サードシーズン2013年3月
私的映画宣言
『王になった男』イ・ビョンホンのテレビ生出演を見てうっとりし、自分が声フェチだとハタと気付いた。そういえば『きいろいゾウ』向井理の声に癒やされる。どうでもいいけど目を閉じると速水もこみちの声は福山雅治。
●3月公開の私的オススメは『ジャンゴ 繋がれざる者』(3月1日公開)の次に『アンナ・カレーニナ』(3月29日公開)
1月に転倒して脱臼した左肘の固定が3週間ぶりに取れたのはいいけど、筋肉が固まってしまい腕が真っすぐに伸びない! リハビリに3か月はかかるらしい……と、体の不思議を体験中。
●3月公開の私的オススメは『シュガーマン 奇跡に愛された男』(3月16日公開)。オスカーにノミネートされたのがマンモスうれピー(by復帰記念)。
完全に「女子」と化していたラナ・ウォシャウスキーに衝撃を受け、ムチャ振り質問も軌道修正してくるサム・ライミに感心。相変わらずテンション高すぎなクエンティン・タランティーノ……と、3月公開作の監督取材を心から楽しみました。
●3月公開の私的オススメは『キャビン』(3月9日公開)と『ジャックと天空の巨人』(3月22日公開)
年始はニューヨークでドン・コスカレリ監督に再会し、ジェシカ・チャステインと対面、フランク・ヘネンロッター監督の家にお邪魔し、ジャック・ケッチャムと酒を飲むという充実した日々を過ごせました。
●3月公開の私的オススメは『シュガーマン 奇跡に愛された男』(3月16日公開)と『汚(けが)れなき祈り』(3月16日公開)
やってられん! ということの連続で2月末からブロードウェイでPLAYとミュージカル計9本を観劇予定。結局仕事も兼ねてになっちゃったけど、趣味は実益を兼ねるということで。半端な時期なのでプレビューも多いけど、楽しみ!
●3月公開の私的オススメは『偽りなき者』(3月16日公開)
『ジャンゴ 繋がれざる者』
『イングロリアス・バスターズ』などの異才クエンティン・タランティーノ監督が、前作からおよそ3年ぶりに放つ骨太のアクション大作。19世紀中期のアメリカ南部を舞台に、かつて奴隷だった男の妻奪回のし烈な闘いを描き出す。
レオナルド・ディカプリオが本作で初めてとなる悪役に挑むほか、ジェイミー・フォックスやクリストフ・ヴァルツら個性と実力を兼ね備えた俳優たちが豪華共演。緊迫感あふれる人間模様と、驚きのストーリー展開に言葉をなくす。
[出演] レオナルド・ディカプリオ、ジェイミー・フォックス
[監督]クエンティン・タランティーノ
クリストフ・ヴァルツのおもろ登場シーンから始まる、ハラハラドキドキの旅。3時間弱はあっという間だ。全員くせ者の個性派役者たちによる本気のぶつかり合い。いいもんヴァルツのオスカーノミネートは当然だが、わるもんレオの力の入った演技も見逃せない。ジェイミー・フォックスは裸も含め、どこまでも美しくかっこよく、サミュエル・L・ジャクソンはやり過ぎかと思えるほど、ノリノリだ。久しぶりに大好きなタランティーノ作品を観たという高揚感でしばらく放心状態。散々楽しんで、奴隷制度にNOと思う気持ちは『リンカーン』よりずっと高まった。素晴らしい。
前作はユダヤ人、今回は白人至上主義者と現代にも根強く残る人種差別問題を、原点に戻って制裁するタラちゃんの野心作。それが血なまぐささ満点っていうのがタラちゃん流だけど、今回はやり過ぎな感じも。それでも面白いから見ちゃうんだけどね。唯一気に入らないのが、映画会社もタラちゃんも三池崇史監督『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』に触れていないこと。良し悪しはあるにしても多少の影響はあると思うけど。なかったことにしてないか?
