日本映画界を担う個性派男優五人衆・再会スペシャル そして、俺たちの未来
――五人のうち、寺島さんと大杉さんにとって北野武監督の存在は大きいと思いますが、このたび、光石さんが映画『アウトレイジ ビヨンド』(10月6日公開)に出演されて、めでたく北野組の一員となりました。
大杉 :北野監督とは初めて?
光石 :はい。そんなに出番は多くないんですけど、久々に緊張しました。
遠藤 :どんな現場なの?
光石 :僕、中尾彬さんとご一緒する機会が多くて、しかも中尾さんに「兄弟~」とか言うんですよ。僕、中尾さんに兄弟って言えないよなぁって。しかも、初日からキツイなぁって思っていたんですよ。それに武さんが気付いたようで、僕のところへツカツカときて「同じ身分なんだからさ、もっとちゃんと言っていいよ」と言ってくださった。
遠藤 :兄弟だからタメ口なんだ(笑)。
光石 :そうなんです。「おまえあれじゃないのか? 兄弟」とか。
寺島 :やっぱり最初は遠慮が入るんだ。
光石 :そりゃ入りますよ。
大杉 :中尾さんって70歳ぐらいかな、なのに兄弟なんだ(笑)。
光石 :あと名高達男さんも出演しています。名高さんも61歳だから11歳年上ですよ。
大杉 :僕ら五人で兄弟はできるけど、中尾さんはもう親分クラスだよね(笑)。楽しみだなぁ、それ。
光石 :本当に楽しかったですね。撮影に入る前に、寺さんから現場の話を聞いていたけど、昔とは違うとおっしゃってましたね。昔は本当に脚本がなくて、当日、紙ペラ1枚が配られたと。
大杉 :『ソナチネ』(1993年公開)のときですよね。紙が配られないときもありましたよね。
遠藤 :口立て?
大杉 :口立てですね。
寺島 :「勝手に電話で怒って」とか。
大杉 :『Kids Return キッズ・リターン』(1996年公開)のときは驚きましたよ。「ちょっと出て」と言われて喜んで現場に行ったら、北野監督から「リストラされたサラリーマンなんだよね。タクシーに乗って、で、後は3分」って。俺は3分(アドリブで)しゃべらなきゃいけないのに、向こうにいる北野監督を見たらキャッチボールしてた(笑)。でもワンテイクでOKでしたよ。『ソナチネ』のときなんか、寺ちゃんも僕もいつ(劇中で)死ぬかわからなかったもんね。 寺島 :そう、リアルなサバイバルゲーム。 大杉 :「何か聞いてない?」ってお互い情報交換してたの。「いつ死ぬの?」って。それで僕は、もともと東京の撮影だけだったのが、結局、最後の沖縄ロケまで連れて行っていただいたんです。 寺島 :あれも独特の緊張感を醸し出しますよね。 大杉 :北野監督にとっては映画もライブなんでしょう。それが新鮮でした。 寺島 :逆に「既成の俳優って何なんだ!?」って思うよね。 大杉 :最初に、北野監督から「何もしなくていいよ」とさらっと言われたことがあるの。そう言われると役者は難しいことを要求されていると思っちゃうんだよね。普通に考えて、「何もしなくていい」の理解の仕方としては間違っていると思うんだけど。 寺島 :でも今回は、脚本がしっかりあるわけですよね。 光石 :ありました。ただ脚本の差し込みがくるんです。 大杉 :それは一緒ですね。 光石 :でも最初の脚本で、ちゃんと後で差し込みが入るであろうところが空白になっているんですよ。そこに後からファックスで届いたセリフを、自分で切って貼るとちょうど良い脚本が出来上がるようになっているんです。 遠藤 :アハハハ! サイズまで合っているんだ。 光石 :それが2回ぐらいありましたね。でも何より、スタッフのモチベーションが高くてビックリしました。皆が北野監督の方を向いて仕事をしているという感じです。 寺島 :もう23年間も付き合っているんだもんね、スタッフは。 大杉 :そんなにたつんだ。北野監督の映画の流儀は面白いでです。でも、何本出演しても緊張する。 光石 :僕の場合は、初日はどんな監督でも緊張しますね。どういうのを求めているんだろう? スタッフの関係は? とか考えてしまう。 寺島 :これはテレビも映画も関係ない。俺も緊張しますよ。
――さてそろそろ、今後の話を伺いたいのですが。また10年後に再集結していただけますか?
大杉 :もうちょっと期間を短くしたら?
遠藤 :漣さんなんて、70歳になっちゃうんだもんね。
大杉 :まぁ、そんなに驚いていないけどね。50歳、60歳になったときもこんな感じかと。昔だったら60歳なんておじいちゃんですもんね。定年退職ですよ。
遠藤 :今の60歳って元気だよね。
田口 :僕、野田佳彦総理大臣と同じ1957年生まれ。「野田総理と同じ年でソーリー」
大杉 :他に俳優だと誰がいるの?
