サード・シーズン2009年2月
私的映画宣言
昨年秋、ばっさり髪を切ったのだが、あまり誰にも気付かれず、悔しくてさらにショートに。しかし年明けてあいさつで、何人から、「あれ、髪切ったの?」と言われたことか。気付くの今ごろかい。というわけで、イラストと本人は違います。
個人的に満点の『007/慰めの報酬』が公開されて2009年は早くも満足なんだが、気になるのは『DRAGONBALL EVOLUTION』。去年チャウ・シンチーに取材したときは「オラ知らねぇ」みたいな態度取られたけれど、気になるなぁ。
年末から年明けにかけて撮影現場通い。ハリウッドだろうが日本だろうが現場で働くスタッフ&キャストの労苦を目の当たりにするたびに、当たり前のことだが映画を1本作るのは大変なことなんだよなぁとつくづく。
ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー
ディズニー・チャンネルのオリジナルテレビ映画として放送されるやいなや、アメリカを中心に大人気となった学園ミュージカルの映画化作品。シリーズ第3作にあたる本作では、高校の最終学年になった主人公たちが大学進学をめぐり、人生の岐路に立たされる。主人公のトロイを演じるのは『ヘアスプレー』のザック・エフロン。トロイのガールフレンド、ガブリエラをヴァネッサ・アン・ハジェンズが演じる。パワフルなミュージカルとして見ごたえ十分。爽快(そうかい)感あふれる青春ドラマとしても完成度は高い。
[出演] ザック・エフロン、ヴァネッサ・アン・ハジェンズ
[監督・製作総指揮] ケニー・オルテガ
初めて観ちゃいました。この機会がなければ、劇場に足を運ばなかったでしょうね。ファンには悪いけど、オッサン好きとしては青い果実に食指が動かないんです。物語も、卒業を控えて進路でモメるカップルってよくある話。テイスト違うけど、北乃きい主演『ハルフウェイ』も同じ展開だ。ただ、彼らに惹(ひ)かれる理由は分かります。日本でこれだけ歌って踊れる若手ってそういない。ヴァネッサ・アン・ハジェンズの立派なふくらはぎの筋肉にプロ魂を感じました。
この映画を観たいと思う人には大満足の仕上がり、ってことで、この点数。オリジナル・ミュージカルとしての曲作りは努力賞モノだし、ダンスもオルテガ監督が振り付けを手掛けた『ザナドゥ』時代の“勢いで楽しませる”ノリが、映画版でさらに豪快に! ラブストーリーは、相変わらずアメリカン高校生とは思えないオクテな展開。でもそのぶん、キャストたちの過剰なまでの健康的なキラキラ&さわやかな魅力に目がくらんでしまうのは、ディズニーマジックですなー。
シリーズ未見でもわかる内容で、若手俳優の歌と踊りのうまさにアメリカのショウビズ界の層の厚さを感じる。とはいえ、全編続く“青春”という名のハイテンションパワーには引く。何より、ミュージカルとはそういうものだとわかっていても、始まって早々にバスケの試合中に歌い踊るザック・エフロンに元バスケ部の筆者としてはゲームしながら歌っているなんて、受け入れ難い。ま、シリーズを観てきて、キャラクターに肩入れしてれば、こんなケチなんぞつけないのだろうけど。
若い世代の楽しいことばかりが登場するミュージカル仕立ての青春ドラマ。高校卒業後の進路に関する悩みも描かれるものの、目下の課題のプロムやミュージカルも同列で、『セント・エルモス・ファイアー』で泣いた経験がある体が、やや拒否反応を示した。そもそも、自分の高校時代もよく思い出せないのに、イマドキのアメリカン・ティーンの青春に感情移入するのは苦しい作業すわ……。
正直、テレビムービーの1&2を見たときはつらいと思った。とにかく内容がなさ過ぎるし、ミュージカルファンからするとソング&ダンスは物足りなさ過ぎる。キャストのきゃぴきゃぴとしたノリも苦手。なので映画版もそんなものだろうと思っていたが、ミュージカルシーンが衣装もセットもアンサンブルもスケールアップしていて楽しめた。1&2で、もっと踊ってほしいと思ったルーカス・グラビールのナンバーも増えていてうれしい限り。
ベンジャミン・バトン 数奇な人生
F・スコット・フィッツジェラルドの短編小説を『セブン』のデヴィッド・フィンチャーが映画化した感動巨編。第一次世界大戦時から21世紀に至るまでのニューオリンズを舞台に、80代で生まれ、徐々に若返っていく男の数奇な運命が描かれる。主人公のベンジャミン・バトンを演じるのはフィンチャー監督作に3度目の主演となるブラッド・ピット。共演は『バベル』でもブラッドと顔を合わせたケイト・ブランシェット。誰とも違う人生の旅路を歩む、ベンジャミン・バトンの運命の行方に注目だ。
[出演] ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット
[監督] デヴィッド・フィンチャー
山田太一原作『飛ぶ夢をしばらく見ない』をほうふつさせ、物語に新鮮味はなし。こっちは老婆が若返っていくんですけどね。女盛りの体になった石田えりが、細川俊之と初めて結ばれるシーンは官能的で、幼気な子どもだった筆者はドキドキした。そんなつやっぽいシーンを本作はさらりと描いちゃっているのが残念。見どころは、美しく若返るブラピ。でも筆者は「やっぱり老けるとロバート・レッドフォードになるんだ」と再確認できたのがツボでした。
老人の姿で生まれ、どんどん若返るというキワモノ臭も漂う設定はデヴィッド・フィンチャーにぴったりの題材だが、そこから生と死、老いること、そして親子や男女の愛といった普遍のテーマを導いた、監督としての成熟さに感動する。人生を語る名セリフを物語から浮かせることなく、キラ星のように散りばめた脚本の妙にも参った。ファン熱狂の“最盛期”復活を含め、映画の材料に徹しきったブラピの姿勢も評価しつつ、人生を走馬灯のようにかけ抜ける2時間47分は、一瞬の夢のよう!
