第57回『ウルフ・オブ・ウォールストリート』『アメリカン・ハッスル』『ビフォア・ミッドナイト』『オンリー・ゴッド』
今月の5つ星
レオナルド・ディカプリオが実在の株式ブローカーの振り切れた人生を体現し、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた『ウルフ・オブ・ウォールストリート』、アカデミー賞最多10部門ノミネートとなった実録犯罪ドラマ『アメリカン・ハッスル』など、映画通なら大満足のラインナップが勢ぞろい!
誰もが焦がれる本物の愛をこんなにも自然にウイットに富んだ会話でキュートに映像化した作品が他にあるだろうか。シリーズ過去作『恋人までの距離(ディスタンス)』や『ビフォア・サンセット』、主演のイーサン・ホーク演じるジェシー、ジュリー・デルピーふんする運命の人セリーヌ、またリチャード・リンクレイター監督の演出に心をつかまれた全てのファンの期待を裏切らない秀作。ギリシャならではの雄大な土地や建物を背景に、帰路の車内や徒歩などの限られた空間・行動での二人の話をロングカットで丁寧に見せる手法に「恋愛映画の金字塔」といわれるゆえんが隠されており、ささいなきっかけから人生の分岐点を目の当たりにするという普遍的なテーマを、目に見えない糸でつながれている二人の美しいラブシーンというトッピング付きで描き切っている。(編集部・小松芙未)
この作品には2人の主人公が存在する。14歳の少年が謎の大人の男との出会いを通して成長していく物語だが、少年側の視点から見ると現代版『スタンド・バイ・ミー』ともいえる青春映画で、大人側の視点から見ればやるせないラブストーリーだ。タイトルロールのマッド役は、新作『ダラス・バイヤーズクラブ』も評判のマシュー・マコノヒーで、島で隠れて暮らす、いわくありげな男を好演している。しかし、本作で最も注目の俳優は、14歳のエリス役のタイ・シェリダン。繊細さと荒々しさを併せ持つ表現のできる美少年で、デビュー作の『ツリー・オブ・ライフ』を経て、公開待機中の新作『ジョー(原題) / Joe』ではベネチア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞するなど、大器を予感させる。また、エリスの親友を演じ、本作で映画デビューしたジェイコブ・ロフランドも、リヴァー・フェニックスの少年時代をほうふつさせ、こちらも楽しみな存在だ。監督・脚本は『テイク・シェルター』で注目されたジェフ・ニコルズ。多感な少年時代に思いをはせたり、身勝手な大人の事情に切なさを感じたり、また、派手な物語ではないが家族の物語やサスペンス性もあって、静かな余韻が後を引く作品となっている。(編集部・天本伸一郎)
映画『ドライヴ』で世界中のファンから熱狂的に支持されたライアン・ゴズリングとニコラス・ウィンディング・レフン監督のタッグが、「神と対峙(たいじ)したがっている男」をテーマに描く最新作。ライアンは、今回もほぼ言葉を発しない寡黙な役どころに挑戦。タイのバンコクでボクシングジムを営む傍ら、裏社会に従事する主人公ジュリアンを演じる。映画は、なぶり殺しにした売春婦の父親に殺害された、兄の報復に駆り立てられるジュリアンの復讐(ふくしゅう)劇が軸。そのシンプルな物語に、罪人に対し「神」のごとく制裁を与えていく元刑事や、ジュリアンの悪魔的な母親などさまざまな要素が絡まり、ある種哲学的な世界を創出。一部の観客にはひどく難解に映ることは間違いないが、赤と青のコントラストに彩られた映像美と強烈な暴力描写で描かれた刺激的な世界は実に魅惑的で、スクリーンに目がくぎ付け。幾度も鑑賞したくなる本能的な欲求を呼び覚ます、まさにドラッグ的な魅力にあふれた作品となっている。ちなみにジュリアンの母親にふんするのは、知性的なイメージが強いクリスティン・スコット・トーマス。妖艶でありながら、下ネタ満載の暴言を吐きまくる彼女の怪演にも注目。(編集部・入倉功一)
レオナルド・ディカプリオとマーティン・スコセッシ監督の5度目のタッグ作は、実在の株式ブローカーの半生が題材。だが、これまでのタッグ作のようなシリアスさを期待すると肩透かしを食らうだろう。本作にあるのは、その対極ともいえる軽みだ。ディカプリオの熱演は確かに一目に値するが、どこか間が抜けており、まるでスラップスティック・コメディーの様相を呈する。そのため、約3時間という長尺の本作には、中身のない箱をつかまされた気分になる観客もいるに違いない。だが、それこそが本作の描こうとする「アメリカンドリーム」の空虚さだ。かつて、アメリカでは無一文の若者がその身一つで成り上がるさまが「アメリカンドリーム」としてもてはやされた。だが、金のために金を稼いだ後、人は何を成し遂げられるのか。本作の主人公は、詐欺罪で捕まるという末路をたどる。現代における神話の崩壊をこうした軽みをもって描くことができるのは、もともとの神話がそれだけの重みを備えていなかったということなのかもしれない。(編集部・福田麗)
FBI捜査官が詐欺師と組んで政治家にでっち上げの贈賄を持ち掛け、大物議員を次々と摘発した「アブスキャム事件」を基にしたエンターテインメント作。しかし、映画『ザ・ファイター』『世界にひとつのプレイブック』で傷つきながらも人生と向き合い、一歩踏み出す登場人物たちを描いたデヴィッド・O・ラッセル監督作だけあって、本作のメインとなっているのは「アブスキャム事件」の実録的側面ではなく人間ドラマだ。登場人物たちが何を求めて「アブスキャム事件」に関わることになったのかが掘り下げられており、単なるエンタメ作とは一線を画している。また、俳優陣の役づくりと演技力は秀逸で、中でもクリスチャン・ベイル演じる詐欺師、エイミー・アダムス演じる愛人、ジェニファー・ローレンス演じる妻がそれぞれに思いを抱きながら対峙(たいじ)するさまは圧巻。演技派で鳴らす俳優陣の夢のようなアンサンブル、そしてファッションと音楽で再現された1970年代の華やかさあふれる138分に、ただただ酔いしれる。(編集部・市川遥)