サードシーズン2009年11月
私的映画宣言
N.Y.でヒュー&ダニエルの芝居を観て、あこがれのDia:Beaconとピータールーガーに足を運ぶ。プライベートの旅行って楽しいね。L.A.に行き、映画館にも凝る映画修行の旅も復活させよっかな?
●私的11月公開作のおススメは、『ウェイヴ』(11月14日公開)。授業で全体主義を教えようとした教師の実験がエスカレートする様子がとっても不気味。国民気質なのかな、と不安にもなります。
イマサラながらiPhoneがスゲエ! 他人のiPhoneを使っただけだが、多機能なのに操作性が秀逸。強気のスティーブ・ジョブズは今年のクリスマス商戦に新商品を出すらしく、いっそPCをMacに乗り換えようか検討中。
●私的11月公開作のオススメは、『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』(11月21日公開)。
従姉の娘(なのかちゃん5歳・熊本県在住)は初めて観た劇場映画が『ROOKIES -卒業-』、そして佐藤健のファンだそう。お初映画がポニョじゃなくて、まずびっくり。そして、イケメン好きでびっくり。5歳でもわかるんだね~。
●私的11月公開作のおススメは、『ウェイヴ』(11月14日公開)。
ファッションが教えてくれること
大ヒット作『プラダを着た悪魔』のモデルとも言われるアナ・ウィンターの実像に迫るドキュメンタリー。アメリカ女性の約10人に1人が読むアメリカ版「ヴォーグ」誌のカリスマ編集長として活躍し、ファッション業界に絶大な影響力を持つ彼女を追う。カール・ラガーフェルドからシエナ・ミラーまで、有名セレブも多数登場。トレードマークのボブカットとサングラスの陰に隠れ、誰も見ることができなかったアナの真の姿を目撃できる。
[出演] アナ・ウィンター、グレイス・コディントン、シエナ・ミラー
[監督・エグゼクティブプロデューサー] R・J・カトラー
出版業界で仕事をする人間(超末端ですが)としてはアナ・ウィンターの怖い逸話はいろいろと聞いている。『プラダを着た悪魔』は、かなりアナ風味を抑えていたとか……。しかし、スクリーンに登場したアナはたっぷりとは言わないまでも人間味があり、時にはもろさすら感じさせることも。自身が持つ美意識への揺るぎない自信は驚異的だし、他人にひよることなく振るう辣腕(らつわん)を観ているうちに「ボスとはかくあるべし」という気分に。観終わったときはもう、アナ様リスペクトよ。
知らない世界の裏をのぞけること。そして、その世界の何かが、観る人の生き方に影響を与えること。それがいいドキュメンタリーの条件なら、本作は十分にクリアしている。超人気雑誌が完成するまでの貴重な現場が生々しく伝わるし、編集部内の確執でもハラハラさせ、観ている間は、とにかく面白い。でも冷静に考えると、アナ・ウィンターのどんなセンスが素晴らしくて、カリスマとして君臨しているのかが、この映画“だけ”では不可解。そこらがマイナス2点分です。
主人公であるアメリカ版ヴォーグ誌編集長の、できる女の切れ味鋭い仕事ぶりが魅力的だし、おまけに美人というオマケ付き。ハードな業界で生きる彼女の、仕事のオンとオフの表情の違いが見られる点もいいコンストラクトになっていて、その人物像を多面的に打ち出していた。ファッション界の内情や、あの一流雑誌の製作過程の裏側が垣間見られるのも興味深かったが、それ以上に編集部内で巻き起こる劇的なドラマが大いに心を揺さぶるのだ。
どの世界でも上に立つ者は嫌われるか恐れられるものだが、トップにいる人間はトップの理由があるわけで、この映画はファッション業界に潜入して、知られざる現場の声を取材しているので興味深い。厳しい上司の下で働くスタッフたちが、彼女が気に入る案を出すのか、企画としてよい案を出すのかなど、心境として賛同する点も大いにある。ただ、仕事の報酬は仕事でみたいな発想かと受け取ってしまうと、昨今のワーク・ライフ・バランスなどと相容れないため、過労はよくないだろうという間違ったな印象を持つ人が出てくるかも。
アナ・ウィンターがどんなに傍若無人かと思えば、実に正論な人だった。怖いと思うのは自分がミスしたところを突いてくるからで、無茶ぶりは一切しない。むしろ天才気質だったのは彼女の部下グレイス・コディントン 。(撮影当時)65歳なのに現役バリバリ。その仕事は夢のように美しく、シーンごとに絵本をめくるような興奮を味わった。働くことについて考えさせられる一作なので、ファッション業界ものと決め付けず、多くの人に観てもらいたい。特に若者!
