ついにオスカー獲得なるか!鬼才ノーラン監督が数々の実験的な試みに挑んだ『ダンケルク』
第90回アカデミー賞
あの『ダークナイト』ですら、作品・監督候補に挙がらなかったクリストファー・ノーラン監督が、初めて実話を基にして描き、ついにオスカー候補となった『ダンケルク』。史上最大の撤退作戦と呼ばれる“ダンケルクの戦い”を題材に、数々の実験的な試みに挑みながら、まるで戦場にいるような体感型エンタテイメント大作に仕上げた鬼才のこだわりは、恐ろしいほどハンパない!(文:くれい響)
1940年5月、フランス北部の港町・ダンケルク。市街地から生き延び、仲間とともに救護兵を装って、浜辺から救護船に乗ろうと画策する、若き兵士のトミー(フィオン・ホワイトヘッド)。ドイツ空軍に対抗するため、戦闘機・スピットファイアに乗り込んで、同僚と出撃する空軍パイロットのファリア(トム・ハーディ)。そして、危険も顧みず、息子のピーターと彼の友人とともに自身の観光船・ムーンストーン号で兵士たちを救出しようと、港を出航する船長のドーソン(マーク・ライランス)。
「陸」・「海」・「空」、3つの視点から語られる三者三様の物語は、戦争映画というよりも息詰まるサバイバルサスペンスに近い。前作『インターステラー』に続き、ノーラン作品参加となるオランダ出身のホイテ・ヴァン・ホイテマは、全編をIMAX65ミリおよび65ミリで撮影。ラージフォーマットの特性を最大限に生かし、没入感のあるダイナミックな映像美を生み出している。
また、全編に渡って、登場人物たちのセリフを最小限に抑え、ディテールのみで描いていくため、ノーラン監督はエリッヒ・フォン・シュトロハイム監督の『グリード』(1924)やF・W・ムルナウ監督『サンライズ』(1927)といったサイレント映画を研究。さらに、『西部戦線異状なし』(1930)といったクラシックから、『炎のランナー』(1981)や『スピード』(1994)、『アンストッパブル』(2010)といった近作まで、新旧作品の影響も多くみられるのも興味深い。
また、緊迫感溢れるハンス・ジマーによる音楽には、モーター音などのサンプリングも組み合わされており、より緊迫感が高まる効果をもたらしている。また、スピットファイア3機を実際に飛ばすほか、フランス海軍駆逐艦マイレ・ブレゼなどの本物の軍艦も用意。エンジン音やプロペラ音、また6,000人のエキストラなどといった、ノーラン監督の本物に対するこだわりは、まさに制作費100憶円超えの大作ならでは、といえるだろう。
にもかかわらず、長尺が当たり前と化していたノーラン作品の中でも、長編監督デビュー作『フォロウィング』(1998)に続く、キャリア2番目に短い上映時間(106分)だったり、世界的な人気を誇るワン・ダイレクションだからといって、決して優遇しないハリー・スタイルズの使い方といった意外さも目に付く。
「第二次大戦を舞台にした作品は、オスカーに強い!」と言われるジンクスもあるだけに、ギレルモ・デル・トロと一騎打ちになりそうな監督賞など、ノミネート8部門(作品賞・監督賞・撮影賞・編集賞・録音賞・音響編集賞・美術賞・作曲賞)中、どれだけ受賞できるのか? 一部ではアンチもいる、鬼才の真価が問われるときがやってきた!
第2次世界大戦中に行われた奇跡の脱出作戦を描く 映画『ダンケルク』予告編