サードシーズン2012年1月
私的映画宣言
12月に入ってやっと「今年の目標=スマートホン」をクリア。随分と遅れ、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』でトムが仲間にスマートホンをぽいぽい渡しているのを見たときは思わず本気で仲間入りを考えた。
●1月公開の私的オススメは、『アニマル・キングダム』(1月21日公開)。
知り合いの犬を数時間預かることになったが、わが家に来るなり、「野生のオオカミかよ!?」ってほどの大暴れで、早々とギブアップ。『人生はビギナーズ』に出てきたような、おりこうワンコとの癒やしタイムを楽しみにしていたのに……。
●1月公開の私的オススメは、『デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-』(1月13日公開)
生まれて初めてトロントへ。N.Y.より寒いとライター仲間に教えられ、防寒はユニクロにまかせた。ジョージ・クルーニーの新作『ザ・ディセンダンツ(原題) / The Descendants』を観てハワイに行きたかったのになぁ。
●1月公開の私的オススメは、『アニマル・キングダム』(1月21日公開)。少し前までのオーストラリア警察のむちゃぶりにア然。
2012年は、2011年に出る予定だった4冊の特殊翻訳本が夏までに刊行される予定。あと、初の著書を出すための準備を進めています。2012年は上半期が勝負どころ!
●1月公開の私的オススメは、『アニマル・キングダム』(1月21日公開)。
J・エドガー
FBI初代長官ジョン・エドガー・フーバーの半生を、クリント・イーストウッド監督、レオナルド・ディカプリオ主演で映画化した伝記ドラマ。母親からのでき愛、側近との関係など、フーバーの輝かしい功績の裏に隠された禁断の私生活を赤裸々に描いていく。フーバーの秘書役にナオミ・ワッツ、公私を共にした側近に『ソーシャル・ネットワーク』のアーミー・ハマー、母親役にはジュディ・デンチと、豪華な俳優陣が共演。半世紀もアメリカを裏で支配した謎多き男の真実にディカプリオがどうはまるのか注目だ。
[出演] レオナルド・ディカプリオ、ナオミ・ワッツ
[監督] クリント・イーストウッド
若いころのフーバーとトルソンの美しさは目を見張るほどで、並んでいるだけで十分、絵になるが、老いてからはそうもいかない。老人二人の関係がコントに見えなくもないのは脚本のせいなのか。それとも、アーミー・ハマーにこの役は早過ぎたのか。老けメイクでもレオはさすが堂々としていて素晴らしい演技。将来はこういうジャック・ニコルソン的オッサンになるんだろうか。ただ、彼の名演のおかげで対に立つアーミーのぎこちなさが目立つ形に。
相変わらず美しい照明による端正な映像は、もはや極上アートの域。ディカプーのカリスマ臭プンプンの演技も申し分なし。ただ、老人になってからのドラマ=特殊メイクの部分が意外に多く、熱演すればするほど妙な違和感が増すのが、ちょっと残念かも。実在の人物を追うから仕方ないとはいえ、エドガーの激烈なパーソナリティーに、男同士の複雑な愛情関係がもう少しリンクしていたら、予想外のダイナミズムも生まれた気もするが、まぁ巨匠は、その辺りを繊細に描きたかったのでしょう。
期待外れとしかいいようがない。試写後、ものすご~い脱力感に襲われてしまった。政府要人や敵の秘密を探りまくり、それを武器にFBI長官の座に君臨し続けたフーバーの素顔なんてどう描いても面白くなるだろうに、突っ込みが甘い。ジジイになったフーバーが回想録執筆のためライターに過去を語るという体裁で時制が前後する構成も退屈だし、レオが老けメイクで演じる老フーバーがお笑いぐさだ。パーツが中央に集まっている顔立ちなのでコミカルに見えるのよね。しかも声が若々しすぎて、ウソっぽい。『ミルク』でゲイの活動家の人生を思い入れたっぷりに描いたダスティン・ランス・ブラックの筆致もさえないというか、遠慮しすぎというか……。フーバーが墓まで持っていった秘密が一つも明らかにならないし、全体的に締まらない映画になっている。
悪名高きFBI初代長官フーバー。このチャレンジングな題材を、イーストウッド監督がどのような視点で描くのか興味津々だった。が、フタを開けてみたら不意打ちのようなラブストーリーだったので、思わず口あんぐり。伝記映画で例えると、『アビエイター』ではなく『ミルク』だったのだ(本作の脚本家は『ミルク』の人。納得)。エドガーと彼の右腕クライドの関係をもうちょっとぼかし、エドガーの心のダークサイドにもう一歩踏み込んでほしかったところ。久々にリー・トンプソンを観た。
FBIを50年近く牛耳った男がこんな俗物だったのか? と思うほど、小物ぶりに苦笑。そういう意味ではとても興味深い伝記ドラマ。俳優陣も興味をそそる顔ぶれだし、主演レオの気合が強烈。ただ顔が老けても、声が若いレオに違和感。また老けてもナオミ・ワッツは美しいばあさんなのに、アーミー・ハマーは老けたらいきなり汚い。81歳イーストウッド、老いを一番認識していると思うが……。ところで晩年のエドガーの体形が、フィリップ・シーモア・ホフマンに激似。彼がエドガーを演じれば、緻(ち)密な演技で隠れゲイで服装倒錯者だったことも納得させてくれた気がするけど。
哀しき獣
