第84回アカデミー賞予想
私的映画宣言
今年の注目は、映画業界にオマージュをささげた映画『ヒューゴの不思議な発明』と『アーティスト』だ。演技部門では、アカデミー会員に愛されるジョージ・クルーニーがゴールデン・グローブ賞に続き受賞するかが注目。そのオスカーの行方を、毎年パーフェクト回答が出る私的映画宣言ライターの皆さまに予想してもらいました!
今年は例年以上に地味なオスカーになることはわかっていたが、まさかのサプライズが目立ち、大傑作『ドライヴ』や『SHAME -シェイム-』が黙殺された時点で興味はうせました! こんなに面白味に欠けるオスカーも久々。ちょっとでも過激な作品は簡単にスルーしてしまうアカデミー会員の保守的な傾向は、まったく嘆かわしい。で、予想ですが、映画賛歌をモチーフにした二本、『ヒューゴの不思議な発明』と『アーティスト』の一騎打ちが予想される作品賞は、その意外性とハリウッド映画愛の深さから『アーティスト』で決まりでしょう。主演女優賞はメリル・ストリープに久々にあげるのかな? とも思ったのですが、主演対象作が力不足で魅力に乏しいため、今回は難しそう。今年のオスカーは、『アーティスト』と『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』が席巻する可能性が濃厚です。
ニコラス・ケイジ『リービング・ラスベガス』第68回受賞
鬼気迫る渾身(こんしん)の熱演で破滅一直線のアル中男に魂を吹き込んだ本作のニコラスは、センセーショナルなほど素晴らしかった。
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去年のカンヌ国際映画祭で出会ってしまって以来、ずーっと『アーティスト』の余韻に浸っていたワタシ。今や賞レースの台風の目となっているが、本山のアカデミー賞を制することができるのか? いや、フランス映画がハリウッドにどこまで食い込めるのか? 興味津々。ホントはノミネートされている部門全部で『アーティスト』を推したいところだが、ごひいきのジョージ兄さんや、もはや神のテレンス・マリック先生にそろそろ花を持たせてあげないとね。主演女優賞は今のところサッチャー元首相を演じたメリル・ストリープが優勢だけど、衝撃を受けたのは完全に男性に成りきったグレン・クローズの方。まぁ、どっちが受賞しても、嫌味なほど互いをたたえ合うスピーチが聞けそうなので楽しみ。日本人としては、ドキュメンタリー短編賞にノミネートされているルーシー・ウォーカー監督『津波そして桜』に注目せねば。受賞が日本公開の足掛かりとなることを期待したい。
フィリップ・シーモア・ホフマン『カポーティ』第78回受賞
受賞直後、『M:i:III』で取材。ポケットに新聞を突っ込み、野球帽をかぶった彼はまさに西田敏行。気取らなさにほれた。
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今年は多くの部門が本命不在で、「取るだろう」と「取ってほしい」の両面で予想。作品賞は『アーティスト』と『ヒューゴの不思議な発明』の“映画愛”対決が見もので、共に映画創成期を扱いつつ、前者が映画の原点を描いているのに対し、後者は3Dで映画の未来を切り開いている。アカデミー会員がどっちを選ぶのか興味津々。作品としては『アーティスト』の方がまとまっているが、3Dで商売したいハリウッドにとっては……と皮算用が働く気もする。というわけで、個人的イチオシの『ファミリー・ツリー』は泣く泣く監督賞に。演技部門も苦渋の選択で、本当は主演男優賞をクルーニーかブラピにあげて授賞式を盛り上げてもらいたいが、当確のプラマーを中心に予想したら、この四人が並ぶ絵柄がバランスよくてアカデミー賞らしいと勝手な思い込み。最大の楽しみは、ビリー・クリスタルのオープニング。9作品、歌って踊るのか!?
ジェームズ・キャグニー『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』第15回受賞
ギャング映画が得意だったコワモテの彼(最近のディカプリオにも似ている)が、歌って踊る。そのギャップ、その才能に「芸」の究極を見た!
