日本映画界を担う個性派男優五人衆・再会スペシャル 良い俳優って何だ!?
大杉 :逆に皆さんに質問してもいいですか?「こうなりたい」と思う俳優はいますか?
遠藤 :あのー、すごく後から知った俳優さんなんだけど、佐分利信(さぶりしん)さんって好きなんですよね。何かの映画を観たときに、ぶきっちょそうなんだけど、ポンとそこにいるだけであの風格はスゴイ。佐分利さんみたいに、何の狙いもなくただそこに居る、空気のような存在になれたらいいな。
寺島 :あの風格って、何なんですかね? 時代のせいにしちゃいけないけど、昭和という時代背景も大きいのかな。韓国の俳優さんのうわさを聞くと、徴兵制があるから緊張感が違うんだとよく耳にするんですよね。ウチらの世代は戦争を知らないじゃないですか。よほど自分を厳しく律しないといけないのかな。でも人間は弱いから、どこかで流されてしまう自分がいる。佐分利さんの時代もそうだったのかな。昔の映画を観ると、三橋達也さんとかカッコイイもん。
大杉 :ヘンな言い方だけど、聖なる者も俗なる者も、今、寺ちゃんが言ったように品位があるんですよね。今は、俗なる者が俗でしかあらず、OKになっちゃう。昔の映画を観ていると、いい品がある。それは時代の姿なのかもしれませんね。
遠藤 :カメラの前にポンと居られる強さもあるんでしょうね。
田口 :そういう方たちのインタビューを読むと、昔は監督が彼らの癖を10年かけてそぎ落とし、そして次の10年で個性を育ててくれたと。そういう時間は今はないとおっしゃっていて。豊かな時代だったんでしょうね。でも今は、イケメンが多すぎてつまらないですよね。(原田)芳雄さんもイケメンだけど、アウトサイダーな獣の香りをプンプンさせていてたたずまいが違う。そういう俳優が求められる場が希薄になっている気がします。さっき出た韓流映画には獣たちが右往左往してますもん。そんな作品を観せられるとジェラシります(嫉妬する)ね。
寺島 :でもね、この前『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』を観たんですけど、主演が気になるんですよ。芝居か? 自然なのか? 役者なのか? ラッパーなのか? わからない。この芝居、不思議だなぁって。
――マイティ役の俳優・奥野瑛太さんですね。
寺島 :俺、はじめは(ラッパーの)Zeebraが出てきたのかと思ったの。あのラップは大したものですよ。
――田口さんは映画『アイデン&ティティ』でパンクバンド銀杏BOYZの峯田和伸さんを、『色即ぜねれいしょん』ではロックバンド黒猫チェルシーの渡辺大知さんと、いずれもミュージシャンを主役に起用しましたね。
田口 :僕の場合は2作ともロックがベースになっていたので、そのキャラクターに合わせて音楽ができる人を選んだんです。そして、その彼をメインに据えたときのバランスを見ながら周囲の俳優をキャスティングしていったんですよね。
――ミュージシャンって、演技のうまい人が多いんですよね。
寺島 :『海炭市叙景』(2010年公開)の竹原ピストルもよかったしね。
大杉 :『色即ぜねれいしょん』に出ていたくるりの岸田(繁)さんも面白いですよね。役者が戦略的に芝居をしても、その人が持っている味で魅せるのとでは、もうかないっこない。この前、ドキュメンタリー映画『ニッポンの嘘~報道写真家 福島菊次郎90歳~』のナレーションをやらせていただいたのだけど、これはひょっとしてこの方の芝居なんじゃないか? と思うようなシーンが多々あってね。でも、カメラが向けられている以上、演じなきゃいけない部分もあるワケです。だけどそれは、役者が意図してできるものじゃない。この方が本来持っているものなんですね。90歳のおじいちゃんがたたずんで、ぼそっとしゃべる一言とか。もう絶対にかなわない。岸田さんの場合は、演出とかあったんですか?
田口 :リハーサルは確実にやるようにしましたね。後はその人に合わせた撮り方で。テストしてすぐにカメラを回した方がいいときもあるし、申し訳ないんですけど、カメラ位置を変えて何回も同じことをお願いすることもある。でも大体そういう方は、同じ芝居にはならないですね。キャスティングの話に戻ると、僕は今村昌平監督や大島渚監督の映画を観て育ったんですけど、主役にずぶの素人を起用することもあって「えっ? 誰これ?」という計算外のにおいがする面白さを見慣れていたので、自分もそういうことをやりたいなと。ただし、異業種の方を呼んだときは、プロの方法論に固執しないというのが大事だと思います。
大杉 :型にはめない。
田口 :ええ。こちらのシステムにはね。
大杉 :映像の面白さや怖さって、例えば昨日今日、街を歩いていた男子女子に、確実にこっちが負けるときがあるわけですよ。舞台はそうはいかないんですけどね。すごく積み重ねて、計算して組み立てるものだから。でも映像は侮れない。むき出しでその人が画面の中で息づいていたりする。映像の怖さですよね。
田口 :今の若い子って怖いのは、素人でもちょっと演じているうちにうまくなるんです。うまくなりすぎて、逆にすごくつまんなくなっちゃう。そのさじ加減で、あまりうまくならないうちにカメラを回すこともあります。多分デジカメに撮られ慣れているから、緊張しないんですよね。
寺島 :緊張しますもんね、俺ら。
大杉 :今でも緊張しちゃう。
寺島 :歌もうまいしね。
田口 :カラオケに行き慣れているからね。
遠藤 :さっき、カメラのアングルを変えて撮るって言っていたけど、そういうときはカットを割らずに、(シーンの)頭から最後までやるの?
田口 :はい。僕の映画はフィルムでしたが、今はデジタルになって、どんどん回せますよね。
寺島 :若い人ってそれも慣れているから、同じことを何回もできる人が多いですよね。俺、もう我慢できねぇよ。一発で撮ってもらわないと。短気なのかなぁ。
遠藤 :わかる、わかる。俺、NHKドラマ「ハゲタカ」のときに演出の大友啓史さんに19回NG出されたよ(苦笑)。車メーカーの社長役だったんだけど、エキストラも入れた新車発表のシーンだったから、もう余計に緊張しちゃって。そのうちにエキストラさんに「がんばれー!」とか言われちゃって(苦笑)。
光石 :いやぁ~、追い込まれて余計に緊張するその気持ち、わかるなぁ。
大杉 :でもさ、芝居って生き物だからいい時も悪い時もあるんだよね。同じことが何度もできる俳優なんて信用しちゃダメ(笑)。遠藤 :俺もそう思う。
大杉 :だから何度も同じことができる人より、ぎくしゃくした、予定調和じゃない方が面白いときがある。
寺島 :映画『レザボアドッグス』(1992年米公開)なんか、絶対10回も同じシーンを撮ってないだろうな、あれ。大杉 :やってない、やってない。そういえば昔、俺たちで和製『レザボアドッグス』ができるんじゃないかって話していたじゃない? トモロヲ君が監督する?
田口 :いやぁ……。大杉 :イヤ?田口 :いえ。僕、回しますよ。でも同じ芝居を何度もさせますよ、このメンバーなら。大杉 :絶対ダメ。でも早くやらないとそのうち誰か死ぬよ。今の感じだと遠藤がまず死ぬな。遠藤 :なんでよ!大杉 :俺は80歳まで生きるけどさ。あんまり酒を飲むなよ。生きてろよ!遠藤 :ハイッ!