サードシーズン2012年12月
私的映画宣言
日本映画専門チャンネルの番組『ザ☆ベスト THE☆BEST』の第2回に出演しております。初回放送は12月7日(金)の深夜12時からで、その後も何回か放送されます。
●12月公開の私的オススメは、今回取り上げた『恋のロンドン狂騒曲』(12月1日公開)
10月のNYコミコンで『キャリー』クロエ・グレース・モレッツ、ジュリアン・ムーア、キンバリー・ピアース監督らにインタビュー。『パシフィック・リム(原題) / Pacific Rim』の特別映像にも大感激。来夏の公開が楽しみ。
●12月公開の私的オススメは、ロシアのSF超大作『プリズナー・オブ・パワー 囚われの惑星』(12月8日公開)
12月9日~16日、2度目となるドバイ国際映画祭に参加。去年は全く異なる文化を持つ街に戸惑いっぱなしだったけど、今年は旧市街や日本おたくの聖地「MANGA Sushi(マンガ・スシ)」も制覇したい。
●12月公開の私的オススメは、ナデりんの『駆ける少年』(12月22日公開)。放出されるエネルギーが半端ないッ!
誕生日にヨガの先生から『よみがえりのレシピ』の鑑賞券をいただきました。鑑賞後、より深く野菜を味わうように。野菜のこと、もっと知りたくなりました。そういえば子どものころにはあった和人参って最近、見ないなぁ。
●12月公開の私的オススメは『拝啓、愛しています』(12月22日公開)
本サイトの「イケメン調査隊」など、若手のイケメン俳優の取材が今年は増えたせいか、審美眼が激変。オヤジ俳優偏愛ライターを標ぼうしてきたのに……大丈夫か、わたし……(笑)。
●12月公開の私的オススメは『ルビー・スパークス』(12月15日公開)
007 スカイフォール
Skyfall (C) 2012 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved.
007のコードネームを持つイギリスの敏腕諜報(ちょうほう)員、ジェームズ・ボンドの活躍を描くスパイ・アクションのシリーズ第23弾。上司Mとの信頼が揺らぐ事態が発生する中、世界的ネットワークを誇る悪の犯罪組織とボンドが壮絶な戦いを繰り広げる。『007/カジノ・ロワイヤル』からボンドを演じるダニエル・クレイグが続投。監督に『アメリカン・ビューティー』のサム・メンデス、共演には『ノーカントリー』のハビエル・バルデム、『シンドラーのリスト』のレイフ・ファインズら、そうそうたるメンバーが結集。イスタンブールをはじめ世界各地でロケが行われた美しい映像も見もの。
[出演] ダニエル・クレイグ、ハビエル・バルデム
[監督] サム・メンデス
サム・メンデス監督のカラーがばりばり前面化していて、ほとんど彼のギャング映画『ロード・トゥ・パーディション』(ダニエル・クレイグも出演)のバリエーションだなと思った。ファミリーのような組織への忠誠とそれに裏切られた男の復讐(ふくしゅう)心というモチーフなどが重なっている。こってりとお芝居を見せる演出のせいで悪役のハビエル・バルデムが主役より目立っていたり、いわゆるシリーズ定番の味とはだいぶ異なる趣き。007の意義を再検討するような批評的ストーリーも濃厚だけど、ちょっとマジメすぎるかなあ。
渋い。丹精込めて、じっくりとストーリーを描く、重厚かつソリッドな大人のアクション・サスペンスである。決して飽きることはないのだが、007にしてはアクションが地味すぎ。不気味なマザコン殺人鬼のキャラ造形も中途半端。ボンド・ガールの魅力も乏しく配役に問題ありと言わざるを得ない。終盤で明らかになるタイトルの意味にも拍子抜け。とにかく監督サム・メンデスは、『ボーン・レガシー』トニー・ギルロイ同様、もうアクションは撮らない方がいいと思う。
