アカデミー賞作品賞候補9作品スゴイのはココ!<後編>
第90回アカデミー賞
秀作ぞろいの作品賞ノミネート作。今年は昨年と違って、現時点で全て日本公開が決まっています(3作は公開済み)! 日本時間3月5日に行われる第90回アカデミー賞授賞式を前に、候補作のスゴさを一気に予習復習!(編集部・市川遥)
美少年と美青年の限りなく美しい初恋!誰もが共感できる『君の名前で僕を呼んで』
ハンサムで自信にあふれた24歳の大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)に惹かれていく17歳の少年エリオ(ティモシー・シャラメ)の初恋を限りなく美しく描いたラブストーリー。イタリア人監督ルカ・グァダニーノは北イタリアの避暑地に注ぐきらめく日差しから、別れの季節である秋の気配まで、見事にスクリーンに焼き付けています。
スゴイのはココ!
とんでもない美少年!次世代スター筆頭候補のティモシー・シャラメ→『インターステラー』でマシュー・マコノヒーの息子役を務めたこともあるティモシーは、本作の繊細な演技で大ブレイク! 特にオリヴァーと両想いになってからの変化がたまらなく、もうめちゃくちゃかわいい。オープニングから美少年なわけですが、恋を知った後が段違いで魅力的なんです。現在22歳。説明的なセリフを一切必要とせず、キャラクターの内面の機微を表現できる演技力は、同世代の中でもずば抜けています。
誰もが共感できる初恋の物語→自転車で街を散策したり、庭のプールで泳いだり、読書をしたり、ピアノを弾いたり……。エリオとオリヴァーが一緒に過ごすうちに自分の気持ちを意識するようになる過程が丁寧に、丁寧につづられており、初恋、そして少年の成長物語として、誰もが共感できる作品となっているのは特筆すべき点でしょう。アンドレ・アシマンの同名小説を脚色したのは、『日の名残り』の監督としても知られる大ベテラン、ジェームズ・アイヴォリー(89)です。
『君の名前で僕を呼んで』監督:ルカ・グァダニーノ 脚本:ジェームズ・アイヴォリー 出演:ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマー 配給:ファントム・フィルム 上映時間:2時間12分 日本公開:4月27日
第90回アカデミー賞4部門ノミネート:作品賞、主演男優賞、脚色賞、歌曲賞、衣装デザイン賞
陸、海、空…三つの視点から映し出すノーラン監督の実験映画『ダンケルク』
1940年、フランス北端の町ダンケルクに陸、海、空から迫りくるドイツ軍80万人を前に、英仏軍40万人という史上最大の撤退作戦を描いた戦争映画。毎作映像表現の限界に挑んでいるクリストファー・ノーラン監督が、今作でもやってくれました!
スゴイのはココ!
息もつけない極上の映画体験→ダンケルクの戦場を陸、海、空という三つの視点、三つの時間軸でIMAXカメラを使って映し出し、そうした視点・時間を縒り合わせることで観客を戦場のど真ん中に放り込んだノーラン監督。観客が登場人物の一人であるかのような緊迫感を味わい、息もつけないという、極上の映画体験を実現しました。大画面・大音量でこそその真価が発揮され、映画そのものの力で人々を映画館に向かわせたという点でも評価されるべきでしょう。
戦争映画をサスペンスで→戦争映画を目を背けたくなる凄惨な描写は使わず、ひと時も目を離せなくなるサスペンスにした点でもオリジナリティーある本作。タイムリミットまでの時間を淡々と刻むような不穏な音楽が素晴らしく(手掛けたのは『ダークナイト』3部作など名作曲家ハンス・ジマー)、極限状態のサスペンスを盛り立てています。効果音も効果的で、音響関連にそろってノミネートされているのもうなずけます。
『ダンケルク』監督・脚本:クリストファー・ノーラン 出演:フィオン・ホワイトヘッド、ハリー・スタイルズ、トム・ハーディ 配給:ワーナー・ブラザース映画 上映時間:1時間46分 日本公開:ブルーレイ&DVD発売中
第90回アカデミー賞8部門ノミネート:作品賞、監督賞、撮影賞、美術賞、音響編集賞、録音賞、編集賞、作曲賞
人種差別テーマの異色ホラー!笑いも盛り込まれた『ゲット・アウト』
低予算ながら全米ボックスオフィスランキングで初登場1位に輝くなど異例の大ヒットを記録した、人種差別を題材にした異色ホラー。黒人青年が白人の彼女の両親の家を訪ねることになるのですが、その町は白人ばかりで……。コメディアンとして有名なジョーダン・ピールが、監督デビュー作で才気を爆発させています。ちなみにピールは、監督業の方がずっと面白いので、『ファントム・スレッド』のダニエル・デイ=ルイスと同様にもう俳優業は引退だそう。
スゴイのはココ!
