サードシーズン2012年4月
私的映画宣言
久しぶりに日本映画の現場取材へ。場所は、パリ。まるまる一週間はハードだが、約20年前にまったく別の仕事でかかわり、さらにその数年前には同じドラマで“間接的に共演”した中山美穂が主演なので、再会がうれしかったです。
●4月公開の私的オススメは、『REC/レック3 ジェネシス』(4月28日公開)。
近々リリースの海外ドラマ特集のため、あれこれイッキ見。思いかげず「スパルタカス」にハマりました。作品の面白さもあるけど、裸、裸、裸……。女子の体もメリハリくっきり。今度こそ、体を引き締めたいと、ドラマを見てはモチベーションだけはしっかり上げています。
●4月公開の私的オススメは、『裏切りのサーカス』(4月21日公開)。そろいもそろって英国男の渋さ加減にゾクゾク。あと意外な拾いもの『捜査官X』(4月21日公開)。
念願の『セデック・バレ』台湾バージョンを大阪アジアン映画祭で観賞。大阪まで行ったかいあり! の大興奮。ただ時間の都合で全作品を観られなかったので、来年はフル参戦を目指します。
●4月公開の私的オススメは、『ル・アーヴルの靴みがき』(4月28日公開)。
アーティスト
(C) La Petite Reine - Studio 37 - La Classe Americaine - JD Prod - France 3 Cinema - Jouror Productions - uFilm
サイレントからトーキーへと移り変わるころのハリウッドを舞台に、スター俳優の葛藤(かっとう)と愛を美しいモノクロ映像でつづるサイレント映画。フランスのミシェル・アザナヴィシウス監督がメガホンを取り、ヨーロッパのみならずアメリカの映画賞をも席巻。芸術家(アーティスト)であることに誇りをもち、時代の変化の波に乗れずに凋落(ちょうらく)してしまうスターを演じるのは、『OSS 117 私を愛したカフェオーレ』のジャン・デュジャルダン。ほかに、ジョン・グッドマンなどのハリウッドの名脇役が出演。サイレントの傑作の数々へのオマージュが映画ファンの心をくすぐり、シンプルでロマンチックなラブストーリーも感動を誘う。
[出演] ジャン・デュジャルダン、ベレニス・ベジョ
[監督] ミシェル・アザナヴィシウス
3Dだなんだとものすごい映像を見続けているとたまにこういう映画を観るとホッとする。とはいえただモノクロ・サイレントで昔風ならいいのかというとまた違う。本作は話の展開も軽快で、ウイットに富み、音楽も効果的に使い、情報量過剰の映画に慣れた頭にも飽きずに観られる作りになっている。逆にこっちの方がすごい技術ではと思う。個人的には現代ならストーカー扱いされそうなヒロインがこの時代なら「情熱的」ってことになるんだと複雑な気分。
サイレント映画へのオマージュという、一見、映画マニア向けの設定だが、物語は直球&シンプル。スターの転落やラブストーリーは誰にもわかりやすく、その分、甘く、古くさくはある。でもそんな感覚が頭をよぎる時間に、天才犬アギーの名演技が挟み込まれたりと、なかなかに構成が巧妙なのだ。見方によっては、あざとい懐古趣味。でも現在のハリウッドで同じ題材を作っていたら、もっとこねくり回し、純粋さが失われていたかも……。ともあれ、やたらセリフで説明する最近の映画の悪しき傾向に逆らった点も好感。
英語字幕が目に見えるとはいえ、音楽付きの無声映画だから基本的には言葉が聞こえない。それゆえ映像に幅広い表現が求められるのだが、それに応えた的確な演出も役者の演技も的確。シンプルなストーリーに詩情を与えたモノクロ映像も技ありで、賞レースを独走したのも納得がいく。こういう心ある映画を観ると、映像の可能性は開拓の余地がまだあると思えてくる。何でもカンでも、派手に3D化すればいいというモンではないんだよ!
