「東京ゴミ女」
10年ぐらい前、写真家の瀬戸山玄氏の「東京ゴミ袋」という、ルポルタージュが
あっったんです。それは瀬戸山氏が東京のゴミ袋をあけてルポした作品なんですが、
それからの触発・発想で「東京ゴミ袋」という映画を作ろうと、プロデューサーと
ずっと企画してたんですが、なかなか難しくて、実現していなかった。ずっと抱えてました。
それで今回「ラブシネマ」というのを撮ることになって、すぐに、「東京ゴミ
袋」+「恋する女の子」=「ゴミ袋を開ける女の子の話」・・・「そうだ、「東京ゴ
ミ女」っていうのはどうか」と。タイトルとアイデアは同時に決まったようなもので
すね。 「東京ゴミ女」って、そんなにインパクトのあるタイトルとは僕らは思わないんです
けど、どうでしょう?
人間としてゴミのような女だというイメージで取られることあるかな?
いや~、そういう発想はかけらもなかったなあ。
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本当にシンプルに恋する話をやってみようと思ってました。最初にプロデューサーたちと「悲惨な話は、今、ちょっとやりたくないな」という前提の元でね。
それは、ホッとするっていうものという意味ではなく、「好き」という気持ちをシンプルに考えて、女の子の恋心を全面
に出すものというか。
ゴミっていっても、“本当に好きなものだけに囲まれて暮らしたい”という発想からのものですよ。
たまたま、好きな男のもので、みゆきが「手に入れられるもの」っていうのが「ゴ
ミ」だったわけで・・・。 そのゴミによって、みゆきの頭の中には「幻想の彼氏」ができあがっていく。
その「幻想」が「現実」に裏切られるか、裏切られないかは映画の中で見ても
> らって・・・ってことですね。 うん、少女マンガっぽさ、そういう部分はちょっと入ってるかもしれないです。
本当にそ ういう女の子向けのコミック、いっぱい読んでることは読んでます。
前に撮った「MIDORI」は内田春菊さんのコミックだったし。 あとは岡崎京子さんとか、大島弓子さんとか、昔からもうわかりやすい路線の少女マ
ンガ読んでましたから。(笑) だけど、「胸をキュンとさせるのが大好き~」なんてことは言いませんよ~。
いや~、こんなオヤジがそんなこと言ったら・・・あははははは。
ええ、女の子の実態を掴むため、いろいろ覗きにいって、ゴミ拾って・・・違う違
う、やってないって!(大爆笑) 美術さんは女の子にやってもらって、予算もなかったもので(笑)、みゆきの部屋だ
けを集中してやってもらいました。
「ゴミ女」なんていうと・・・前にありましたね、足の踏み場もない、部屋の汚い女
の子のビデオのCM。ああいうのを思い浮かべますかね?
スタッフも、「ちょっとこのみゆきの部屋、キレイすぎるんじゃないか?」とかいろ
いろ意見あったんですけどね。
僕としては、好きなものはちゃんときれいにとっておくやろ、ゴミ持ちこんだからっ
てだらしないことではないって発想だったんです。
だから、彼女にとってはゴミもゴミではない、好きなもの、大切なものであるから、ちゃんと並べて置き場を作る・・・。
タバコやシリアル箱をピンナップし、吸殻は決まった瓶に入れて保存する。
そんな女の子にしたかったし、この映画に関しては、彼女の気持ちの方から見えた方
がいいと思ったので、キレイな部屋になっちゃたんだよね。
ええ、AVもやってるし、プロモ・ビデオも撮ってますし、ビデオは表現方法として、すごくアリ、なものだと捉えていましたから、別
段、今回、構えたりすることなんて全くありませんでした。 フィルムじゃなきゃできないってことは、特にないですよ。
ただ、今回、上映はプロジェクターでそのままやるので、引きの映像になっちゃうと、輪郭とかデテ-ルとか表情とかまでは出ない、ということが確かにありますね。