田口 :今のギャグ、拾ってくださいよ。
大杉 :さっきも聞いたから。総理大臣になってもおかしくない年齢なんだね。
田口 :いや、これで総理と同じ年なんておかしいですよ。
――田口さんはもともとパンクバンドばちかぶりとして活躍していましたが、最近またライブ活動を積極的に行っていますよね?
田口 :古い友達がパンクバンドを始めて、誘われたので。
――大杉さんと組んでいたバンド、ハージーカイテルズの活動は?
大杉 :いま休止中ですね。もうちょっと時間がたったら活動したいんですけど。あとはトモロヲさんの心意気次第ですかね。
田口 :えっ、僕?
――その大杉さんは舞台が続きます。
大杉 :来年、2本出演するのが決まっています。
遠藤 :え? マジ?
大杉 :そのうちの1本が新国立劇場で上演する別役実さんの戯曲「象」の再演なんですけど、原爆体験者の話なんです。それが、3.11以降の今とどうリンクするのか? 興味があるんですね。正直言うと、3か月という今のドラマ制作のスパンがあって、次のクールは何だ? とか考えていると、気持ちのせめぎ合いがあるんです。時には舞台という違うスパンのモノ作りが必要なんだと。自分のせいている気持ちを落ち着けたいと思ったんです。あとは、事務所に若い俳優が多いので、若い人とコラボレーションしたいという気持ちもあるんですよね。
遠藤 :舞台やるのってスゴイよね。僕も舞台に出るけど、相当な決意を込めないとできないよね。俺、公演中に4~5kg痩せたもん。
大杉 :痩せるよね。だから僕、条件を言いました。1日2回公演はやらないでと。1日、一発勝負じゃないとダメ。
遠藤 :俺ね、セリフを覚えるのも得意じゃないから、実は得意じゃない仕事をやっているんだなというのがだんだん見えてきたの。かといって、他にできる仕事もないじゃない。だから今は、自分の苦手意識と闘い続けるしかないのかなと思ってる。まだまだやり残していることもあるし、出会っていない監督もいるしね。時期がきたらまた、舞台にもチャレンジしたい。
大杉 :また舞台に立ちたいと思う、そういう時期がきますよ。
遠藤 :ええ。自分のやりやすいものばかりやっていても、人は成長していかないからね。向かい続けていかないといけないのかな。
寺島 :俺は何も考えていないけどな。でも、“敵は自分の中にひそんでいる”と思ってる。さっき、遠藤さんが苦手の自分と闘うと言っていたけど、己と闘わないとね。あとは健康であればいいんじゃないかな。
光石 :僕も遠藤さんじゃないけど舞台は3回ぐらいしかやったことがなくて。以前、遠藤さんが公演中も、上演前と後に稽古をやっていたと聞いて、僕もやってみたけど、それでもうまくいかなかった(苦笑)。でもやっぱり、今から50歳代中に何か挑戦しないと。もうほかの仕事には就けないし、30歳代のときみたいに、お金がなくて周りに迷惑を掛けるようなこともしたくないですからね。それから、まずは膝を治さないと(苦笑)。
大杉 :じゃ、最後に野田総理、どうぞ!
田口 :遠藤さんと寺島さんの話を聞いて、本当にそうだなって。でもまだ、自分の伸びしろを考えているのが素晴らしい。
遠藤 :アハハハ。
田口 :僕はもう伸びしろはないなと思っていたんですよ。そしたら今年12月のクリスマスに、調布のせんがわ劇場で子どものための芝居をやることになったんです。知り合いの、知り合いからお話をいただいたんですけど、自分が今までやってこなかったことに、まだ出会えるんだなと思って。僕に伸びしろはないかもしれないけど、他の人が勝手に発見してくれたらうれしい(笑)。こんな出会いがまだあると、ワクワクどきどきしますよね。
取材・文:中山治美
熱狂的なファンを持つ劇団「THE SHAMPOO HAT」の赤堀雅秋が作・演出・主演を務めた同名戯曲を、赤堀自身が映画用に脚本を改稿して自ら監督。最愛の妻をひき逃げした冷酷な犯人への復讐(ふくしゅう)に取り付かれた主人公の姿を描く。田口は、山田孝之が演じる犯人に灯油をかけられる強烈な役柄で登場!
『その夜の侍』は、11月17日より全国公開
織田裕二が主演する、大ヒットシリーズの劇場版完結編。青島俊作刑事が警察をクビになるという衝撃のストーリー。大杉は、警察内部の犯行と思われる本作の事件で、情報操作に乗り出していく、警察行政人事院・情報技術執行官・横山を演じる。『容疑者 室井慎次』以来となる登場に期待!
『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』は、9月7日より全国公開
ロンドン芸術大学で写真とアートを学ぶ。帰国後、写真家のアシスタントを経て独立。2008年より株式会社ZACCOに所属。現在、雑誌、CDジャケット、広告、テレビ、webなど活動は多岐に渡る。2011年よりLeaves Workを設立し代表を務める。
スポーツ紙記者を経てフリーの映画ジャーナリストに。47NEWS、日本映画naviなどで執筆中。