第85回アカデミー賞 賞レース予想
私的映画宣言
今年の注目は、全12部門にノミネートされた『リンカーン』と、すでにゴールデン・グローブ賞作品賞を受賞している『アルゴ』。結果が気になる第85回アカデミー賞の行方を、私的映画宣言ライターの皆さまに予想してもらいました!
とにかく「ひねると当たらない」「私的思い入れを込めると当たらない」「変にバランスを取って作品をばらけさせると当たらない」。ひたすら心を殺してベタに徹するべし! というのが、このアカデミー賞予想に参加させてもらってから痛感したことなので、機械的に『リンカーン』流しにしてみました。国家的にも最大のネタですし、外野のツッコミが入りにくい部門は全部取っていくんじゃないかと。主演女優賞部門には『リンカーン』からのノミネートがないので、自動的に2番手候補『世界にひとつのプレイブック』からジェニファー・ローレンス。作品の出来を考えても順当な評価でしょう。一番迷ったのは助演女優賞。『レ・ミゼラブル』そのものというより、アン・ハサウェイに対する総合的な業界支持が高まっている気がするので、彼女が来るかもなあ。
クリストフ・ヴァルツ
『ジャンゴ 繋がれざる者』
『ジャンゴ 繋がれざる者』にほれたから。私的にはタランティーノもジェイミー・フォックスも推したい!
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去年も難解だったが、今年は輪を掛けて予想が難しい。前哨戦の結果から、「これで決まり!」と断言できる部門が例年一つくらいはあるが、今年は見当たらずに困っている。そこで作品賞は消去法を採択。脚本or脚色賞にノミネートされていない作品の受賞は考えられないので『レ・ミゼラブル』がまず消える。例年、高確率でリンクする全米監督組合賞にノミネートすらされていない作品も用ナシ。中東が舞台の映画やインドの少年の話は近年受賞したばかりだから厳しいか。『リンカーン』も前哨戦の結果がいささか心もとない。ゴールデン・グローブ賞受賞作とアカデミーとのリンクが薄いのは気になるが、賞レースでの勢い重視で、とりあえず『アルゴ』を推す。いずれにしても難解な今年のアカデミー賞。それだけに混戦の俳優部門を含めて、結果発表が待ち遠しくもある。
ナオミ・ワッツ
『インポッシブル』
受賞の可能性は低そうだがナオミ・ワッツ。えぐれた脚の激痛がビリビリ伝わるほどの熱演で目が離せなかった。
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アカデミー会員の相変わらずの保守っぷりがノミネートに嫌な感じに反映されたな。『ジャンゴ 繋がれざる者』などを候補にして先鋭を気取っても無理。『リンカーン』や『レ・ミゼラブル』のようなアカデミー好みの大作だけで競えばいいのに。ベン・アフレックやキャスリン・ビグロー、『ザ・マスター』のポール・トーマス・アンダーソンも無視っていう納得がいかない監督賞は、棚ボタでデヴィッド・O・ラッセルが受賞する可能性アリ。主演のダニエルはもう鉄板だから、今後は殿堂入りを希望。じゃないと若い世代が育たないでしょう。対抗馬はヒューだけど歌唱力は考察してもらえなさそう。主演女優は監督のペルソナが乗り移ったかのような強い女性を演じたジェシカしかいない。彼女と対決しないように助演に逃げた(?)アンは受賞する気満々だけど、取れなかった場合は演技力総動員で失意を隠さなきゃね。
ジェニファー・ローレンス
『世界にひとつのプレイブック』
常軌を逸した行動の裏にある傷心を繊細に表現した演技力に魅せられた。業界に染まらない自由さもすてき。
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日本アカデミー賞か!? と突っ込みたくなるほど保守的なノミネートにガッカリ。筆者のお気に入り『ヒッチコック』はメイクアップ&ヘアスタイリング賞のみ。『アルゴ』なんて、肝心のベン・アフレックが監督賞にノミネートされてないんだもん。一応、『世界にひとつのプレイブック』や『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』といった伏兵たちもいるけど、どーせ愛国心あふれる古老アカデミー会員の皆さんは「奴隷解放の父」『リンカーン』を選ぶのでしょ!? というわけで作品賞と主演男優賞は、本意じゃないけど他に突出した作品&俳優もいないので『リンカーン』に。個人的な予想ハイライトは、2年前の授賞式の司会で酷評されたアン・ハサウェイが、助演女優賞を獲得して汚名返上! 嫌味の一つもぶちかましちゃえ!
