あの人物が落選した理由から極私的イチオシ作品まで激論!第87回アカデミー賞言いたい放題座談会
第87回アカデミー賞
作品賞にノミネートされた作品の中で最も面白い作品は? 主演女優&男優賞にノミネートされた人物の中で最も優れた演技を見せているのは? この人が落選したのはおかしい! などなど、4人の辛口ライター陣がアカデミー賞の賞レースをめぐって本音でトーク!
司会・構成・文:今祥枝
座談会メンバー:
折田千鶴子
くれい響
相馬学
村山章
作品賞のノミネート本数が毎年増減する理由に?の嵐
司会:まずは作品賞からいきましょう。今年はどんな傾向が読み取れますか? 候補に挙がった8本は納得できるラインナップでしょうか?
相馬:どれも素晴らしい作品だと思うけど、その前に。もともと5本だったのが、第82回から最高10本になったんだよね。確か『ダークナイト』が全然ノミネートされなくて、もっと一般的に話題性のある、娯楽性の高い作品も拾うべきだということで10本になった。はずなんだけど、今回の8本を見て、ノミネートされた時点で興収1億ドル(約120億円・1ドル120円計算)を超えている作品は1本もなかった。その後、『アメリカン・スナイパー』は結果的に大ヒットにはなっているけど、個人的には『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が入っていてもおかしいと思わないし、あと『猿の惑星:新世紀(ライジング)』とか。
村山:去年は9本? 減る傾向にあるのか?
相馬:5本から10本になって、『第9地区』や『カールじいさんと空飛ぶ家』とアニメーションまで拾って幅広さをアピールしていたのに。一般的なアメリカ人にとっては、今年は話題性があるのは『アメリカン・スナイパー』ぐらいなのでは。
くれい:結局インディペンデントだけになったんだったら、5本でいいんじゃないのと思う。
村山:不思議なのは、どこで8本という線引きをするのかってこと。どうしても入れたいものだけを入れて8本にしてしまいました、みたいな思い入れを感じるには、ちょっと説得力がないというか地味なラインナップだよね?
相馬:授賞式を盛り上げるという意味では『ゴーン・ガール』と、あとは『インターステラー』あたり?
村山:え、“俺デミー賞”的には『GODZILLA ゴジラ』とか。
折田:それは入らないでしょ(笑)。でも『インターステラー』と『ゴーン・ガール』が入っていたら、わかりやすいというかふに落ちる。
くれい:同感。個人的には『ゴーン・ガール』推しだから、入っていたらほんとによかったですよ。あと、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』は、去年アメリカで大ヒットしていますよね? なおかつ評価も高かったわけだから、候補入りする資格は十分ある気がする。
村山:マーベルが大ヒットしている流れで業界でも重要な位置を占めているから、入ってもいいんじゃないかとは思うよね。どう解釈していいか、どう受け止めればいいかわからないグレーな内容の作品が評価された時代もあったけど、今年はそういう意味ではどっちにも振り切っていないというか、全体的なセレクションとしておとなしいなとは思う。
折田:『セッション』はめちゃめちゃとがっていますよね。
村山:今年の『第9地区』枠ですよ! この8本の中なら、“俺デミー”賞は『セッション』だね!
