サードシーズン2008年11月
私的映画宣言
「世界ウルルン滞在記」が終わり、日曜夜が寂しくなった……と思っていたら、後番組の「地球感動配達人 走れ! ポストマン」、いいじゃないですか!! わたしも連絡が途絶えてしまったカナダの老夫妻を捜してもらおうかな。
世界中の映画祭を席巻している、スウェーデンのバンパイア・ホラー『Let The Right One In』(原題)に激しく打ちのめされた。北欧独特の寒々しい銀世界と静寂を背景にした、詩的で美しい初恋物語であると同時に、ピンポイントなゴア描写があまりにも鮮烈なマスターピース! 日本公開熱望!!
『バンク・ジョブ』『デス・レース』とジェイソン・ステイサム主演映画が連続公開され、祭りのシメで『バンク・ジョブ』の製作総指揮のオッサンに取材の予定が、トラブルで来日がピンチに! 後日談をお伝えできなくて残念です。
私は貝になりたい
観た人誰もが「中居君、頑張ってたね」と言う……しかない? 確かにすごい気迫だが。あれだけ体を張っている彼に、最大の弱点である歌を何度も歌わせるなんて。あの歌さえなければと大いに悔やまれる。一方、草なぎ君は短い出番でインパクト大。演技力の差がこんなにあったとは驚き。橋本忍の素晴らしいセリフを彼が淡々と語るだけで心が揺さぶられる。ただし彼にも難点あり。戦犯なのに彼だけ坊主頭じゃない。日系人が紛れ込んだようだ。
映画は悪くないんです。中居君の迫真の演技も素晴らしいんです。でも、根本的なところで引っかかる。なぜ、リメイク!? SMAPって本当にリメイク好きで、草なぎ君は映画『山のあなた 徳市の恋』と『BALLAD 名もなき恋のうた』(byクレヨンしんちゃん)、香取君は映画『西遊記』とドラマでは「黒部の太陽」、稲垣君もドラマ「金田一耕助」シリーズをやっているし。唯一、木村君が奮闘中か。日本のトップアイドルだからこそ挑戦してほしい。
シェークスピアは「終り良ければすべて良し」と言ったが、映画に関していえば、終わり方がたとえネガティブなものでも“良い”ととらえられるケースもある。バッド・エンディングやアンハッピーなエンディングは、ハッピーな終わり方である以上に重要な意味を持ち、心に深い余韻を残すこともあるのだ。そういう意味でも本作は、予定調和的な安易な着地点に収まらず、戦争が生み出した理不尽な真実や悲劇というものをストレートに描いている点に好感が持てる。ただ、ラストの展開はちょっと性急過ぎて、衝撃度を高めるためとはいえ、どこかぎこちない。あと、もう少し戦争シーンを加味していたら、よりメッセージ性は高まっていただろう。
時代的な経過で戦争からのトラウマ解放の意図は薄いけど、理不尽な事情で追い込まれ、死ななければならない男の悲劇という意味では、人の命が軽んじられている事件が頻発する昨今、ストレートな演出でわかりやすく伝える手法こそ効果的だ。丹精込めて作る気合が押しつけがましくなく映像に表れていて、緩急豊かでテンポもいい。余分なシーンもなく、2時間以上の長さを感じさせない。中居正広の力強くて丁寧な演技も好印象だった。
ゲッソリとやつれてラストでは鬼気迫る形相まで見せた中居クンの熱演と子役クンの無邪気さは買う。だが、日本の四季折々の風景とやたらとドラマチックに盛り上げようとする久石譲の音楽の繰り返しには涙を強制されているようで、萎えた。それに、田舎の床屋のおばちゃんやっても仲間由紀恵は仲間由紀恵。つい頭に「トリック」が浮かぶ。また、草なぎクンも出てくるがシリアスなドラマなのに笑いを禁じえない。ココ、SMAPファンには大丈夫か? と余計な心配しちゃったよ。
WALL・E/ウォーリー
西暦2700年の荒廃した地球と広大な宇宙を舞台に、独りぼっちで地球に残された“地球型ゴミ処理ロボット”WALL・E(ウォーリー)の恋と冒険を描くファンタジーアニメ。ウォーリーが初恋のロボット、イヴを救うために宇宙へと冒険の旅へ出る。ディズニー/ピクサーによる製作で、監督は『ファインディング・ニモ』でアカデミー賞を受賞したアンドリュー・スタントン。地球環境が危ぶまれている今、壮大で美しい宇宙と対比して廃虚となった地球の姿が切ない。
[出演] アンドリュー・スタントン
斬新なのに、とてもかわいらしいキャラクターはさすがピクサー。でも、メインのキャラが「ウォーリー」「イーヴ」しか言わず、物足りない印象。情報過多な映画に慣れ過ぎている上に、自分の耳が荒んでるせいだとわかっていても、前半は退屈だと思った。結局、ハンカチまで持ち、泣く気満々で挑んだにもかかわらず、Macの起動音がいとおしく感じるようになった程度の心の変化。最終的にPCのデータ保存は、こまめにという教訓を得た。
旧式ロボットが新型ロボットに恋をするファンタジーなんだろうけど、いやぁ、ちっともほのぼのできなかった。社会風刺効きまくりだと、未来に警鐘鳴らしまくりだよ。今から700年後の地球で、ロボットが一生懸命、人間が残した文化や自然を守ろうとする傍らで、人間はコンピューターに囲まれブクブク太り、われ関せず。本当に未来を見せられているようで、怖くなった。映画会社がうたう“感動作”と言われると首をひねるが、SF映画としてなら最高。