2時間45分、全く飽きなかったのは、タランティーノ監督のメリハリのテクニックが最高度に達したからか。当然のごとく、バイオレンス描写の激烈さと痛快さは世界一(断言!)。問題はその他のシーンで、何度もかみ締めて味わいたくなる会話はさらに輝きを増し、ジャンゴとシュルツが銃の練習をするシーンなんて、タラ作品とは思えない「ほのぼの感」に浸ってしまった。ほのぼの感がラストの感動につながったのも、タラ作品では初体験!
西部劇は得意分野ではないが、『続・荒野の用心棒』は確かに秀逸だった。このタランティーノ(以下QT)版『ジャンゴ』はバイオレンスと過剰なアクション、キャラクター設定の妙、オフビートなユーモアと、彼らしいエッセンスが壮大にぶちこまれた豪華絢爛(けんらん)QT劇場となった。綿花や雪化粧、白馬に映える鮮血の美学にクラクラ。クライマックスの血まみれ銃撃シーンのカタルシスにも拍手喝采。前作に続き映画で歴史上の過ちを正した本作は、QTの新たな傑作と断言したい。
くさくさしていた時期に観たので憂さ晴らしにこれ以上ないというほど最適な映画だった。ありがとう、ジャンゴ! タランティーノ作品の醍醐味(だいごみ)、俳優を見る楽しみは今回も期待通りでヴァルツ、ディカプリオもよかったがフォックスの抑えた演技がよかった。もっとも終盤のサミュエル・L・ジャクソンのインパクトは、それまでのことを忘れ去るほどだったが(笑)。しかし何よりも荒唐無稽かつばかばかしさもありつつよく作り込まれた脚本の巧みさに感心させられた。
『千年の愉楽』
大島渚監督の弔辞で田原総一朗が「年を取るとともに衝撃的な作品を出し続けた」と言っていたが、若松監督もまた年齢とともに過激に、そしてより精力的に映画を撮り続けていた監督の一人だと思う。そして多くの役者たちから慕われていた。本作を観て納得。役者たちが実に伸び伸び、スクリーンからはみ出しそうなくらい生き生きと演技している。特に高良、高岡は短く激しく生きる男役で、それ故に美しい。彼らからほとばしる色気がしっかりと捉えられている。多くの役者が監督ともう組めないことを悔しがるだろう。
先日、若松孝二監督追悼座談会を行ったときにも話題に上ったのだが、若松監督はピンク映画時代からそうなのだがエロ描写に興味ナシ(苦笑)。なので本作も、中本の男たちのあらがえない血と性の歴史を描くはずがあっさり。それがあるともう少し、イケメンぞろいの男優たちの艶が出て、わたしもムラムラできたんだけど。そんな中でも、高岡蒼佑の色気が半端じゃない。「ROOKIES」シリーズのころと比較するとぐーんと男っぷりがUP。やっぱり男は揉まれて輝くんだね。
原作6章のうち2章をメインにしたことで、「家系が導く不吉な血」というテーマが際立った。逆らえない運命を見事に体現するのが、高岡蒼佑。今、この路線にここまでハマる俳優は他にいないでしょ! もう一人の主役、高良健吾は、無色な魅力が生かされた『横道世之介』と違って、破滅型の男にはまだ青い気が……。舞台となる「路地」が、原作を読んで想像した風景と違って新鮮な驚きだったが、音楽はやや違和感。でもこの違和感も、本作の狙いかもしれない。
若松孝二監督の遺作が三重県で撮られたという事実は、三重県出身者として何か感慨深いものを感じる。その遺作が、死が間近に迫る産婆の目を通し語られる「人の生と死」というのも不思議な偶然だ。不幸になる宿命を背負ったかのような遺伝子と業を引き継いだ3人の男たちの不条理な生きざまが克明に描かれていくが、この3人を演じた俳優たちのひたむきさがいい。美しく輝く尾鷲の海と、『天使の恍惚』のラストの新宿東口の風景がなぜかシンクロした。
『愛、アムール』
