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北関東最大の花街に残る大劇場

ラジカル鈴木の味わい映画館探訪記

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 群馬県最大の都市、高崎編・第二弾。 市のイベント“キングオブパスタ”優勝店「スパゲッティー専科はらっぱ」で絶品辛口トマトソース・ガーリックフライのせをランチに頂き、猛暑でもスタミナはばっちり。「シネマテークたかさき」から10分、駅からは徒歩15分、かつての賑いの中心・全長430mの高崎中央銀座。現在は激しく味わいのある商店街だが、一番街、二番街と進み、三番街の角を曲がると、スナック街の“北関東の吉原”と謳われた花街・柳川町。おおお、その細い路地に似つかわしくない圧倒的な大きさの威風堂々とした姿!!! 運営が同じ「シネマテーク」と対照的なもう一館は、1913年、市初の映画館として開館し105年の歴史を持つ「高崎電気館」。2度の建替えがあり、この建物は大映直営の“高崎大映電気館”として興業全盛期1966年の築。この規模で51年残ってるのが凄い、もはや都内には皆無。

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中央銀座商店街のゴージャスなゲート
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105年の歴史!高崎電気館

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一階の券売窓口

 1階は券売所、かつての「電気館II」の表示がそのままになっている貸会議室、事務所、飲食店等。階段を上がり、2階へ。ロビーには懐かしい邦画のポスター、スチール写真、そして立派な35ミリフィルムの映写機が飾られる。オーナーの死去により2001閉館したが、夫人によって状態を保たれ、13年を経て、市に寄贈され“高崎市地域活性化センター”として復活。NPO法人たかさきコミュニティシネマが映画館業務を委託運営する。『ここに泉あり』(1955)の無料上映で2014年再スタート。

 いよいよ場内へ。ウワ~~~広い!!!! 圧倒的な席数と奥行き! スクリーンから一番後ろまではかなりの傾斜、一階分くらいの落差がある。高い天井、湾曲した大スクリーンは往年のテアトル東京や渋谷パンテオン(現在のヒカリエの場所にあった)を彷佛とさせる。当初473席あったが、現在はゆとりを持って256席。座席カバーは閉館前のままで、今は存在しない店の電話番号も。本当に良く残ってる、こりゃ国宝級だ! 上映時以外は事務所に声をかければ見学できる。

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カラフルな場内。圧倒的な高さと奥行きはコンサートホールのようだ

 デジタル映写機も導入したが、基本は35ミリフィルムの上映、ここではフィルムで観たい。相応しいプログラムは、“市川雷蔵特集”や“おとなの大映祭”では1966年の竣工時に訪れた江波杏子の『女賭博師』シリーズ、関根恵子(現・高橋恵子)、渥美マリ若尾文子らの作品を。また「アイドル映画特集」では南野陽子『はいからさんが通る』(1987)、菊池桃子パンツの穴』(1984)、薬師丸ひろ子『翔んだカップル』(1980)などなど……大画面で観れるなんて感激~。

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定期的に上映の「ここに泉あり」岸恵子を始めとするスタッフ・キャストのサインも
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35ミリ上映の修行を積んだ映写担当

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ロビーに展示される35mmフィルムの映写機。もう1台は現役で使用

 「4年経って、定期的に開催している“電気館祭り”のリピーターも増えました。長い閉鎖期間があったので“懐かしい”とか、“中に入れて嬉しい”などの声をよく聞きます。大映直営館の時代をご存知の方や、大映倒産後は松竹の直営だったので『男はつらいよ』シリーズを観てその頃のイメージをお持ちの方も多いです。雷蔵は凄い人気で、初めてここで体験してハマって、全国の上映を追っかけている20代の女性もいます。女優さんでは若尾さんが人気でしょうか」。

 飯塚さんは高崎市出身の40才。「地元は、合併前は高崎市ではなくて、どっちかというと前橋の映画館によく行っていました。好きなのは相米慎二監督や、群馬出身の曽根中生監督です。高校生の時、今は貸し会議室になっている70席の電気館IIで大友克洋の『MEMORIES』」(1995)を観たのが最初で、ちょっと汚い印象で、今は無いけど、暖房のボイラーの音がうるさかったです(笑)」

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大映の直営館時代のポートレートが

 20才で高崎映画祭のボランティアになり20年。「この映画祭は、専門的な知識が必要な映写担当までボランティア、という珍しいケースだったんですが、それで初めて扱って、覚えました。電気館は映画祭の会場で度々使われて、午後10時からの上映やオールナイトも時々あって、そういうときははなから電車では帰るつもりはなくて」

 その後大分の“大分シネマ5”でフィルムを扱う修行を積んだ。「今、デジタルの上映があまりにも楽過ぎて、慣れちゃうと35ミリの上映はやっぱり手間がかかるなあ、としみじみ思います(笑)。年々、少しずつデジタル上映が増えていますが、今度のアニメ特集4本のうち1本はフィルム、別の特集では8本のうち4本がフィルム、と、必ずフィルムは入れるようにしてます」

 これからどんなイベントを組んでいるか聞く。「2014年に閉館した“吉祥寺バウスシアター”から始まって全国に広がっている“爆音映画祭”を2回開催しましたが、今年もやりたいと思っています。高崎では「シネマテーク」ではちょっと狭いし「文化会舘」ではNGだし、近隣にも問題がないここが一番適しています。あとは『バーフバリ 王の凱旋』(2017)を中心に、高崎出身のライター、DJのサラーム海上さんセレクトのインド映画ウィークを9月に企画しています」。なるほどここなら独立した建物で、周辺は繁華街だから理解も得られやすい。

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映画の街・高崎を守りたい!

