちに僕もあまり迷わなくなって、福本さん、ジェシーさんも堂々と演じられるようになっていたと思います」

ちなみに、女性スタッフの間で特に反応が良かったシーンを問うと「3か所ぐらいに分かれるんですよね。保健室、放課後の教室、あとはラストシーン。一咲と啓弥の関係が接近しそうな気配になるシーンが好評でした」と小林監督は振り返る。
そして、小林監督作品といえばロケーション。『逆光の頃』(2017)では京都、『恋は光』では岡山など、旅行に行きたくなるような魅力的な画が詰め込まれていたが、小林監督のテーマの一つが「和室を魅力的に撮ること」。本作では、大正時代に建築された和風邸宅撮影スタジオで瀬名垣家を撮影。縁側を生かした一咲と啓弥のやりとりも印象的だが、一咲の「普通の女の子」へのあこがれが反映された自室は隅々まで見返したくなるようなインテリアになっている。
「洋風の家がどんどん増えていることもあって、和室はこれからもまだまだ撮っていきたいですね。今回に関しては、一咲が極道の家で育っていることへの葛藤がある女の子なので自分の環境に対するささやかな抵抗という意味で、自室をかわいらしくアレンジしています。あと、お風呂は別の場所で撮りました。瀬名垣家は啓弥をはじめ若衆など何人か住んでいて、寮のような状態になっているのできっとお風呂も大きいだろうなと。なのでヒノキの大きいお風呂で撮影を行いました」
映画の大きな見せ場の一つは文化祭のシーン。一咲の通う高校の撮影は、湘南に実在する学校で行われた。手作り感あふれる出店が所狭しと並び、まるでどこかの高校の文化祭に潜入したかのようなリアリティーだ。
「“学生が作れる”というコンセプトだったので、段ボール素材を多く用いています。貝のような飾り物があるんですけど、厚紙を使って折り紙のようにしてライトを仕込めるようにしたり。美術部のこだわりが詰まったシーンです。また、別のとあるシーンでキャンプファイヤーも見えますが、残念ながら僕は経験がなくて、ザ・青春な一コマとしてぜひやりたかったんです。これが実現できる高校はなかなかないので協力してくださり感謝しかありません。屋上のシーンを含め、天候にも恵まれていろいろなラッキーが重なりました」
そうしたスタッフの熱意が結実し、一咲と啓弥の胸キュンのシーンをはじめ至福の青春を体感できること必至だ。(取材・文:編集部 石井百合子)