英国紳士にマフィア、天然エージェント、北朝鮮工作員まで!スパイ映画特集
今週のクローズアップ
9月11日公開される映画『キングスマン』は、オスカー俳優コリン・ファースを主演に迎えた痛快スパイアクション。スパイといっても、その見た目から所属する組織など千差万別。そこで今週は、魅力的な諜報(ちょうほう)員たちがスクリーンを駆け巡る、スパイ映画を紹介する。(文・構成:編集部 吉田唯)
スパイ映画の金字塔!『007』シリーズ
『007』シリーズは、何といってもスーツ姿でダンディー&セクシーさを放つ一流の英国スパイ、ジェームズ・ボンドの魅力が作品の肝。息の長いヒットシリーズだからこそ、歴代ボンドそれぞれの魅力的な個性の違いが作品の色に強く反映されるのも楽しみの一つだ。ファン待望のシリーズ最新作『007 スペクター』は、12月4日に日本公開を控えている。4度目のボンドを演じるダニエル・クレイグが、ローマ市街地でカーチェイス、雪山での格闘などスケールの大きなアクションを繰り広げるほか、今作では悪の組織スペクターの存在とボンドの封印された秘密に迫る。おなじみのボンドガールはシリーズ最年長の50歳の「イタリアの宝石」ことモニカ・ベルッチと、『アデル、ブルーは熱い色』でカンヌ国際映画祭の最高賞にあたるパルムドールに輝いたフランスの演技派女優レア・セドゥの二人。いまだ明らかになっていない内容も多く、これからの発表に注目だ。
アクションの限界に挑み続ける!『ミッション:インポッシブル』シリーズ
8月7日に最新作『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』が公開されたばかりの『ミッション:インポッシブル』シリーズ。その醍醐味(だいごみ)は何といってもトム・クルーズがノースタントで挑む骨太なアクション。最新作でも、トムが地上約1,524メートルの高さを時速400キロで飛ぶ軍用飛行機のドア外部にぶら下がったり、酸素ボンベなしで6分間に及ぶ潜水に挑戦したりと、爽快感と同時に感動を覚えるほど超絶危険なアクションを繰り広げる。シリーズの歴史の長さゆえにボンドを交替してきた『007』シリーズはキャラクターの魅力が際立っているのに対し、『ミッション:インポッシブル』シリーズは完全にトム・クルーズという俳優のスター性のもとに成り立っている映画だ。
警察に潜入するマフィア×マフィアに潜入する警察!『インファナル・アフェア』シリーズ
警察に潜入するマフィアと、マフィアに潜入する警察官の抗争を描いた香港映画。幹部の指示に従い香港警察に入ったマフィアの構成員ラウとマフィアへの潜入捜査を命じられた警察官のヤン。10年後、麻薬取引の計画をきっかけにそれぞれの組織に内通者がいることが明らかになり、裏切者捜しにやっきになる警察とマフィア。ついに対面を果たした二人は……。大ヒットを記録してシリーズ化、ハリウッドリメイクもされた本作。スパイ映画ならではの緊張感あふれる展開の一方で、男同士の切ない友情が胸を打つ。警察とマフィアという設定が、そのまま善と悪が表裏一体であることのメタファーになっているニクい脚本に、香港のスーパースター、アンディ・ラウ&トニー・レオンの競演という最高の要素が凝縮された傑作。
記憶喪失エージェントの闘い!『ボーン』シリーズ
マット・デイモンが第1作から第3作まで主演を務めた、記憶を失った元CIAエージェント、ジェイソン・ボーンの闘いを描くシリーズ。激しいカーチェイスやアクションと、自分自身も、追ってくる相手も誰なのかわからないという、全編に緊張感が張り詰めた構成が秀逸。『ミッション:インポッシブル』でアクションの限界に挑戦し続けるトム・クルーズに対し、銃や刃物を持った敵にその場にあるペンや雑誌を駆使して応戦するなど、リアリズムと演出のギリギリを突きながらもカッコよく派手なアクションをこなすマット・デイモンの風格もさすがの一言。なお、『ボーン』シリーズ最新作の全米公開は、2016年7月29日を予定している。
