サードシーズン2008年2月
私的映画宣言
ロサンゼルスのポール・スミスでダニエル・デイ=ルイスに遭遇。やがて靴を1足お買い上げ。靴職人のダニエル、自分で作った靴より、やっぱブランド品の方が履きやすいのかねーと、横目で観察する楽しいひとときでした。
寒中お見舞い申し上げます。いや、マジで寒いけど、それを乗り切るために冬ならではの食を満喫する日々。ラーメン、鍋、そしてハードリカー(ウイスキー)。この厳寒が続いたら、ダイエット後のリバウンドは確実だな……。
ブラッド・レンフロー君死亡には驚いた。『BULLY ブリー』で来日したとき、メタボ体型に髪もやばそうで、ずいぶん生き急いでる感があり、さすが子役出身と思ったけど。気さくだったのに残念。ご冥福をお祈りいたします。
1/25から、友人でもあり尊敬すべき映画監督、ヴィンチェンゾ・ナタリの新作『スプライス』の取材で、トロントに行きます。初のカナダ上陸! という意味でも楽しみなのですが、最高気温が氷点下という厳寒ぶりに負けず、頑張ってきます!
4ケタの暗証番号はつい歴史の年号にしてしまう世界史好き(時代限定)。アメリカで人気のドラマ『ザ・チューダーズ』はジョナサン・リス=マイヤーズがやんちゃ&好色のヘンリー8世を好演の豪華宮廷絵巻。日本でも早く放送してほしい!
L change the WorLd
『DEATH NOTE デスノート』シリーズで“キラ”こと夜神月を追いつめた、もう1人の主人公“L”を主役にしたスピンオフムービー。前後編で完結した『DEATH NOTE デスノート』とは違う新たな視点からLの謎に迫り、Lの最期の23日間を追うサイドストーリーが展開する。ハリウッドでの活躍も目覚しい『怪談』の中田秀夫監督がメガホンを取り、自身初となる本格派アクションを織り交ぜたドラマをサスペンスフルに演出。L役の松山ケンイチ、ワタリ役の藤村俊二が続投するほか、特殊メイクを施した悪人役の高嶋政伸、Lを助ける男役の南原清隆らが新たな“デスノ”の世界を彩る。
[出演] 松山ケンイチ、工藤夕貴、福田麻由子
[監督] 中田秀夫
『DEATH NOTE デスノート』2作は、コミックが原作というのを意識した、ある種の荒唐無稽(むけい)さに、サスペンスがそこそこうまく釣り合っていた点が魅力だった。このスピンオフは、バイオテロ事件のアクションやウイルス感染の描写で、リアルにしたいのか、作りものっぽくしたいのか迷ってる感アリ。そのせいか、大人のキャスト陣の演技もどっちつかずで、苦笑シーンが増えてしまった。でも松ケンはよく頑張った。この一点だけで本作を応援したいと思えるほどに!
『DEATH NOTE デスノート』の面白さは、2人の天才によるハイレベルの出し抜き合戦にあったのだが、そういう点では本作は物足りない。Lの新たな敵は明らかに格下で、『DEATH NOTE デスノート』的な先の先、そのまた先を読むような切れ者ぶりが希薄で、攻防のスリルに欠ける。が、Lのキャラクターの面白さだけで楽しめるのも事実。頭脳明晰(めいせき)ながら子守は苦手分野という欠点に、何となく納得。情けない部分が見えたことで、このキャラクターの人間的な魅力は広がったと思う。
『DEATH NOTE デスノート』2作は原作を踏まえながら、独自のトリック話を展開し、コミックの世界観をより広げるものだった。本作はスピンオフであるから、原作はあまり関係ない。だからといって、これまで頭脳勝負をしてきたLにアクション映画をやらせていいのか。Lが子どもと屋外で闘うといった意外性は良かったが、アクション映画は誰も求めていなかったはず。笑いもことごとく外しており、なぜわざわざナンちゃんなのかまったく理解できない。
『DEATH NOTE デスノート』の洗礼を受けていない僕だが、続編ではなくスピンオフ作品ということもあり、大した予備知識がなくても本作の世界に入り込むのは難しくなかった。ハリウッドでの経験がいかんなく発揮された中田監督の演出や絵作りは見事で、邦画のレベルを押し上げたかのようなスケール感は見応えがあるが、終末論的なテーマは新鮮味もなくもっとひねりがほしかった。しかし、キャストはもう少し何とかならなかったのだろうか。途中から急にお茶の間感覚全開。そもそも今の邦画はそんなもの?