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『アーティスト』が本命視されるが、古い映画の保存活動にも力を注いできたスコセッシが描く映画賛歌の『ヒューゴの不思議な発明』をアカデミー会員は無視できないはず。最多11部門ってのが、いい証拠。主演男優賞はクルーニーで決まり。でも、もしも諜報(ちょうほう)員として冷徹な世界に生きてきた男を激シブに演じたゲイリー・オールドマンが取ったら、わたし、狂喜乱舞します。女優賞は主演も助演も『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』組の家政婦さんたちに。ジェシカ・チャスティンはむしろ『ツリー・オブ・ライフ』だったよね。助演男優賞はクリストファー・プラマー。ただマックス・フォンシドーの参戦が気になる。二人共82歳で、名優なのにいまだオスカーをもらっていない。功労度、お達者度を考えて、賞の行方が変わったりして……。今年は司会が経験豊富なビリー・クリスタル。退屈なショーにならないことを切に願う。
リチャード・ドレイファス『グッバイガール』第50回受賞
白いタキシード姿でいい男を気取るなど、演技派の片りんを見せまくっていたのに……。いつしか低迷。近年は悪役、『ピラニア3D』でいきなり犠牲者にはわが目を疑った。
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私情を挟まないガチ予想をする身としては、今年は何とも悩ましい。ゴールデン・グローブ賞で作品賞を受賞した作品が、この10年で4作しかリンクしていない点は気になるけど、その後も勢いを持続している点を買って、『アーティスト』を本命視。役者の4部門は、堅そうなのは助演男優賞ぐらいで、それ以外は2人までに絞れても、そこから先が難しい。女優賞の2人は俳優組合賞での奮闘を考慮して『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』組から。有色人種の女優が主演賞を一度しか受賞していないのは気掛かりではあるが。最も悩んだ主演男優賞は、この先チャンスがまだまだあるクルーニーより、ここが千載一遇という感じのデュジャルダン氏を上に見た。この通りに決まったら、受賞俳優4人の合同記念写真が例年に比べて地味になるなあ……そういう意味でも、実に悩ましい。
アンソニー・ホプキンス『羊たちの沈黙』第64回受賞
映画の後半、ほとんど姿を現わさないにもかかわらず「主演」男優賞受賞。アカデミー賞はホントに奥深い。
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先攻した『ファミリー・ツリー』を『アーティスト』が追いかける形は、昨年の“最後に笑った”『英国王のスピーチ』同様のような。『ヒューゴの不思議な発明』もしかりだけど、映画界がレトロな気分になっている昨今、『アーティスト』が有利かな。でもジャン・デュジャルダンを主演俳優にノミネートすることはないよね。ここはやはり『マネーボール』のブラッド・ピットにあげたい。世間的には美男俳優と勘違いされているけど、実は個性派俳優であるブラッドの本領発揮の快演に清き1票を! 助演はカミングアウト父を楽しそうに演じたクリストファー・プラマーが鉄板だけど、わたしの心はニック・ノルティのもの。そして大穴でジョナ・ヒルが受賞してもうれしいけど、過去のコメディー演技が災いするか? 主演女優はヴィオラ・デイヴィスかなと思いつつも、推しているのはミシェル・ウィリアムズ。若手演技派でファッション・ダーリンな彼女に今あげておいたほうが授賞式が華やぐよ!
ジョン・ウェイン『勇気ある追跡』第42回受賞
タフガイが涙するシーンに思わずもらい泣き。死の2か月前にプレゼンターを務めた際はスタンディング・オベーションに感涙していたし、実は涙もろかった?
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最多ノミネートが『ヒューゴの不思議な発明』って何だかいまいち、盛り上がらない感じ。話題の『アーティスト』に至ってはフランス映画じゃん! とはいえ、今回のノミネートは映画愛にあふれた作品がラインナップ的に強い印象。だとしたら、サッチャーよりマリリン・モンローに追い風、吹いているよね? 監督賞のメンツも丸でファン投票かってくらい名匠ぞろい。その割に主演男優枠にレオが入れなかったのはちょっと気の毒だ。ジョージ、ブラピときて、レオがいれば、相当華やいだのになあ。レオのオスカー受難は続く。個人的には『ドラゴン・タトゥーの女』ルーニー・マーラが入れるくらいだったら、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』のトーマス・ホーンくんも入っていてもいいと思うが……。そして、『アーティスト』の犬、アギーくんは何かもらえないものか!
エイドリアン・ブロディ『戦場のピアニスト』第75回受賞
役への熱意と有り余る演技力が規格外のブロディ。彼が全エネルギーをぶつけてちょ
うどよく収まったのはこの作品ぐらいか。
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ごくごく普通に、前哨戦のゴールデン・グローブ賞と放送映画批評家協会賞の結果を踏まえ、一番カタいところで流してみました。最も迷ったのは主演男優賞で、『アーティスト』のジャン・デュジャルダンが来る気もしますが、『ファミリー・ツリー』を応援したい気持ちもあり、全部門それぞれ違う作品にバラけさせる形を取りました。今年は『ヒューゴの不思議な発明』と『アーティスト』という、3Dと白黒サイレントという対照的な形で映画史に自己言及するノスタルジックな「映画愛」系の二強がメインとなりましたが、これは「映画らしい映画とは何か」を確認する原点回帰という意味合いで、ある種の内省モードといえるのではないでしょうか。なので本番でも、おとなしい結果に落ち着きそう。大荒れはないだろうなと予想しております。
ケヴィン・スペイシー『アメリカン・ビューティー』第72回受賞
リストラされて、ヤケクソで自由にハジけるおっさん。この映画の彼を思い出すと「甘い気分」になってしまいます。
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筆者の心の作品賞は『ファミリー・ツリー』、監督賞はアレクサンダー・ペイン。でも現実はそうもいかないだろうから普通に予想。今年の最大の疑問は、前哨戦では他を圧倒している『アーティスト』。もちろん、どの部門で受賞を果たしてもまったく異論はない素晴らしい作品だが、「アメリカ以外の映画」とされる外国語映画賞とのすみ分けがよくわからない。最も予測しにくかったのは主演女優賞。ミシェル・ウィリアムズのような気もしつつ、個人的にはヴィオラ・デイヴィスにぜひとも受賞してほしいが、大穴というならグレン・クローズの線の方があり得る? ノミネーション発表時に最もうきうきさせられたのが助演男優賞。ジョナ・ヒルのエントリーに拍手! 受賞はクリストファー・プラマーと心から願う&信じて疑わないが、ほかの三人も含む四人にオスカーを献上したい気持ち。
ジェレミー・アイアンズ『運命の逆転』第63回受賞
あのとき君は、すでに程よく枯れていた(笑)。当時41歳、成りきりの老け役に脱帽。心底ゾッとさせられました。
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