アクションで語る男 岡田准一
先日5夜連続で放映され、高評価を受けた「白い巨塔」の財前五郎役のインパクトもまだ残っている中、最新作『ザ・ファブル』が公開される岡田准一。大河ドラマ「軍師官兵衛」や是枝裕和監督作品『花よりもなほ』『陰日向に咲く』などなど、“静”の演技でもじっくり見せて(魅せて)くれます。2015年には『永遠の0』と『蜩ノ記(ひぐらしのき)』で日本アカデミー賞初となる主演と助演の最優秀賞を同時受賞しました。ジャニーズという枠を越えて今や日本映画界を代表する俳優となった岡田准一。しかし、なんといってもトップクリエイターも認める俳優・岡田准一の大きな魅力と言えば本格アクションでしょう。(村松健太郎)
ハリウッドデビューも決まった『銀魂』シリーズの小栗旬やシリーズ最終章も決定した『るろうに剣心』シリーズの佐藤健、『居眠り磐音』の松坂桃李などなど、普通の劇ドラマで主役を張りつつアクションもバリバリにこなすというタイプの俳優が当たり前になっています。そんな中でも岡田准一は頭一つ抜けている感覚があります。
もともと、後輩ジャニーズグループの面々から「V6のアクロバットはすごい」と言われていた通り、ハイレベルなダンスパフォーマンスを見せてきたV6。各メンバーも本業のライブに加えて、ドラマ・映画・舞台の中で“動き”を魅せてくれてきました。そのV6の最年少メンバーだった岡田准一。デビュー当初は静の演技が中心でしたが、2003年の『フライ、ダディ、フライ』で初めて本格的なアクションを披露します。
圧倒的格闘センスの持ち主を体現した『フライ,ダディ,フライ』
後に「SP」で主演と脚本家としてコンビを組むことになる直木賞作家の金城一紀の同名小説映画化で、後に韓国でもリメイクされた作品。堤真一演じる父親・鈴木が娘に暴力をふるった不良・石原(演じるのは当時現役のK-1ファイーターの須藤元気)に何とか一矢報いるために、高校に乗り込みますが、そこは隣の高校で……。
その高校で出会った喧嘩の達人・朴舜臣(パク・スンシン)を演じるのが岡田准一。元韓国の特殊部隊出身に鍛えられたという設定で圧倒的な格闘センスの持ち主です。この偶然と勘違いの出会いから朴と鈴木は特訓の夏を過ごすことになります。
頼りない父親役の堤真一ですが、そのルーツをたどれば千葉真一が作ったJAC(ジャパンアクションクラブ、現在のJAE:ジャパンアクションエンタープライズ)出身ということで“動ける人”でもあります。前半の見事な“やられっぷり”も動けるからこそでしょう。
あくまでも今作での岡田准一演じる朴舜臣は、鈴木のトレーナーという立場ですが、何せ“強い男になるための見本”を演じているために引き締まった身体から切れのある動きを魅せてくれます。また、劇中に披露している美しい“鷹の舞”も見どころです。
劇中では後にインストラクター資格を得るまでに至るジークンドーの創設者ブルース・リーの『燃えよドラゴン』が登場したりと、今見るとニヤリとさせられます。堤真一とはその後も『SP』や『海賊とよばれた男』などで共演が続きます。
朴舜臣の「教えるのは勝ち方ではなく、闘い方だ」「勝つことは簡単だ、問題はその先にあるものだ」というセリフが実に印象的です。
違ったバリエーションのアクションを見せた『SP 野望篇』『SP 革命篇』
アクションに本格的にのめりこんだのが本作といっていいでしょう。メイキングではすでにアクション設計をする部分も見せています。演じた井上薫は警視庁警備部所属のSPであり、五感に優れた特殊能力に近いものの持ち主でもあります。
共演は『フライ,ダディ,フライ』に続いて堤真一。これに真木よう子、映画では丸山智己(『るろうに剣心 京都大火編』『るろうに剣心 伝説の最期編』『黒執事』)など動ける面々と共演しています。ドラマシリーズでは室内で対刃物、対銃器アクションのほか、エレベーターの中での近接戦闘や占拠された病院で“ダイハード的”な創意工夫に溢れたアクションでテロリストを倒していきます。