名前を書くと死ぬノートだの死神だのが登場する劇画の世界。ましてや現実には有り得ないキャラクターのLが主人公のスピンオフなのだから、思いっきり漫画してくれれば良かったのに。環境問題など持ち出して妙にリアリティーを追求したバイオテロをめぐる物語は、ウイルスに感染した人々のグロテスクな死に様から福田麻由子ちゃんの力いっぱいの恨み節まで、とことんジメ~っ。最もその湿っぽさが中田監督の持ち味なので仕方ないのだが。
エリザベス:ゴールデン・エイジ
『エリザベス』のシェカール・カプール監督が、再びケイト・ブランシェットを主演に迎え、エリザベス女王の“黄金時代”に焦点当てた歴史大作。当時ヨーロッパの最強国だったスペインとの宗教対立を軸に、君主として生きる女性の苦悩を画面に焼き付ける。前作同様宰相役のジェフリー・ラッシュほか、『インサイド・マン』のクライヴ・オーウェンら実力派俳優が集結。豪華絢爛(けんらん)な衣装に身を包み、心身ともにイギリス女王に成り切ったブランシェットの神々しさに圧倒される。
[出演] ケイト・ブランシェット、ジェフリー・ラッシュ、クライヴ・オーウェン
[監督・脚本] シェカール・カプール
前作ほどのインパクトに欠けるのは仕方ないにせよ、女王即位後の波乱の運命を2時間内にまとめたソツのない演出は評価されるべき。エリザベス役のケイト・ブランシェットは、スペイン無敵艦隊も蹴散らすような威厳で突き進み、あっぱれとしか言いようがない。戦闘シーンなど男子的には物足りないが、超ゴージャスなドレス、スワロフスキー社提供のジュエリーと、女子心をくすぐる、アイテム取っ替え引っ替えの過剰サービス精神も映画的でいいのでは?
苦手のコスチュームプレーであるにも関わらず、ダイナミックな展開で見せ切った前作と同様、本作も楽しんだ。したたかな立ち回り、愛した男よりも国を選び、戦うべきときは戦闘モードに入るヒロイン。“国”を“組”に変えたら『極道の妻たち』になりそうな、浪花節的エンタメ映画である。それとケイト・ブランシェットの圧倒的な存在感に改めて脱帽。視線や指先のちょっとした動きでスクリーンに緊張を走らせる女優は、そういるもんじゃない。
質感まで伝わってくるゴージャスな衣装の数々に肖像画から飛び出してきたようなケイト・ブランシェットの成り切りぶり。そして、何より女王であっても一人の女性だったエリザベスの孤独感……ってこれじゃ、『エリザベス』の感想とほとんど変わらない。続編をやる意味あったのか。前作にない出物は、クライヴ・オーウェンのセクシーな魅力ぐらい。でもそんな彼とケイトの切ないキスシーンは映画のすてきなキスにカウントしたいほど名場面。
エリザベス王朝の豪華絢爛(けんらん)なコスチュームからディテールにこだわった小道具やセットはとにかく圧巻。テーマも多様で、その権威とカリスマゆえに孤独に悩むエリザベスの心の葛藤(かっとう)を描いたドラマから、秘めた恋に揺れる女心、さらには戦争アクションから暗殺劇のサスペンスまで、すべてのジャンルがぶちこまれたかのような、スペクタクルのるつぼである。要素過剰で飽きないけど、逆に節操なさ過ぎでポイントが絞り切れていないのが惜しい。人間を超越したかのような、ケイト・ブランシェットのスリム・ビューティーぶりには唖然愕然(あぜんがくぜん)。
続編を作るべきだったかどうかは疑問だが、ケイト・ブランシェット、ジェフリー・ラッシュら芸達者な俳優たちの堂々たる演技に、豪華な衣装&美術が織り成す荘厳なビジュアルでもう十二分。個人的にはまったく魅力を感じなかったクライヴ・オーウェンのエピソードはごっそり削って、エリザベスと侍女ベス、消化不良気味のメアリー・スチュアートにもハジけてもらってドロドロとした女同士の確執をたっぷりと見せてくれたらなお良かったな。