地球を脱出し、コンピューターに生活のすべてを管理された、完全に人間性を失った人類。それに対し、孤独に生きるうちに感情が芽生えた人間味あふれるロボットのウォーリーが、ほかのロボットと恋に落ちる、というアイロニックなテーマは興味深い。が、その恋愛劇はほほ笑ましくあるものの、やはりファンタジー。“性別”も“年齢”も関係ないロボットのラブストーリーがそこまでドラマチックなわけもなく、いかんせん説得力に欠けるため感情移入できず。愛はそんなに生易しいものではないのであると、MacやiPod、そしてロボットにもさして興味を持たない者は思うのであった。
ウォーリーは“地球型ゴミ処理ロボット”で言葉を話さないため、前半のほとんどを映像だけで見せ切っており、そこは王者ディズニー/ピクサーの底力を見た気がした。小さな体のウォーリーが繰り広げるアドベンチャーの興奮や、愛と勇気のメッセージの伝え方は定石通りで誰もが感動するはず。個人的にはウォーリーのゴミを右から左へ移動している行為が根本的な処理になっていないため、これを環境に対する警告として勝手に受け止めたい。
ゴミだらけの地球の姿にはじまり、ウォーリーのゴミからお宝を探す分別シーンなど、相変わらずのピクサーの細かい仕事ぶりと、ユーモアには感心。特に今回はほとんどセリフなしでロボットの表情と仕草でストーリーを展開していく。そのチャレンジ精神もあっぱれだし、何よりウォーリーがキュート。とぼけた仕草で、一目ぼれしたイヴの気を引こうするシーンなど、心もほのぼのとしてくる。ただ、あんまり純粋な愛を訴えられると、ヒネたわたしなどはロボットごときに言われたくないと思ってしまい、この点数。
ワールド・オブ・ライズ
CIAに雇われた元ジャーナリストの男が、ヨルダンで大規模なテロ組織を追跡する姿を描くサスペンス・ドラマ。ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、デヴィッド・イグネイシャスの原作を『アメリカン・ギャングスター』のリドリー・スコット監督が映像化。テロ組織に潜入する主人公をレオナルド・ディカプリオが熱演するほか、ベテランCIA局員をラッセル・クロウが好演。 敵も味方も入り乱れた緊迫感みなぎるドラマに圧倒される。
[出演] レオナルド・ディカプリオ、ラッセル・クロウ
[監督・製作] リドリー・スコット
次々とウソが繰り広げられるドンデン返し映画かと期待していたら、違った。仕切りたがりの上司と血気盛んな若造部下が「あいつ、使えねぇ」とばかりに世界を巻き込んでケンカしているだけだった。個人的にはどう見ても中東顔じゃないマーク・ストロングをヨルダン情報局のトップにキャスティングしたウソが一番受け入れられず。イタリア人とオーストリア人の父母を持つイギリス人の彼。『シリアナ』は良かったけど、今回はメーク濃すぎ?
これもなぁ、リドリー・スコットだけあって映画は完ぺきだと思うのよ。フィクションとはいえ限りなくリアルなビン・ラディン vs. CIAの戦いを見せられているようで、現実にこんな攻防戦を繰り広げているかと思うと「すげー!」の一言。ただ、レオ様映画として見ると、『ディパーテッド』『ブラッド・ダイヤモンド』に続く“巨悪組織と戦う男シリーズ”ってな感じで新鮮味に欠ける。レオ様、今年もオスカーは厳しそう。脇役やったら?
サスペンスに不可欠な張り詰めた空気と緊張感が終始途切れることがないという点では、クオリティーは高い。ただ、もうひとひねりほしかったというのが正直なところ。「世界一のうそ」が売りの割にはラストにこれといったツイストはなく、ラッセル・クロウ演じるエゴの強いベテラン局員は空回りしっぱなしで、そのキャラクターの描き方に疑問を感じた。さらに、女性にもアピールできるようなドラマ性を持ち込んだのはいいが、リドリー・スコットと恋愛パートは基本的に相性が悪い、ということをただ証明する結果になった。ただし、リドリー十八番(おはこ)の重火器乱れる戦闘シーンは、さすがに壮絶かつリアルで、迫力満点。
ウソで世界を救おうとする男たちのドラマだが、ウソってダマされて初めて効果的に成立するわけで、“最大のウソ”があの程度ではどうなのかな? それこそ衛星で世界各地を見ているうえに、ネット時代だしなー。また、わかりやすい伏線は映画自体を観やすいものにすると思うけど、観ている我々をダマさないでどうするのかと……。余談だけど、ヨルダン情報局の人間が高級なスーツを着こなし、マフィア的な振る舞いだったのが気になった。
近年『ディパーテッド』などの硬派な作品で大人への脱皮を図っているレオ様だが、童顔が災いして、今回もCIAの敏腕諜報員の役には説得力に欠ける。欠けるが、自分は安全な場にいてレオに指図するCIAの上司ラッセル・クロウと、ヨルダンの情報局トップとの間にはさまれる関係が実に面白い。2人ともまったく異なるキャラクターだが、共に性格はドS。対するレオは彼らから無理難題を吹っかけられていたぶられるドM。テロリストとの攻防戦より、個人的にはその構図に興奮&シビれまくったんですけど、ダメですか?