炭鉱ストライキや失業をテーマにしたイギリス映画特集
今週のクローズアップ
マーガレット・サッチャー政権下の炭鉱労働者のストライキを扱った、笑いあり涙ありの感動作『パレードへようこそ』が4月4日に公開。そこで、今週のクローズアップは、炭鉱ストや失業をテーマにしヒットしたイギリス映画をご紹介します。(文・構成:編集部 浅野麗)
◆少年ビリーの青春!『リトル・ダンサー』
≪ストーリー≫
マーガレット・サッチャー政権下、炭鉱労働者のストライキがイギリス各所で行われていた1984年。イギリス北部の炭鉱町で炭鉱労働者の父と兄、そして認知症の祖母と暮らす11歳の少年ビリーは、ある日、偶然目にしたバレエに惹(ひ)かれ、こっそりと教室に参加するようになる。瞬く間に夢中になり、またバレエのコーチも彼の才能を確信するが、炭鉱スト真っ最中の父、そして兄からは猛反対され……。
イギリスの炭鉱町を舞台にした映画として、まずこの作品を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。イギリスのみならず、世界中でヒットし、今なお愛されている名作『リトル・ダンサー』。今やハリウッドでも活躍中のジェイミー・ベルの記念すべき映画デビュー作であり、英国アカデミー賞ではいきなり主演男優賞を受賞した大出世作。映画公開後には、ブロードウェイミュージカルとしても大ヒットした名作だ。
肉体労働ならではのマッチョな世界、少年の夢、バレエという一見、異色の組み合わせだが、困難な環境に振り回されながらも純粋であり続ける少年の真っすぐな思い、支えてくれる良き理解者、自らの社会的立場と「父」としての思いで苦悩する少年の父、そのあらゆる立場からの思いが伝わり、涙せずにはいられない爽快感あふれる感動作だ。そして、本作の魅力を語る上で欠かせないのは、やはりジェイミーの演技力&存在感。画面を通じ、時に一緒にうれしくなり、時に一緒に悲しくなる、少年ビリーの情熱に引き込まれずにはいられず、魅了される。彼の感情が爆発して表現されるダンスシーンは圧巻!
◆音楽がつなぐ絆!『ブラス!』
≪ストーリー≫
イギリス北部の炭鉱町グリムリーの炭鉱労働者たちで構成された歴史あるブラスバンド「グリムリー・コリアリー・バンド」。だが、各地での炭鉱閉鎖の波は彼らの炭鉱にも及んでおり、団員たちは日々上の空だった。そんな中、団員を祖父に持つグロリアが町を訪れ、見事な実力で新たな団員として加わり、団員はやる気を取り戻す。だが、炭鉱の閉鎖決定により全員がバンドを辞めることを決意せざるを得なくなり……。
本作の舞台は、1984年の全英炭鉱ストライキからおよそ10年後。まさしく映画らしいドラマチックな展開のストーリーは、南ヨークシャーのグライムソープという炭鉱町に実在した「グライムソープ・コリアリー・バンド」にまつわる実話が基になっており、劇中の演奏シーンでは実際に同バンドのメンバーも出演し、サウンドトラックでも演奏しているという。改めて事実は小説より奇なりを実感するそんな作品といえるかもしれない。
特に物語後半、炭鉱閉鎖、そしてけん引してきた指揮者ダニーの命の危機によってバラバラになってしまったバンドマンたちが、炭鉱労働者としてだけでなくバンドマンとしての誇りで再び一つとなり、鬼気迫る演奏を披露する決勝からのラストスパートは、無条件に胸が熱くなり、高鳴り、興奮と感動が一気に押し寄せる。音楽の持つ力、夢中になれるものがある素晴らしさを実感させられる作品。
◆ダメオヤジたちの大奮闘!『フル・モンティ』
≪ストーリー≫
かつて鉄鋼業で栄えたイングランド中部の都市シェフィールドで、鉄工所を解雇され失業中のガズは、幼い息子の養育費が払えず共同親権を失いそうになっている。ある日、女性たちが夢中になる男性ストリップショーの様子を偶然見た彼は、取りえのない自分でもこれなら稼げるのではと思い立ち、親友と共に仲間を募りストリップの練習を開始するが……。
前述した2作品に比べ、コメディー色が強く人情喜劇としての評価も高い本作。英国アカデミー賞で作品賞や主演男優賞を受賞しただけでなく、本家アカデミー賞でも作品賞、監督賞、脚本賞にノミネートされ、音楽賞を受賞。その後、ブロードウェイでミュージカルとなりトニー賞にもノミネートされるほどの人気作になっている。また、普通(以下?)のおじさんたちが、ストリップショーをするという設定上、劇中の音楽も一昔前のヒットディスコソングがふんだんに使われており、そんな親しみやすさも魅力の一つといえるかもしれない。
だが、ただおじさんたちが頑張るだけでは、ここまでの人気作にはならなかったはず。それぞれに事情を抱えた6人の男たちのダメっぷりがユーモアたっぷりに描かれており、情けなくもどこかいとおしく感じさせてくれるだけに、子供を応援するかのごとく、夢中になってしまうのだろう。中でも主人公ガズがダメオヤジであることを悟った上で友達のような関係で彼をサポートするちょっぴり大人な息子との関係は、極上の笑いと共に爽やかな感動の涙を運んでくる。
◆ちょっと意外な友情物語!?『パレードへようこそ』
≪ストーリー≫
1984年、夏、ロンドンで活動するゲイとレズビアンの活動家グループのマークは、全英炭鉱ストライキの報道をテレビで見て、彼らのための募金活動をすることを決意する。しかし、差別視されていた彼らの支援を受けるという炭鉱団体はなかなか見つからず苦戦。そこで、ウェールズのとある炭鉱の村に目を付け、直接寄付を送ることにした彼らだが……。
本作もまた実話を基にしたストーリー。いかにも1980年代のロンドンの若者といった風貌の活動家グループと、田舎の炭鉱労働者たちという、なかなか交わることのない人々が、一つの目的のために手を取り合う姿は、ただのきれいごとではなく、苦難の道のりも含め、実に興味深く、学ぶことが多くある。そしてそのテーマを説教くさくではなく、ポップミュージックと共に、情熱とユーモアあふれる形で描き出しているのがまた魅力的であり、だからこそ現実でも人々の心を動かしたのだろうと感じさせる。キャラクターが皆、実に魅力的なのだ。
イギリス現代史における大きな出来事であった全英炭鉱ストライキは、それだけに各地でさまざまなドラマを生み、また、映画としてもあらゆる化学反応を起こす絶好のテーマなのだろう。と同時に人々が試練を乗り越えるために手と手を取り合い、知恵を絞り、頑張る姿は、決して色あせない普遍のテーマとしても万国共通に感動を与えることができる。そして、決してオーバーなことではなく、ちょっとしたやりとりから生まれるクスッとした笑いもまた、親近感とキャラクターたちへの好感を持たせるのかもしれない。
映画『パレードへようこそ』は4月4日より全国公開