スパイダーマン宣伝秘話!あの時、日本で一体何が?
ついに日本でも公開を迎えた『スパイダーマン:ホームカミング』。スパイダーマン映画と言えばこれまで、トビー・マグワイア主演『スパイダーマン』シリーズ、アンドリュー・ガーフィールド主演『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ、そしてマーベル・シネマティック・ユニバース入りしたトム・ホランド主演の今シリーズがある。その3シリーズ、さらにはなんと『アイアンマン』の宣伝に携わっていた、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの丹波あかねさんがこれまでの日本でのスパイダーマンの宣伝活動をとことん振り返った。日本の“メイおばさん”とも言うべく存在の丹波さんが実際に見た3人のピーター・パーカーことスパイダーマンとは?(編集部・石神恵美子)
■『スパイダーマン』日本初上陸!元SMAP草なぎくんも一役!
『スパイダーマン』が日本で初上映されたのが2002年。もう15年前とかなんですけど、それまでアメコミものは日本では当たらないと言われていて、私たちもスパイダーマンがこんなに続く作品になるとは思っていなかったです。実は当時、2001年から2002年にかけて公開の『スパイダーマン』『スチュアート・リトル』『メン・イン・ブラック2』『パニック・ルーム』の4作品を“ビッグ4”と呼んで、打ち出していたんです。その中で、一番は『メン・イン・ブラック2』と考えていて、『スパイダーマン』はあるけど、でもアメコミだしな……という感じでした。なので最初はもう、「Who is Spiderman?(スパイダーマンって何者?)」って売り出していこうと、いろんな側面があるヒーローなんだよって。
スパイダーマンの良さがわかったのは、本当言うと、本編を観てからなんです。アメリカ公開が5月3日、日本は5月11日で、ほぼ日米同時公開だったので、本編を観られたのがギリギリだったんですよ。そんな感じだったんですけど、世の中が先に動いてくれていたと思うこともありましたね。2001年の年内に、いまはなき「SMAP×SMAP」から、「スパイダーマンのスーツを借りたい。草なぎくんに着せたい」と言われたんです。「ハリウッドのものなので……ここにはありません。でも、なんでですか?」みたいな感じだったんですけど。そしたら、番組でわざわざ作ってくださって、本当に草なぎくんが着てくれたんですよね。クモの糸に吊り下がってみたいなことまでやってくださって。そのとき確か、草なぎくんがスパイダーマンのことをよく知ってて、「このスーツって主人公が自分でつくってるんですよねー」とかおしゃっていて。それで、知ってる人はすでに親近感を持っているキャラクターなんだって思ったんです。それで、「あれ、私の認識って世間からずれてるのかな? 遅いのかな?」って思い始めましたね。
■人間ドラマに共感続出!公開されるや社会現象化!
やっぱり人間関係とか面白いじゃないですか。ものすごくわかりやすくて、超人じゃないところ、そこが日本人には受けやすいですよね! アメリカのヒーローって、正義とか国家とか、地球のためとか、規模が大きいんですけど、日本人は本当にこう、自分の身近な人のため、スパイダーマンで言えば、ベンおじさんが自分のせいで死んでしまったという罪の意識があって、それでヒーローになっていく話じゃないですか。しかも、ちょっといじめられっ子みたいなね。なので、一緒に応援したくなるようなヒーローっていうのは、特に日本人に受けたのかなと思います。
このプレス資料をつくるときも、本当に前時代的なんですけど、当時はデジタルじゃないので、わざわざ本国に映画を観に行ったんです。もちろん代表や部長とかそういう人しか行けないわけです。なので、聞き書きでこういった資料を書きましたね。そのとき、観てない私たちはヒーローものだしこんな感じでいいかなと思ってつくっていたんですけど、観てきた部長に「この映画は人間関係が絶対大事だ。もっと中身を出さなきゃダメだ」って言われて、普通のヒーローものにはないような、ものすごく細かい内容の入っているプレス資料になりました。すごく覚えているのが、部長が最初のシーンから語りだすんですよ。部長の話し方が上手だったというのもあると思うんですけど、最初のシーンでピーターがバスに乗り遅れて、「この子大丈夫かな?」と思わせるみたいな。やっぱり印象的ですよね。あとは、ベンおじさんの残した名言「大いなる力には大いなる責任が伴う」って、これも日本人にはグッとくるんじゃないかなと思うんですよ。「フレンドリーネイバーフッド(親愛なる隣人)」もそうですけど、身近なヒーローというところをアピールしていったと思いますね。
そうして、あれよあれよという間に、『メン・イン・ブラック2』が一押しのはずだったのに、春休みくらいには『スパイダーマン』になっていて、「これが一番の稼ぎ頭になるぞー!」って感じで、営業も宣伝も一丸となっていましたね。『メン・イン・ブラック2』が夏休み最後の公開でオオトリだったんですけど、なんかついでみたいになってしまっていました(笑)。そんな手探りでやっていた状態から、アメリカでが一足先に公開されたときには、ものすごい大ヒットになって。社会現象化しているということで、朝日の夕刊の一面に載って、NHKのニュースにも取り上げられて。それぐらいものすごい勢いでトップになったんですね、とにかく金額が桁違いでした。
■社会現象化の背景には911も?ツインタワー写り込んだポスターは全破棄!