ドラマシリーズと劇場版2部作の『野望篇』『革命篇』の撮影の間に約一年の期間があり、この間に岡田准一は肉体改造を進める中でフィリピンの伝統的な武術カリやブルース・リーが創設したジークンドーなどを学びました。そして2010年にはカリとジークンドーの、その後にはさらにUSA修斗(総合格闘技の一種)のインストラクターの資格を得るまでに至りました。劇場版『野望篇』と『革命篇』は連続性のあるストーリーですが、そこで見せるアクションは違ったバリエーションを見せてくれます。
『野望篇』では冒頭の六本木ヒルズから地下鉄のホームにまで至る一連のパルクールアクションで始まり、有事発生の中で官房長官を護送する中で襲撃してくるテロリストと対決する要人警護アクションと屋外・野外でのアクションをダイナミックに魅せています。
一方の『革命編』ではなんと本会議場が占拠された国会議事堂が舞台。『革命編』のアクションはドラマシリーズの病院篇をスケールアップした作りですが、本会議場の議員が全員人質であると同時に中継もされてしまっている中で、一切気づかれることなく、テロリストを倒し・拘束していくさまが描かれます。
また、特殊な任務とはいえ、警官であることは変わりなく発砲シーンが少ないのもこのシリーズの特徴で、岡田准一演じる井上は撃たれても撃つことはありません。劇中で発砲するのは真木よう子だけです。
集団的なコンバットアクションに注目『図書館戦争』『図書館戦 THE LAST MISSION』
映画『旅猫リポート』やドラマ「空飛ぶ広報室」の原作で知られる、有川浩の同名小説を映画化したシリーズ。実写化企画が出る前に行われた“もしも実写化されたら誰がいいか?”というアンケートでトップを取った岡田准一と榮倉奈々がW主演を務めます。
今の日本とは違う昭和の後に正化という元号になった日本が舞台の本作では、メディア良化法という実質的な検閲制度が敷かれた社会になっています。この制度から表現の自由を守るために唯一書物を守ることができる図書館が防衛組織“図書隊”を組織したという世界観の物語になっています。実際に撮影協力には防衛相と各自衛隊がクレジットされています。図書隊という組織になっていますが、その外見は拳銃・自動小銃などを装備し、迷彩色のフル装備に身を包んでいて、自衛隊に近いものになっています。
ここでのアクションは集団的なコンバットアクションが中心で大規模な銃撃戦も披露しています。『SP』シリーズ同様、近接戦闘も見せますが手にするのは警棒ではなくナイフであったり、発砲シーンが多かったりと日本映画ではかなり突っ込んだアクション設計になっています。
メガホンをとったのは佐藤信介監督。『GANTZ』シリーズ、『アイアムアヒーロー』そして目下大ヒット中の『キングダム』と様々な形のアクション映画を手掛けている監督です。この佐藤監督と組み続けているのがアクション監督の下村勇二。佐藤監督とコラボレーションは多く『いぬやしき』『BLEACH』に加えてドラマの「ラッキーセブン」などでも組んでいます。
本作では岡田准一を中心に福士蒼汰たちが厳しいトレーニングを行ったというエピソードも披露しています。福士蒼汰はこの時から“岡田メソッド”の門下生を自認していて、最新作『ザ・ファブル』では岡田と対決する殺し屋を演じることになり、プレミア上映の場では念願の“師弟対決”が実現し、夢がかなったと語っています。
大物スタッフ集結の時代劇で本格的な殺陣に挑んだ『散り椿』