くれい:僕も好きだけど、でももっと面白くなるとも思った。ラストはすごかったけどね。
相馬:ええ! あれより過激になったらホラーだよ(笑)。
有力とされる2タイトルは、実際どちらが面白いのか
司会:『6才のボクが、大人になるまで。』が独走かと思いきや、ここにきて『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』に追い風が吹いている感じもありますね。
折田:わたしはもう『6才のボク』が大好きで。お母さんが慟哭(どうこく)するシーンで、それまで積み上げてきたものが一気に吹き出るみたいなものがあって思わず号泣しちゃったんですよ。で、エンドクレジットが出たときには12年間同じ子供の成長を追っているという設定はすっかり忘れていて、あれ、主役の子の名前が一人しかないぞと思ったぐらい。成長したらすっかり顔が変わっていて……。
相馬:薄らヒゲとか(笑)。
折田:そう(笑)。だから12年かけて撮ったという挑戦が注目されているけれど、わたしとしては、その前に感動が際立つ映画だった。絶対これがオスカー取るに違いない! というほどのインパクトがあったんですよ。でも、『バードマン』を観たらこっちもすごいなと。こちらは全編ほぼワンカットに見えるという撮り方、見せ方が新しい。この2本は、どちらも新しい試みをしたというところで評価されているのかなと思います。
村山:作品から受ける印象はまるで正反対なのにね。
相馬:でも、『バードマン』は1カットのように見せる労力が撮影と編集でなされているのに、編集賞に入っていないんだよね。
くれい:『バードマン』はいいけど、『6才のボク』はアンチです。映画としては、誰が観てもいい映画ですよ。でも僕にとっては大好きなドン・コスカレリ監督の『ボーイズ・ボーイズ/ケニーと仲間たち』(1976)でしかなくて。あの映画もドキュメンタリーっぽく撮っていて、あれが好きな人間にとってはやっていることは変わらない。少年を1年追い掛けました、12年追い掛けましたという違い。リチャード・リンクレイター監督の過去作も、本気で好きなのは『ビフォア』シリーズの1作目ぐらい。
村山:嫌いなんだ(笑)。
くれい:いや、評価はしていますよ。でも、自分の人生と照らし合わせて映画って語られるわけだから、『インターステラー』で自分の人生変えられたというのはアリだけど、『6才のボク』で変えられたといわれたら、つまらない人生だなあと思ってしまうのは事実。
村山:今くれいさんが言った恐ろしいディスりについては賛同しかねますが(笑)、確かに人生を変えられるほどのものはないですよね。実体験がかぶる人にとっては共感度も高いだろうしすごく大切な映画になることはわかる。でも、そうじゃない僕にとっては、人生ってこういうもんですよとわかったつもりにさせられるけれど、そんなわけねえよなっていうか。『ビフォア』シリーズは、リアルタイムで俺たちの世代と共に歩んできた映画だなあと毎回思うんだけど、これに関しては、もっと大局的にジェネレーションをまたいで描いた結果、確かにいいんだけどダイジェストの物足りなさはある。
司会:『グランド・ブダペスト・ホテル』の大健闘はどうですか?
村山:いかにもウェス・アンダーソンらしい映画なんだけど、なぜ今この作品がこれほど賞レースに絡んできているのか全然わからない。
折田:わたしはそこがやっとわかったというか、今までのウェス・アンダーソンって、わかる人はわかるでしょ的なくさみが強いのだけど、今回は万人が楽しめる作品なんですよ。ウェス・ワールドなんだけど、ハードルは下げてくれた。
村山:エモーショナルという意味では、『ムーンライズ・キングダム』が幅広い客層にアピールできる映画だと思ったけど、違うのかな?
相馬:そうそう。『グランド~』は技術で作ってる感がすごくする。
村山:ウェスの映画ってどれも箱庭感はあるんだけど、今回はさらにプラスαの要素をそんなに感じない。けど、そのプラスαの部分が一般的には面倒くさい、わかりづらいってことなのかね?
相馬:そう考えると、リンクレイターのわかりやすさ、万人受けはオスカー的に求められているものなのかも。
監督賞枠は若手が急増!なのにあの人が入っていない!
司会:監督賞5人は、ちょっと意外な顔ぶれでしょうか?
村山:『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』は面白かったけど、『博士と彼女のセオリー』と共に監督術という意味でスリリングだとは思わなかった。クリント・イーストウッド御大はさておき、モルテン・ティルドゥムが入っているのは、一体どういう風の吹き回しなの?
折田:そこちょっと不思議ですよね。彼はノルウェー人? もしアレハンドロ・G・イニャリトゥが有力だとして、去年のアルフォンソ・キュアロンに続きメキシコ人監督が2年連続ってありなのかな。今年イニャリトゥが受賞したら、5年連続で外国人が監督賞を受賞したことになるんですよ。そうなるとリンクレイターが強いのかなとか(笑)。
相馬:何となくリンクレイターな気がするな。今までやってきたことへの労力も含めて、この中では一番わかりやすく評価されるのでは。
村山:リンクレイターはオーソドックスな作品も撮っているようで、実は毎回かなり挑戦をしているから、そこは評価されるべきだと思う。これまでも脚色は候補になっていたけど、ついに作品賞まできたかと。
くれい:作品賞は許せないけど、僕も監督賞はリンクレイターだと思う。
折田:イーストウッドは『ジャージー・ボーイズ』が完全スルーだった方が衝撃的だった。
相馬:『アメリカン・スナイパー』が今これだけアメリカで当たっているのを考えると、監督賞になぜ入ってないんだ的な空気はアカデミー会員の中にはあるかもしれない。『アルゴ』の時に似ているよね。評価が尻上がりになってきて、やばい、ベン・アフレックをスルーしてよかったのか的な(笑)。選出の方法から考えれば、全米監督組合賞とリンクしていていもおかしくはないんだけど、全米監督組合賞には入っていてオスカーでは落ちている。
司会:若い人を積極的に評価しようという傾向はある?