CGをフルに使って、美男美女の容姿をいじりまくったフィンチャー監督のドSぶりがさく裂。楽しかったろーな……。もっとも、どんどん若返るにつれて、ブラピがいかに美形だったのか、再認識させられる。それにしてもヨイヨイ爺さんから始まり、人と真逆の人生をたどろうとも、出会いと別れを繰り返す人生の無常さは変わらないと語るストーリー構成が巧みで、長丁場も飽きさせない。脚本家は『フォレスト・ガンプ/一期一会』などのエリック・ロス。なるほど、変わりもんの話はお得意なワケだ。
まったく時間を感じさせず、あっという間に終わってしまった。その理由を観ながら考えていたけれど、およそ人生で体験するすべての感情が、バランスよく、ストレートに描かれているからか。それだけのこと。なのに、強制的に自分の人生も回想させられてしまい、そんなことを考えているうちに時間が過ぎ去ってしまった模様。『フォレスト・ガンプ/一期一会』っぽいなぁと思っていたら、なるほど脚本家が同じ! 久々に良い映画を観ました。
奇妙な赤ん坊が登場するややグロテスクな冒頭に始まり、外見がどんどん若返っていくベンジャミンの人生は先が読めなくて最後まで引き込まれた。ベースでは老いと死を見つめながらも、時に冒険談あり、若く美しいブラッド・ピット&ケイト・ブランシェットのロマンスはメロドラマ調で、親子の確執、人生の先輩たちとの別れなどを盛り込んだ内容は生きることへの示唆に富んでいる。一方で、最先端のテクノロジーを駆使したビジュアルはデヴィッド・フィンチャーならでは。大河ロマン的なスケール感とともに、映画的な魅力にあふれた一編だ。
チェンジリング
『硫黄島からの手紙』などストーリーテリングには定評のあるクリント・イーストウッド監督による感動作。息子が行方不明になり、その5か月後に見知らぬ少年を警察に押し付けられた母親の真実の物語を静かなタッチでつづる。実生活でも母親であるアンジェリーナ・ジョリーが、エレガントだが強さを内に秘めた母親を熱演。1920年代当時、堕落したロサンゼルス警察が保身のために行った数々の非道な行動が、実際にあったという事実にがく然とする。
[出演] アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ
[監督・製作・音楽] クリント・イーストウッド
若松孝二監督が「映画製作の活力は”怒り”だ」と言っていたけど、イーストウッド御大もそうなんだろうな。1920年代のアメリカの、腐敗した警察組織をはじめとする権力者たちへの怒り。埋もれていた衝撃の事件を映像化することで、某大統領のせいで誤った方向へ進んだ現代社会に警鐘を鳴らしたかったのでしょう。さすが元カーメル市長。メッセージが明確で気持ちよい。当時のアンジー姉さんの激ヤセっぷりが痛々しいが、映画は力強い。
映像、語り口とも、ますます磨きがかかる、イーストウッド翁。時代を再現する、ややくすんだ色調や、シンプルだが琴線に触れる音楽は、もはや神の域に突入か……という濃密な味わいなのだ。息子失そう事件でメロドラマチックな母性愛にフォーカスするかと思いきや、主人公の強靱(きょうじん)な信念や警察内の腐敗に肉薄するドラマへ。その骨太な転換も、いかにもイーストウッド! アンジーの孤高な存在感もあって、主人公には性別を超えたカッコ良さを感じてしまう。
1920年代のロサンゼルスを見事に再現して、腐敗したロス警察に翻弄(ほんろう)された女性の物語を描いたイーストウッド監督。何度もリフレインするシンプルなピアノのメロディーが心を揺さぶり、感動モードも高くなる。うまいなーとしみじみ感服。当時のつやっぽいファッションもすてきだ。特に帽子の使い方は最高! とはいえ、アンジーは悲劇の母なのに唇が赤過ぎるような……。闘う女の強さを強調しているのか? 個人的には非道な刑事を演じたジェフリー・ドノヴァンの悪役ぶりが目に焼きついた。マジ、むかつくほどの意地悪キャラ。
わが子を探す母親の戦争を、サスペンスの要素もうまく加味しながら、静謐(せいひつ)なタッチで描くイーストウッド監督の名演出は言うに及ばず、円熟期を迎えたアンジーの演技も彼女のキャリアにおいて最高峰のレベルだと思う。ややネタバレ気味だけれど、1年チョット前に公開された『マイティ・ハート/愛と絆』とは違い、希望を持てる内容がいい。一筋の光明が差し込むラストまで、この映画もあっという間に時が過ぎてしまった秀作だ。
イーストウッド監督作品ともなれば、映画の出来うんぬんというより、もはや好きか嫌いかで論じるしかないという気がしてしまう。そういう意味でいうと、本作は苦手な作品でありました。痛々しい結末は、人生とはかくも残酷で不平等なものと突き放しているのか達観しているのか。理不尽な運命に翻弄(ほんろう)される人間の無力さを痛感して涙も出なかった。アンジーは今回も好演だと思うが、イーストウッドの世界にはやや違和感を覚えた。