最初のポスターやチラシにはツインタワーが写っていて、早い劇場ではそれがすでに掲出されていたんですね。それで911が起きて、全部回収というのは、本社命令でした。当時の宣伝プロデユーサーが言っていましたけど、印刷会社や劇場から全て回収して破棄したって。もちろん、こそっと取っておいた劇場とかもあるかもしれないですけどね。あのツインタワーがなくなって半年ちょっとでこの映画の公開って……まだあの悲劇を忘れられないというか、そういう意識はあったと思います。それも、スパイダーマンはニューヨークのヒーローですから。でも逆に、ニューヨークのヒーローだったからこそ、復興という意味で北米の大ヒットにつながり、社会現象化したのかもと思います。これでニューヨークが元気になるみたいな流れがあったのかもしれないですね。
■アンドリュー版スパイダーマンには男性ファンが反発?
そんな『スパイダーマン』シリーズは、3部作としてすばらしいラストを飾ったので、次をやるなら、4とかになるよりは、やっぱりリブートでよかったと思いました。しかも、1作目の時点でトビーが27~8歳だったので、それから5年経って30歳過ぎているじゃないですか。さすがにもう、ピーター・パーカーはさせられないだろうと。なので、『アメイジング・スパイダーマン』が決まったときは、誰がスパイダーマンをやるんだろう? どこから始まるんだろう? って、私たち内部でもすごく盛り上がっていましたね。それで、アンドリュー・ガーフィールドに決まった時っていうのは、米サンディエゴのコミコンで、スパイダーマンのマスクをかぶったオタクが観客席から手をあげて、壇上の下に立って「子供の時からスパイダーマンが好きで、小さい時のハロウィンでもスパイダーマンのマスクをかぶったくらいなんだ!」とか言って、そのマスクを取ったら、それがアンドリューだったんです。もちろんそれはスタジオ側の演出だったんですけど(笑)。それを知った私たちは「キャー!」って感じで、アンドリューには、そういう無邪気なかわいさがあるんですよね。
覚えているのは、トビーのスパイダーマンが好きな男性ファンは結構、アンドリューのスパイダーマンに反発していたんですよね。トビー派的には「あのイジイジしたやつがヒーローになるのがいいのに!」って、自分と同化していた部分があったようで、アンドリューは超ハンサムというわけではないですけど、やっぱり背もスッとしているし。女性からすると、トビーには母性本能をくすぐられて、応援したくはなるところはあるんだけど、アンドリューの場合は、やっぱり異性として「素敵!」と思ってしまうというか。アンドリューのピーターも同じようにイジイジしてはいるんだけど、昔で言うジェームズ・ディーン的な感じ。しかも、彼女がエマ・ストーンですから。『アメイジング・スパイダーマン』シリーズは、恋愛がすごい軸になっているじゃないですか? あの二人だったからこそでしょうね。『スパイダーマン』シリーズのMJ(メリー・ジェーン)とトビー演じたパーカーが一緒のシーンって、なんかシリアスなんですよね。でも『アメスパ』シリーズのアンドリュー演じたピーターとグウェンは、気恥ずかしいけど見ていてウキウキするようなカップルなんですよね。そこはやっぱり、監督のテイストの違いが出ていましたよね。サム・ライミとマーク・ウェブだし。それもあって、肌感覚ですけど、『アメスパ』のほうが若者、特に女性に受けていた気がします。エマとアンドリューが来日したときは、女性誌の取材も多かったですし。
■トビーは生意気新人から良きパパに!アンドリュー&エマはラブラブ!来日エピソード
『スパイダーマン』のときは、監督、トビー、キルステン・ダンスト、ウィレム・デフォーがみんな一緒に来ましたね。いまでこそ珍しくはないけど、あれだけの御一行様がくるのは当時あまりなくて、4~5人来るとなると、その付き人含めて、ものすごい人数がやってくるので、成田空港からバスを仕立てたんですよ。サム・ライミはめっちゃいい人で、やっぱオタクだなと思いましたね。デフォーは寡黙な人でした。あと覚えているのは、トビーが写真撮影を個別には行わないと。アメリカ公開の1か月前だったので、正直、まだそんなにすごいスターにはなっていなかったんですけど、ジョニー・デップやブラッド・ピット並みじゃないのっていうくらい要求が高くて、“生意気な新人”っていうイメージはありましたね(笑)。あのときは、キルステンと別れてたのかな……。でも『スパイダーマン3』のときには別の人と結婚していて、子供も連れてきてましたね。まだ赤ちゃんだったんだけど、すっかりいいお父さんになっていて。こういう大作を経験して、人間的に大きくなったんだなと思いましたよ。キルステンも最初に来たときは10代だったと思うけど、いまや大物女優になりましたよね。