説明過多な映画に慣れている観客に、21世紀なりの味付けをしたモノクロ&サイレント映画をぶつける。この挑戦はアッパレだと思うし、子どもが観ても問題ないスターの落ちぶれ話に恋愛話を加味して、古き良きハリウッド映画好きにはノスタルジーに浸らせる。さらに、演技上手な犬や名優ジェームズ・クロムウェルもいい味を残す。作品としてうまいと思いつつも、やたら計算されているところが、筆者にはどうにも鼻につく。タップダンスも楽しいのだけど、傑作というのには抵抗を感じてこの点数。
かつて自分がチャールズ・チャップリンやフレッド・アステア、ジーン・ケリーを夢中になって見ていたあのころに戻らされた。映画好きならきっと誰もが通った道だろうが、今こうして映画をなりわいにしているとなおさら「初心を忘れるな!」と言われているようで胸にグッと来る。そのスターを演じるために、デュジャルダン&ベジョがタップを習得したエピソードに感激。スタッフ&キャストが先人たちを心底リスペクトしているのが見えて気持ちが良い。何度でも観たいわたしの心の一本。
裏切りのサーカス
元MI6諜報(ちょうほう)員の経歴を持つ作家ジョン・ル・カレによる人気スパイ小説を、『ぼくのエリ 200歳の少女』のトーマス・アルフレッドソン監督が映画化したサスペンス。英国諜報組織の中枢に20年も潜入しているソ連の二重スパイを捜すため、引退生活から呼び戻されたスパイが敵味方の区別もつかない中で真相に迫る姿を描く。主演のゲイリー・オールドマンをはじめ、『英国王のスピーチ』でオスカーを受賞したコリン・ファース、『インセプション』のトム・ハーディら実力派の競演は必見。
[出演] ゲイリー・オールドマン、コリン・ファース
[監督] トーマス・アルフレッドソン
日本なら絶対、東映作品のザ・男の世界。男たちのスーツの着こなしがさすが英国でうっとり。男社会ならではの感情の行き交いもかなり萌えな内容。ただし登場するスパイが意外に多く、それぞれに名前・名字・ニックネームがあるため、浮かれ気分で観ていると誰が誰やら完全に置いてかれる。演技に定評のあるイギリス人俳優たちが作品の中でさらに演技上等なスパイを演じる二重構造のため、当然、裏切り者はなかなかわからない。二度、三度と観たい。
ジェームズ・ボンドやイーサン・ハントのように派手なミッションはない。実際のスパイというのは、こうした地味な頭脳戦や本心の探り合いがメインなんだと教えてくれるシブい一作。俳優陣もこぞってクセ者の名演技を見せているが、どうも物語全体のダイナミズムに欠けている気がして、観ていて心が躍らない。これって近年の「スパイ映画の常識」に慣れてしまった自分のせいなのか。フリオ・イグレスアスの「ラ・メール」の歌と共に展開するクライマックスは超絶にカッコいいです!
登場人物が多く、しかもそのほとんどが風采(ふうさい)の上がらないオヤジたちだから、一度観ただけでは混乱をきたすかもしれない。が、目立ってはいけないスパイの鉄則を思うと、これもリアリティーの表われ。何より説明を排した描写に余韻があり、ただただ冷徹な「粛清」だけが連ねられるクライマックスには、不思議と胸が締め付けられる。英国の実力派をズラリとそろえたキャスティングはぜいたくそのもの。目の肥えた映画ファンに、ぜひオススメしたい。
オヤジ俳優好きとしては、盆と正月が一度に来たぐらい、顔ぶれを見て大喜び。ゲイリー・オールドマンはもちろん、特にマーク・ストロングのやるせない表情が素晴らしくて泣ける。作品は淡々としている一方で、過去の回想シーンが前後してわかりづらくも感じる。でも、冷徹で非情なスパイの世界が丹念に描かれて身震いする。1970年代を再現し、キャラクターも決してカッコよくないだけに逆にリアル。『ぼくのエリ 200歳の少女』もそうだったが、その場の空気を見事にスクリーンに映し取ったアルフレッドソン監督。男たちの何とも切ない感情、微妙な間を撮るのもうまいな。
