サードシーズン2010年2月
私的映画宣言
うちは一軒家に二人住まいなので『パラノーマル・アクティビティ』の恐怖は人一倍。しかも家に帰ったら、誰もいない一階の部屋から物音が! 夫が二階から遠隔操作でプリンターをいじっていました……。頼むよ。
●私的2月公開作のオススメは、『ルドandクルシ』(2月公開)。
相変わらずの大手の作品が各映画賞を独占する中、『色即ぜねれいしょん』の渡辺大知君が新人賞を受賞したのはうれしい限り。そして今、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』に萌え中。
●私的2月公開作のオススメは、『インビクタス/負けざる者たち』(2月5日公開)。童貞クンからマンデラまで、自分のストライクゾーンの広さにビックリ!?
来日したテリー・ギリアムを取材。会うのは5回目だが、相変わらず本音ズバズバで楽しかったー。『かいじゅうたちのいるところ』や、本人が監督するはずだった『ウォッチメン』への感想は毒舌&辛口過ぎて書きたくても書けません!
●私的2月公開作のオススメは、『コララインとボタンの魔女 3D』(2月19日公開)。
時期的に税法のお勉強。控除や必要経費の対象が意外に多いことや、白色申告より青色申告のほうが断然節税になるなど、細かく知ると楽しい。これから個人事業主になる人は、とりあえず領収書を保管しておきましょう。
●私的2月公開作のオススメは、『食堂かたつむり』(2月6日公開)。
インビクタス/負けざる者たち
ラグビーにはまったく興味のないわたし。当然、ルールも知らない。にもかかわらず、本作には目の前で試合を見ているかのように引き込まれてしまった。監督の息子含め俳優たちに見覚えないおかげか(笑)。ワールドカップ(やオリンピックも)を開催する意味や意義。それをわかっていないで、ただお金をかけて見栄えばかりで招致しようとしたってダメなんだ。映画を観た後はいい試合を見たような爽快(そうかい)感があった。やはりイーストウッドは正しい映画を作る。
『グラン・トリノ』であれだけ泣いたというのに、また号泣させられるとは。しかもコレ、モーガン・フリーマンからの依頼、つまり雇われ仕事みたいなモンだ。なのにこのクオリティー! 恐れ入る。ややもすればマンデラ大統領の人間性をたたえるありがちな伝記映画になるが、本気のラグビー・シーンが素晴らしく、スポ根映画としても申し分ナシ。これだけマンデラが南アフリカをチェンジ! したはずなのに、いまだ治安が悪いことを思うと、また切ない。
モーガン・フリーマンがマンデラ役で、イーストウッドが監督とくれば、保証書付き。そう思って観ると「こんなものか」だが、いくらでもベタな作りになるお話を、手堅い感動にまとめたテクは、さすがだ。スタジアム上空を行く飛行機のエピソードなど事実と聞いて驚く個所も多いが、ゲームのシーンは当時の状況まんま描いたことで物足りないかも。ラグビーの場面にカタルシスがあれば満点なんだけど、忠実さがもたらすさりげなさも、イーストウッドらしい!?
実話を除けばスポーツがネタの、よくあるミラクルを描いた感動物語だけれど、ネルソン・マンデラがいかに優れた指導者だったかというエピソードを並べながら、奇跡に向けて話を進めるイーストウッドはさすがにうまい。「イーストウッド映画=良質」という色メガネで観ている自分を否定しないが、最近は自殺でもするのかと思うほど「これで最後!」と言わんばかりの思い詰めた作品が多い中、晴れやかな気分で終わるのが悪くない。
「世界を変える」という強い信念と、「赦(ゆる)す」という寛容な心で偉業を成し遂げたマンデラを何のてらいもなく描いたイーストウッド。賢人の不屈の精神は映画界の巨人と呼応したのだろう、その思いが観る側にもストレートに響く。ギクシャクしていた黒人と白人のSPの心の変遷など胸キュンもの。中には妻との不仲もチラリと描かれる。演じたモーガン・フリーマンの味もあり、聖人君子ではなかったマンデラをうかがわせる。いろんな意味で生涯現役のイーストウッドならでは目配りを感じる。
恋するベーカリー
人気ベーカリーを営む女性実業家が、自分らしい人生を手に入れるために奮闘するハートウォーミング・ストーリー。監督は『ホリデイ』の女性監督ナンシー・マイヤーズ。『プラダを着た悪魔』の名女優メリル・ストリープが主人公の女性実業家にふんしている。また、2010年のアカデミー賞授賞式で司会を務めるアレック・ボールドウィンとスティーヴ・マーティンが共演。ハリウッドを代表するキャストたちによる熱演と、心温まる展開を堪能したい。
[出演] メリル・ストリープ、アレック・ボールドウィン、スティーヴ・マーティン
[監督・製作・脚本] ナンシー・マイヤーズ
『マンマ・ミーア!』ほどの痛々しさはないけれど、本作のエロトークおよびベッドシーンも微妙な反応の人、多いはず。メリル・ストリープってPTAみたいなイメージがあるから、親のラブシーンを見ているみたいな気まずさを感じてしまう。ただ、この映画はそこを笑い飛ばしていいから楽しい。相手役のアレック・ボールドウィンがまた最高。脂がノリ過ぎていい味、出し過ぎでしょう! この人が年を重ねていい俳優になろうとはなあ。
