第62回:『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『リアリティのダンス』『複製された男』『思い出のマーニー』『GODZILLA ゴジラ』
今月の5つ星
スタジオジブリ待望の最新作『思い出のマーニー』、怪獣映画の金字塔をハリウッドで再リメイクした『GODZILLA ゴジラ』といった大作から、『エル・トポ』などで知られる奇才が約23年ぶりにメガホンを取った『リアリティのダンス』まで、シネフィルも大満足の夏映画をお届け!
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』
ライトノベルを上質な“ボーイ・ミーツ・ガール”ものに昇華
桜坂洋のライトノベルをハリウッドで実写化した……というよりは、原作の核となるアイデアを生かした新たな作品という方がしっくりくる、トム・クルーズの最新作。原作から多くが改変されており、後半はオリジナルといってもよい展開になっているが、最大の違いは「死ぬたびに前回の反省を生かして強くなる」というタイムループのアイデアが、原作ではリセットを繰り返せるという“ゲーム世代”の考え方のメタファーだったのに対して、映画では主人公の年齢が上がったことで、より直裁的な“トライアル&エラー”の実践になっていることだろう。つまりは、シンプルかつ力強い「理想の未来をつかむために強くなれ」というメッセージが全面に押し出されているのだ。その結果、本作は上質な“ボーイ・ミーツ・ガール”ものになった。トム・クルーズをボーイと呼ぶのはちとつらいかもしれないが、そのことを差し引いてもオススメしたい作品だ。(編集部・福田麗)
映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』』は7月4日より全国公開
『リアリティのダンス』
カルトのカリスマが突き付ける強烈なメッセージに圧倒される
偽物や●●風な表現はせず、とことんリアルにこだわった演出で世界中のファンをとりこにしているカルト界のカリスマ、アレハンドロ・ホドロフスキー監督。待望の新作『リアリティのダンス』も“ホドロフスキー臭”であふれており、期待を裏切らない出来栄えに胸をなで下ろす人も多いはず。自伝的な物語にファンタジーをトッピングし、声を出して笑ってしまうほどのユーモアも忘れない。その中には死生観、差別、貧困、虚構、真実などの“種”がまかれており、観客それぞれに強烈なメッセージを植え付ける。「自分の体で感じること、味わうこと」の重要性にあらためて気付かせてくれるような、人間の精神世界を映像で描き切った傑作といえるだろう。主人公アレハンドロの母親の“話し方”やその聖人ぶりにノックアウトされないようにご注意を!(編集部・小松芙未)
映画『リアリティのダンス』は7月12日より新宿シネマカリテほか全国順次公開
『複製された男』
原作には登場しない「クモ」の存在が一層想像力をかき立てる
主要人物は、ジェイク・ギレンホール演じる平凡な歴史教師のアダムと、もう一人の自分アンソニー、そしてその妻と恋人という4人で、物語もシンプルで理解しやすいが、一瞬の隙も許されないのが本作。それは冒頭から頻繁に登場するクモやブルーベリー、母親の電話といった不可解な映像やセリフの数々にある。特に原作には登場しないこの「クモ」の存在が、より想像力をかき立てるキーとなっている。もう一人の自分を発見したことによって、不安から恐怖、そして欲望へと変化していくアダムの感情。このストーリー展開に、監督のドゥニ・ヴィルヌーヴと同じカナダの巨匠デヴィッド・クローネンバーグや、アルフレッド・ヒッチコックの諸作を思わせる不穏な映像が相乗効果となり、観る者の心の奥底をかき乱していく。衝撃のクライマックスに、観賞後は誰かと語り合いたくなるはず。(編集部・山本優実)
映画『複製された男』は7月18日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
『思い出のマーニー』
2人の少女が紡ぎ出す「心の旅」に、思わず涙があふれる
急須から注ぐお茶、口にほおばる食べ物、主人公が通る街並み、田舎の自然……どの描写をとっても隅々まで命が行き渡り、触感やぬくもりが得られるスタジオジブリならではのアニメーションに目も心も奪われる。自分を嫌う少女・杏奈(高月彩良)と不思議な女の子マーニー(有村架純)が紡ぐのは「自分と向き合い、見つめる心の旅」の物語で、オチのついた後に一気に想像が広がり、涙があふれるような仕上がりに、宮崎駿監督の「引退」によるプレッシャーなど、どこ吹く風といった米林宏昌監督(『借りぐらしのアリエッティ』)のクリエイター魂を感じずにはいられない。ジブリアニメ誕生の国の人間で良かったと誇らしく思うほどの優れた映画を観ることができる幸せをかみ締められる一本だ。(編集部・小松芙未)
映画『思い出のマーニー』は7月19日より全国公開
『GODZILLA ゴジラ』
自然の調停者にして神のようなゴジラのキャラが見もの
日本が世界に誇る巨大怪獣を、低予算怪獣映画『モンスターズ/地球外生命体』のギャレス・エドワーズ監督がハリウッド映画化。『モンスターズ~』でも活用したリアリティーあふれるドキュメンタリー調の画面作りを生かしながら、伝統をしっかりと受け継いだ「怪獣映画」を完成させた。ブライアン・クランストン、渡辺謙をはじめ実力派の俳優がそろっているが、何よりの芸達者はもちろん「ゴジラ」。神々しくも中に人が入っているかのような絶妙な造形、クライマックスに展開するツボを押さえたアクションに心を奪われる。また、とりわけうれしいのは、ゴジラが自然の調停者、いわば日本的な神のように扱われていること。日本の精神を受け継ぎ、同時にあらゆる世代の観客に向けたエンターテインメントとして成立させた監督の手腕に感服。ちなみに製作スタジオは、『パシフィック・リム』を手掛けた安心のレジェンダリー・ピクチャーズ。IMAXの巨大スクリーンで何度も観たい一本。(編集部・入倉功一)
映画『GODZILLA ゴジラ』は7月25日より全国公開