潜在的な差別意識をえぐり出したストーリー→本作の恐ろしさの大部分は、白人だらけの中にいる黒人がどう感じるか、という点に由来するものです。表向きには「差別などない」としていても、一たびそうした状況に置かれると居心地の悪さや恐怖心を感じるのは、潜在意識では別のことを考えているからでしょう。あまり目を向けたくない題材をホラーに落とし込んだストーリーが秀逸です。
でもコレ、コメディーですよね!→人種差別、ホラーと暗~い感じかと思いきや、コメディー映画といっても語弊がないのが本作のユニークなところ。主人公を外部からサポートするおしゃべりな友人など、笑いも絶妙に盛り込まれていて、エンタメ作品としても一級品! ハリウッドの映画館ではたびたび笑いが起きていました。
『ゲット・アウト』監督・脚本:ジョーダン・ピール 出演:ダニエル・カルーヤ 配給:東宝東和 上映時間:1時間44分 日本公開:公開中
第90回アカデミー賞4部門ノミネート:作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞
匠の技!これぞポール・トーマス・アンダーソンな美しさに酔いしれる『ファントム・スレッド』
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のポール・トーマス・アンダーソン監督とダニエル・デイ=ルイスという通好みな二人が再びタッグを組んだというだけで、映画ファンなら興味をそそられるもの。今回アンダーソン監督が紡いだのは、1950年代のロンドンを舞台に、社交界から脚光を浴びる天才的な仕立屋(デイ=ルイス)と、彼のミューズとなった若きウエイトレス(ヴィッキー・クリープス)の純粋で歪んだ愛のカタチです。
スゴイのはココ!
カメラワーク、衣装、音楽、全てがPTA印!→クレジットはされていないものの撮影を務めたのもポール・トーマス・アンダーソン(PTA)監督で、ワンカット、ワンカットにPTA印が! 流れるようなカメラワークは、短くどんどん切り替えていくのがトレンドな近年のエンタメ映画とは好対照で、その美しさに心酔してしまうほど。オートクチュールの仕立屋が主人公とあって、そこに映るものもカメラワークと同じくらい美しいんですよね! レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが手掛けた音楽まで、全ての要素がアンダーソン監督の美意識を拠り所に構成されています。
熟練の俳優陣→3度のオスカー受賞を誇るダニエル・デイ=ルイスと、彼の姉を演じたレスリー・マンヴィル(『家族の庭』)と、熟練の俳優陣の気品すら感じさせる演技はさすがの一言。徹底した役づくりで知られるデイ=ルイスは撮影前に約1年間も、ニューヨークの裁縫師のもとで衣装作りを学んだといい、ちょっとしたドレスに触れる手つきや立ち居振る舞いまで、仕立屋そのものです。
『ファントム・スレッド』監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン 出演:ダニエル・デイ=ルイス、レスリー・マンヴィル 配給:ワーナー・ブラザース映画 上映時間:2時間10分 日本公開:5月26日
第90回アカデミー賞6部門ノミネート:作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞、作曲賞、衣装デザイン賞
主婦が巨悪に立ち向かう!今の時代だからこそ描く意味のある『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』
闇を暴いた新聞社の実話もの、と言えば『スポットライト 世紀のスクープ』が思い出されますが、本作はジャーナリストというよりも、新聞社の女性経営者(メリル・ストリープ)の視点に重点を置いているのが面白いところ。ベトナム戦争真っただ中の1971年、戦争に勝てないと知りつつも兵士を送り続けていたアメリカ政府の欺瞞が記された極秘文書「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在が明らかになったことで、報道の自由を懸けた闘いが始まります。
スゴイのはココ!
安定のメリル・ストリープ!→ノミネーション発表で21回目(アカデミー賞俳優部門で史上最多)となるメリルの名が呼ばれて多少のマンネリを感じつつも、映画を観れば大いに納得されられてしまうのが彼女が名女優たるゆえん。これまで一度も仕事をしたことのなかった女性が夫の自殺によって新聞社ワシントン・ポストを率いなくてはいけなくなり、完全なる男社会の中、会社のために、正義のために、リスクを一手に引き受け立ち上がるさまを、強さも弱さもひっくるめて表現できたのはメリルだからこそ。
女性のエンパワーメント&トランプ政権、現代の映し鏡のよう→次回作『レディ・プレイヤー1』の製作準備段階に入っていながら、本作の脚本を手にするや「今すぐこの映画を作らなければ」と尋常ではないスピードで先にこっちを仕上げてしまったスティーヴン・スピルバーグ監督の仕事の速さ、そして時代の潮流を読む目は相当なもの。1971年と半世紀近く前を舞台にしながら、女性のエンパワーメント(力を獲得すること)、力を誇示して都合の悪い事実はひた隠しにする政府と、現代の映し鏡のような物語は今描いたからこそ力を持ったのです。
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』監督:スティーヴン・スピルバーグ 出演:メリル・ストリープ、トム・ハンクス 配給:東宝東和 上映時間:1時間56分 日本公開:3月30日
第90回アカデミー賞2部門ノミネート:作品賞、主演女優賞