映画が終わらないでと願うほど、ずっと観ていたかった。笑っちゃうほど、どんなことが起きてもまったく死なない男二人の追いかけっこ。生きたいという気持ちは時として思わぬパワーを生むのだろうか。いや、そんな理由付けはどうでもいい。ジャンル的にはサスペンスになるのだろうけど、最後には誰がどんな理由で誰を殺そうとしているのかさえ、どうでもよくなった。ただただ二人の攻防戦を見続けていたかった。上映時間140分? 短い、短い。
前作『チェイサー』で、過剰なまでの疾走感と殺人犯の狂気を突き詰めたナ監督は、今回、バイオレンスの生々しさを保ちながら、悲愴(ひそう)な運命に強くフォーカス。「獣」と化して殺人を請け負った男が、すべてを知る終盤のシーンで「哀しき」人間の顔に戻る。この瞬間の切実さが胸に迫った。結末での、想像力をかき立てるいくつかの謎めいた描写も、映画好きにはうれしい。請け負い事件のオチは唐突に感じたのだが、監督に聞いたら「こういうケースは韓国でよくあるよ」とサラリと返され、納得しつつもビビった。
すごいものを観てしまったというのが見終わってすぐの感想。観ている間中、心の中で「痛い、痛い」と叫んでいたし、後半は精神的にぐったり。借金返済の代わりに殺人を請け負った朝鮮族の男性グナムのサバイバルが描かれていて、とにかく「命」が軽いのが恐ろしくも印象に残る。生き延びるためには他人の命なんかどうでもいいというメンタリティーの悪人ミョンと子分が斧(おの)やナタで次々と人を血祭りに上げていく。タイトル通り、まさに獣並みのモラルの欠如。夕食に食べた牛の骨で襲ってきた敵の頭をカチ割るあたりはもうギャートルズというか、原始人でしょう。そんなヤクザにかかわってしまった主人公に同情こそするが、共感できないというのが本作のポイント。目を背けたくなるような暴力に満ちた世界もあるが、そこに身を置かずに済んだ自分のラッキーさを再確認したのだった。
ヒミズ
『恋の罪』などの鬼才園子温が監督を務め、古谷実原作の人気漫画を映画化した衝撃作。ごく平凡な15歳の少年と少女の運命が、ある事件をきっかけに激変する過程を園監督ならではの手法で描き出す。主人公に『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』の染谷将太、ヒロインに『劇場版 神聖かまってちゃん/ロックンロールは鳴り止まないっ』の二階堂ふみら若手実力派を起用。自身も原作のファンだという園監督が創造する新たなる人間の心の闇から目が離せない。
[出演] 染谷将太、二階堂ふみ
[監督] 園子温
ベネチア国際映画祭で「頑張れ! 住田」コールが起きたと知り、観る前にハードルが上がってしまう。そのせいか前半は園監督の過剰な演出に気持ち引き気味。けれど若い二人の素直な演技にじわじわと引き込まれ、いつしか自然と物語の世界に入り込んでいく。もちろん最後には自分の胸でも「頑張れ! 住田」リフレイン。環境も言葉も文化も違う人々の心さえも動かす作品なのだから、頭でなくまず心で感じるべき。いまの日本に世界の人が「頑張れ!」と思ってくれていると思うとさらにぐっとくる。
ここ数作の園子温は、テーマや描き方がいかにシビアでグロくても、コメディーとして観ると結構笑えた。そこが好きだったんだけど、本作は、ヒロイン・茶沢の自宅のエピソードくらいで、後はかなーりマジな空気。東日本大震災を急きょ、脚本に入れ込んだために、笑える余裕が抑えられたのかもしれない。とはいえ、相変わらず脳天ガツンな描写はたっぷりだし、スポーツ後のような、アドレナリン大放出の達成感。特に染谷将太の瞳の演技はスゴすぎる。彼はどの領域まで行ってしまうのか……。
平凡に生きたい少年が次々と舞い込む困難に辟易(へきえき)しながらあがく様子が描かれるが、あまりにもリアリティーがない状況にア然。やはり漫画のままにしておく方がいい作品はあるのだ。しかも賛否両論を巻き起こした肝心な部分を監督がひよったことに違和感を覚えた。東日本震災後に希望を求めている日本人を意識したのだろうが、個人的に「それ、欺瞞(ぎまん)だろ」と突っ込みたくなった。さらに個人的になるが、ヒロインに嫌悪感しか抱けなかった。親に愛されないけど健気(けなげ)に振る舞う少女に心を寄せるべきなのだろうが、ウザすぎる。親子だから愛し合う必要もないし、わたしが母親でも殺意を覚えるだろう。二階堂ふみの不自然すぎる演技と対照的に住田役の染谷の好演が光っていたのが救いだ。
悲痛な青春ドラマだ。ショッキングでリアリズムに満ちた青春映画といえば、『KIDS/キッズ』や『プレシャス』などが挙げられるが、本作はそれらとは大きく性質が異なる。ここで描かれるリアリズム(のようなもの)は、ハイテンションかつ過剰な暴力と、まさかの「東日本大震災」。だが、主人公が絶望し憤り、暴力に走るのは大震災が原因ではない。原作を改変した希望を打ち出すラストとも、大地震はうまくリンクしていない。何だか打算的で、欺瞞(ぎまん)を感じざるを得なかった。
暴力描写は過剰。トンデモ親の描写もハンパないからこそわかる、「普通に生きたい、普通の大人になりたい」という住田の願い。加えて、震災でがれきと化した町の光景が主人公・住田の心情とシンクロして、近年の園監督作品の中ではテーマも明確でメッセージもストレートに伝わる。主演・染谷の物語を引っ張る力にも、二階堂のみずみずしい魅力にもがっつり心をつかまれた。前作の『恋の罪』で毒気に当てられた感じとは違い、絶望のどん底から希望を見いだす旅に付き合った後だけに、同じぐったりでも、不思議な心地良さがある。