『蜩ノ記(ひぐらしのき)』でも役作りのために居合の道場に弟子入りして学んだ岡田准一。『花よりもなほ』や『関ヶ原』、そして大河ドラマ「軍師官兵衛」などなど時代劇の出演も多い岡田准一が本格的な殺陣に挑んだのが本作『散り椿』です。
この映画で特記すべきはなんといってもスタッフロールの“殺陣”に岡田准一の名前がクレジットされたことでしょう。これまでも、現場アクション設計(アクションコレオグラファー・ファイトコレオグラファー)に関わってきたことが語られてきた岡田准一ですが、本作ではついにアクション設計スタッフの一員になりました。
本作の監督は『八甲田山』など超大作のカメラマンとしても知られ、監督として『劔岳 点の記』を撮った木村大作。撮影助手時代には黒澤明監督のもとでも働いたこともあるという映画界の生きる伝説のような人です。
脚本の小泉堯史も黒澤明監督の門下生で助監督を長らく務めたあと『雨あがる』を撮りました。岡田准一とは監督・脚本作でもある『蜩ノ記』に続く共作となります。そんな重厚な布陣による時代劇の座長となった岡田准一は大人のアクションを見せてくれます。
余談ですが、本作の黒い着物姿で無精ひげの岡田准一の姿は『用心棒』や『椿三十郎』の三船敏郎を思い起こさせます。実際に木村監督はその三船敏郎や高倉健と言った往年の大スターを引き合いに出して映画俳優・岡田准一を語っています。
先日、惜しまれつつ亡くなった降旗康男監督。『網走番外地』から『鉄道員(ぽっぽや)』『あなたへ』など高倉健と多くの作品を作り続けた巨匠監督。そんな降旗監督は遺作となった『追憶』(カメラマンは木村大作)に主演した岡田准一に対して「健さんを継ぐ俳優になってほしい」と語りました。
ここで名前が挙がった三船敏郎、高倉健などの大スターは日本にとどまらず海外でも活躍。ハリウッド映画にも出演しています。アクションは非言語コミュニケーションの一つでもあります。アクションシーンへの信頼度から真田広之が『アベンジャーズ/エンドゲーム』に出演したこともあるように、そろそろ海外作品で岡田准一のアクションと演技も見てみたいですね。
端々で身体能力を堪能できる『COSMIC RESCUE - The Moonlight Generations -』『ハードラックヒーロー』『ホールドアップダウン』『永遠の0』『エヴェレスト 神々の山嶺』『関ヶ原』『来る』
これらの作品はアクション映画ではなく、軍人役であっても対人戦闘をすることはなく、時代劇であっても殺陣のシーンで見せるものではありませんが、端々で見せる所作はとても美しいものになっています。『エヴェレスト 神々の山嶺』では5,200メートルにあるエベレストのベースキャンプまで実際に出向き、リアルな登山シーンに挑んでいます。また謎の存在に翻弄されるホラー『来る』でのクライマックス、除霊シーンでの振り回されっぷりも見事です。
そして最新作『ザ・ファブル』へ
そして最新作として公開されるのが『ザ・ファブル』。ファブル=寓話と呼ばれる伝説的な殺し屋にふんした岡田准一。そんな伝説的な殺し屋が名前が知れ渡り過ぎたために一年間、プロの一般人として隠遁生活を送ることになります。シビアな黒社会を舞台にしつつも物語のテンションは全編コメディー。自身『木更津キャッツアイ』シリーズ以来と語る笑いに溢れた現場で作られました。※1
本作の岡田准一はアクションとドラマで見せた“静の演技”のハイブリッドのような演技を見せくれています。劇中は俊敏なアクションを連発させますが、表情はいつも以上に無表情・ポーカーフェイスでそのやっていることと表情の温度差と、裏社会の常識しか知らない人間が一般社会に溶け込み切れずに出てしまうカルチャーギャップが絶妙で、笑いをこらえきれない作品になっています。
佐藤浩市、安田顕、佐藤二朗、木村文乃、山本美月という重厚な演技派に加えて、福士蒼汰、柳楽優弥、木村了、向井理という動ける面々も加わり、平穏に過ごしたいファブルの隠遁生活はどんどんきな臭くなってしまいます。