くれい:年齢的にはウェス・アンダーソンが45歳と一番若くて、上はリンクレイターの54歳。
村山:ぶっちゃけ、イーストウッドが達している境地というのはあっても、映画業界にとってすごく刺激的かといわれればそうじゃない。ある意味、時代を推進してはいないのでは。だから今回の若い顔ぶれは、同業者たちが映画の未来に目を向けた結果じゃないかと。
相馬:ひと昔前だと、脚本賞、脚色賞が若手を評価する部門という認識があったけど。でも、本当だったらデヴィッド・フィンチャーとかクリストファー・ノーランとかが入ってもいいんじゃないのとは思うけどねえ。
村山:イニャリトゥは、今までの作品が辛気くさくて嫌いだった人も、今回は全然いけるだろうから新境地だとは思う。ただ、「俺、才気あるだろう?」っていう作りがね(笑)。
くれい:イニャリトゥは鼻につく感じはいつもある人だけど(笑)。
折田:その辺は『英国王のスピーチ』のトム・フーパーが受賞して、『ソーシャル・ネットワーク』でフィンチャーが取れなかった時と似ている気がする。
相馬:そつなくうまい人と、リンクレイターなりイニャリトゥなり、工夫をした人が受賞するのと、その年によって傾向があるからね。そういう意味では、ベネット・ミラーはうまい人の部類に入る。
村山:この5本なら、個人的にはベネット・ミラーが一番すごみがあると思いますけどね。殺人事件の映画で、とにかく不穏さだけがどんどんにおってきて、最後まで観ても実際よくわからなかったりするんだけど(笑)。
相馬:正当に評価されない人たち、アメリカに対するもやもやした気持ちも伝えていて、単に不穏だけではない面白さはあった。ただ、実話だし題材に対して否定的な感情を持つ人はいるかもしれない。
くれい:うーん、だったらなんでここに『セッション』のデイミアン・チャゼルがいないのと疑問に思う。若手枠が1枠しかないなら、30歳の彼が入っていてもいいのでは。
一同:言えてる!
主演男優賞を取る条件をめぐって議論は白熱!
司会:マイケル・キートンが一歩リードという賞レースの序盤から、エディ・レッドメインがぐいぐいときています。
折田:エディは表情がゆがんだりしてきても、チャーミングに見える愛すべきキャラクターを演じていて本当に素晴らしかった。キュンとさせてくれるし、もうパジャマ姿だけで観てよかったというぐらい!
相馬:自分は橋の上でキスしているシーンあたりまでは、かゆくて落ち着かなかった(笑)。ベタ過ぎてね。ベネディクト・カンバーバッチとレッドメインで2人入っているし、オスカーはイギリスびいきだよね。個人的にはスティーヴ・カレルが入っているのがうれしいな。あの映画は彼が映っているだけで不穏だもんね(笑)。主演男優賞は個人的には誰が取っても納得がいくかな。
村山:ブラッドリー・クーパーも最初は彼だとわからないぐらいで、すごいとは思うんだけど、これまでのノミネートも共演者や監督で得をしているというのはあるよね。『世界にひとつのプレイブック』もジェニファー・ローレンスすごい! となって、あれ、でも主演はブラッドリーだろ? 作品も評価されているし……って感じで、ジェニファーと作品に引っ張られた感はある。
くれい:ブラッドリーは友達が多そう(笑)。
村山:確かに同業者が選ぶ賞は友達付き合い大事だよね。フィンチャーはきっと友達が少ないんだよ(笑)。
相馬:あとチャニング・テイタムが他の二人に比べて評価が低過ぎるかなとは思うかな。あのぬぼーっとした感じ、受け口の表情の作り方とか素晴らしいよね。
村山:バカ面ができる役者って素晴らしい存在なのに、評価が低い傾向があるね。主演男優賞は、レッドメインが受賞するだろうなと思うのは、成り切り演技が誰が見てもわかりやすいから。体形を変えたりすると強いし、付け鼻も強いからスティーヴ・カレルも条件には合っているんだけど、付け鼻と激ヤセなら激ヤセが強いんじゃない? ブラッドリーの体づくりももちろんすごいんだけど、太るよりやせる方が強くって、やっぱりレッドメインだろうとなる(笑)。
司会:マイケル・キートンが取れないとしたらその理由は?
