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第61回:『グランド・ブダペスト・ホテル』『ノア 約束の舟』『超高速!参勤交代』『渇き。』『her/世界でひとつの彼女』

今月の5つ星

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シネマトゥデイが選ぶ 今月の5つ星

『ブラック・スワン』のダーレン・アロノフスキー監督が旧約聖書を題材にしたスペクタクル『ノア 約束の舟』、『告白』の中島哲也監督の最新作『渇き。』、スパイク・ジョーンズがアカデミー賞脚本賞を受賞したラブストーリー『her/世界でひとつの彼女』など、個性豊かな監督たちの世界観に魅了される話題作が勢ぞろい!

6月6日公開 冗長さを払拭したアンダーソン監督の極彩色のミステリー 『グランド・ブダペスト・ホテル』 作品情報

スクリーンサイズにもこだわり抜いたカメラワークや、俳優たちの演技に潜む一定のリズム、まるで絵本の世界のような鮮やかな色使いなど、まさにウェス・アンダーソン監督独自の世界観にあふれている本作。さらに、ホテルの主人の謎などのミステリー要素や、主人公たちが追い追われる立場になるというサスペンス要素が加わったことで、これまでの作品にあった冗長さもなくなっている。もちろん各所にちりばめられたジョークも健在。主役の一人であるホテルのコンシェルジュを演じたのは、監督とは初タッグとなるレイフ・ファインズ。『ハリー・ポッター』シリーズのヴォルデモート役などで知られ、シリアスな役柄を演じている印象が強い彼だが、今作で英国紳士としての気品やユーモアを見事に発揮。ホテルを取り仕切るというトップの座にいながらも、監督のこれまでの作品に登場してきた愛すべきダメ男の系譜をしっかりと受け継いでいる姿が見られる。また、丁寧に作り込まれた小道具やピンクを目立たせながらも嫌みのない配色などは、かわいい物好きの女子やこれから模様替えを計画している人も必見。(編集部・井本早紀)

『グランド・ブダペスト・ホテル』©2013 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
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6月13日公開 神からの使命を背負ったノアの心情表現が秀逸 『ノア 約束の舟』 作品情報

映画『ブラック・スワン』『レスラー』ダーレン・アロノフスキー監督が、持ち前のビジュアルセンスと人間の心理への深い観察眼を発揮して旧約聖書「ノアの箱舟」伝説を現代によみがえらせた。何よりも素晴らしいのは、「人間への罰である大洪水が起こる前に、箱舟を造りつがいの動物を救え」という神からの使命を負った主人公ノアにふんしたラッセル・クロウの心情表現だ。その揺るぎない姿勢で妄信的にも見えるノアが、ある出来事がきっかけでそれまで押し込めていた感情を爆発させるシーンは間違いなく本作のハイライト。ノアの心がボロボロに傷つき血を流すさまがありありと見て取れ、アロノフスキー監督が「地球上にノアを演じることができる俳優はラッセル・クロウしかいない」と断言したのも納得の名演といえる。また、箱舟のセットを実際に3階建ての構造で作り、それぞれの登場人物をカメラで追わせることにしたアロノフスキー監督の判断も秀逸。この判断により、箱舟内の登場人物の関係をいっそう緊迫したものとして描き出すことに成功している。(編集部・市川遥)

『ノア 約束の舟』©MMXIII Paramount Pictures Corporation and Regency Entertainment (USA) Inc. All Rights Reserved.
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6月21日公開 娯楽要素を詰め込んだ脚本が光るウェルメイドな時代劇 『超高速!参勤交代』 作品情報

『!』と付いたタイトルからは、軽快な作品への志向が見えるし、コメディー的な印象も受けるが、いろいろな娯楽要素が詰まったごく真っ当な娯楽時代劇となっている。東北の小藩が金山の利権を狙う老中の策略により、莫大(ばくだい)な費用の掛かる参勤交代を通常の半分の日程で行う無理難題を押し付けられる。それを佐々木蔵之介ふんする藩主が、少数精鋭の個性的な家臣たちといかにして成し遂げるかが見どころだが、お金も人も足りない中で効率的に道中を進むための知略、妨害する忍者集団と戦うアクション、次々と苦難が襲う中を刻限までに江戸にたどり着けるかのタイムサスペンス、そして身分違いの恋までもつづられる。そんな脚本の面白さが光る本作は、新人発掘を目指した映画脚本の公募賞である城戸賞入選作。細かな経緯は異なるが、受賞後に著者自身による小説化を経て映画化された時代劇である点は、『のぼうの城』と似ている。実在した藩主を主人公にしている点も近いが、本作は『参勤交代』だけに江戸時代中期が舞台で、物語はフィクション。知っているようで知らない参勤交代のことも楽しみながら学ぶことができる。(編集部・天本伸一郎)

『超高速!参勤交代』©2014「超高速!参勤交代」製作委員会
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6月27日公開 共感不可能なキャラがひしめく、血まみれの中島ワールド 『渇き。』 作品情報

監督の中島哲也は原作について「分厚い小説にもかかわらず、ただの1行も共感できないって逆にスゴイかも」と語っているが、共感できないのにどうしようもなく惹(ひ)き付けられる魅力がある。それが本作のヒロイン、加奈子(小松菜奈)に象徴されている。学園のアイドル的な存在であるエリート美人女子高生の彼女が、ある日突然失踪。その行方を追って関係者から証言を得る元刑事の父親・藤島(役所広司)の視点を通し、加奈子のおぞましい秘密が暴かれていく。娘の想像を絶する怪物ぶりを目の当たりにし、「ブッ殺す!」「ふざけんなクソが!」とわめきちらす藤島の姿はまるで獣のようで嫌悪感さえ感じさせるが、それは娘への愛情表現にも受け取れるし、現実と理想のギャップに苦しむ自分自身への怒りのようにも感じられる。STUDIO4℃によるアニメーションを用いたり中島監督特有のデフォルメ描写も盛り込まれているが、これまでの作品と比べると控えめで、生々しい暴力描写が増加。心身共に血を流す役者の演技をじっくり見せる演出で、一瞬も目が離せない緊張感&スリルを醸し出している。(編集部・石井百合子)

『渇き。』© 2014「渇き。」製作委員会
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6月28日公開 OSとの恋愛を名ゼリフで彩った脚本は、オスカー受賞にも納得 『her/世界でひとつの彼女』 作品情報

手紙の代筆をなりわいとする一人の男の理想を反映したPCのOSと、その男の恋を描くという一風変わったラブストーリー。スパイク・ジョーンズ監督によるオリジナル脚本は、何でも音声認識で操作する、テクノロジーが進化した近未来を舞台に孤独を抱える人間の日常生活をつづっていることもあってか、親近感が湧き、OSとの恋愛という飛び道具だけではない魅力に引き込まれる。アカデミー賞脚本賞受賞にも大いに納得で、「いつのまにか自分はダメなやつと決め付けていた。過去を作っているのは自分なのに」などの名ゼリフが胸を打つ。不思議なのは、見終わった後に「愛はどこに?」と定義や所在がわからなくなること。後半の怒涛(どとう)の展開から結末までは観る人それぞれの解釈が楽しめる。(編集部・小松芙未)

『her/世界でひとつの彼女』Photo courtesy of Warner Bros. Pictures
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