『アメスパ』のアンドリューとエマは、来日したときも付き合っていたので、2ショットじゃなきゃインタビューしないって言われたほどです(笑)。印象としては、エマのほうがアメリカでヒット作をたくさん出していて、ハリウッドスターとして先輩で、一方のアンドリューはイギリスから来ていて、プレスに慣れてないことはないんだけど、やっぱりエマのほうが受け答えとか上手で。エマのほうがちゃんとリードしてあげるっていう感じだったかな。それに、エマって声も低いじゃないですか? エマの方が全然落ち着いて見えるんですよ。
あとは、六本木で来日記者会見をしたときに、中村獅童さんがジェイミー・フォックスの声優をしていたのでゲスト登壇なさって、歌舞伎にもこういうのあるんだよって糸を出すのをやったんです。そしたらアンドリューはその糸で自分のことをぐるぐる巻きにして遊んじゃって。子供だなーとか思いながらも、すごくかわいいんですよね。本当に無邪気な感じ。ハリウッドに毒されずに、すくすく素直に育っているなと(笑)。今や『沈黙 -サイレンス-』『ハクソー・リッジ』と、あんな立派な映画に2本も出て。アンドリューもエマも、すごいことになりましたよね。同じタイミングでアカデミー賞に主演ノミネートされるなんて。かたや受賞で、かたやそれに素敵な賛辞を贈るなんて(※エマが『ラ・ラ・ランド』で主演女優賞受賞、アンドリューは『ハクソー・リッジ』で主演男優賞ノミネート)。スパイダーマンみたいな大作シリーズにでて、変にハリウッドナイズドされないというのは、トビーもそうだけど、スパイダーマンみたいに「大いなる力には大いなる責任が伴う」というのをきちんと胸に刻んでるんじゃないかしらね! って思います(笑)。
>>『アメイジング・スパイダーマン』アンドリュー&エマ来日インタビュー
■スパイダーマンとアイアンマンの共演を予知してた!?
『アイアンマン』の本国配給はパラマウントさんだったんですよ。でも、インターナショナル配給は別会社っていうのはよくあるんです。『アイアンマン』は2008年で、その年はうちに一番押しの『ステルス』という映画があって、『スパイダーマン』のときのように、本国にその映画を観に行くわけですよ。そのときは大人数で行って、ついでに配給権のある『アイアンマン』も観ようって観たら、それがすごくおもしろかったんです。(小声で)正直、『ステルス』期待したほどではなかったから……(笑)。それに比べたら、『アイアンマン』はすごく面白くて、やっぱりロバート・ダウニー・Jrって経歴は長いけど、恵まれないときもあったじゃないですか。そんな彼が出るってどうなんだろうって思っていたけど、見事なカムバックを果たしていて。これは絶対、『アイアンマン』のほうが興行成績いくよって思ったら、やっぱり本当にそうなりましたね。ちょい悪というか、ダウニーのキャラが本当にぴったりだったので。そういうのが今までのヒーローものになかったんでしょうね。これまではヒーローありきで、それを誰が演じるか、だったけど、アメコミものとはいえ、アイアンマンはダウニーのために書かれたようなキャラクターで、ダウニーあってこそのアイアンマンでしたね。
実は、いつからだろう……結構前から、スタークがピーターと共演するんじゃないかなって、そういう日が来るんじゃないかって期待していて。確か、スパイダーマンがアイアンマンからスーツをもらうっていうのは、原作にもあったじゃないですか? そういう話を聞いたことがあったからか、ダウニー演じるスタークが、当時ピーターは誰になるかわかっていなかったけど、共演する気がしていたんです。トニー・スタークが女性とか敵じゃなくて、若い男の子に対してどう接するのか、すごく見たかったんです。ダウニー自身が若い俳優にどう対応するのかも気になっていました。昔悪かったオヤジが、すごく大人に振る舞うのか、それともまだまだ俺は若いって焦ったりするのか、トニー・スタークの成長ぶりみたいなものを見たいと思っていたら、今作がどんぴしゃでしたね。ピーター・パーカーをめぐる人々の話だけど、トム・ホランドのはつらつとしたピーターと、ダウニーの大人なスタークの関係が一番こう、ドキドキしながら心うるうるもしましたね。
思ったのは、アイアンマン=トニー・スターク、ピーター・パーカー=スパイダーマンというように、ほかのマーベルヒーローの本名をフルネームで言えますか? キャプテン・アメリカの名前とか? アントマンの名前とか? ヒーロー名だけじゃなく、本名がわかるとなるとやっぱり、アイアンマン=トニー・スターク、スパイダーマン=ピーター・パーカーの2強ですよね。それってやっぱり、素顔のときでも魅力的なキャラクターだからじゃないかなと思うんです。
■マーベル・シネマティック・ユニバース入りして変わったこと!