ゼロの焦点
戦後の負の遺産が新たな悲劇を生むという展開だが、今の若者にはパンパンの悲哀自体にリアル感がないかもしれない。となると、ドラマ自体が成立しないわけで、題材としては非常に難しい。女優陣は好演していて、特に木村多江は地味な女を演じさせるといい味出すなと感心。この路線であと2~3本は続けてほしい。広末涼子のヒロインも悪くはないが、モノローグが単調(というかかわい過ぎ?)。ギャル探偵かよ、と感じさせるのはいかがなものか? 中谷美紀はややオーバーアクトだが、女優っぷりは伝わった。VFXは素晴らしく、昭和の風景を見事に再現していた。
一歩間違えれば、安っぽい2時間ドラマになりかねない大げさな演出も、ギリギリのところで踏ん張って、濃密&独特の世界に熟成。映画ならではの奥行きや、衣装や小道具へのこだわり、さらに韓国にまで渡って探したという昭和30年代の風景によって、鮮やかに「時代」が再現された! 殺人事件の謎解きはあくまでも二の次で、各キャラの複雑な心情を、さまざまなアプローチで表現しようとするキャスト陣が素晴らしい。中でも中谷美紀がハマリ役の上に圧巻の大芝居。マジで、瞳の奥に感情が見えたよ。
女と男の隠された過去、という謎が紐解かれる後半に重点が置かれているため、サスペンス性が意外にも低く、トリックもシンプルで、犯人が誰かはスローな展開の前半ですぐに見当がついてしまう。戦後の悲劇がもたらした悲しきドラマが(一応)主題なので、ミステリーとしての醍醐味(だいごみ)はさほど味わうことはできず。昭和を再現したセットや衣装などリアリズムを追求しているが、広末のシャープな眉毛はもろ現代風で違和感あり過ぎ。とは言っても、昨今の邦画と比較するとクオリティーの高い重厚な作品です。
原作は松本清張の小説なので非の打ち所がないとしても、この映画はキャスティングで勝った気が。ダンナが失踪(しっそう)するヒロインの広末を筆頭に、ミステリアスな社長夫人役の中谷、薄幸美女を演じさせたら右に出る者はいない木村の3人が、しっかりと各々の役割をまっとうして、犬童一心監督がバランスよくまとめてスクリーンに映している。清張と聞くと、古風な先入観があるが、現代にも通じる女性の話なので、共感点はたくさんあると思う。
これぞ正しい松本清張映画ではないだろうか。音楽も映像も期待通り! 筋を知っていてもサスペンスとして楽しくなってくる臨場感。特に3女優、それぞれのキャラを知り尽くした打ち出し方が素晴らしい。広末はとことん無垢(むく)な、時には愚鈍なほどのかわいさで押し、木村多江は不幸女優の面目躍如。中でも、すさまじかったのは中谷美紀。まんま楳図かずお作品のキャラになれそうなハイテンション演技。美しいって怖い。夢に見そうだ。
イングロリアス・バスターズ
クエンティン・タランティーノ監督とブラッド・ピットがタッグを組んだ最強のアクション大作。ナチス占領下のフランスを舞台に、それぞれに事情を抱えたクセのある登場人物たちの暴走をユーモアたっぷりに描く。メラニー・ロランやクリストフ・ヴァルツ、ダイアン・クルーガーなど各国を代表する俳優たちがこれまでにない役柄を喜々として演じている。歴史的事実を基に作り上げられた、奇想天外なストーリー展開は拍手喝采(かっさい)の快作!
[出演] ブラッド・ピット、メラニー・ロラン、クリストフ・ヴァルツ
[監督・脚本・製作] クエンティン・タランティーノ
クエンティン・タランティーノ監督の映画オタク魂と遊び心が炸裂した痛快作。音楽やキャラクター名、セリフ、美術&小道具にマカロニ・アクションやウーファー作品、戦争映画などへのオマージュがちりばめられ、映画ファンなら悶絶必至。暗殺部隊バスターズの暗躍と少女のナチスへの復讐(ふくしゅう)劇を上手に絡ませながら、主題から1ミリもずれることなくドラマを紡いだ手腕に拍手。カタルシスあふれる見せ場をほぼ無名の俳優に任せた度胸で男っぷりも上げた。急きょ、改造した拳銃での殴り込みシーン、感動のあまりチビりそうだったよ。
映画で遊びまくってきたタランティーノが、一皮むけて巨匠の風格を漂わせてきた感アリ。おなじみのバイオレンス描写は、見かけの派手さより、あくまでリアルさ重視。過去の名作へのオマージュや引用も、タラ映画とは思えないさり気なさだ。やや間延びする会話は相変わらずあるけれど、引き延ばして、引き延ばして、その後に訪れる衝撃シーンのカタルシスは、実に映画的。特に終盤近く、映写室での攻防のカッコよさには全身が硬直した。
『パルプ・フィクション』と比肩するタランティーノ映画最高傑作! お得意のダイナミックかつスリリングに交錯する群像劇スタイルも、ラストのチャプターで芸術的なほど美しい集約を見せ、これ以上ないカタルシスを爆発させる。究極の悪=ナチを映画作戦で撲滅するというテーマも、タランティーノらしい、これ以上ない映画愛が込められているではないか! ドラマ部分(特にショシャナとフレデリックの)をもう少し丁寧に描いていたらパーフェクトだったが、それでも十二分に極上のエンターテインメントと言える。必見!
あちこちですでに『パルプ・フィクション』以来の傑作!! と激賞の文字が躍っているので、内容的な感想はほかに譲るとして、描くビジョンにブレがない作家性の強い監督の映画は、パワフルで心が躍るほど面白い! それがタランティーノの場合は深い愛情に裏打ちされた映画賛歌であって、プラス、マニアックな映画的知識がない観客にも、これはオタク的で面白い! と思わせる構成力や演出力が光る。2009年、最も豪華な映画です。
タランティーノの映画愛を感じさせる一本。誰もが知っている歴史上の人物をストーリーに取り込みながら、シリアスになり過ぎず、要所要所に笑いを入れて、寓話的に仕上げているのがユニーク。キャストでは、ブラピの貫禄十分なオッサン演技も良かったが、あまりに存在感が大きかったクリストフ・ヴァルツの前には分が悪かった。「プリズン・ブレイク」のティーバッグに負けていないカリスマ性のある悪役。今後の活躍も楽しみだ。