ロバート・レッドフォードが最も美しかった「あの頃」(3/3)
名画プレイバック
初監督作のオスカー受賞、サンダンス設立…美しいだけじゃない!
今:イケメン過ぎると演技力を評価されにくい、アイドル的な人気から脱するのに苦労するスターも少なくないですよね。レッドフォードの場合はどうなんでしょう?
山縣:いわゆる顔芸的な、表情で無理に大きな芝居をするタイプの人ではないから、演技としては認められにくい部分もある。それなのに顔が美しいからクローズアップが多いという。例えば『大統領の陰謀』では、ダスティン・ホフマンがすごくチャーミングで人たらしな感じがうまいなと思わせるんだけど、相棒役のレッドフォードは乱暴な言い方をしてしまうと、ハンサムだけど少し退屈な男性に見えなくもない。でも、本人もそれはよくわかっていて、製作にも積極的に関わるようになっていく。『大統領の陰謀』も、もともとはレッドフォードがやりたいという熱意が成立させた映画でもあるし、監督デビュー作『普通の人々』(1980)ではアカデミー賞を受賞するという快挙。認められたいけど俳優としては限界があるとなって作る側に回ったとしても、いきなりオスカー受賞というのは、やはり才能がなければ難しいと思う。
今:そういう意味ではノンクレジットですが、初めて製作総指揮を手がけた『候補者ビル・マッケイ』は重要な作品と言えますね。
山縣:自分のプロダクションで手がけた作品だよね。これも初見時はレッドフォードであるがゆえに、環境問題に意識が高く公害と闘ったり、権力を持った父親に逆らい、困った人を助けるかっこいい弁護士である主人公に正義のヒーロー的なイメージがあって。そもそもレッドフォードが演じると、何でもヒーローに見えるところがあるんだよね。本当に正義が似合う男なんだけど、ビル・マッケイは全然ヒーローじゃない。周りにかつがれて出馬し、父親に反抗しながらも結局は利用するというか頼ったり、政界でのし上がるためには主義主張を曲げなきゃいけないという現実を描いていて、かなりダークな話。劇中、「どうすればいいかわからない」というセリフがあってぎょっとするんだけど、こうやって政治家は作られていくんだなと思うと本当に恐ろしいし、アメリカの政治って変わらないなとも。
今:結局、最初は誰にも相手にされなかったビル・マッケイがメディアに露出して、顔がいいから大衆受けしていく描写は反ポピュリズムとも言えるメッセージ性があって、それはそのままレッドフォードの自分の見た目に対するアイロニーが込められているようにも感じます。
山縣:それはあると思う。自分がどういうポジションなのかをわかっていて、それだけじゃまずい、嫌だという気持ちもあって、あえてこの題材を選んでやったのでしょう。今回の見た目の良さを堪能できるという視点で選んだベスト5は、ほぼ1970年代前半に集中している。この時代のアメリカといえば、映画人にとってはアメリカン・ニューシネマの時代。レッドフォードは30歳を過ぎてからアメリカン・ニューシネマの傑作の一つ『明日に向って撃て!』で人気を得たけれど、アクターズ・スタジオ出身でマーロン・ブランドの後継者と目されていたポール・ニューマンとは違って暴力的でもなければワイルドさもないし、閉塞感のある若者を夢の世界に連れていってくれるような要素を持つスターではなかった。
ブラピやディカプリオのお手本はレッドフォード?
今:確かに閉塞感とかアウトサイダー感はないですよねえ。あくまでも王道感、正しいイメージ。
山縣:でも、そこにこそ女性観客に向けた需要があった。一般の観客からすれば『追憶』が王道なわけで。そこからずっとレッドフォードはスタジオ大作系の人として、ニッチな方には行かずに王道を歩んできたんだよね。若くしてぱっと出て人気が出たわけではなく苦労人だから、その辺は自分の立ち位置や求められるものに対して応えるという意識も強かったと思う。ただ、心の底にあった映画人魂はアメリカン・ニューシネマ系だった、インディペンデントな世界に憧れていたんじゃないのかな。これはプロデューサーとして、『ムーンライト』(2016)などで近年大成功を収めているブラッド・ピットにも通じるよね。だからこそ、レッドフォードは1981年にサンダンス・インスティチュートを設立したんだと思うの。
今:なるほど! サンダンス設立の功績は偉大ですよね。
山縣:クエンティン・タランティーノだってデイミアン・チャゼルだって、そもそも出世作はサンダンスから生まれたと言っても過言ではないわけで(『レザボア・ドッグス』(1991)のもとになった短編『Reservoir Dogs: Sundance Institute 1991 June Film Lab』(1991)、『セッション』(2014)のもとになった同名の短編(2013))。アメリカン・ニューシネマが終わり、フランシス・フォード・コッポラとジョージ・ルーカスが設立したアメリカン・ゾエトロープ(1979~1990年)が尻つぼみになったところに、サンダンスが果たした役割は大きい。映画人として、本当に立派な人だと思うわ。今はちょっと離れちゃって、モンタナ州の自然が豊かな『リバーランズ・スルー・イット』(1992・監督作)のところで悠々自適な生活を送っていて、確か奥さんは芸術家。若い頃にユタ州に行っていたというのも、早くから環境問題に意識が高かったレッドフォードらしい。今だとレオナルド・ディカプリオに少し似てるかも。
今:ブラッドやレオみたいなイケメン俳優たちは、レッドフォードをロールモデルとしてみることもあったりしたんでしょうかね?
山縣:それはあるかもね。これだけ長く第一線で活躍してこられた美男俳優として、レッドフォードのキャリアはお手本になる点も多いんじゃないのかな。
今:最後に、レッドフォードの俳優としての集大成は、どの作品だと思いますか?
山縣:断然『オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~』(2013)。100分間一人芝居に耐えられるという点でも単純に凄いなと思うし、素晴らしかった。これもサンダンス発だよね。個人的には、主人公に『追憶』のハベルを重ねて、自分が手離した妻子と過去を後悔しながら、人生の旅に出たように見えて感慨深かった。大体、ヨットがあれほど似合う男性はそんなにいないよ? 大抵は成金ぽくなっちゃうんだけど、爽やかで品のあるヨットマンなんて、いつの時代にも女性の憧れ。たとえ遭難して心身ともにボロボロになろうとも、最初から最後まで、レッドフォードはやっぱりレッドフォードだなあと思わせてくれました。
今祥枝(いま・さちえ)
「BAILA(バイラ)」「日経エンタテインメント!」ほかで映画・海外ドラマの記事を執筆。当コーナー「名画プレイバック」担当。著書に「海外ドラマ10年史」(日経BP社)。こぢんまりとした人間ドラマ&ミステリーが大好物。海外ミュージカル愛好家。
山縣みどり(やまがた・みどり)
「anan(アンアン)」や「GQ」、「25ans」、「ELLE」などで映画レビューやインタビューなどを執筆。この夏は、セントラルパークのシェイクスピア・フェスで「ハムレット」を見たい。オスカー・アイザックが鬱気味な王子をどう演じるか興味津々です。