英国男優の層の厚さを感じさせる。だからこそ、このメンツを生かしきれなかった演出に悔いが残る。二重スパイを探せ。そんなのは役者の格と知名度を考えれば「あの人」とほぼ誰もが想像つくだけにそこに至る魅せ方が重要なのだが、現在と回想シーンはわかりづらく、スタイリッシュな映像は平坦でちっともドキドキしない。スパイだからと感情も大仰な場面をあえて排除したのだろうが。そもそも、この監督のテイストに合わないんじゃないかな。
バトルシップ
ハワイでの軍事演習中に謎のエイリアンとその母船に遭遇したアメリカ海軍や日本の自衛艦が、地球存亡の危機に立ち向かうSFアクション。未曾有の事態に局面する男たちにふんするのは『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』で注目されたテイラー・キッチュ、『マイティ・ソー』の浅野忠信、『96時間』のリーアム・ニーソン。監督は『キングダム/見えざる敵』『ハンコック』のピーター・バーグ。人知を超えたエイリアンの武器と人類の近代兵力が激突する海上バトルもさることながら、日米の海の精鋭たちが国を越えたきずなをはぐくむドラマも見ものだ。
[出演] テイラー・キッチュ、浅野忠信
[監督] ピーター・バーグ
『トップガン』的軍人成長物語+『トランスフォーマー』的人類がまったく歯が立たない最強エイリアンとの対決にちょい『スペース カウボーイ』(笑)。ド迫力の映像で気持ちいいほど裏切られないわかりやすい展開が繰り広げられ、すっかり飲みこまれてしまったが見終わってふと「で、あのエイリアンたちは何しに来たの?」。楽しめれば、どうでもいいか。大きなリーアム・ニーソンと巨大なアレキサンダー・スカルスガルドのせいで主演のテイラー・キッチュがスタイル悪く見えたのはちょっと残念。
映画全体が、すさまじい「勢い」で突き進む。その勢いにのまれるようにアドレナリンが上昇した。地球にまで到達する先進的エイリアンが戦闘作戦は安易だったり、ツッコミどころは満載なのだが、パニック映画にしてはシリアス度が少なく、物語も、戦いにおける作戦も、徹底的にストレート&前向きなのが逆にさわやか! 「戦艦マニア」を自認するピーター・バーグ監督だけあって、戦艦を撮るシーンでは、なめるようなカメラワークに過剰な愛があふれ、「作りたいもの撮っているぜ!」という素直さがほほ笑ましい。
どう見ても軍人に向かない主人公がいきなり士官になっていたり、「敵」の弱点を運よく探り出したり。ぶっちゃけ、ご都合主義的だが、海洋からドーンと巨大スペースシップが飛び出したり、戦艦が爆破したりなどのスペクタクルに引き付けられて、最後まで楽しんでしまった。結束のエピソードのアツさを含めた、こういう景気のイイ映画を、駄作と切って捨てるのは大人げない気がする。ビール片手に楽しみ、ツッコミどころについて語り合うのも楽しいじゃないか!
巨大エイリアン船団の襲撃に既視感を覚えるし、キャラクターもステレオタイプで、正直、新味もない……と思っていたら、後半、孫子の兵法で活路を見いだす作戦に、思わぬ助っ人たちが参戦。エイリアン相手にアナログな戦いを繰り広げて、観客の胸を熱くする。誰もが楽しめるお気楽なポップコーンムービーを目指した監督のもくろみは当たっていると思う。でも、「リメンバー・パール・ハーバー」の場で日米が手を組み、エイリアンと戦うなんて日本人以上に米国人側に抵抗があるんじゃないかと思うのは余計なお世話?
「ユニバーサル映画100周年記念作品」。なのに珍品を放ってきた。エイリアンに挑むのは、除隊宣告された新米将校に、日本の海上自衛隊員、戦争負傷兵、そして元海軍兵(じいさん)と米国の戦争史をひっくり返したような面々。パールハーバーを舞台に、かつての敵・味方が力を合わせる美談ですよ。一応。でも、地球の明日を託すには無謀すぎる賭け。エイリアンのキャラ設定も目的もことごとく雑。そこがまたいろんな意味で楽しい~。