作品賞、監督賞ノミネート紹介
第85回アカデミー賞
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『アルゴ』(公開中)
- 監督:
- ベン・アフレック
- アカデミー賞前哨戦のゴールデン・グローブ賞ドラマ部門作品賞&監督賞を受賞。1979年イランでの米国大使館職員救出作戦というCIAが最高機密情報として封印し続けた衝撃の実話を主軸に、主人公の贖罪(しょくざい)と再起をクロスさせてサスペンスフルに描き出す。大学では中東史を専攻したというアフレックが、時代背景に合わせて16ミリフィルムで撮影し、35ミリに変換した画像を用いるなど、技術面も盤石に。アフレックにとっては『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』脚本賞以来となる晴れの場。プロデューサーにはアフレックの他、ジョージ・クルーニーが名を連ねている。
Courtesy of Warner Bros. / Claire Folger
『リンカーン』(4月19日公開)
- 監督:
- スティーヴン・スピルバーグ
- 出演:
- ダニエル・デイ=ルイス、サリー・フィールド
- 奴隷解放の父エイブラハム・リンカーンが合衆国憲法修正第13条(奴隷制度の撤廃)採決に終始する2か月間を描く。150年前の米国における男女不平等や人種差別、そして人格者として崇拝されるリンカーンが実は策士であったという、知られざる実像を浮き彫りにする。混迷の時代にふさわしきリーダー像とは? 『ミュンヘン』など、時代に合わせて政治的な映画をさらりと世に出す巨匠スティーヴン・スピルバーグだが、本年アカデミー賞最多の全12部門でノミネート。アカデミー賞好みの実在の英雄を題材にし、スピルバーグとしては通算15度目の選出となる。
Courtesy of Walt Disney / 20th Century Fox / David James
『ゼロ・ダーク・サーティ』(2月15日公開)
- 監督:
- キャスリン・ビグロー
- 『ハート・ロッカー』の監督キャスリン・ビグローと脚本家マーク・ボールのコンビが、関係者たちから念入りに取材したトップシークレットの情報を基に、CIA女性分析官が国際テロ組織アルカイダの指導者ビンラディンを追い詰めて捕縛し、殺害に至るまでの真実を白日の下にさらす。その題材ゆえ製作段階から政治的な干渉などを受けているとされる本作だが、純粋に作品のクオリティーで選出されることに期待したい。女流監督とは思えないビグローの骨太で緊張感あふれる演出、ヒロインの信念を体現したジェシカ・チャステインの演技が、観る者を最後まで引き付けていく。これぞ女の執念!
Courtesy of Sony Pictures Releasing / Jonathan Olley
『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(公開中)
- 監督:
- アン・リー
- 台湾出身の巨匠アン・リーが映像化不可能とされたベストセラー小説を基に、哲学的な問題に直面する人間のエモーショナルな旅を実写化。太平洋を漂流する少年パイの数奇な運命を描くサバイバルストーリーで、作品賞候補では唯一の3D作品となっている。最先端のデジタル技術を駆使したという圧倒的なスケールの映像美が注目されるが、それを支える豊かな感情表現にこそ監督の手腕が生かされ、インドと台湾を舞台としたエキゾチックさも魅力。リー監督は『グリーン・デスティニー』で外国語映画賞、『ブロークバック・マウンテン』で監督賞を受賞するなど本賞と相性がいい。
Courtesy of 20th Century Fox
『ジャンゴ 繋がれざる者』(3月1日公開)
- 監督:
- クエンティン・タランティーノ
- 熱烈な支持者の多いクエンティン・タランティーノ監督が、その持ち味を生かし、エンタメでありながら米国の歴史の暗部といえる奴隷制度の実態を描く野心作。南部を舞台に黒色の奴隷と、白色の流れ者賞金稼ぎが大暴れする。特に後半は激しい銃撃戦となっているが、米国史上最悪の銃乱射事件が前年に起きただけに、影響を及ぼす可能性は否めない。当初はレオナルド・ディカプリオがキャリア初の悪役に挑む配役で話題をさらった。また、タランティーノ監督の下で、最も魅力を発揮するクリストフ・ヴァルツが『イングロリアス・バスターズ』での助演男優賞受賞に続き、同賞にノミネートされた。
Courtesy of The Weinstein Company / Andrew Cooper
『レ・ミゼラブル』(公開中)
- 監督:
- トム・フーパー
- 出演:
- ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ
- 第81回アカデミー賞授賞式で共演したヒュー・ジャックマンとアン・ハサウェイが、ゴールデン・グローブ賞コメディー/ミュージカル部門男優賞と助演女優賞を受賞。アカデミー賞受賞作『英国王のスピーチ』のトム・フーパー監督が、27年間という驚異的ロングランを誇る大ヒットミュージカルの映画版に臨んだ。未熟な社会制度の中で、波瀾万丈な人生を歩むことを強いられる主人公と、彼を取り巻く人々の群像劇だ。人の弱さと強さ、人生の素晴らしさと厳しさといった世の無常がテーマゆえ、多くの人々の心を魅了する。ミュージカルシーンではキャストがライブ歌唱していることも注目された。
Courtesy of Universal / Laurie Sparham
『世界にひとつのプレイブック』(2月22日公開)
- 監督:
- デヴィッド・O・ラッセル
- 近年、アカデミー賞獲得に最も近いと評されるトロント国際映画祭の観客賞を受賞。『ザ・ファイター』のデヴィッド・O・ラッセルが脚色し、メガホンも取ったラブストーリーで、掛け替えのない愛を失って心に深手を負った男女の再生する姿を、ユーモアを交えて描き出している。重厚でシリアスな候補作が多い中で、涙と笑いを誘う戦略こそが、本作のプレイブック(作戦図)といえるだろう。また、主演の二人に加え、ロバート・デ・ニーロ、ジャッキー・ウィーヴァーがそれぞれ助演賞候補となっており、本年唯一の主要6部門候補作品。これは『レッズ』以来の快挙。
