第21回『ヘラクレス』『マダム・マロリーと魔法のスパイス』『誰よりも狙われた男』
最新!全米HOTムービー
世界の映画産業の中心、アメリカの最新映画情報を現地在住ライターが紹介する「最新!全米HOTムービー」。今回は、『ヘラクレス』『マダム・マロリーと魔法のスパイス』『誰よりも狙われた男』を紹介します!(取材・文:明美・トスト / Akemi Tosto)
■『ヘラクレス』
この夏、サンディエゴで行われた世界的なエンタメの祭典「コミコン」では、パラマウント ピクチャーズの新作紹介のパネルディスカッションに、主人公のヘラクレスを演じた“ザ・ロック”ことドウェイン・ジョンソン自らがサプライズでステージに登場。「ぜひ『ヘラクレス』を観てほしい!」と、地元3館の映画館を貸し切って会場に詰め掛けた満員のファンを招待するという、太っ腹なPR作戦を展開して話題を呼んだ。
『ワイルド・スピード EURO MISSION』以来、俳優としての人気がウナギ上りの“ザ・ロック”がハマリ役の英雄ヘラクレスにふんし、スクリーン狭しと大活躍を繰り広げるアクション・スペクタクル大作の本作。共演の英国のベテラン俳優ジョン・ハート、イアン・マクシェーン、そしてジョセフ・ファインズなどが、ガタイよりもやや貧弱な(失礼!)“ザ・ロック”の演技を周囲から支え、映画に説得力を持たせる重要な役割を果たしている。
本作がこれまでのギリシャ神話を扱った映画と大きく異なるポイントは、半神半人とうたわれたヘラクレスが、実は仲間と徒党を組む報酬目当ての雇われ兵だったという設定。すなわち民衆のヘラクレスへの憧れが、「無敵の英雄ヘラクレス」の神話を誕生させていったというわけだ。
劇中、窮地に陥ったヘラクレスが、自信喪失の一歩手前で仲間から、「人が強くなるには、デミゴッド(半神半人)である必要などない。自分の心に巣食う恐怖と向き合い、己の力を信じる勇気が持てれば人は強くなれる」ということを学ぶ。この映画は、ただのスペクタクル映画ではなく元気の出る教訓をくれる意外な作品に仕上がっている。
映画『ヘラクレス』は10月24日よりTOHOシネマズ日劇ほか全国にて
■『マダム・マロリーと魔法のスパイス』
スティーヴン・スピルバーグと米国メディアの女帝(!?)オプラ・ウィンフリーが製作、ラッセ・ハルストレムが監督、そしてアカデミー賞女優のヘレン・ミレン主演という豪華な面々でおくる心温まるヒューマンドラマ。原題『The Hundred-Foot Journey』というのは、「100フィート(約30メートル)の旅路」という意味で、映画の舞台になる2軒のレストランを隔てる道の幅を指している。
フランスの美しい小村でミシュラン一つ星を誇る名門フレンチレストランを経営するマダム・マロリー。その「エスニック料理」などとは全く縁のない小さな村に、インド移民のカダム一家が引っ越してくる。そして、そのカダム一家の頑固なパパが子供たちの反対を押し切り、マダムの高級レストランの真向かいにド派手な庶民派インド料理店を開店したからさあ大変! しかし、パパとマダムのいがみ合いが最悪となった日、カダム家の息子ハッサンの宿す神童的な料理センスに触れたマダムは、大ショックを受けることに。果たしてハッサンが生み出す食の魔術は、文化の壁を越えて頑固なマダムとパパの心を溶かすことができるのだろうか?
目立ったCMキャンペーンもないのに、公開後1か月にして上映劇場ではソールドアウトの回が続出している本作。その評判はジワジワとアメリカ大陸全土に拡散中で、アカデミー賞候補のうわさも流れ始めている。
映画『マダム・マロリーと魔法のスパイス』は11月1日より全国公開
■『誰よりも狙われた男』
映画『裏切りのサーカス』で脚光を浴びた作家ジョン・ル・カレのサスペンス小説が原作となっている本作は、今年2月に46歳という若さで急逝したフィリップ・シーモア・ホフマンの最後の主演作となってしまった。
共演陣には、『きみに読む物語』のレイチェル・マクアダムス、人気海外ドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」でゴールデン・グローブ賞テレビドラマ部門のドラマシリーズ女優賞を受賞したロビン・ライト、そして映画『プラトーン』での名演が映画史に残るウィレム・デフォーと、豪華キャストがズラリと並んでおり、フィリップの名演に華を添えている。
映画の舞台となるのはドイツのハンブルク。911アメリカ同時多発テロ以降、世界規模で繰り広げられている現代のテロ対策を軸に物語は進行する。「怪しい者は捕まえろ」的な憂慮すべき風潮を背景に、国家安全遂行の裏に潜む非情さと冷酷さが赤裸々に描かれている。
映画『カポーティ』ではアカデミー賞主演男優賞を受賞し、『ザ・マスター』でも鬼気迫る怪演を披露したフィリップ。観る者の魂を虜(とりこ)にするフィリップの演技を新作で観ることは、もうわずかな撮影済みの作品しかないのだと、本作を観ながら胸を締め付けられる思いがした。
映画『誰よりも狙われた男』は10月17日よりTOHOシネマズシャンテほか全国にて
【今月のHOTライター】
■明美・トスト / Akemi Tosto
高校よりロサンゼルス在住、CMや映画の製作助手を経て現在に至る。全米映画協会(MPAA)公認ライターとしてだけでなく、監督としても活躍中。短編作品『ボクが人間だったとき/When I Was a Human』がアカデミー賞公認配給会社ショーツ・インターナショナルより配給され、iTunesとAmazonで日本版発売中。ツイッターもよろしく!→@akemi_k_tosto