第73回:『トゥモローランド』『海街diary』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『ターナー、光に愛を求めて』『アリスのままで』
今月の5つ星
第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された是枝裕和監督最新作『海街diary』、メル・ギブソンの出世作となった人気アクションシリーズ30年ぶりの新作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』、ジュリアン・ムーアがアカデミー賞主演女優賞に輝いた人間ドラマ『アリスのままで』など、バラエティー豊かなラインナップが勢ぞろい!
『トゥモローランド』
「夢を失わない大人」の背中からディズニーの精神が伝わってくる
『Mr.インクレディブル』のブラッド・バード監督が手掛けた、理想の世界「トゥモローランド」をめぐるミステリーアドベンチャー。一瞬で異次元に行けるピンバッジやロケットなどの未来的なアイテムが登場する本作では、3Dや4Dのすごさを味わえるド迫力の映像が満載。観客に鑑賞ではなく、体感させようという心意気が感じられ、自社テーマパークでスクリーン型アトラクションを数多く手掛けたディズニーが目指した、最先端のアトラクション型映画としても楽しむことができる。子供向けの世界観のようでありながら、出演者はティーンの若者だけではなく、主演のジョージ・クルーニーやヒュー・ローリーなど年齢層も幅広い。故ウォルト・ディズニー氏を代表とする、いくつになっても「夢を失わない大人」の背中からは、どの年齢も対象から外そうとしないディズニーの精神が伝わってくる。また未来=終末感の映画が多くなった中、未来への憧れを重要視する実写映画を撮ったことは、昨今の映画界へのメッセージか。(編集部・井本早紀)
映画『トゥモローランド』は6月6日より公開
『海街diary』
普遍的な家族の物語を通して優しく投げ掛けるメッセージ
食事がおいしそうな映画は、人間描写も巧みだ。「生」に直結する食事をうまく撮れるということは、「生」そのものを切り取る力があるからだ。食欲をそそる料理が次々と登場する本作は、四季折々の美しい風景を交えて、異母妹と家族の絆を深める姉妹の姿を描いた人間ドラマ。是枝裕和監督が吉田秋生の人気漫画を実写化しているとあって、原作ファンからも注目を浴びているが、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずがそれぞれ魅力的なキャラクターの個性を見事に表現。長女と次女が服をめぐってケンカするシーンなど、姉妹あるあるが詰め込まれた日常にホッコリさせられる。特徴的な透明感あふれる映像で映し出される鎌倉の風景も見どころの一つで、桜のトンネルのシーンは圧巻のひと言。ドラマチックな展開にせず、あくまで平凡な日常を淡々と描くことで、普遍的な家族の絆を描いた秀作になっており、繊細な物語を通して、家族になることはお互いを許すこと、そして自分の存在を認めることだと優しく語り掛けている。(編集部・吉田唯)
映画『海街diary』は6月13日より公開
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
本当に人が死んでいるのでは?と驚かされる1作目の興奮は健在
メル・ギブソンの名をスターダムに押し上げた伝説的アクション映画、30年ぶりのシリーズ最新作は、VFX全盛の現代において、映画を観る喜びを思い出させてくれる、奇跡のような一本だ。資源が枯渇した近未来、悲惨な状況で家族を失い、絶望を抱えて荒野をさまよう主人公マックスが、砂漠を支配する独裁者から逃げ出した女たちと手を組んで、決死のチェイスを繰り広げる。中だるみはたった数分といったところで、冒頭から終わりまで文字通りノンストップのアクションが展開。120分間、観ている者のアドレナリンを噴出させ続ける、まさに「マッド」(狂気)に満ちた一本になっている。メルから伝説の主人公・マックス役を引き継いだトム・ハーディはもちろん、本物のスキンヘッドで女戦士フュリオサを演じたシャーリーズ・セロンもカリスマ性十分。フュリオサが運転するウォートラックをはじめとする個性的な改造車が炎を吹き出しながら爆走し、次々にクラッシュしていき、ドライバーたちが吹き飛んでいくさまは、「本当に人が死んでるんじゃないか?」と思わずにいられない、1作目を目にしたときの興奮をそのままよみがえらせてくれる。何より、『ベイブ / 都会へ行く』『ハッピー フィート』を経て、70歳にして再び最高にマッドな映画を作り上げてしまったシリーズ生みの親、ジョージ・ミラー監督が一番狂ってる!(編集部・入倉功一)
映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は6月20日より公開
『ターナー、光に愛を求めて』
ユニークでありながら杓子定規に陥らない天才像に舌を巻く
イギリスが誇るロマン主義の風景画家ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの半生を、同じくイギリスの名匠マイク・リーが映画化。『秘密と嘘』『家族の庭』など家族の愛憎や、うまく生きられない人々の悲哀を描いてきたリー監督らしい繊細な目線が光る、驚くほど表現力豊かな伝記ドラマだ。生涯独身に終わった複雑な女性遍歴、旅を通して着想を得た名画誕生秘話、多くのパトロンに支持される華々しい一面と作風の変化による人気の陰り……。さまざまな側面から天才画家の人となりを浮き彫りにしながらも、決して杓子(しゃくし)定規にある一定のイメージに落ち着かせることはしない。中でも印象的なのが、展覧会での「パフォーマンス」。作品に赤い絵の具で最後の手直しを加えるライバルの隣で、まるで対抗するかのように自身の作品(「ヘレヴーツリュイスから出航するユトレヒトシティ64号」)に赤を塗るターナー。周囲の仲間たちが「せっかくの作品が台無しじゃないか」と騒ぐ中、再び現れ布で一拭きしたと思ったら、何と赤の塊が海に浮かぶブイに早変わり! そんな天才ぶりの表現方法もユニークだし、クライマックスで映し出される2人の女性は、ターナーの内面の陰と陽を示すかのようで余韻が残る。(編集部・石井百合子)
映画『ターナー、光に愛を求めて』は6月20日より公開
『アリスのままで』
家族のサポートや愛にスポットを当てたドラマが秀逸
50歳で若年性アルツハイマーと診断される言語学者にふんしたジュリアン・ムーアが、第87回アカデミー賞主演女優賞に輝いた家族ドラマ。冒頭から家族愛にあふれる映像美で、病気とわかってからも卑屈にならない主人公アリス(ジュリアン)の人柄に心が救われる。もちろん、胸にぐさりと突き刺さるアリスの切ないセリフや行動もあるが、病気のことばかりを描くのではなく、家族のサポートや愛にスポットを当てたことがこの作品の秀でたところ。途中、想定範囲内の結末の可能性が消え、一体どうなるのか? と少し不安にもなる。そこは、クリステン・スチュワートの熱演が光る、少々やんちゃな次女リディアにおまかせ。リディアはピュアで心根は家族で一番優しい。リディアがアリスに寄り添うだけで抜群の安定感を観客にも与えるのだ。家族愛に飢えている人には宝物のような作品で、家族問題を抱えている人にとっては家族との関係を見直すきっかけになるかも?(編集部・小松芙未)
映画『アリスのままで』は6月27日より公開