Courtesy of The Weinstein Company
『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』(4月公開予定)
- 監督:
- ベン・ザイトリン
- ベン・ザイトリンは本作が長編初監督ながら作曲と共同脚本を兼務。カンヌ国際映画祭でカメラドールを獲得、サンダンス映画祭ではドラマ部門審査員大賞を受賞した。米国南部ルイジアナの入江で暮らす少女のイマジネーションにあふれた世界観と成長を表現し、クヮヴェンジャネ・ウォレスが、アカデミー史上最年少9歳で主演女優賞にノミネート。少女が大自然を相手に奮闘する姿を描いた『クジラの島の少女』を彷彿させ、その強さと美しさを備えた普遍的テーマはアカデミー賞好みだ。賞狙いの作品は年末公開が多いが、本作は2012年6月に限定公開後に拡大公開され高い支持を得ている。
Courtesy of Fox Searchlight
『愛、アムール』(3月9日公開)
- 監督:
- ミヒャエル・ハネケ
- カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いたヒューマンドラマ。鬼才ミヒャエル・ハネケが老夫婦の介護問題をテーマに、夫婦が見いだす究極の愛を浮き上がらせていく。ハネケ監督が自身の体験から着想を得て作り上げた物語だが、自伝ではなくキャラクターの心情を通して人間の本質に迫り、道義を問うという自身のスタイルを貫いている。そのために俳優陣には厳しい注文がなされるが、名優である主演の二人はもちろん、劇中に登場するハトにさえ完璧な動きを求めたという。アカデミー賞歴代で作品賞と外国語映画賞の両方にノミネートされたのは本作が5本目。同時受賞すれば史上初!
Courtesy of Sony Pictures Classics
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アン・リー 『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』
監督賞、ノミネート3回目(うち1回受賞)
1954年10月23日、台湾生まれ。ベルリン国際映画祭で金熊賞(グランプリ)を受賞した『ウェディング・バンケット』をきっけかにハリウッドにも進出。『いつか晴れた日に』『ラスト、コーション』など傑作を世に送り出してきた。アカデミー賞では、2005年の『ブロークバック・マウンテン』で受賞。その他『グリーン・デスティニー』が外国語映画賞に輝いており、常にアカデミー賞では強運を働かせている。今回の『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』では3Dの映像美も高く評価されそうだ。
Courtesy of 20th Century Fox/Jake Netter
スティーヴン・スピルバーグ 『リンカーン』
監督賞、ノミネート7回目(うち2回受賞)
1947年12月18日、アメリカ生まれ。いわずと知れた、ハリウッドのトップ監督。すでに『シンドラーのリスト』『プライベート・ライアン』で2度のアカデミー賞監督賞を受賞。ノミネートだけでも『未知との遭遇』に始まり、今回7度目を数える。本作『リンカーン』では、アメリカ史上、最も人気が高いといわれる大統領の真実を、重厚な演出で再現。作品自体が今回最多の12部門でノミネートされたという追い風もあり、監督賞受賞が見えてきた。3度目の監督賞となれば、ウィリアム・ワイラー以来、53年ぶりとなる(最高記録はジョン・フォードの4回)。
Courtesy of Walt Disney / 20th Century Fox
デヴィッド・O・ラッセル 『世界にひとつのプレイブック』
監督賞ノミネート、2回目
1958年8月20日、アメリカ生まれ。大学で政治学と英語を専攻した後、1994年、初めて撮った長編映画『スパンキング・ザ・モンキー(原題) / Spanking the Monkey』がサンダンス映画祭などで注目される。その後、湾岸戦争を描いた『スリー・キングス』も高く評価され、前作『ザ・ファイター』ではアカデミー賞監督賞にノミネート。本作が今回のアカデミー賞で全演技部門にノミネートされたように、俳優の隠れた才能を引き出すのを得意とする。脚色賞でもノミネートされており、総合的な才能が支持を集めそうだ。
Courtesy of The Weinstein Company / Jojo Whilden
ベン・ザイトリン 『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』
監督賞、初ノミネート
1982年10月14日、アメリカ生まれ。6歳のころから映画製作に興味を持ち、大学卒業後はチェコのプラハでアニメ製作も学ぶ。初監督作となった本作『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』は、共同脚本として、ザイトリンが手掛けた脚本が、2010年のサンダンス映画祭でサンダンス・インスティテュート/NHK賞を受賞。これは企画段階の脚本に贈られる賞で、受賞がきっかけで映画化にこぎ着けた。本作は低予算作品ながら、カンヌ国際映画祭で新人監督に与えられるカメラドールを受賞。今年度のアカデミー賞ノミネートではサプライズだった一人だが、今後注目したい才能だ。
Courtesy of Fox Searchlight / Todd Williamson
ミヒャエル・ハネケ 『愛、アムール』
第85回アカデミー賞 特集
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