第10回
今月の5つ星
毎月公開される新作映画の中から、シネマトゥデイ編集部おススメの5本を紹介します。
待望のクエンティン・タランティーノ最新作や、ファッション界のカリスマ編集長の日常に迫ったドキュメンタリーなど、見応え十分のラインナップ!
ドキュメンタリー好きにはぜひともオススメしたい作品。『プラダを着た悪魔』のモデルになっているアナ編集長を追っていて、ファッションの流行を発信するアメリカ版ヴォーグ編集部は……過酷。アナは自身の直感力を信じていて、決断は一瞬だ。時間とお金をかけて撮影された写真を、一瞬で斬り捨てられる部下たちはたまったもんじゃない。その中でも部下のグレイスの仕事ぶりには注目してほしい。アナのやり方に不満だらけだが、最後には必ず編集長の首を縦に振らせるモノを作り出すのだ。「グレイスなしではアメリカ版ヴォーグ誌は完成しない」と編集長に言わしめるほど。業界関係なく、仕事で凹んでいる人、成り上がりたい人たちに観てほしい!
1961年にも映画化された松本清張の傑作ミステリー小説を、広末涼子、中谷美紀、木村多江という華やかな顔触れで映画化した本作。結婚後間もなく蒸発した夫の行方を捜す妻が、夫の失踪(しっそう)に秘められた驚がくの事実に遭遇していくというストーリーは1961年版と同じだが、今回は、事件をとり巻く女たちの過去に焦点を当てているところがポイント。優しかった夫の意外な過去、そして彼と関係のあった女たちの秘密を知ってうろたえるヒロインの姿を通し、人は自分の欲望をかなえるためなら、いくつもの顔を使い分けられる生き物なのだということに衝撃を覚える。事件の根本にあるのは昭和初期という女性の立場が弱い時代において「今の自分は本当の自分ではない」という、現実と理想のギャップに苦しむ人々の痛切な葛藤(かっとう)であり、「あなただったらどうするのか?」と、人生における普遍の真理を突き付けられているような、重厚な余韻に包まれた。
映画『デス・プルーフ in グラインドハウス』で自らの映画オタクぶりを全身全霊でさらけ出したクエンティン・タランティーノ監督がブラッド・ピット主演で放つ、ナチスvs.ナチスハンターの超娯楽作がついに公開! B級イタリア戦争映画『地獄のバスターズ』にインスパイアされた本作は、さまざまな戦争映画のおいしいところをリミックスし、結果タランティーノ印のオリジナル映画として生まれ変わった。これまでの例に漏れず、サントラはすべて過去映画から流用。イタリア映画監督の名前をキャラクターに付けたり、あからさまなバイオレンス描写などはジャンル映画に対する愛以外の何ものでもない。タランティーノ監督の総括的作品であるだけでなく、ナチ映画としても最高品質を誇っている。本業はホラー映画監督のイーライ・ロスが演じる“ユダヤの熊”は必見!
映画史上最強のディザスタームービーが誕生した。過去に数々の終末映画が作られてきたが、映画『2012』は最強かつ最高の仕上がりだ。監督を務めたのは、映画『インディペンデンス・デイ』のローランド・エメリッヒ。映像の魔術師という異名を誇るエメリッヒ監督が作り出したリアル過ぎる映像は、CG技術に慣れ切った観客の度肝を抜くすごさだ! カリフォルニアが地震で崩壊するシーンや、マグマの大放出前の地表の隆起など、あまりに生々しく、恐怖で自然に涙が出てしまうほどだ。しかし、エメリッヒ監督の本当に素晴らしいところは、ただのパニックムービーで終わらせていないこと。大惨事を描きつつ、観終わった後には、疲労感だけでなく、家族愛や人類愛などを考えさせられる、しっかりとしたヒューマンドラマに仕上がっている。しかし、古代マヤ暦の予言どおり、2012年、本当にこんな未来が訪れたら……面白いとばかりは言っていられない。
小池徹平ふんするマ男が、入社したシステム開発会社、通称ブラック会社で奮闘するドタバタコメディー。イケメン俳優の小池がニートの引きこもり役というギャップに加え、マイコのぶっ飛び具合、品川祐の責任感ゼロのダメ上司具合、池田鉄洋のお調子者具合などキャストの個性がサイコーに光っている! さらに「機動戦士ガンダム」や「三国志」ファンにはツボと思われるせりふや、「Woogle」や「Bちゃんねる」の表記など、少々アキバ系の香りが漂う遊び心に、思わずニヤリとさせられる。しかし、どれだけひどい就労環境かを期待していたためか、テーマの描き方が甘く感じてしまった。これではどの企業もブラック会社に当てはまってしまうのでは……?