でも、ちゃんとライティングすれば大丈夫なんですが、今回はあんまりそうい部分を撮っていないので。
と、いいますかフィルム作品でも、うん、暗めで引きが好きですね(笑)。
わりかし人間の目に近い感じで撮ろうという気があるんですが、ハイな部分はよりハイに見えた方がいいので嘘をついてる映像ももちろんありますけどね。
今回は、みゆきの部屋と喫茶店という閉鎖された部分を人間の目に近い状態で撮って、最後にパーッと抜けさせて終わろうかというのはありました。
ん~、喫茶店は暗かったかな。顔、見えなかったかな。芝居が見えすぎてっていう部分を避けたい表現をしたいところもあって。
いや、最近は映画館に来る人は、役者さんの顔が見たい、っていうのを本で読んで
「あ、そうなんだ~」なんて思ってたりして(笑)。
女優は、主役のみゆき役を演じた中村麻美さんをはじめ、全員オーデションです。
オーデションでは、必ずどの子にもまず「部屋はきれいですか?」って聞いた。。そ
うするとマネージャーさんが「あっ!」て驚いて「何聞くんですか?!」って焦って(笑)。
別にきれいだから、きたないかで選ぶことはなかったのですが、中村麻美は、ゴミ袋
を開けている様子がすぐ浮かんだ子でしたね。(笑)
「あ、この子ならやってそうやな」って。(笑)
そういう部分が一番あった子だったなあ。 それで彼女に、と。 麻美には、最初、話のイメージの捉え方は話しました。
いや、台本を読むとね、麻美を含めみんな、暗くて地味~な、もっと目立たない子だ
と思ったみたいなんだけど、そういう子にする気はなかった。 そんなクサくやってもしょうがないんで、もっと普通
の等身大の21歳の女の子が出 ればいいな、と。 それで衣装もそれを基準に決めました。
今回は、デジタルビデオのキャメラで撮れるんで、現場でリハーサルをやりながら
撮っていくという方法でした。 ナチュラルに見える動きは、役者さんたち本人に任せたというよりも、芝居を細かく
区切らないでやったという感じかな。 喫茶店のシーンにしても、「じゃ、頭からいくよ」と。
客がきて、いらっしゃいませ、注文して、ハーイ、とカウンターに戻ってくる。
それをリアルタイムで全て撮って、編集ではしょってるんですよ。カメラは2台で、引きと寄りで撮って。
5~6分はかかるシーンもリハを?頭から3回ぐらいやってね(笑)
。
みゆきがゴミ袋を開けるシーンも、何回やったかなあ。
ゴミ袋を部屋に持ってきて、ゴミを1個1個出して・・・。 またゴミを全部袋に全部戻して、頭からやるということを繰り返したんです。
芝居でコレ出して、次のカットでコレ出して、というのではなく、最初からもう自然に見えるまでやる、というだけ(笑)。
舟のシーンもあるんですが、くどいぐらいに延々回して撮ってるんですよ。
でも、映画をご覧になったらわかりますが、「え? これだけ?」ってことになって
ます。 全編そうだな。短いカットだな、って思われるところも延々撮ってるんですよ~。
(笑)
「ファンデーションは使ってません」のCMに出演している柴咲コウは・・サギ?? |
みゆきのウェイトレス仲間の京子役を演じる柴咲コウ。
彼女にオーディションで会ったとき、「エー!!サギじゃん!!」と思いました(笑)。
というのは、あの「ファンデーションは使っていません」のCMでは、もっと大人だ
と思ってたんですよ。 そしたらまだ10代で、「何?おまえ、きのうまで高校生だったんか??」って。驚
いた~(笑) 。
話すと等身大のままの女の子でした。
だから、麻美と雑談してるのを見たら、なんか2人の会話シーンを急に撮りたくなっちゃって、台本にない喫茶店外でのシーンを撮りました。