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『眠狂四郎 円月斬り』(1964)市川雷蔵  浜田ゆう子 成田純一郎 監督:安田公義

 市の総務部・企画調整課に勤める浅田巧真さんは、高崎出身の32才。「高崎は、街の象徴・音楽センターも市民の力で作ったし、この人口であの規模の楽団があるのが凄いと思います。電気館は市が直営で管理運営を行っています。高崎はさまざまな文化の街ですが“映画の街”としても、ここは絶やしてはいけない交流の場、シンボルとして守っていかなければならないと思っています」

 電気館の思い出を語っていただく。「小学生のとき初めて来ましたが、子供だったんで、きれいな映画館よりも強烈に記憶に焼きついています。何だか凄いところだな、と」。当時、中央銀座商店街に何軒もゲームセンターがあって、よく遊びに来たという。「懐かしいです。今、子供たちは駅前の複合商業施設に行っちゃうのかもしれませんが、またアーケードにも足を運んで欲しいです。過去があって、そこで頑張ってきた人が居て、ルーツとか、拠り所は、残すべきだと思うんです」

 電気館の保存を決定した、文化事業に積極的でアイデアマンと誉れの高い市長・富岡賢治さんは街を盛り上げるため、ほかにもいろいろな企画を推進している。北関東4市で連係して自転車走行会を企画したり、また今回僕も、紹介されていた2軒を巡り堪能した“絶やすな! 絶品高崎グルメ『絶メシ』リスト 食えなくなっても知らねえよ~!”の企画も素晴らしい。「昔ながらの個性的で古い店が無くなっていきますが、そのままのカタチで残すことと、PRが目的です」。対して最新の動向を聞くと「アリーナをはじめ、新しい施設が増えてきています。高崎もますます元気になります」

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商店街で屋外上映会

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新しい屋根が完成し"高崎レトロアベニュー"として生まれ変わった一角

 2014年の記録的な大雪で落ちてしまった中央銀座の三番街のアーケードは昨年無事復旧し、新たに“高崎レトロ・アベニュー”として生まれ変わった。完成記念に12月、スクリーンを吊るし“おでかけ映画館”と称したイベントを開催。「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)を上映しましたが、子供やたくさんの人が集まって、僕らが遊んでいたの頃の光景を見た気がしました。これから、もっともっと新スポットとして注目されて欲しいです」。と浅田さん。

 レトロ・アベニューには実はもう1つ、かつて70ミリフィルムを上映していた800席! の、電気館以上の大劇場「オリオン座」が、2003年に閉館したままの姿で残っている。閉館時は分割され3スクリーンだったらしい。「再利用の話もあったんですが……。とにかく、電気館から始まった高崎の映画史、興業の歴史を、まだ関係者が存命中に取材してまとめたいと思っているんです。自分の興味と、また何からの形で記録したい使命感からです」と飯塚さん。

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今も閉館時そのままの姿を残す大劇場"高崎オリオン座"

 今後の抱負を聞くと、「とにかく潰れないことですね。これからも相当業界は変わっていくと思うけど、どうなりますかね。名画座的な側面は大きいけれど、あまり名作主義に陥らず、たとえ評価が駄作でも中には拾い物があって、これ全然知らなかったのに面白いじゃん! ってお客さまと盛り上がったり(笑)それが楽しいです。 自分の興味の無いものもでも観に来て欲しいですね。沢山観れば、きっと新しい発見があると思います」

 知っていたようで、まだ全然知らなかったDEEP in 高崎、映画の街。昔と違い今は都心から乗り換え無しで約2時間、新幹線なら50分。あの彎曲した大画面で往年の名画、最近の傑作を観て欲しい。出かける価値は十二分にある。絶メシ!と中央銀座商店街も合わせて体験を!

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映画館情報

高崎電気館(高崎市地域活性化センター)
〒370-0831 群馬県高崎市柳川町31
TEL:027-395-0483
席数 2階256席 1階研修室70席 集会室30人程度収容可能
高崎電気館HP
高崎市役所HP
高崎電気館Twitter:@denkikan1913
高崎電気館Facebook:@takasakidenkikan

ラジカル鈴木 プロフィール

イラストレーター。映画好きが高じて、絵つきのコラム執筆を複数媒体で続けている。

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