本当に面白い日本のテレビドラマ特集PART2 テレビで活躍する映画監督とリミックスドラマ編
型破りシネマ塾
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本当に面白い日本のテレビドラマ特集PART1 注目の演出家&脚本家編
前回好評だった日本のテレビドラマ特集、紹介し切れなかった作品やクリエイターがまだまだいるのでPART2をやります! 「じぇじぇじぇ」や「倍返し」が流行語大賞を受賞するなど、日本のテレビドラマが過去にない話題の集め方をした2013年。王道からはちょっとそれて、「こんな見方をすると楽しいかも」「こんなに面白い作り手がいるよ!」「こんな深夜ドラマ知ってる?」などなど、そんな“極私的テレビドラマ指南”です。
文 / 浅見祥子
あの売れっ子映画監督が撮った意外なドラマ
「イロドリヒムラ」※DVD
価格:11,970円(税込み)
発売元:TBS
販売元:アニプレックス
©TBS
演出家に注目すると、ドラマの楽しみ方はぐっと深まる。過去の作品を観ると“映画しか撮らない!”と主張しているような、骨太にも見える映画監督たちも、楽しそうにテレビドラマに挑戦していたりする。まずは中村義洋。あの実力派監督がドラマ!? 撮っているんです! タイトルは「イロドリヒムラ」(2012)。PART1で紹介した「週刊真木よう子」(2008)の方式で(なぜかバナナマンの日村勇紀を気鋭の監督や脚本家がさまざまに料理、相手役の女優も変わる1話完結の連ドラ。堤幸彦、深川栄洋、犬童一心らに並び、第7話「張込み」で中村監督が登場する。昭和の名画風白黒のオープニング、高倉健風の角刈りで無口な刑事を演じる日村(←ムリ!)。ホシを追ってきた見知らぬ地で、小料理屋のおかみ(坂井真紀)と出会う……って『駅 STATION』ですよ! でも刑事は霊感が強くて死んだ人間の姿が見えるという設定で、ホラーのテイストも入る。実は中村監督、オリジナルビデオ「ほんとにあった!呪いのビデオ」シリーズで最初は構成を務め、今もナレーターとして50作(!)を超える同作に関わるホラー好き? 頭からしっぽまで、中村監督のオチャメな遊び心が満載。
どんな題材も映画的喜びに満ちた作品に仕上げる山下敦弘もまた、いくつかのドラマを撮っている。「深夜食堂」第1シリーズ(2009)の第九話「アジの開き」はその一つ。小林薫演じるマスターが一人で切り盛りする小さな「めしや」へ、ストリッパーのマリリン(安藤玉恵)がやって来る。マリリンはカウンターで、スッと和服を着こなす初老の女(りりィ)と出会う。ばあさんはかつて一世を風靡(ふうび)した伝説のストリッパーだった……というお話。都会の片隅にある食堂で展開しそうな、展開してほしい物悲しい人情モノだ。30分弱の短尺ながら、一瞬で“山下ワールド”を構築する手腕は見事。フードスタイリストは映画『かもめ食堂』やNHK連続テレビ小説「ごちそうさん」などの飯島奈美で、この人の手に掛かるとアジの開きでさえ極上のごちそうに見える。
「深夜食堂【ディレクターズカット版】」※DVD
価格:10,500円(税込み)
発売元:アミューズソフト / MBS
©2009安倍夜郎・小学館 / 「深夜食堂」製作委員会
「ネオ・ウルトラQ」VOL.2(「宇宙(そら)から来たビジネスマン」「パンドラの穴」を収録)
DVD:6,090円(税込み)
販売元:東映
発売元:東映ビデオ
1966年に放送された特撮SFドラマ「ウルトラQ」。そのセカンドシーズンとして製作された「ネオ・ウルトラQ」(2013)では入江悠や石井岳龍らが演出を担当する。入江が手掛けたのは、人間の負のエネルギー=美という価値観の宇宙人が、外見の美に執着するモデルとある契約を交わす「宇宙(そら)から来たビジネスマン」と、巨大な鉄の貝が大量発生し、その対応に右往左往する政府の姿を描く「鉄の貝」など。美しさとは何か、誤った仮説で暴走する組織の危うさなど、アナログ感たっぷりの映像で、けれどオーソドックスに描く。「鉄の貝」は少女と怪物という定型を踏襲してもいて、真面目に練り上げられた脚本に感心する。見ものは石井岳龍の演出。「パンドラの穴」は冒頭から異様な緊張感に包まれる。村上淳演じる科学者が穴に落ち、封印していた自らの過去と対峙(たいじ)、心に潜む暗黒と向き合う一夜を描く。もはや子ども向きでは全然ない! 物語は科学の危うさにも触れていて、なんかもうすご過ぎてコワイ。もう1本は「思い出は惑星(ほし)を越えて」。宇宙人(渋川清彦)が、医大生(染谷将太)の元へ「あなたは皇帝の後継者だ」とお迎えに来る話。宇宙人は言葉を覚えるために「武士道」や「葉隠(はがくれ)」のDVDを観たため侍言葉で話す設定で、現代を舞台にしたSFながら、時代劇的思想が物語の背骨としてあるというヒネリが効いている。この2本で、石井岳龍の演出力を改めて見直すことになるはずだ。
グルメ番組やトーク番組と融合させた“リミックスドラマ”
「孤独のグルメ Season3 Blu-ray BOX」