あれは物凄い長回ししたなあ。ここが一番大変だったかなあ。いきなり延々と撮ってるものだか
ら、スタッフ全員、みんなオレの顔見てました。「まだ回すの? カットかけないの
?」ってみんなの目が訴えてて。(笑) いやあ、本編では1/3弱ぐらいしか使ってないけど(笑)
。
あっはは、確かに“ゴミ・アイドル”だよね。“ゴミ・マドンナ”じゃなくて、“ゴミ
・ヒーロー”!(爆笑) 本当、一真みたいなカッコイイやつが出てくれるといいなあ、って思ってたんですよ
ね。 一真、ホン読んでくれて、凄い面白いって気に入ってくれて、彼の方からやりたいっ
て言ってくれたので嬉しかったですね。 ホンの段階では、一真を想定していたわけじゃなくて、ミュージシャンをキャスティ
ングしようかという気持ちもあったのですが、やっぱ、芝居がな~、ってね。
役者にしてもある程度ミュージシャンに見えないと、という部分、もう、
鈴木一真さんしかいませんでした!! 彼とは「ゲレンデがとけるほど恋したい」で最初の仕事をして、それで今回2度目の
仕事をして・・・。 そしたら、すごく上手くなってて「ええ~っ! 何、何?」って、目を見張った。
な~んてこんなことを言っていいのかな(笑) 。
いや、最初は最初で、いいもの持ってたのですけどね。
それからずっと彼の出演作は見てて、すごくシンプルでいい演技するなあ、と思って
いたのですが、今回仕事したら、もう、すげえ役者になってて「おおお」と。
ヨシノリって、まあワルイ男の役なんですよ、ある意味で。そんなに思いっきりワル
じゃないけど。映画をご覧になればわかりますが。 そんな男をシンプルにやれるっていうのは、すごくいい役者ってことだと思うんですよね。
喫茶店の常連客田口トモロヲさんは僕の映画にたくさん出ていただいてますが、このところ
久々だったし、もう本当に好きな俳優さんだし、どうしても出てもらいたかった人で
した。 もう喫茶店のマスターみたいのは最近やってらっしゃらなかったしね。
どうしても!と。 ロリコンのマスター、とはっきり表記はされていますが、映画では「喫茶店のマス
ターだけど、ロリコンかもしれない」という少ない情報量の提示で、リアルに見えれ
ばいいと思って撮っています。
みゆきに関しても、喫茶店のバイトしてるときにも「うちに帰ると、ゴミをあさってるやつかもしれない」というようなねそれは実際に、喫茶店に行っている客を見て「サラリーマンなのかな、でも・・」
と > か思っても聞けない部分、それを映画ではやれるので面白いな、と。
舞台にした喫茶店は、いわゆる昔ながらの純喫茶、ってやつですね。
なぜ、いまどき、こういうタイプの喫茶店を選んだかというと・・・。
「いらっしゃいませ~」と水持ってきたウェイトレスを見て、「あ、こういう子がゴ
ミ女か もしれない!」と、ふと思った喫茶店が、そういう純喫茶だった・・・ってだけで
す。単純(笑)。
常連客はみんな普通
にやってもヘンな人達だった・・・なんていやいや。(笑) 夢の島と東京タワーを作ったというオヤジ役の方は、全くの素人さんである会社の社長さんだったりしますしかし、トモロヲさんが「ロリコンのマスター」というと、みんな「あ~!」と納得するのはどうしてなのかなあ?(笑)
“サンダンス・フィルム・フェスティバル”に応募したシナリオは、まだ映画化でき
てないんですが、いつか撮ろうとは思っています。いや、ハリウッドじゃなくて、日
本で、ということでですが。 ハリウッドでって~、大変ですよ。たとえ莫大な予算をもらって、使いたい大スター
使い放題っていってもね~、ちょっとね~、いろいろな意味でね(笑)
。でも、もしもそうなったら何を撮るか? ん~、やっぱ「ゴミ女」じゃないかな(笑)。
メグ・ライアンで「ハリウッド・ゴミ女」!ウィノナ・ライダーで「NYゴミ女」!
