『ラン・オールナイト』特集:今度のリーアム・ニーソンはココが違う! We Love リーアム!! 座談会
アイルランド出身の演技派俳優として不動の地位を築き、さらに近年はアクションスターとして目覚ましい活躍を見せるリーアム・ニーソン。そんな彼がジャウマ・コレット=セラ監督と3度目のタッグを組んだ最新作『ラン・オールナイト』の魅力について、リーアムを深く愛する映画ライター4人が徹底的に語り尽くします!
参加者
・山縣みどり/ライター兼編集者
・相馬学/ライター
・折田千鶴子/ライター
司会
・なかざわひでゆき/ライター (順不同)
1.ジミー・コンロン(リーアム・ニーソン)
ブルックリンを拠点にするマフィア専属の殺し屋。今は過去への後悔から酒に溺れている。
2.マイク・コンロン(ジョエル・キナマン)
ジミーの一人息子。子供の頃から家庭を顧みなかった父親を憎んでいる。
3.ショーン・マグワイア(エド・ハリス)
ジミーが仕えるマフィアのボス。ジミーにとっては幼なじみで親友でもある。
4.ダニー・マグワイア(ボイド・ホルブルック)
ショーンの息子。父親に認められようとむちゃばかりする問題児。
5.ジョン・ハーディング刑事(ヴィンセント・ドノフリオ)
ジミーを長年追い続けているニューヨーク市警のベテラン刑事。
6.アンドリュー・プライス(コモン)
ジミーとマイクを殺すためショーンに雇われた執念深い殺し屋。
なかざわ:『シンドラーのリスト』の演技派という世間一般のイメージから一転して、50歳を過ぎてアクションスターとして活躍しているリーアム・ニーソンですが、若い頃を振り返ると実は少なからずアクション映画にも出ていますよね。
山縣:おそらくあまり出演作を選んではいないと思うんですよ。『96時間』だって一応脚本は読んだけれど、どうせDVDスルーの映画だろうと思って出たって言っていましたし。彼は俳優を職業として割り切っているところがありますよね。少なくとも映画に関しては。
相馬:やはりあの映画が当たっちゃったから、周りからアクションヒーローを求められるようになったという面もあるんじゃないかな。
山縣:彼ってインテリジェントな香りがするじゃない? わたしは『マイケル・コリンズ』のイメージがすごく強いのね。本人もあの作品が大好きらしいし。わたしは、孤高の人というか、つるまない感じが好きだし、自分の主義や大切なもののために戦うストイックな姿がすごく似合う。「高倉健」さんみたいな感じ。
折田:舞台がアイルランドというのも、本人自身のバックグラウンドと重なり合ってリアルでしたよね。そんな彼が娯楽アクションをやるというギャップに、ファンは面白味を感じているのかも。
なかざわ:それに、リーアムってどこか哀愁をたたえているところがありますよね。
山縣:タレ目だから(笑)。悲しそうな顔立ちよね。
なかざわ:だから、何かを背負っている雰囲気を醸し出している。アクションをやっても、ただ強いだけの人じゃない。そういう意味では、年齢を重ねた人じゃないと演じられないヒーロー像を体現していますよね。
山縣:それに彼は人間ドラマをしっかり演じることのできる人だから、いつでも演技派路線に戻って来られるという強みというか、余裕みたいなものがある。そういう意味でも、スタローンやシュワちゃんのようなアクション一筋の俳優とは違った魅力があるのよ。
なかざわ:今回の『ラン・オールナイト』ではマフィア組織のベテラン殺し屋を演じています。とはいえ、今は飲んだくれ中年オヤジという設定ですが。そんな彼がボス(エド・ハリス)の息子(ボイド・ホルブルック)を殺してしまったことから、自分自身の息子(ジョエル・キナマン)が報復の標的になってしまい、彼を守るために夜のニューヨークを2人で逃げ回ることになります。
相馬:それこそ、ハードボイルド小説に出てくるような、ダメ人間だけれど憧れる部分のある男ですよね。『96時間』では親バカぶりが先立ってしまって、それはそれでいいんだけれども、こちらはまさに男がほれる男性像。生き方のカッコ悪さもいいです。
山縣:何しろ「高倉健」ですから、不器用なんです(笑)。わたしは生まれ変わるのだったら絶対にリーアムの娘になりたいって思いましたね。パパって呼ばせてほしいもの!
折田:こんな酔いどれですよ?
山縣:いいのよ。わたし、お酒買いに行っちゃうもん(笑)。そんなダメなところも母性本能をくすぐるの。ヤサグレ感を醸し出すのがうまいのよね、リーアムって。そのうちホームレスの役なんかやってもいいんじゃないかしら。
相馬:かえって子供が息子じゃなくて娘だったら道を踏み外さなかったかもしれませんよね。
折田:わたしは男の痩せ我慢する顔が大好きなんですけど、息子に恨まれて、ひどい言葉を浴びせられてシュンとしながらも、懸命に守ろうとする姿にキュンときますね。捨て犬感がカワイイ。弱い男が傷ついてもどうってことないけれど、ガタイが大きくて強い男が傷つくと放っておけないんですよ。
山縣:守ってあげたいわけね。わたしは守られたい!