英国紳士のキレッキレアクション!『キングスマン』
オスカー俳優コリン・ファースを主演に迎え、『キック・アス』のマシュー・ヴォーン監督がまたもや痛快なアクションをさく裂させた本作。エリートスパイ機関所属の主人公ハリーは、ブリティッシュスーツを着こなす英国紳士。街で不良少年エグジー(タロン・エガートン)をスパイにスカウトすることになったハリーが、エグジーを助けながら最強の敵を相手に奮闘する姿が描かれる。スパイ機関の表の顔がロンドンにある高級スーツ店であったり、防弾シールドやマシンガンになる多機能傘、先端からナイフが飛び出す仕込み靴が登場したりと、遊び心あふれる要素に胸が躍る。また、英国紳士が教会で数十人の敵と戦うシーンは、『キック・アス』でヒット・ガールのキレッキレのアクションをつくり上げたヴォーン監督ならではの演出。さらに、『007』シリーズなど、数多くの映画へのオマージュを探すのも楽しみ方の一つで、あらゆる場面にちりばめられたサービス精神に思わずニヤリとさせられる。
緻密な脚本で紡ぎ出される濃厚な頭脳戦!『裏切りのサーカス』
東西冷戦下の1980年代、英国諜報(ちょうほう)部サーカスを引退したスパイ、スマイリーが、20年にわたってサーカスの中枢に潜り込んでいる二重スパイを始末するため、捜査に乗り出す姿を描いた作品。引退生活から呼び戻された老スパイ、スマイリーを演じたゲイリー・オールドマンをはじめ、コリン・ファース、トム・ハーディ、ベネディクト・カンバーバッチ、ジョン・ハートら英国俳優オールスターの競演も見どころの一つ。元MI6諜報(ちょうほう)員の経歴を持つ作家ジョン・ル・カレの人気スパイ小説を原作としているだけあって、落ち着いた静かなトーンの作品でありながらも状況が二転三転するスパイ映画ならではの頭脳戦にしびれる。その緻密な脚本と俳優陣の渋さをかみしめるべく、何度も見返したくなる一本。
北朝鮮のスパイ集団に待ち受ける衝撃のラスト!『レッド・ファミリー』
『嘆きのピエタ』などの鬼才キム・ギドクが、脚本、編集、エグゼクティブプロデューサーを務めた本作は、家族を装って韓国に潜入する北朝鮮の工作員たちを描いた作品。理想の家族を絵に描いたような一家の正体は北朝鮮のスパイ集団で、一歩家に入れば、たちまち厳格な階級社会に戻る裏の顔を持つ。ところが、何かと押し掛けてくる隣人一家によって、家族的な絆が生まれ……。斬新な設定とその完成度の高さが話題を呼び、第26回東京国際映画祭では観客賞を受賞。家族を描きながら国家の現状を風刺し、笑いを描きながら悲しみを潜ませる表現方法に舌を巻く。そして切なすぎる衝撃的なラストに、家族の本質とは一体何なのかを改めて考えさせられる逸品だ。
天然スパイが大活躍!『ゲット スマート』
1960年代にアメリカで人気を博した伝説のテレビドラマを映画化。アメリカ諜報(ちょうほう)機関コントロールが国際犯罪組織カオスに襲撃され、スパイたちの身元が割れてしまう事態が発生。そこで敵に正体が知られていない分析官のスマート(スティーヴ・カレル)はエージェントに昇格し、整形したばかりの美女エージェント99(アン・ハサウェイ)とコンビを組むことに。40種類の言語を操り、敵のふとした言葉から重要情報を読み取るすご腕分析官のスマート。そのすごすぎる能力ゆえにエージェントに昇格できずにいたスマートが、憧れのエージェントになってもさく裂させる天然のユーモアには爆笑必至。シリアスなスパイ物を観るのに疲れたとき、スティーヴ・カレルとアン・ハサウェイの絶妙なコンビに笑って癒やされるのに最適な作品。