子育ても終わり、離婚の傷も癒え、仕事も順調! と、第2の人生をこれから楽しもうとしているアラカン女性の恋物語として悪くはない。だけど各映画賞ノミネート&アカデミー賞司会となると、そこまで熱狂するか!? との違和感がある。ただ昔はヌードもうるさかったあのメリルが、本作で葉っぱまで吸っているなんて! 彼女自身も子どもが成長し、いろんなしがらみから解放されたのだろう。女優メリルの新たな人生も見ているようで感慨深い。
タイトルに惑わされ、メリル&料理で『ジュリー&ジュリア』と完全かぶるのでは? との心配をよそに、離婚したカップルが元サヤに戻ろうとするこの物語は、中年女&中年男のイタいギャグも盛り込んで要所で笑わせる。問題は、この状況にどんだけ共感できるか。置いてけぼりを食らうと、どんどん物語が遠ざかってしまう危険アリです。そんな遠ざかった状態でアレック・ボールドウィンの下半身ネタまで到達すると、かなり頭クラクラ状態に。
主人公が人気ベーカリーを営む実業家だという背景を忘れるほど、邦題が軽いのだが、人生の後半に差し掛かって、なお迷う大人たちの四苦八苦ぶりが面白い。離婚して10年たった熟年元夫婦が燃え上がるような恋に身を焦がしてしまうケースがアメリカでは実際にあるようで、『ホリデイ』同様、海の向こう側の事情がよくわかって興味深い。これで世間体に対するメンツが描かれれば、ナンシー・マイヤーズ監督は橋田壽賀子になれるでしょう。
『マンマ・ミーア!』あたりから、豪快なはじけっぷりが楽しくなったのか、今回さらにパワーアップのメリル。 御年60歳にしてベッドシーンにも挑戦、頑張っています! 『恋愛適齢期』を手掛けたナンシー・マイヤーズ監督だけに、人間いくつになっても恋! の楽しさをオシャレにメリルは体現する。そんな元妻に欲情する元夫にふんしたアレック・ボールドウィンの暴走ぶりには爆笑。ただ、せっかくクレイジーなコメディアンだったハズのスティーヴ・マーティンの影が薄くなったのが残念ですけど。
パレード
表面的な人間関係で満足しながら、都内のマンションで共同生活を送る若者たちの日々を描く青春群像ドラマ。吉田修一による第15回山本周五郎賞受賞作の原作を基に、『世界の中心で、愛をさけぶ』『遠くの空に消えた』の行定勲監督が映像化した。『DEATH NOTE デスノート』シリーズの藤原竜也が主演を務めるほか、香里奈、貫地谷しほり、林遣都、小出恵介ら旬の若手実力派が集結。現代の若者の内面を鋭く切り取る、行定監督の確かな演出力が光る。
[出演] 藤原竜也、香里奈、貫地谷しほり
[監督・脚本] 行定勲
メイン5人に関しては「えっ、この人がこんな役を?」「この人のこういう役を待っていました!」とぴったりな人、意外な人、さまざまなキャスティングが含まれていて、観る前からなかなかバランスがよいと思った。実際に観てみると、役者それぞれ演技のテイストが違っていて、そのごつごつした味わいがなかなか斬新だった。欲をいえば、実力はここまでバラバラでなくてもよかったんだけど。不気味でユニークなラストショットは結構、好き。
今までどんな映像作品に出ても、舞台調の芝居が抜けなかった藤原竜也が初めて周囲に溶け込んで見えた記念すべき作品。スカした映画会社の男というのが、彼にマッチしていたのもあるのだろう。ほか、小出恵介と貫地谷しほりに濡れ場を、林遣都にウリセン・ボーイ役と課題を与え、今までにない一面を引き出している。行定監督、グッド・ジョブ! 一緒に暮らしながら互いの心に踏み込んでいかない今どきの若者は理解できない部分もあるけど、リアルだった。
妙にさわやかなメインキャストが、原作の面白さを出してくれるか不安だったが、5人それぞれが各キャラの裏の顔をネットリ、じわーっと忍ばせる演技で見せていて感心した。原作を読んだときにも感じた、いい意味での後味の悪さが映画にもしっかり残っていたし、映像になったことで共同生活の隅々にリアル感が漂ってきた。試しに、この5人の中に入ってみたいと奇妙な誘惑にもかられる。ダークサイドもある青春モノは、行定監督の得意ジャンルかもね。
以前『きょうのできごと a day on the planet』を観たときの感動に似た、でもそれとは正反対の衝撃。個人的に苦手な要素が多く、行定監督には観たくないものを見せられることが多いが、今回はそれが特に強い。映画なので後半で「日常がゆがみ始める」という表現になるが、もともと「ゆがみ切っている日常が後半に表出してくる」ということだと思うし、それを観続けているのは恐怖。本当は10点だが、満点にした瞬間にやり切れないのでマイナスでお願いします。
まず2LDKを4人(後から1人増加)でルームシェアする状態で息が詰まりそうに見えた。他人との表面的な付き合いだけをよしとするイマドキの若者が、こんな状態を我慢できるのか? 登場キャラにも正直すごく困惑。が、小出、貫地谷の等身大な演技で始まるダラダラっとした若者たちの日常に、金髪の男娼にふんした林が入ったことから始まる不穏な空気の流れが妙に引きつける。特にヘタな恐怖映画より凍りつくラストシーンは特筆ものだ。