メリル・ストリープが2度目の主演女優賞、通算3度目のアカデミー賞を獲得した『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』では、「女性である」ことが一つのポイントになっています。それもそのはずで、本作でメリルが演じたマーガレット・サッチャーはイギリス史上初の女性首相。本作は、政治という男性が主役と思われていた世界で孤軍奮闘した女性の物語なのです。
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『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』メインビジュアル
© 2011 Pathe Productions Limited. Channel Four Television Corporation and The British Film Institute. |
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主演女優賞と同時にメイクアップ賞を受賞していることからも、メリルとサッチャー元首相がいかにビジュアル面で似ているかがうかがわれます。しかし、メリルは何よりもそのメンタリティーにサッチャーと通じるところがあるのです。片や政治の世界で戦い続けた女性であり、片や映画の世界で戦い続けてきた女優。そのメリルがこれまでに積み上げてきたキャリアの一つ一つが集約されているかのような演技は、60歳を過ぎていながら今なおメリルがそのキャリアの頂点にいることを周囲に知らしめました。
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こちらは若き日のサッチャーを演じるメリル・ストリープ
© 2011 Pathe Productions Limited. Channel Four Television Corporation and The British Film Institute. |
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思えば、アカデミー賞を初めて獲得した1979年製作の『クレイマー、クレイマー』も、父子の物語であると同時に、女性の社会進出を描いた作品でもありました。そうしてアカデミー賞を受賞したメリルが、本作で久々にアカデミー賞を受賞したことには偶然以上の何かがあるのかもしれません。折しも、第84回アカデミー賞授賞式の直前には、アカデミー会員の77パーセントが男性であることが明るみに出ました。このことからもわかるように、ハリウッドの映画業界も男が優勢の世界。年を重ねるごとに女優の活躍する場が狭くなっていく現在のハリウッドで、1977年に『ジュリア』で映画デビューして以来30年以上にわたってその第一線で活躍してきたメリルに、今回のアカデミー賞は何よりも名誉に思えたことでしょう。
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アカデミー賞授賞式でスピーチを行ったメリル・ストリープ
© Kevin Winter / Getty Images |
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1960年代のアメリカ南部を舞台にした『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』は、シリアスなテーマ設定とは裏腹に、作品自体はユーモアにあふれた人間ドラマ。人種差別にスポットが当てられた作品だけに、どうしてもそちらが取り上げられることが多くなりますが、本作ではまた、女性差別もテーマとして扱われているのです。1960年代といえば、女性の社会進出がまだ難しく、一般的ではなかった時代。語り手スキーターの就職や恋愛をめぐるエピソードでわずかに触れられているだけではありますが、本作を語る上では決して欠かせない要素の一つです。
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『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』メインビジュアル
© 2011 DreamWorks II Distribution Co., LLC. All Rights Reserved. |
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当時の社会から女性がさりげなく排除されていたことを暗示するかのように、本作のストーリーや画面からは男性が不自然ではない程度に排除されています。そして、衣装デザインや家の内装、料理といった、女性が気になるであろう細かなところに関しては、当時の状況を忠実に再現。それは何よりも、テイト・テイラーという男性が監督を務めていながらも、本作が女性たちの本当の姿を描こうとしているからにほかなりません。
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当時の様子を忠実に再現した衣装やインテリアの素晴らしさ!