なかざわ:その息子との関係というのも、ストーリー上の大きな要ですよね。自分は息子を守るということ以上に、父親失格だった男の贖罪(しょくざい)の物語という意味合いが強いように感じました。
山縣:そもそも女性って基本的に母親と仲の良いパターンが多いけれど、男性にとって父親って、やはり越えなければいけない壁みたいなものなのかしら?
なかざわ:ある種の敵対心ではないけれど、ライバル心みたいなものはどうしてもありますよね。
相馬:息子にとって父親って、子供の頃はヒーロー的な存在だけれど、ある年齢に達するとそうじゃないことに気付いてしまう。そこで失望したり軽蔑したりっていう感情が生まれるのだけれど、大人になるに従ってそれを含めて愛せるようになるんですよ。
山縣:そう考えると、この『ラン・オールナイト』って親子のテーマがきちんと描かれていますよね。男の人ならグッとくるものがあるかもしれない。
なかざわ:まあ、息子にしてみれば20年以上も放ったらかしにしていた父親が突然現れて、俺の言うことを聞けってニューヨーク中を引っ張り回すわけだから、そりゃ反発したくもなると思いますけど。
山縣:息子役のジョエル・キナマンってテレビドラマで注目されて、今ハリウッドで引っ張りだこですよね。ハンサムでとても真面目な雰囲気がすてき。
折田:彼って北欧の出身ですけれど、ああいう色素の薄い感じのイケメンってわたし、大好きなんですよ。体が大きいのにマッチョっぽく見えないところもいい。
山縣:いわゆる細マッチョなのよね。日本の女の子は大好きだと思う。
折田:それに対して、ボスの息子はバカですよね。
山縣:それはもう、社長の息子みたいなもんだから(笑)。
相馬:エド・ハリスの息子なのに、あんなダメ人間になるなんてね。
折田:部下たちがペコペコするから、大人をバカにするような子供になっちゃったんじゃないですか?
なかざわ:そういう意味では、敵方も含めて父親と息子の確執の物語といえるかもしれませんね。ボスの息子も父親に反発して、結果的にリーアムに殺される羽目になっちゃう。
山縣:お父さんがちゃんとしていないと息子が曲がっちゃうよっていう典型ですね。
なかざわ:リーアムにしても、結局はいまさら理想の父親になることはできないけれど、一夜の逃避行を通じて父親とは本来こうあるべきだという姿を、反面教師として息子に示すことはできたんじゃないかなと思います。
相馬:逃げている間も彼は息子に絶対殺しをさせませんしね。
山縣:自分と同じ道は歩ませたくないという父親の強い愛情よ。
相馬:そういえば、息子や娘との関係にフォーカスした役をリーアムが演じるようになったのも『96時間』以降のことかもしれませんね。それ以前も子供のいる役はあったけど、あまり重要な要素ではなかった。
山縣:本人が意識して選ぶようになったのかも。実際に2人の息子さんがいるし。
相馬:年齢的には孫がいてもおかしくないですけれどね。
山縣:これまではセクシーなパパだったけれど、これからはセクシーなおじいちゃんでいけるかもしれないわね(笑)。
なかざわ:エド・ハリスふんするボス、ショーンとの関係も物語の大きな柱ですよね。彼は主人公ジミーにとって親友であり、元やんちゃ仲間であり、最終的に敵となるわけですが、僕はこの二人の関係には、愛があると思うんですよ。変な意味ではなくてね。憎み合うのも愛情の裏返しみたいなもので。そうでなければ、あそこまで執拗(しつよう)にお互いを追い掛けませんよ。
折田:そういう絆があるからこそ、殺されるならおまえにって感じですかね。
山縣:『ヒート』のロバート・デ・ニーロとアル・パチーノみたいよね。
相馬:確かにレストランで二人が対峙(たいじ)するシーンも似ているけれど、こちらの方が見せ場としては優れていますよ。タイマン張っている感がハンパじゃない。
折田:でも、ジミーにとってはショーンに対する恨み節みたいなものもあったんじゃないかな。これまで尽くして尽くしまくってきたわけじゃないですか。殺し屋の汚れ仕事も一手に引き受けて。それなのに自分は真冬にも部屋の暖房をつけるお金がなくて、一人ぼっちで寂しさを酒で紛らわせて、おまえばかりがいい暮らしをして幸せになっているっていう。
相馬:いや、彼だってショーンにさんざん迷惑を掛けているはずだよ。金は無心するし、クリスマスパーティーにサンタ役で呼ばれたのに、めちゃくちゃにするし。
なかざわ:しまいには息子を殺しちゃうし(笑)。
相馬:ショーンにとってジミーはバッドサンタですよ。
山縣:ジミーがフリーランスだったら、よっぽど稼げたでしょうね。でも義理があるから他の組織には移れないし、ボスの言う通りに人を殺さなくちゃいけない。
相馬:ショーンは若い頃のマフィア稼業からビジネスマンへ方向転換をしているから、その過程で二人の間にわだかまりが生まれたのかもしれない。ジミーは時代に取り残されちゃったんですよ。
折田:いずれにしても飼い殺しみたいなものですよね。でも、お互いに離れることができない。