ジェニファー・ローレンス
『世界にひとつのプレイブック』
劇中で披露する、むっちりボディーをくねらせたダンスにほれた! 22歳にしてパンチが効いてるぜ。
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ベン・アフレックの監督賞ノミネートがないっ! のが大不満。代わりにというか、そこにいるハネケ。ハネケに不満はないが、米国内の新しい監督の台頭を何でもっと認めないのか……アカデミー会員。やな感じ。主演男優賞は、ダニエル・デイ=ルイスで決まりだと思うが、2、3年おきに映画に出れば、必ず賞に絡む。審美眼がすごいのか、職業=アカデミー俳優って感じ。助演男優賞は盛り上がりそうだし、功労賞ってところでアラン・アーキンによろしく。主演女優賞もゴールデン・グローブ賞で貧乳さらしてドン引きさせたジェシカ・チャステインよりは、グラマラスなジェニファー・ローレンスがいい。授賞式のホストが、『テッド』のセス・マクファーレンだけに、気の利いたMCを楽しめそうだし。
ジェニファー・ローレンス
『世界にひとつのプレイブック』
母なる大地を感じる豊かな体でどんな役でも生気を与える。プレイブックのティファニーは彼女以外じゃ、何の興奮もない。
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作品賞では『ゼロ・ダーク・サーティ』が傑出しているが、例の拷問シーン問題が物議を醸したため、残念ながら敬遠されるだろう。となると、ハリウッドが歴史的事件解決の一端を担った『アルゴ』が受賞する可能性が高い。主演男優賞は困難な役柄をナチュラルに熱演したブラッドリー・クーパーか、異形な怪演が光ったホアキン・フェニックスがふさわしいが、アメリカ人が敬愛するリンカーン大統領を演じたダニエル・デイ=ルイスが3度目の栄冠に輝くのだろう。何とも面白味がないが……。監督賞からキャスリン・ビグローとクエンティン・タランティーノという本命候補が漏れるなど、ますますオスカー会員の保守化が加速しつつある。そう印象付けないための巧妙な偽装工作が、よもやの『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』4部門ノミネートではなかろうか?
ジェシカ・チャステイン
『ゼロ・ダーク・サーティ』
今、一番脂の乗った旬な売れっ子女優だが、昨年も助演女優賞にノミネートされるなど実力も折り紙付き。
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冷静に考える「もう一人の自分」が、最多ノミネートの『リンカーン』に作品、監督、主演男優賞を与えようとしつつも、毎年、希望を忘れない本当の自分の気持ちに従ってこの結果に。ここへ来て『アルゴ』がPGA(全米プロデューサー組合賞)を受賞するなど勢いが復活したのも事実だし! そうなると監督賞は行き場を失い、ハリウッド外から選出になるってのは考え過ぎか? 俳優部門では、歴代司会者のヒュー・ジャックマンにサプライズ受賞で花を持たせ、残り3部門は、他の候補者との差が歴然と見て王道の予想にしてみた。その結果、演技賞4部門はどれも、ノミネート確実といわれながら監督賞に漏れた作品となり、ビグロー、タランティーノ、フーパーのリベンジが果たされる……というシナリオ。もう一つの授賞式の楽しみは『テッド』。派手な演出で登場してくれそう!
ジェニファー・ローレンス
『世界にひとつのプレイブック』
彼女に「常識」という言葉は無縁。ぶっとんだ天然スピーチをしてくれる可能性もあるので、本心では受賞熱望!
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毎年、どんどん代わり映えしない候補者になっている気がする。「もうもらってるんだから、この人、今年はいいじゃん!」と言いたくなるようなメンツが並ぶ。好かれている人とそうじゃない人が顕著過ぎないか。
クリストフ・ヴァルツが短期間で2度もノミネートされて、レオナルド・ディカプリオが入らない理由がわからない。ゴールデン・グローブも引っ掛からなかったけど、『ジャンゴ 繋がれざる者』のレオはもうちょっと評価されてしかるべきだ。そしたら休業宣言もしなかったかも。一方で、監督賞の意外さはどうしたものか。ミヒャエル・ハネケが入って、ベン・アフレックやクエンティン・タランティーノがいない、いびつさ。もっと普通にしてください(笑)。とてもじゃないけど、ワクワクできそうにない今回の授賞式。予想が当たればワクッぐらいできるかな。
クヮヴェンジャネ・ウォレス
『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』
演技力は当然素晴らしいが、少女とは思えない筋肉にも注目! 特に力強い太ももは色っぽさすら感じさせる。
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個人的には作品賞『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』、監督賞アン・リーで決まりなのだが、前哨戦からすると可能性は低そう。まだ諦めてないけど(笑)。『世界にひとつのプレイブック』と共に健闘を祈る! さて、作品賞はこちらも素晴らしかった『アルゴ』が強そうだが、ベン・アフレックの落選は理解し難い。一方でアメリカ人にとってこの題材への思い入れのほどが筆者には実感できないため、『リンカーン』がどこまで頑張れるのかが未知数。アカデミー好みと思われるので、監督賞はスピルバーグの可能性も高そうだけどハネケで。毎年難しい助演男優賞は貫禄のメンツで誰が受賞しても文句はないが、レオナルド・ディカプリオの落選は残念だ。外国語映画賞受賞は確実であろう『愛、アムール』は傑作だけど、このラインナップと並列して語るのは難しい気がする。
エマニュエル・リヴァ
『愛、アムール』
女優としてこの役を演じるのは本当にチャレンジングだったと思う。ジャン=ルイ・トランティニャンと併せて賞をあげたい。
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