月城かなと「自分を知ることが美に繋がる」 憧れのヴィランから見えること

元宝塚歌劇団の月組トップスターとしてカリスマ的な人気を博した月城かなと。2024年7月に退団して以来、映画での初仕事となったのがディズニー最新作『白雪姫』(公開中)のプレミアム吹替版の声優だ。同作で、月城は白雪姫の命を狙う女王の声を担当している。退団後の活躍が注目される月城が、初の声優に挑んだ心境や美意識、現在の宝塚との距離感までを語った。
本作は、1937年に世界初のカラー長編アニメーションとして制作され、ディズニー初の長編映画でもある「白雪姫」をミュージカルとして実写映画化。雪のように純粋な心を持つ心優しいプリンセス・白雪姫を『ウエスト・サイド・ストーリー』(2022)のレイチェル・ゼグラー、外見の美しさと権力に執着し、国を魔法の力で支配する女王を『ワンダーウーマン 1984』(2020)のガル・ガドットが演じ、監督を映画『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ(2012・2014)などのマーク・ウェブが務める。
どんな役であっても共感は絶対必要

もともと大のディズニー映画好きだという月城。なかでもアニメーション映画「白雪姫」は「おそらく人生で初めて観た映画」だと語る。
「『モアナと伝説の海2』もそうですし、近年公開された作品は映画館で観ています。『白雪姫』は幼いころ、家にビデオがあったので観ていましたし、いつかディズニー作品に携われたらと思っていたのですごくうれしいです。何よりもディズニー作品は幅広い年齢の方が楽しめることが大きな魅力ですし、なおかつ声優のお仕事も素敵だなと思っていたので」
「ヴィラン」というポジションにも憧れがあったという月城。宝塚歌劇団在団時にもヒールを演じた経験はあるが、悪役に限らずどんな役柄であっても共感、感情移入は「絶対的に必要」だと話す。
「わたしの場合、どんな役でも必要で。特に悪役というのはそうなってしまった理由が必ずあると思うので、そうしたところを見てくださる方に感じさせられるかどうかはかなり大きい気がします。台本上では描かれていなかったとしても、“この人は元はそうではなかったかもしれない”“何がこの人をそうさせてしまったのだろう”と感じていただけたら、悪役ってとても魅力的になるんじゃないかと。『白雪姫』の女王も、もしかしたら初めはこんなに美と権力に執着する人ではなかったかもしれない、そうならざるを得ない焦りや弱さがあったのではないかとガル・ガドットさんの演技を観て感じられたので、そういうところを表現できたらいいなと思いました」
本作では女王と、女王が変身する老婆を演じ分ける必要があり、なおさらハードルは高いが、収録に同席したスタッフによると、月城が女王から老婆に変身した途端、現場で驚きの声や拍手で沸いたという。
「女王と別人になってもいけないと思ったので、声の演じ分けというよりも、根底にどのような思いがあるのかということを大事に、よく考えて演じなければと。実写版の絶妙な表情を見ながら“この場面では欺こうとしている”“この時は白雪姫をどうにかしてやろうという気持ちが色濃く出ている”など見え隠れする感情を汲み取りながら演じていた気がします。特に気を付けていたのは体勢です。女王と同じ堂々とした姿勢では表現できないと思ったので、映像の老婆の姿勢、口の形などを見て、なるべく同じ姿形の声を出せたらと心がけました」
人が美しくあるためには?

女王は日々「魔法の鏡よ…この世で一番美しいのは誰?」と鏡に問いかけ、異常なまでに自身の美貌に執着している。美に執着すること自体は特別なことではないようにも思えるが、月城は自身の考えをこう話す。
「美に固執するあまり大事なものが見えなくなってしまう、ということはあると思います。女王は鏡に誰が1番美しいのかと尋ねていますが、もしかしたら自分より美しい誰かがいると自分でも気づいているのかもしれません。白雪姫は自分のマインドというか自分がやるべきことを信じ切れる芯の強さがあるのに対し、女王には常に焦りや不安があったのではないかと思います」
一方で、女王が白雪姫をうらやむ気持ちは「理解できる」とも。「人をうらやむ気持ちは誰にでもあると思いますし、そういう意味ではいけないことだとは思っていなくて。『白雪姫』でも表面的な美しさというのはとても脆いものとして描かれています。女王の気持ちが理解できるからこそ、美意識を持つことは大事だけれど、その向く先、向け方には気を付けなければいけないと。わたしにも女王と似ているところがあって、気にし過ぎて落ち込んでしまうことがあるので、適度に気にして、でも自分自身を受け入れる気持ちも持つことが大事だと思います」
人が美しくあるためには? と問うと逡巡しながら「自分を知ること」だと答える月城。
「難しいですよね……。永遠のテーマのようにも思えますけど、別人にはなれないわけだから、まずは自分の何が美しいのかということを自覚するところからではないでしょうか。人と比べすぎないこと、自分だけが知っている自分の美しさがあればいいと思うんです。そういった意味では自分をきちんと知ること。自分を認めてあげること。難しいことだとは思いますが、そうしたことが美しさに繋がるのではないかと思います」
退団から9か月を経た宝塚との距離感

退団してから約9か月。今後も初の連続ドラマ出演となるTBS4月期日曜劇場「キャスター」が控えており、くしくも「声」が重要な役どころ。宝塚での経験が生きた瞬間があったのではないかと問うと、意外な答えが返ってきた。
「発声というのは準備なしにできることではなくて。15年間宝塚に在籍させていただきましたが、たった3日歌わないだけで、どんどんできなくなってくるので、今回吹き替えのお仕事をいただいてあらためて、いつでも歌えるようにしておかなければと痛感しました。たとえ今お仕事で歌う機会がなかったとしても、急には対応できないんだと。キャスター役でも滑舌よく喋るとか、きちんと言葉をお届けするというのは日頃から訓練を積まなければと感じているので、今では時間を見つけて歌うようにしています」
男役からの切り替えについては「例えば、歩くときに歩幅が大きくなりがちといったことはあるかもしれませんが、そうしたところは割とすぐに直せるもので、自分としては特別に切り替えた感覚はないですね」とさほど苦労することはないと言い、現在の宝塚との距離感についてはこう話す。
「宝塚は多くの方から思いをいただいて、自分としても勉強になった場所。長年にわたってわたしが学んだことを新しい世界で生かしていく。それが宝塚への一番の恩返しになると思っています。ですから、今は新しい場所で出会う新しい方たちと何を作っていけるのかといったことを大切に日々を過ごしている感じです」
退団後、新たなスタートを切り、早々に憧れのディズニー映画に携わる夢をかなえた月城。劇中では圧巻の歌唱シーンもあり、宝塚ファンのみならず老若男女を魅了すること必至だ。(取材・文:編集部 石井百合子)