山縣:築いてきた信頼関係があるから。
折田:その絆が、ほかにはない本作ならではの面白さですよね。
なかざわ:そして、最後はこれで3度目となるリーアムとジャウマ・コレット=セラ監督とのコンビについて。そもそもコレット=セラ監督って昔ならではのプログラムピクチャー(上映スケジュールを埋めるため製作される映画)系の職人監督として優れていると思うのですけれど、リーアム・ニーソンという素材を非常にうまく使っていますよね。
相馬:彼のようにイメージの固まった大物俳優をどう料理するんだろう? って思ったけれど、最初の『アンノウン』での使い方がすごく良かった。『96時間』以降のリーアムではなく、それ以前の胃が弱そうな方の彼のイメージを逆手に取っていましたよね。
山縣:普通の人が犯罪に巻き込まれたように見せておいて、実は……という。一人二役的な演技をさせていましたね。
相馬:後半になってね、ようやく銃を撃ち始めたりして、やっぱりコイツはただ者じゃなかったって。それがオチとして効いていたなと思います。
山縣:ニール・ジョーダンの映画にもよく出ているけれど、きっと監督が愛しちゃう俳優なのね。だから、コレット=セラ監督も男ぼれしちゃったんじゃない? 俺の世界観を体現してくれるのはリーアム様しかいないって。
折田:思えば、コレット=セラ作品でリーアムが演じる役って、いつも破滅寸前ですよね。『ラン・オールナイト』を含めて。
山縣:ギリギリのところで踏みとどまって正しい道へ行くという。モラルの再確認をするような感じね。
なかざわ:今回の作品がこれまでのコレット=セラ作品と違うのは、ストーリーに真正面から取り組んでいる点ですよね。『エスター』にしてもリーアムとのコンビ作にしても、過去の作品はどんでん返しの意外性で見せる部分が強かったじゃないですか。
相馬:それと、彼の映画って1シーンに込められた情報量がすごく多いんですよ。それは、自分が試写を観る際に必ずメモを取るから気付いたのですけれど、メモが追い付かないんです。本作でも息子が登場するシーンでは、初めは誰だかわからない。息子だという主人公との関連性にすら触れていない。ボクシングをしていて、黒人の男の子を教えていて。でも、その一つ一つに後からつながる意味があるのです。
山縣:ディテールをちゃんと演出している監督ですよね。
相馬:なかざわさんがおっしゃったように、いい意味での職人監督だと思います。いいタイミングでリーアムと出会って、いい作品を一緒に作っているという印象ですね。
山縣:リーアムも幸運だったんじゃないのかな。彼と出会って。
相馬:それと、今回は本当にいい顔が脇にそろっているんですよね。エド・ハリスにヴィンセント・ドノフリオ、ニック・ノルティ。
山縣:コレット=セラ監督の映画では過去最高の豪華キャストかも。
なかざわ:ぱっと見ただけでも、オッサン度の高さとコワモテ度の高さはハンパじゃない。若手のジョエル・キナマンも確かにイケメンだけれど、部類的にはコワモテだし。まさに男の映画って感じです。
山縣:ギャング映画ですから、これくらい荒くれていた方がいいですよね。
なかざわ:コレット=セラはスペインの出身ですが、作風はまさにハリウッド娯楽映画の王道ですよね。
山縣:今回は家族をテーマにしているところもアメリカ映画らしい。特に今は国が戦争をしているから、やはり家庭を大事にしなければという気運が強いんですよ。
折田:で、コレット=セラ監督とリーアムのコンビは、最強といっていいでしょうか?
山縣:いいんじゃない! リーアムも自分の違う面を引き出してくれると思っているだろうし。『ラン・オールナイト』を観ても二人の相性って抜群だと思うもの。
プロフィール
山縣みどり/映画ライター兼編集者
かつてリーアムに取材した際、居並ぶ女性ジャーナリストの目がハートなのを目撃。たぶん、わたしの目も同じだった? でもわたしの愛は性愛を超えたものです。リーアム父さん、俺たちの映画で頑張ってくれてありがとう。
相馬学/映画ライター
「DVD&ビデオでーた」「SPA!」や劇場用プログラム、ウェブ媒体でお仕事中。リーアム・ニーソン作品では、やはり『96時間』が好きで、公開時には5度足を運んだ過去あり。
折田千鶴子/映画ライター
ちょっと硬派なメロドラマ&男気系香港映画&英国系ブラックコメディー好きの映画ライター。本作の男気物語も堪能! リーアムの息子を演じたジョエル・キナマンにも萌え。北欧系美男子(どこか幸薄そう)、やっぱイイッす!
なかざわひでゆき/映画ライター
映画および海外ドラマ専門のライターとして、雑誌やウェブ、テレビなどで活躍中。大好きな『銀河伝説クルール』に出ていた頃から注目していたリーアムが、『シンドラーのリスト』でオスカー候補になったときは感無量でした。
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