価格:15,540円(税込み)
発売元:テレビ東京
販売元:ポニーキャニオン
©2013 久住昌之・谷口ジロー・扶桑社 / テレビ東京
日本人はあるものを組み合わせて加工し、小技を利かせるのがうまい。ドラマもしかり。中でもテレビ東京の深夜枠はそうした“リミックスドラマ”が得意分野の一つだ。まずは実在の店を紹介するグルメ番組とフィクションであるドラマが融合した「孤独のグルメ」(2012~2013)。このドラマ最大の成功は、主人公の井之頭五郎に松重豊を配役したことにある、気がする。松重は原作の五郎と全然似ていない。でもこの人、とにかくおいしそうにメシを食うのだ。お笑い芸人のグルメリポートを見慣れていると、心の中で「おぉ~!?」とオヤジギャグとかを言いながら、表面的には黙々とメシを食う五郎の姿が新鮮に映る。ドラマ部分は松重がご飯を食べるシーンへの助走。そして番組の最後、原作者の久住昌之がドラマで紹介した店でビールを飲んじゃうコーナーでさらに息抜きが出来るという構成も深夜にぴったりの脱力感だ。
「ミエリーノ柏木」
Blu-ray BOX:19,950円(税込み)
DVD BOX:15,750円(税込み)
発売元:「ミエリーノ柏木」製作委員会
販売元:エイベックス・マーケティング
©「ミエリーノ柏木」製作委員会
トーク番組とドラマが融合した「ミエリーノ柏木」(2013)にはAKB48の柏木由紀が“柏木”役で出演する。彼女が働くカフェは「別れさせ屋」が裏稼業で、恋愛音痴の柏木は客の相手をしつつさまざまな恋愛模様を目の当たりする。それにしてもこの“おされ感”はハンパない。カフェのマスター役の佐野史郎が手にしたデジカメ映像が挿入されたり、いきなり秋元康と柏木のトークが入ってきたり。秋元によると「柏木にドラマで恋愛を学んでほしい」という企画らしく、ドキュメントの要素もいい感じでブレンド。このバランスが“おされ”だ。
「終電ごはん」(2013)もコント的ドラマとトーク番組が融合、さらに料理番組の要素もプラスされた盛りだくさんの内容。いつも終電になっちゃうサラリーマン(オードリーの若林正恭)が帰宅し、将来のマイホームに備えて自炊をする。料理をするまでの導入がドラマ、自炊シーンは作り方を説明しながらの料理番組風、出来上がりを試食しながらドラマの続きが展開し、料理の作り方のおさらいのあと、ミニコーナー「酒とつまみと悪口と」へ。手作りやお取り寄せのおつまみでビールを飲みつつ、若林らがどうでもいい話題でトークする。深夜に見たいものをざっと集めたような構成は、その日の激務にささくれた心に優しく染み入る。
映画とドラマの垣根を越えて活躍する鬼才が続々!
「次に映画でブレイクする監督は?」そんなことを考えながらテレビドラマで注目の演出家に触れるのも楽しい。まずは見応えある連ドラを連発するWOWOWの“連続ドラマW”、この枠でたびたび登板する演出家に鈴木浩介がいる。彼の手掛けた「震える牛」(2013)はナメてかかると腰を抜かす力作だ。BSE(牛海綿状脳症)問題、食品偽装と、記憶も生々しい事件を正面から扱う社会派サスペンス。食品偽装の当事者、それを隠ぺいしようとする大手小売企業、事件を追う記者と捜査する警察、それぞれの攻防……各登場人物のドラマが色濃く描き込まれて複雑に絡み合った分厚いになっている。また、三上博史、古田新太らのハイレベルな演技をまとめ上げる手腕はかなりのもの。
「連続ドラマW 震える牛」※DVD
価格:11,970円(税込み)
発売元:WOWOW
販売元:カルチュア・パブリッシャーズ
販売協力:TCエンタテインメント
©2013 WOWOW INC.
「ノーコン・キッド ~ぼくらのゲーム史~ Blu-ray BOX」
2014年2月4日発売
価格:19,950円(税込み)
発売元:「ノーコン・キッド」製作委員会
販売元:ハピネット
©「ノーコン・キッド」製作委員会
その他、大友啓史らと「ハゲタカ」(2007)を盛り上げ、「外事警察」(2009)のドラマに続き映画『外事警察 その男に騙されるな』(2012)でシャープな演出を見せた堀切園健太郎、「殺しの女王蜂」(2013)で演技はほぼ素人のモデルガールズを使って無国籍お色気アクションに仕立てる豊島圭介らがこれから撮るドラマはぜひチェックしたい。また前田司郎、真利子哲也、冨永昌敬、沖田修一らを脚本や演出に引っ張り出した「ノーコン・キッド ~ぼくらのゲーム史~」(2013)のような野心的な企画にも注目したい。やっぱり日本のテレビドラマも捨てたもんではないのだ。
浅見祥子プロフィール
映画ライター。『アパートの鍵貸します』で映画に目覚め、「キエシロフスキーっていいよね」とか言っていたのに、気付いたら血のどばどば出るような映画が大好きに。映画ライターになってからも洋画・邦画のいずれにも偏らずにいようとしたのに、気付いたら邦画の仕事中心に。人生ってままならないですね! 魂の師は三池崇史と塚本晋也、そして意外とデヴィッド・リンチ。