東京国際映画祭で上映されたドキュメンタリー『エヴリシング・オア・ナッシング:知られざる007誕生の物語』で利権をめぐるドロドロ劇、それに伴うボンド交代劇という舞台裏を見たばかりだったので、よくここまで続いたと褒めたいくらい。レイチェル・ワイズも射止めたクレイグのセクシーさは言うに及ばずだけど、今回は悪役ハビエル・バルデムの力が大きいかな。まさに敵に不足なし。ただ、やっぱり『ノーカントリー』とカブる。
ダニエル・クレイグがボンドに決まった際も「金髪のボンドなんて」と大バッシングだったが、ふたを開けてみると世界中が絶賛。今回の大胆な新旧交代劇も波紋を呼びそうだが、結果的には受け入れられていくのだろう。個人的には、やんちゃが持ち味にしても、今回ほど「大人の男の魅力」を感じさせないダニエル・ボンドはいかがなものか。エージェントというより格闘家。クライマックスは『ホーム・アローン』か。お約束のダニエルのいい体も『ドリームハウス』の方がよっぽどサービス満点だし……。
恋のロンドン狂騒曲
『ミッドナイト・イン・パリ』が世界中で成功を収めたウディ・アレン監督が、ロンドンを舞台に描く狂乱のラブコメディー。離婚した老夫婦と、危機的状況にあるその娘夫婦の2組のカップルを軸に、いい大人たちが恋の幻想に振り回される様子をユーモアたっぷりに描き出す。主要キャストはアンソニー・ホプキンス、ナオミ・ワッツにジョシュ・ブローリンら名優ぞろい。年がいもなく恋に溺れる彼らの愛らしい姿が共感を呼ぶ。
[出演] アントニオ・バンデラス、ロジャー・アシュトン=グリフィス
[監督] ウディ・アレン
まさにウディ・アレンの名人芸! 『ミッドナイト・イン・パリ』のようなキャッチーなアイデア品ではなく、自らの世界観と技術の本領だけで組み立てた鮮やかさに酔う(そのぶん新しいことは何もやってないですが)。人は時に血迷ってドツボにハマり、誰かに期待すると当てがハズれ、他人は決して自分の望む通りには動いてくれない。シェイクスピア流の「空騒ぎ」が現代の都市映画として再生され、本当に見事。役者陣は皆、素晴らしいけど、特にルーシー・パンチのB級ビッチなリアル感がハンパない!
後味がすっきりしない、恋の皮肉を描いたラブ・コメディー。非常に下世話な作品である。何歳になっても恋愛に振り回される人間のさがをアンサンブル調に描く手腕はアレンならではだが、どの登場人物にも共感を持てないし、素直に笑えない。ブラックなユーモアのさえはイマイチで、ウイットに欠けるのも残念。しかし、本作の反動で名編『ミッドナイト・イン・パリ』が生まれた可能性もあるので(日本公開は逆だが製作年は本作のほうが1年早い)そこは感謝してもいいのかも?
可もなく不可もなく、ちょっと病んだ人たちが右往左往するコメディーを作り続けるウディ・アレン監督の安定感にホッ。この感覚は『男はつらいよ』とか『釣りバカ日誌』を楽しむ感覚に近い。フリーダ・ピントみたいに旬な人を起用するのも寅さんにおけるマドンナ的存在だもの。映画は恐らく、若い奥さんをもらって苦労するアルフィ役のアンソニー・ホプキンスに自身を投影しているんだろうな。元妻が懐かしい? と監督の深層心理を探りながら観ると楽しさ倍増。
名優たちが小気味のいいセリフを名演で見せ、パズルのピースのようにピタッとハマっていく気持ち良さ。いつも通り、想像通りのウディ・アレン作品。サー、アンソニー・ホプキンスがこれまで見せたこともない表情をしているのは発見だが。あと孤独な女性ヘレナが家族より「女占い師」の言葉を信じていくくだりは今年、話題になったあの事件を思い起こさせ、妙にドキドキ。エンディングは唐突な印象。彼らはその後、どうなったのか。このもやもやは余韻じゃなくて不完全燃焼。
人生の酸いも甘いもわかった分別ある人間も、一時の気の迷い……で恋に落ちる。ナオミ・ワッツが上司アントニオ・バンデラスとキスをしようかしまいか、一瞬、躊躇(ちゅうちょ)する。その間が、気の迷いと流すか、恋の病にかかるかの境界線だと思うが、そういうささいな演出がウディはうまい。演じるのもウディの遊び心もわかった達者な役者ばかり。御大アンソニー・ホプキンスがはすっぱな女にのぼせ上り、バイアグラを飲んで「あと3分待て」なんて、ウディの芝居じゃなきゃ見られない、絶対。ただ、どうでもいい他人の恋のから騒ぎとはいえ、ラストのまとめ方がウディにしては粋というより、雑に思えた。