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)という大きなものと一緒にやれるというのはものすごく心強いです。ファンも広がって、熱さをすごく感じますし、スパイダーマンがMCUに入れてよかったなって。一方で、やっぱりスパイダーマンは違うんだわっていうのも思いましたね。今まではスパイダーマンだけやってたから、ほかのマーベルヒーローのことあまり考えてなかったんですよ。入って、初めて周りをみるわけです。すごくいっぱいいるマーベルヒーローたちのなかでも、スパイダーマン人気はダントツなんだって痛感しました。スパイダーマンを持っているということは、私たちにとっては財産なんだなってつくづく思いました。すごくありがたいって。なので、責任も感じましたね。
『スパイダーマン』と『アメスパ』はある意味、つながっている感じがしてたんですよね。リブート感というか。でもこれはもう、別物。本当にMCUの『スパイダーマン:ホームカミング』で、15歳の若いピーター・パーカーで、15歳なんて言ったら本当に子供ですよね。あとは、時代もあると思うんですけど、最初の『スパイダーマン』って2002年じゃないですか。当時は、トビーみたいな暗めのヒーローが求められていたんでしょうね。関係ないけど、2002年って、ピアース・ブロスナンの『007』が、最後の年だったんです。その次が、ダニエル・クレイグに決まって。プロデューサーのバーバラ・ブロッコリは、時代が変わって、色々と社会も変わって、今求められているのは、ピアースみたいな軽いヒーローじゃないんだとか言って、ダニエルにしたんですね。でも結局、『007/カジノ・ロワイヤル』まで4年くらいかかったんですけど。今は、ダニエルがやるのかやらないのかなんて言われてますけど……。それで、最新作の『007 スペクター』はいままでより明るくなってたじゃないですか? やっぱり映画も時代の流れを反映していると言いますか、そういう意味で、今のヒーロー映画に求められているのは、明るい感じなのかなと。だから、トビーの『スパイダーマン』から15年経って、トム・ホランドみたいにはつらつとしたヒーローなわけですよ! トムは撮ってるとき19歳だったわけでしょ? 未来への希望を感じますよね。若いので、これからの彼の成長が見られるのも、すごい楽しみ。スパイダーマンとしての成長と、トムの俳優としての成長が。まだ21歳だから伸びしろがありますよね。トムはミュージカルでダンスをやっていたから体が軽いし、それだけじゃなくて表情も豊かで、シリアスな顔もうまい。それに、トムってTwitterとかでファンと直接交流したり、そこがまた今の子だなって思いますね。
あと物語で思うのは、ニューヨークの中でもクイーンズという地区に、舞台を狭めているんですよね。そこがまたスパイダーマンらしさを強調してると思います。ピーターを見守る人たちの人間関係がより出ていますよね。今度のピーターは孤独じゃない。明るくて子供なんだけど、しゃにむに頑張る感じが、かわいい。今回の一番の売りは、スパイダーマンがアベンジャーズの一員になるのかというところですけど、本作で描かれているのは、アベンジャーズになりたかったピーター・パーカーが、本当にフレンドリーネイバーフッド(親愛なる隣人)のスパイダーマンになるまで、自分のアイデンティティーを確立するまでの成長物語。トム・ホランド=ピーター・パーカーのイントロダクション的ストーリーだからこそ、次が楽しみですね。
>>『スパイダーマン:ホームカミング』トム&ジョン・ワッツ監督来日インタビュー
■3人のスパイダーマンと出会えた人生に感謝!
これまで全てのスパイダーマン映画の宣伝に携わってきて思うのは、やっぱり人間ドラマが深いところが、すごくよかったというか。正直、全く異なる星の、悪党と戦うスーパーヒーローの映画とか言われても、ピンと来なかったと思うんですよね。もちろん宣伝することになれば、それはそれで愛着が湧くと思うのですが……。でもとにかく、自分のもとに来たのがスパイダーマンでよかったなって。3人のスパイダーマンに出会えて、わたしの映画宣伝マン人生は幸せでした。
映画『スパイダーマン:ホームカミング』は全国公開中