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本と映画とパンを楽しむ藤沢の癒やしの空間

ラジカル鈴木の味わい名画座探訪記

 春到来! 湘南スカイライナーの車窓に満開の桜。片瀬江ノ島と藤沢の中間の鵠沼海岸駅下車、肉屋さん、八百屋さんなど、のんびりしたマリンロード商店街を行くこと3分、元写真館だったレトロな建物が。前回は思いっきり男らしいハコだったけど、今回は本と映画とパンの、とっても女性らしいコヤ映画館のようなのに“食べログ”にも登録され、オーナーのセンス全開なのは共通。席数36の店内は、あまりにもくつろげる空間

今月の名画座「シネコヤ」

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 とは言え基本は貸本屋で、映画も上映、なのだ。書を深く味わうための映画と音楽と食。アート、映画関連の本が約3,000冊。外には持ち出せないけど1日出入り自由で店内の好きな場所で読める。システムは漫画喫茶に近く、近所にあったら入り浸っちゃうなあ。都心だと会社をサボって寝るとか、良からぬ輩もいそうけど、喧噪を離れたこの場所では秩序とトーンは保たれている。

 開店の9時には既に数名の列が出来ていた。入ってすぐ受付と、パン屋さん。お茶のみの利用も可、その場合貸本料は不要。陽光差し込む明るい1階奥のなんとも素敵な読書スペースは、映画の予告編が流れる。この日はお馴染み『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989)や『ラ・ラ・ランド』(2016)などが。

 階段を上がり2階へ。対照的に外光が遮断され、木造に暗めの照明と内装、この雰囲気は僕の大好きな渋谷のクラシック喫茶「ライオン」に似ている。赤いカーテンをくぐり足を踏み入れると、棚にはズラリ並ぶ本、こんなの見たことない。古道具屋で揃えたさまざまな椅子は、マンションの一室でやっていた移転前の「アップリンク・ファクトリー」を思い出す。テーブルにパン、飲み物を置き、リラックス。毎月前半後半でテーマを変え、1月に4本の映画が流れる。オーナー自ら「ごゆっくりお過ごしください」のアナウンス。ホームシアター並みなのかなと思いつつ上映が始まると音響や映像は迫力がちゃんとある、映画館のようだ。

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「もっと身近に、生活に映画があれば」

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1階奥の読書スペース。今後上映予定作品の予告編が流れる

 「4月で、お陰様で1周年になりました。ご近所の方にお買い物や用事の合間に自転車で寄っていただいたり。1日券と年間パスポートがあって、パスポートのお客様も増えました。女性が8割、30~60代の方が中心ですが、最近はこの空間に興味を持った若い方も。土日は都内や埼玉、千葉の遠方からもいらっしゃいます」。記念イベントとして4月1日からゴールデンウイークの5月5日まで、1970年から2015年の「キネマ旬報」をコンプリートで公開。併せてアンコールの多かった映画も流している。

 オーナーの竹中翔子さんはアルバイトしていた地元の老舗を含め、生まれ育った藤沢に映画館が一軒もなくなってしまったのを憂い、NPO法人湘南市民メディアネットワークの一つとして2007年から「シネコヤ」という名称で上映会を始め、昨年遂にお店をオープン。

 街からは映画館だけでなく、喫茶店や古本屋も少なくなってきている。「あえて境界を設けないで、わたしの消えて“三大さみしいもの”を盛り込みました。映画館という枠組みにとらわれる必要はないと思ったんです。もっと身近に、生活に映画がある空間の、モデルケースになれば。普通の劇場よりずっとラフで、お客さん同士で自然に会話しやすいので、常連さんが一見さんにウチのシステムを説明してくれたり、そうやって人と人が繋がっていく場になってきたのも嬉しいです」。かつてはこんなふうに感動を共有出来る場が、街中にいくつもあった。

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本と映画の相乗効果って……?

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上映スペースにも沢山の本が。店内どこへ持って行って読んでもOK

 リコメンドする書籍と映画が作用し、より造詣が深くなるようにとプログラムを組んでいる。「先日は詩をモチーフにして、書籍は戦後の代表的女性詩人・茨木のり子さんの「自分の感受性くらい」を紹介し、映画は現在活躍中の最果タヒさんの詩が原作の、石橋静河&池松壮亮共演の『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017)を上映しました。いま詩集は売れないけど、この人の本はヒットしているんです。新旧両方の世界に触れることで、お客様がさらにテーマを深く掘り下げる機会になったのではないかと思います」。

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丁寧に焼かれた天然酵母使用のパンは絶品。ドリンクと共に鑑賞のお供に

 シネコヤで紹介する作品と個人的に好きなものはほぼ一致している。ただ、マニアックになり過ぎないように周囲の意見も聞いているという。「わたしがイチオシだった作品は“重過ぎる”と言われ、お客さんがあまり入りませんでした。そういうこともありましたから」。また今年は、チョイスにちょっと振れ幅を持たせてみたいという。「5月に『あゝ、荒野』(2017)をやります。ウチとしてはかなりハードなテイストですが、主演の菅田将暉さんは、仮面ライダーの頃から注目していまして(笑)」。

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ただ消費される空間にはしたくない

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『道』 ジュリエッタ・マシーナ アンゾニー・クイン 監督;フェデリコ・フェリーニ 1954年

 「最近、シネコンに久々に行って、あらためて感じました。シネコンはテーマパークに近いなと思います。本編上映前に何本もの予告が流れて、CMもたくさんで、テレビを観ているのとあまり変わらない。手軽で、身近なんだけど、何かちょっと残念な……もちろん手軽さみたいなものは必要だと思いますが、ウチはただ消費される空間にはしたくないな、と。例えば、販売しているパンは自家製酵母で、大量生産の菓子パンとは違って、ちゃんと体の栄養になります。同じように、栄養となるような時間を、ここでは過ごして欲しいんです」。

 この商店街の魅力を聞くと「ゆるやかな空気感が好きです。だからこの街を選びました。日々せわしない生活の中で、いつもと違う流れの時間を過ごして欲しいんです」とのこと。ベビー連れOKの上映回“ママタイム”を設けるといった試みも、そういう考えから。

 「この辺は比較的残っているけど、やはり古いお店は徐々に無くなっていきます。けど、また若い人がそれを受け継いで、リノベーションしたりして、街も新陳代謝をしていけばいいのかなと。そうして、街の風景、商店街が残っていけば良いなと思います。それぞれが自分の住んでいる街に理想の空間を作っていったら楽しいと思います。その街、その街にあったものが、新しい形で続いていくといいですね。その中で、各々の街のシネコヤが出来たら面白いかもしれません。そうしたら街に映画文化も残っていけるのではないでしょうか」。

 自分の気持ちに素直に従ってきた、と語る竹中さんはキラキラと輝いていた。やりたいことをやっているヒトはやっぱり魅力的だ。僕らも見習って、もっともっと自由な発想することに、映画と、充実した未来はあるんではないかしらん!? 今度の週末はぜひ鵠沼海岸まで行ってこの目で見てみましょう~。

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店舗情報

シネコヤ
住所:神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6
TEL:0466-33-5393
席数:1階 20席/2階 16席
URL:http://cinekoya.com
FB:https://www.facebook.com/cinekoya/

ラジカル鈴木 プロフィール

イラストレーター。映画好きが高じて、絵つきのコラム執筆を複数媒体で続けている。

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