© 2011 DreamWorks II Distribution Co., LLC. All Rights Reserved. |
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そうして作り上げられた本作では、アカデミー賞に女優三人がノミネートされるという快挙を成し遂げました。受賞こそオクタヴィア・スペンサーの助演女優賞のみにとどまりましたが、主演女優賞のヴィオラ・デイヴィスは最有力候補の一人であり、助演女優賞候補のジェシカ・チャステインはオクタヴィアがいなければ受賞確実ともいわれていました。また、ノミネートこそされなかったものの、語り手スキーターを演じたエマ・ストーン、『50/50 フィフティ・フィフティ』でも悪役ぶりを見せつけたブライス・ダラス・ハワード、シシー・スペイセクなどは見事な存在感を発揮しています。
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(上)ジェシカ・チャステインとオクタヴィア・スペンサー (中)ヴィオラ・デイヴィス (下)エマ・ストーン
© 2011 DreamWorks II Distribution Co., LLC. All Rights Reserved. |
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そして、最後に取り上げるのは惜しくも受賞こそ逃したものの、アカデミー賞で苦戦を強いられるコメディー作品でありながら助演女優賞と脚本賞の2部門でノミネートされ、ダークホースといわれた『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』。下品なジョークが連発されること、同性の友情がテーマになっていること、そして結婚式が舞台になっていることから、『ハングオーバー!』シリーズと比較されることも多い本作ですが、『ハングオーバー!』シリーズもなし得なかったオスカーノミネートを果たしたということからも、同シリーズの二番煎じではないということは明らかです。 |
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『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』メインビジュアル
© 2011 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
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開業したケーキ屋はうまくいかず、恋人にも逃げられ、親友のリリアンだけが頼りの30代独身のアニー。そんなあるとき、リリアンが婚約をして、アニーは花嫁介添人(ブライズメイズ)のまとめ役を頼まれるが、やることなすことうまくいかず、ついには友情にもヒビが入り始める……というストーリーは時に突拍子もない笑いを交えてはいるものの、決して浮世離れしてはいません。日本人にはなじみの薄い「ブライズメイズ」「メイド・オブ・オナー」といった役割、「ブライダル・シャワー」というイベントが描かれていながらも、共感せずにはいられないのは、そこに描かれている女性の不安と友情が徹底的にリアルだからでしょう。 |
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仲良く歌っているように見えますが、実は裏で激しい女同士の戦いが……。
© 2011 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
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作中で親友同士のアニーとリリアンを演じたクリステン・ウィグとマーヤ・ルドルフは実生活でも親友であり、この二人とウェンディ・マクレンドン=コーヴィ、そしてまさかの助演女優賞ノミネートを果たしたメリッサ・マッカーシー、脚本賞ノミネートのアニー・ムモーロは寸劇&即興劇団「ザ・グラウンドリングス」のメンバーでもあります。そうした、実生活でもつながりのある彼女たちの演技や信頼感によって、本作のリアルさは成立しているのです。 |
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私生活でも仲良しのマーヤ・ルドルフ(左)とクリステン・ウィグ(右)
© 2011 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED
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また、そんな女性たちの物語がアカデミー賞という大舞台で脚光を浴びたことも見逃せません。『ハングオーバー!』シリーズをはじめ、多くのコメディー映画がアメリカでは製作されていますが、そのほとんどは男性コメディアンが製作・主演を務めている作品です。実は本作のクリステン・ウィグ&マーヤ・ルドルフと、ベン・スティラーやウィル・フェレルといった日本でも著名な男性コメディアンは同じコメディー番組「サタデー・ナイト・ライブ」の出身なのですが、ベンやウィルが次々と自身のキャラクターを生かした映画を製作・主演している一方で、女性同士の友情を描いたコメディーはそれほどありませんでした。そんな状況で公開された本作がスマッシュヒットを記録したのみならず、あれよあれよという間にアカデミー賞にもノミネートされるという成功を収めたことは、女性コメディアンたちに新たな道を切り開きました。続編製作のうわさを主演・脚本のクリステン・ウィグは一蹴(いっしゅう)していますが、本作のような女性コメディアンによる映画で続編の話が出てくること自体、これまでは考えられなかったことといっていいでしょう。 |
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第84回アカデミー賞授賞式でプレゼンターを務めたキャスト陣
© Mark Davis / WireImage / Getty Images
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今回のアカデミー賞の主役となった『アーティスト』『ヒューゴの不思議な発明』が映画というファンタジーに取りつかれた男たちの物語だとするならば、今回取り上げた『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』をはじめ、『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』は方向こそ違えど、徹底して女たちのリアルを描いた作品。まだまだ男性優位という印象の強いアカデミー賞ではありますが、前々回、『ハート・ロッカー』でキャスリン・ビグローが女性で初めて監督賞を受賞して以来、風向きが変わりつつあるのは確か。これからの映画界を占うのは女性たちかもしれません!
映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』は公開中
映画『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』は3月31日より全国公開
映画『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』は4月28日より全国公開 |
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女性として初めてアカデミー賞監督賞を獲得した『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグロー監督
© Todd Wawrychuk / A.M.P.A.S.
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