ホビット 思いがけない冒険
『ロード・オブ・ザ・リング』3部作のピーター・ジャクソン監督が、同シリーズの60年前を舞台にした小説「ホビットの冒険」の実写化に挑んだアドベンチャー大作。凶悪なドラゴンに占拠されたドワーフの王国を奪還する旅に出たホビット族の青年ビルボや魔法使いガンダルフの一行が、さまざまな戦いを経て強大な力を秘めた指輪と対峙(たいじ)する姿を壮大なスケールで映し出す。ガンダルフにふんするイアン・マッケランやイライジャ・ウッド、ケイト・ブランシェットら、『ロード・オブ・ザ・リング』3部作のキャストとキャラクターも再登場する。
[出演] イアン・マッケラン、マーティン・フリーマン
[監督] ピーター・ジャクソン
ストーリーは単純だけど、3D映画としては確実に新機軸。もともと『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズからして、ニュージーランドの大自然のロケーションを基軸としたものだけに、リアリズムを融合させたファンタジーを精度の高い立体視で楽しめる作り。デジタルを盛った映像なのに、ドキュメンタルな臨場感が出ているので驚いた。『アバター』と『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』の中間仕様って 感じか。とりわけアクションシーンの空間処理には興奮。まあ2時間50分の上映時間はやはり疲れますけどね。
今回の旅の仲間たち、数多すぎ。話の展開や演出が『ロード・オブ・ザ・リング』とほとんど同じだったので、笑った。どうもガンダルフやゴラムといった『ロード~』のキャラに頼っている節があり、本作のオリジナルキャラのインパクトの弱さを露呈している。クリーチャーデザインにも不満が残り、やはり今シリーズはピーター・ジャクソンではなく、当初監督を務めるはずだったギレルモ・デル・トロ版を観たかった。ゴラムファンは大満足の1本でしょう!
長い! HFR 3Dなる新映像はきれいだし、3部作だけあって丁寧に描かれているとは思う。でもRPGの元祖『ロード・オブ・ザ・リング』と同じ、次々と現れる敵をクリアするおなじみの展開なので2時間50分は飽きる。おまけに主演のマーティンは華がない。三谷幸喜原作の舞台「ラスト・ラフ The Last Laugh」の彼は良かったので、ポイント出演する『LOR』キャストに負けぬ味を出せるか今後も見守るよ。ただし次は朝7時半からの試写はやめて。これがあと2作続くかと思うと正直ブルー。
悠久の時の流れを感じさせる、編集の悠長さ。これをぜいたくと見るのか、過剰と思うのかは観る側次第。とはいえ、クリアすぎる映像と必要以上の立体感が逆効果となり、しばしばセットで芝居をしている生々しさが伝わってしまうのは行き過ぎたサービスと言わざるを得ない。一方で、マーティン・フリーマンのほどよく軽快な演技をはじめとした役者たちの質の高さは、あれだけドワーフがいながら、ちゃんとキャラ分けできていることにもつながる。あっぱれ!
ニュージーランドの大自然を生かして再現した中つ国。毎秒48フレームの3Dで捉えた映像が圧巻で、ピーター・ジャクソンの思い入れが見て取れる。主演マーティン・フリーマンはドラマ「SHERLOCK(シャーロック)」もそうだが、巻き込まれキャラがお得意。本作でも戸惑いながらも旅についていく若き日のビルボ像を作り上げた。長尺で少々ダレるが、ビルボとゴラムとの出会いからガゼン面白さもアップ。キモかわいさが一段と増したゴラムに心をつかまれ、図らずもゴラム萌え(笑)。ただ『LOR』とは違う魅力を3部作最後までアピールできるのか心配。