!!(大爆笑)
NYのゴミってめちゃくちゃ危険なものが出てきそうで、ちと怖いな。
でも、「中国ゴミ女」なんて、オレ自身が、見たいな~。何が出てくるんだろ。「ベルリン・ゴミ女」は・・・あの国、分別
ゴミしっかりしてるしね~。「ストックホルム・ゴミ女」・・・なんかカッコイイね。「フィリピン・ゴミ女」・・・なんかめ
ちゃめちゃ社会派やな、ドキュメンタリーか、って!(笑)。
でも、オムニバスでやったら面
白いかもしれませんね。国ごとに個性出るよね~。そ うそう、ジャームッシュの「ナイト・オン・ザ・プラネット」のゴミ女版!(爆笑)
ゴミ袋片手に世界各地をまわってロケハン! 世界各国のゴミ女を探せ!(笑)
いいなあ、やりたいなあ。どなたかぜひクライアントになってくれませんかね(笑)
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廣木 隆一●ひろき りゅういち
1月1日福島県郡山市出身。
`72年、県立須賀川高校卒業後上京。大学中退後、ア テネ・フランセ映画技術・美学講座で学ぶ。当時全盛の<アメリカン・ニュー・シネ
マ>に多大な影響を受ける。`79年、フリーの助監督として、中村幻児監督の一連
の作品に参加。`82年、「性虐! 女を暴く」で監督デビュー。`93年、「魔王
街」が、【ゆうばりファンタスティック映画祭】ビデオ部門でグランプリを受賞。`94年、【サンダンス・フィルム・フェスティバル】に、オリジナル・シナリオを応
募、スカラシップを獲得し、渡米、ワークショップに参加する。同年、「800
TWO LAP RUNNERS」をベルリン映画祭に出品、世界に名を広める。同作品は、同年の【キ
ネマ旬報・日本映画ベ】テン】第7
。
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1982
1983
1984
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「性虐! 女を暴く」
「ぼくらの時代」
「西川瀬里奈・覗き部屋の女」
「白昼女子高生を犯す
「痴漢とスカート」
「先生、私の体に火をつけないで」
「密に濡れる女」 |
1985
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「やりんこチエ・いちぢく診察台」
「ぼくらの瞬間」 |
1986
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「白衣調教」
「禁断・生贄の女」
「SM 失禁」
『発情娘・ぐりぐり遊び
「盗撮マニア・FRIDAYの女」 「ロマン子クラブ・エッチがいっぱい」
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1987
1988
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「小林ひとみの本性」
「菊池エリ 巨乳責め」
「聖熟女」 |
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1989
1990
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「童貞物語4 ボクもスキーに連れてって」
「さわこの恋」 |
1991
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「アーバン・ナイト・ストーリー ジ・ゴ・ロ」
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1994
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「夢魔」
「800 TWO LAP RUNNERS」
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1995
1996
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「君といつまでも」
「ゲレンデがとけるほど恋したい」
「MIDORI」 |
1999
2000
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「天使に見捨てられた夜」
「不貞の季節」
「東京ゴミ女」 |
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【君といつまでも】 |
【晴レタ日ニハ…】 |
【不貞の季節】 |
にっかつ/VHS/カラー/97分\15,300-/出演:田口トモヲ、後藤宙美、杉本彩
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ジェイプレジデント/VHS/50分/\10,500-/出演:嶋田博子、手塚とおる、柏原収史
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【廣木監督「アットランダムに選んだ僕の好きな映画」】
「ラスト・タンゴ・イン・パリ」(1972年・アメリカ/ベルナルド・ベルトルッチ監督)
「アメリカン・グラフィティ」(1973年・アメリカ/ジョージ・ルーカス監督)
「カッコーの巣の上で」(1975年・アメリカ/ミロシュ・フォアマン監督)
「ベティ・ブルー」(1986年・フランス/ジャン=ジャック・ベネックス監督)
「勝手にしやがれ」(1959年・フランス/ジャン=リュック・ゴダール監督)
「時計じかけのオレンジ」(1971年・アメリカ/スタンリー・キューブリック監督)
「ナック」(1965年・イギリス/リチャード・レスター監督)
「パリ、テキサス」(1984年・フランス=西ドイツ/ヴィム・ヴェンダース監督)
「ブルーベルベット」(1986年・アメリカ/デビッド・リンチ監督)
「アフリカの光」(1975年・日本/神代辰巳監督)
「水の中のナイフ」](1961年・ポーランド/ロマン・ポランスキー監督)
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