村山:変身していないでしょ。いや、実は変身しているけどあれはコスチュームだけだから(笑)。
折田:この5人の中では一人だけ63歳と年齢は高いよね。
村山:カレルは今後ノミネートの機会がなさそうだからあげたいけどね。これまでのコメディー作品とのギャップもすごいし、功労賞的な受賞はありうる。
折田:でもキートンもここでもらっておかないと、この後は厳しそうじゃない?
村山:だからキートンとカレルで票が割れるんじゃない? それで結局、痩せた若者にいくと(笑)。
くれい:レッドメインにいきそうだけどキートンもいいですよね。この前『ネイバーズ』(2014)を観ていたら『バットマン』の話が出てきて、キートン派とクリスチャン・ベイル派がいて、あれを観たらアメリカの40代ぐらいの人たちにとって、いかにキートンがすごい人かというのがわかる。オスカー会員の高齢化を考えると、キートン派は結構いるのかも。
ジュリアン・ムーアでほぼ決まりだけど、突出した感はナシ
相馬:あまりインパクトのある女優さんはいない。さっきのブラッドリー・クーパーの話と同じで、フェリシティ・ジョーンズはレッドメインに引っ張られるかたちでエントリーできたのかなと。
村山:ロザムンド・パイクは、ちょっといびつというか浮いている感じで異色。
相馬:『ワイルド(原題)』のリース・ウィザースプーンも頑張っているけど、この作品で二つ目のオスカーをあげるのか? という気はする。
村山:フェリシティ・ジョーンズ以外は作品賞には入っていない作品だよね? 女優が引っ張った映画が集まっているのは確かなわけで、誰か一人となると選びづらい。
相馬:消去法でいくと、功労賞的な意味合いとしてもジュリアン・ムーアが取る気が。
折田:ジュリアン・ムーアはうまいとわかっているから、『アリスのままで』では、それ以上のものは見せてもらえなかった感はある。『サンドラの週末』のマリオン・コティヤールは『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』で取っているけど、個人的にはその後の『君と歩く世界』の不幸と闘う女性が素晴らしかったと思う。で、今回は不幸との闘い方が、『君と歩く世界』とは全く違う別人種を演じていることに、すごく感動したの。
村山:100%同意します! ただ、その差は演出のせいもある。
くれい:ジュリアン・ムーアは、どうぞ観てくださいという演技はしていないでしょ。受賞するなら、どうだって演技を見せてよとは思う。
村山:だったら『マップ・トゥ・ザ・スターズ』の方がインパクトがあった(笑)。
くれい:あ、そうか、合わせ技というのもあり得るのか。
村山:『アリスのままで』は演出の品がよくて、演技が突出する前にフィルターがかかったみたいに見えてちょっともったいない気がする。一方でマリオンの生々しい感じは演出の勝利でもあるよね。ダルデンヌ兄弟の基本的にBGMもなく、90分間ずーっとマリオンにだけピントが合っている演出はすごい。個人的にはロザムンド・パイクの演技も大好きだけど、インパクト大賞でいったら全くオスカーと関係ないけど去年は実はエヴァ・グリーンの方が上をいってた!
くれい:そういえば『ビッグ・アイズ』の主演コンビはノミネートされてもいいんじゃないの?
折田:そうそう、エイミー・アダムスは入れてほしかったあ。『ビッグ・アイズ』は作品賞に入ってもいいぐらいだと思う。
相馬:ティム・バートンはこれまで一度も受賞していないよね。
折田:オタクだからダメなのかな?
くれい:それは間違いない。
相馬:クエンティン・タランティーノは?
村山:オープンで明るいから友達が多いんじゃないの(笑)。社交性のあるオタク。バートンはジョニー・デップしかいないから。
助演男優はハルク対決で助演女優はお母さん対決!?
折田:イーサン・ホークとエドワード・ノートンも、まあ普通にうまいかなという感じで予想を超えるものはなかったかな。
村山:ノートンは『アメリカン・ヒストリーX』とか自分でハードル上げているからねえ。
くれい:デビュー作『真実の行方』でオスカー候補になっているもんね。
村山:自分が上げたハードルが高過ぎて、いい仕事をしてもなかなか受賞まで届かないという悲劇。肉体改造もしていないから、今回は難しそう(笑)。肉体改造はマーク・ラファロもしているけどね。
相馬:あ、そういえば> ノートンもラファロも『ハルク』だね。
村山:こんなところでハルク対決!