ライラの冒険 黄金の羅針盤
世界的ベストセラーとなったフィリップ・プルマンの児童文学を完全映画化したファンタジー・アドベンチャー。『ロード・オブ・ザ・リング』を手掛けたニューラインシネマが製作を務め、世界の果てへと旅する少女ライラの冒険を圧倒的なスケールで映し出す。監督と脚本は『アバウト・ア・ボーイ』のクリス・ワイツ。ヒロインの少女ライラ役には、新人のダコタ・ブルー・リチャーズがふんし、ニコール・キッドマンやダニエル・クレイグを始めとする豪華キャストが脇を固める。哲学的なストーリーや幻想的な視覚効果など、壮大な世界観が楽しめる。
【出演】 ダコタ・ブルー・リチャーズ、ニコール・キッドマン、ダニエル・クレイグ
[監督] クリス・ワイツ
原作に感動し、期待が高かった分、点数はちとからめ。問題は、シリーズ3部作に備えるあまりか、あれこれと表面をすくい取るだけで物語を進めた点だろう。ダイモンと切り離される悲しみ、ヒロインの勇気&決断のドラマが希薄になってしまった。ファンタジーの王道を目指すなら、もっと主人公に葛藤(かっとう)させなくちゃ! それでも次々と姿を変えるダイモンの映像、ニコール・キッドマンのビッチぶり、子役ダコタちゃんの名演技と、見どころ満載なのは確か。
はい、まず“ダイモン”という用語を覚えてください。“ダスト”“ジプシャン”“教権”も重要なので、しっかり把握してくださいね。唐突な誘拐や白クマ対決もありますがその理由は各自考えるように……てな具合に、詰めこみ教育方針の授業のように、情報を次々と注ぎ込む作り。そんな映画が楽しいと感じられるはずもなく、デジタル映像の迫力を満喫することに終始してしまった。原作を読むなりして予習しておくことは必須。自分はライラ学校、落第確定だ……。
オープニングのナレーションが聞き覚えのない名詞のオンパレードで、これから始まる物語にいきなり拒絶感を覚える。これを子どもが理解できるのか。とはいえ、作品にはすんなり入り込めたので、このナレーションの存在自体に疑問。ストーリーは面白いのに惜しい。さらに気になったのが乱闘シーン。ただでさえ大人数の群集場面に各々が連れているダイモン(分身のような)動物が押し合いへし合い。CGを作る人も大変だが、観る側も疲れる。
人間界と似て非なる架空の世界を舞台にしたファンタジー・アドベンチャー。それも子ども目線で作られた。魔女からしゃべる巨大よろいグマまでさまざまな種族が入り乱れ、目に見える動物の守護霊が存在するなど子ども心をくすぐる要素は多いかもしれない。だが、そういったキャラクターたちや世界観が、ただの中途半端な効果に過ぎず、話の展開上効果的なのか重要なのかもよく分からない宙ぶらりんな状態で、大したハイライトもないまま映画は終わる。シリーズ物の1作目は得てしてイントロで終わりがちだが、かといって続編を期待させる吸引力があるかというと、うーん……。製作費のほとんどがCGに消えたからなのか、豪華キャストの登場シーンは控えめ。字幕版よりも吹き替え版が高稼働しそうです。
近年の英国ファンタジーの映画化は、原作も含めて基本的に大好きなジャンル。本作の原作には「ハリポタ」「ナルニア」「指輪」ほどの思い入れはなかったとはいえ、映画版にはがっかりさせられた。著者が築き上げた独創的かつ思索的な世界観に対する作り手のリスペクトやこだわり、愛情といったものがみじんも感じられないのが何よりも残念。これじゃあ、原作を読んでいない観客にとっては「で、ダイモンって何?」で終わってしまうことでしょう……。