「あるある」と納得するはずのエピソードの数々!17歳の少女の揺れ動く心を描いた『レディ・バード』
第90回アカデミー賞
大学進学を目指す17歳の女子高生の日常を描くシンプルなドラマは、カミング・オブ・エイジ物語であると同時に母娘のラブストーリーであり、そして故郷を愛しく思う気持ちがにじみ出た心温まる秀作だった。(文:山縣みどり)
ヒロインは、米カリフォルニア州サクラメントのミッション系女子高校に通うレディ・バード。本名はクリスティーンだが、「私は凡人じゃないの」とばかりに風変わりな名前を名乗り、「サクラメントなんてカリフォルニアの中西部よ」と毒づく。やや自意識過剰なのは、母親と口論になった挙句に車から飛び降りる冒頭のシーンからも明らかだ。といっても反抗的な不良というわけではなく、大人に対して少し斜に構えているだけ。子どもと大人の中間にいる彼女の学校生活や初恋の描き方はリアルでちょっとコミカルだ。
ソフィア・コッポラが描くおしゃれな少女像とは一味違うが、普通の女子がシンクロできるのはレディ・バード。そういう意味では真のガーリー・ムービーといえるだろう。
例えばレディ・バードはミサで配られるご聖体をスナックのように食べながら親友ジュリーと自慰行為の話に興じたかと思えば、母親に「セックスするのに最適なのはいつ?」と教えを請う。初恋相手がゲイとわかってショックを受けたり、クールな少年の恋人になるために背伸びしたり。学校ヒエラルキー上位の美少女にこびを売って、親友と大げんかする一幕もある。
母親との関係はより複雑だが、レディ・バード視点で描きながらも娘が傷つかないようにと願う母心が痛いほどに伝わってくる。東海岸の大学進学を希望するレディ・バードに地元の学校を進める母親は娘の才能を信じていないのではなく、夢が破れた娘が傷つくことを危惧しているのだ。
男女問わず、観客が「あるある」と納得するはずのエピソードの数々にグレタ・ガーウィグ監督の鋭い人間観察眼が生かされた。主演作『フランシス・ハ』(2012)や『ミストレス・アメリカ』(2015)の脚本執筆に関わっていた彼女にとってはこれが単独での監督兼脚本家デビュー作で、ウィットに富んだセリフの応酬や抑制の効いた演出、時代とキャラクターの気分が伝わる音楽の使い方は完成度が高く、グレタの才能にひれ伏すのみ。
そんなグレタの分身? と誰もが思うレディ・バード役のシアーシャ・ローナンと母マリオン役のローリー・メトカーフが披露する丁々発止のやり取りは抜群だ。すでに今シーズンの賞レースで善戦を繰り広げているふたりをはじめとする役者陣は全員がキャラクターの心情を的確に表現していて素晴らしい。
特に強い印象を残すのがおデブな親友ジュリーを演じたビーニー・フェルドスタインと、妻とは違った形で娘を支える父親役のトレイシー・レッツ。また演劇部を指導することになるアメフト部コーチ役のボブ・スティーヴンソンの体当たり演技には大爆笑させられた。
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