相馬:『セッション』のJ・K・シモンズは『スパイダーマン』シリーズの編集長だよ。
村山:さらにマーベル対決! それはやっぱり編集長が勝つでしょ(笑)。いやでも、J・K・シモンズがノミネートされていることは同業者もうれしいでしょう。
相馬:彼以外は皆、主演を張れる人たちだし、正しい意味で助演といったら彼しかない。
村山:『セッション』ではほぼ主演だけどね(笑)。でも主演で闘うより助演の方が受賞は固いよね。
折田:助演女優賞は、このカテゴリーこそパトリシア・アークエットしかないでしょ。そしてメリル・ストリープが入っているのがさっぱりわからない。『イントゥ・ザ・ウッズ』には、他にきちんと歌えていたキャストも多かったし、メリルだけを評価する意味がよくわからない。リスペクト枠?
相馬:多分、この人よりもすごい演技をした人がいましたという基準点としてのポジションになっているんだよ(笑)。
折田:ローラ・ダーンは突然入ってきた感じですよね。
くれい:そうなんだけど、『きっと、星のせいじゃない。』と『ワイルド(原題)』を続けて観たら、どっちも素晴らしくて、ローラ・ダーンがきてる! と思った。
折田:どっちもお母さん役だよね。確かによかった。
村山:『ワイルド(原題)』のローラ・ダーンはすんごいよかったね。ローラは昔からそうだけど、この映画でも相変わらずヘンな顔で美人というわけでもないのに、ものすごく魅力的なお母さん役だった。ただ、この地味な作品で候補入りしたのが快挙なんであって、ここはパトリシアなのでは。それこそ折田さんが感極まって号泣したのは、彼女の力にありますよね。
相馬:『6才のボク』って何げにお母さんのドラマだよね。彼女が12年間でキャリアアップしていくドラマも面白かった。イーサン・ホークは変わらないのに(笑)。
村山:劇的な展開をあえて抑えている『6才のボク』の中で、一番ドラマチックな役ですよね。ちゃんと闘って人生を勝ち抜いている。そういう役のインパクトからいったら、なぜエマ・ストーンとパトリシアが並んでいるのかわからない。
折田:特にエマ・ストーンでなければ、という役ではないですよね。でも、それをいうならキーラ・ナイトレイは評価されるとしたら『はじまりのうた』の方なのでは? って思っちゃう。
くれい:ローラ・ダーンはサラブレッドだから、パトリシアほど苦労してここまできたね感はないのか。
折田:パトリシアはテレビドラマ「ミディアム ~霊能者アリソン・デュボア~」でも、お母さんの役でしたよね。
村山:そうか、テレビシリーズをやりながら、1年に1週間休んで『6才のボク』をやっていたのか!
折田:肉体の変化もすごかったよね。肉厚感がリアルにおっかさんになってきて(笑)。特にあの二の腕の太さはすごい!
村山:え、じゃあ、ある意味12年間のリアルはパトリシアにあったってこと? 女優が12年間の時の流れをさらしているというあっぱれ感はあるね。
●プロフィール
今祥枝
映画・海外ドラマライター。各種雑誌やウェブ、劇場パンフレットなどで連載・寄稿。時々、映像・ラジオのお仕事。年2回はブロードウェイで観劇三昧、が目標のミュージカル愛好家。シネマトゥデイでは新連載「名画プレイバック」を担当。
折田千鶴子
映画ライター。各種雑誌やパンフレットで映画評やインタビュー記事を執筆。青春時代はミニシアター通いでヨーロッパ映画や米インディーズ映画を偏愛していたが、現在は完全な雑食。笑えて泣けるヒューマンブラックコメディーが好き。
くれい響
「映画秘宝」編集部出身の映画評論家。雑誌やウェブ、劇場パンフレットなどに寄稿。現地新聞に連載を持つなど、特に香港などのアジア映画に強い。「シネマトゥデイ」ではジャンル問わず「映画短評」などもやってます。
相馬学
映画周りのフリーライター。DVD&ブルーレイでーた、SCREEN、Auditionなどの情報誌や劇場用パンフレット、ウェブ媒体等でお仕事中。アクションとスリラーが大好物。シネマトゥデイでは「映画短評」にレギュラー寄稿。
村山章
1971年生まれの映画ライター。気が早いですが今年の暫定ベストワンは『君が生きた証』。アカデミー賞に絡む映画はクオリティー高いですが、まったく賞とは関係なくても、ノミネート作品に勝るとも劣らぬ作品に出会えるのも映画の面白さ。