クライマックスではファブル対大人数、ファブル対フード(=福士蒼汰)というバトルシーンが矢継ぎ早に展開されていきます。このアクション監督=ファイトコレオグラファーを務めたのが『96時間』シリーズや『ボーン・アイデンティティー』を担当したフランス人のアラン・フィグラルツ。この世界的なトップアクション監督と共に本作でも岡田准一はファイトコレオグラファーとしてクレジットされています。世界的なアクション監督も「ここまでスピーディーに動ける俳優は見たことがない」と絶賛しています。※2
そんなハイレベルの環境で作り上げられたのが“無駄のないアクション”。もともと6秒で相手を殺すという設定のあるファブルですが、さらに「殺し屋は手間のかかることはしない」という岡田のコンセプトが採用され、近接ガンアクションとでもいうべき、独特なスタイルが構築されていきました。※3
監督の江口カンは「岡田さんのアクションを(編集の段階で)早送りして使っていると思われるのが、一番悔しい」と語っています。※4 (※1、※2、※3、※4『ザ・ファブル』プレスリリースより)
次回作は『関ヶ原』を共作した原田眞人監督と再タッグの『燃えよ剣』
新選組副長土方歳三の生涯を描いた司馬遼太郎の代表作の一つで、54年ぶり二度目の映画化となります。
ここで岡田准一は主演の土方歳三を演じるとのこと。共演に近藤勇役で『西郷どん』の鈴木亮平、沖田総司役で『鋼の錬金術師』の山田涼介、芹沢鴨役でハリウッドデビューも決まった『海猿』シリーズの伊藤英明と動ける面々との共演が決まっています。
これからが楽しみなアクションもできる俳優たち~まとめ。
まずは『ザ・ファブル』で岡田准一と共演した福士蒼汰。「仮面ライダーフォーゼ」の主役を経て『図書館戦争』『無限の住人』『曇天に笑う』『BLEACH』、舞台「髑髏城の七人」などで見事な動きを披露しています。
現在、月9ドラマ「ラジエーションハウス」でも主演を張っている窪田正孝も『東京喰種 トーキョーグール【S】』『Diner ダイナー』が待機中で、どちらも高い身体能力を見せてくれます。実は、『るろうに剣心』シリーズに、“剣心に最初に傷をつけた男”清里明良役で出演しています。現在撮影中の新シリーズは剣心の過去にさかのぼるエピソードなので再登場があるかもしれませんね。
舞台仕込みの華麗なアクションを見せてくれるのが早乙女太一。舞台のアクション指導監督が何でもできると声をそろえるアクションは見事の一言です。
見せるときは見せてくれるのが池松壮亮。話題作『町田くんの世界』などドラマ作品で出演作が続く池松壮亮ですが『斬、』『劇場版 MOZU』など切れのある動きを見せてくれます。他にも菅田将暉や染谷将太、神木隆之介、新田真剣佑らも絵になるアクションを見せることができます。
海外でも『エクスペンダブルズ』シリーズ組のようなマッチョな俳優たちもいますが、『ミッション:インポッシブル』シリーズのトム・クルーズや『ジェイソン・ボーン』シリーズなどのマット・デイモンなど非アクション出身の俳優たちがバリバリのアクションをこなすのが今の映画の一つのありかたといっていいのではないでしょうか?
さかのぼればマッチョな人々の前はスティーブ・マックイーンやクリント・イーストウッドなどがいて、その前には西部劇のスターたちがいて、サイレント映画の時代ではチャールズ・チャップリンなどもともとはドラマとアクションの境界線がなかったという歴史もあります。
日本でも時代劇全盛期の頃のスターたちは素晴らしい殺陣を見せてくれますが、肉体派だったとは言えません。そんなことを考えると、“岡田准一の今の在り方”はある意味“必然”なのかもしれませんね。