(C) 2012 Les Films du Losange - X Filme Creative Pool - Wega Film - France 3 Cinema - Ard Degeto - Bayerisher Rundfunk - Westdeutscher Rundfunk
第65回カンヌ国際映画祭で、最高賞にあたるパルムドールに輝いたヒューマン・ドラマ。長年にわたって連れ添ってきた老夫婦が、妻の病を発端に次々と押し寄せる試練に向き合い、その果てにある決断をする姿を映し出す。『ファニーゲーム』『白いリボン』の鬼才ミヒャエル・ハネケが、沈痛かつ重厚なタッチで追い詰められた老夫婦が見いだす究極の愛を浮き上がらせていく。『Z』『消される男』のジャン=ルイ・トランティニャン、『トリコロール/青の愛』のエマニュエル・リヴァと、フランスが誇るベテラン俳優が老夫婦を演じているのにも注目。
[出演]ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァ
[監督]ミヒャエル・ハネケ
今や日本だけでない老老介護問題。最終的に夫が出した結論と同じようなニュースが日本でも毎日のように流れている。けれど、ニュースでは伝わってこない、決して「介護うつ」では片づけられない理由。夫の何が悲しいって、老いてしまった妻を見ることではなく、老いたことに耐えられないであろう妻の気持ちが痛いほどわかるってことだ。年を取るにつれ、生きることが最優先になり、選択肢は失われてしまう。つらい作品だけど、最後の最後の瞬間まで相手をいとおしむ夫婦の姿がうらやましくもあった。
映画のお手本のような作品。状況セリフは一切なく、作りこまれた美術セットで夫婦の暮らしぶりや性格、職業を物語り、二人の言動から愛の深さをにじませる。そして、時たま訪れる娘や介護士の振る舞いから、介護が抱える問題を浮かび上がらせるなんて! ただハネケ監督の割には毒が少ないかな。それにしても老老介護は日本で以前から取り沙汰されてきた問題。ニートや年金問題しかり、日本の方が世界より一歩進んで事件が起こっているような気がするのは、気のせい!?
これ以前のミヒャエル・ハネケ作品には、よくも悪くも神経を逆なでされてきたが、今回の作品は、優しくまとわりついてくる感触。要所で強烈な描写もあるが、夫婦愛はそれ自体、狂気の域に達したとしても、感動できるからだろう。妻の意識が曖昧になるのと同時に、意味ありげに登場するハトは、あの「千の風になって」の歌詞も連想。愛する人が消えかかっても、魂となって近くに存在する……。そう考えさせつつ、ハト=妻への行為をシビアに描く辺り、やっぱりハネケってコワい!
老年夫婦の愛の物語とは、ミヒャエル・ハネケらしくない題材だなあ。と思わせておいて、クライマックスの意表を突く戦慄(せんりつ)のショック演出はハネケ印100%。その衝撃度の高さに、免疫がない人は心臓が止まるかもしれないので、老人にはあまりお薦めできない映画ともいえる。が、ただ衝撃的で恐ろしいだけではなく、同時に美しく深遠な愛の形が描かれているのだ。いわゆるホラー映画的なショック描写も盛り込むなど、これは巨匠ハネケの新境地ではあるまいか?
老老介護の現実をドキュメンタリーかと見まがうばかりのタッチで淡々と描いていく過程は、筆者にとって身を切るほどつらいものだった。「他の選択肢もあったでしょう」という意見も理解できるが、現実的にこうした問題に直面した場合、そう簡単に割り切れる問題とは思えない。そもそもハネケが言うようにこれは社会派映画ではなく、この夫婦の決断の是非を問うものでもない。見終わって初めて、これはタイトルの通り愛を描いた物語なのだと痛切に感じると同時に愛の重さに打ちのめされた。