『ワイルド・スピード』命知らずのカー・アクションBEST8
シリーズ初のスピンオフとなる『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』が公開間近。正編としては9作目となる最新作の撮影が開始されたことも世界的なニュースとなるなど、ますます盛り上がりを見せている「ワイスピ」。シリーズ全体の振り返りも兼ねて、過去8作品それぞれのカーアクションBEST8を完全なる私見によって選ばせていただきます!(村山章)
機関車が迫る踏切を突っ切る『ワイルド・スピード』(2001)
まだブライアン(ポール・ウォーカー)が潜入捜査官としてドミニク(ヴィン・ディーゼル)率いる窃盗団を追いかけていた1作目。しかし次第に認め合うようになり、やがて親友同士となるのは周知の通り。のちにディーゼル主演の『トリプルX』でも成功を収めるロブ・コーエンがメガホンを取った1作目時点でのドミニク一味は、日々ストリートレースを楽しみながら、副業としてビデオデッキなどの家電を強奪するお気楽集団だったが、純粋なカーチェイスを売りにしていたこの時期を懐かしむファンも少なくない。そしてBESTカー・アクションに選びたいのが、ラスト近くのドミニクVSブライアンのタイマンレース。機関車が迫る踏切を同時に突っ切った命知らずな瞬間に、2人は真に絆を深め合ったのだ!
航行中のボートにカマロで突っ込む『ワイルド・スピードX2』(2003)
ディーゼルが出演せず、ウォーカー演じるブライアンが単独で主人公となった2作目。監督は『シャフト』(2000)などのジョン・シングルトン。潜入捜査という設定は前作と同じだが、陽光きらめくマイアミを舞台にしたノリの軽さはシリーズ中でも随一。最近ではすっかりビビりのコミックリリーフとなっているローマン(タイリース)と調達屋のテズ(リュダクリス)が初登場した作品でもある。あえてBESTカーアクションを挙げるなら、数あるカーチェイスシーンではなく、ラストで航行中の敵ボートにカマロで突っ込むシーン。「ワイスピ」の面々はどんなムチャも余裕でやってのけるが、この時期はまだ2作目で超人的活躍に慣れていないせいか、船に突っ込んだ衝撃でブライアンとローマンが本当に痛そうなのがいい。
建設現場で無謀な運転&豪快なクラッシュ『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(2006)
東京が舞台となった3作目は、いろいろと曰く付きの作品だった。主人公はドミニクでもブライアンでもなく、シリーズ初登場の高校生ショーン・ボズウェル(ルーカス・ブラック)。日本に転校させられたショーンが東京でストリートレースにのめり込む……という前2作とまったく関連のない話になったのだ。しかし本作でシリーズ復活の立役者となるジャスティン・リン監督と脚本のクリス・モーガンが初登板。渋谷のスクランブル交差点をオープンセットで再現した市街チェイスが有名だが、ここはあえて冒頭の建設現場レースをBESTに選びたい。というのも、無鉄砲でやんちゃなガキンチョとショーンの人物像が無謀な運転と豪快なクラッシュで表現されており、カーアクション=人物描写という本シリーズの強みを決定づけたから。珍妙な日本の描写に惑わされがちだが、キビキビしていていい意味でバカっぽいし、『EURO MISSION』の後に観直すと泣ける! 3作目を侮るなかれ!
燃えながら横転するトレーラーをすり抜ける!『ワイルド・スピード MAX』(2009)
ディーゼル、ウォーカーら1作目からのキャスト陣が復帰して、シリーズとして息を吹き返した4作目。ただ、入り組んだ潜入捜査物ということもあってドラマパートが多く、クライマックスの坑道でのカーアクションは、実際に狭いセット内を走りまくっているのにいまいち迫力が伝わらない。しかしアバン(本編に入る前の冒頭シーン)のカーアクションはものすごい。ドミニク一味はドミニカ共和国でガソリン輸送車の強盗をしており、山岳地帯で車から車に飛び移るなど超危険なスタントを連発。トレーラーからジャンプしたレティ(ミシェル・ロドリゲス)をドミニクがしっかりと掴む場面は、後に『EURO MISSION』で100倍ド派手な形で再現されることになる。炎上しながら横転するトレーラーの下を抜けるドミニクのドライビングテクも凄いが、映画好き的には崖から落ちていくトレーラーのショットがスピルバーグの『激突!』オマージュに見えるのも楽しい。
撮影を観た市民が仰天!巨大金庫強奪シーン『ワイルド・スピード MEGA MAX』(2011)
いきなりスケール感がアップして、ストリートレースという枠から完全にはみ出した『MEGA MAX』のBESTカーアクションは、やはりクライマックスの超巨大金庫強奪シーンだろう。超巨大金庫と2台のダッジ・チャージャーをワイヤーで結び、文字通り引きずって走るというムチャクチャな力業は、ありえなさ過ぎてCG合成かと思われたが、そんなことは「ワイスピ」スピリットが許さなかった! 撮影ではリオデジャネイロ市街で実際に超巨大な鉄の箱を引きずり回し、仰天した市民の姿を巧みにインサートすることで「ありえないことが起こってる!」と観客にも信じさせる説得力を醸し出した。このアクションをいかに超えるかが、以降のシリーズの大きな課題となったに違いない。
高速道路で戦車と豪快チェイス『ワイルド・スピード EURO MISSION』(2013)
記憶喪失のせいで犯罪組織の一員となった恋人レティを取り戻すべく、ドミニク一味がヨーロッパに飛んだ6作目。BESTアクションは、間違いなくスペインの高速道路で繰り広げた戦車との豪快チェイス。特に空中に投げ出されたレティを救うために、ドミニクが大好きなダッジ・チャージャーをガードレールに突っ込み、その勢いで空中にジャンプ! 奇跡のタイミングでレティをキャッチした。レティのためなら命なんて惜しくないというドミニクの熱い想いとハイテンションなスタントが見事に融合した、“エモーショナルなアクション”ナンバーワンだ。
ウォーカー、崖から落ちるバスからの決死のダイブ!『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015)
邦題が『SKY MISSION』なだけあって、輸送機で運ばれて空から車ごとスカイダイビングしたり、アブダビの超高層ビルからアラブ製のスーパーカーで飛び出したり、とにかくアクロバティックな見せ場が多い7作目。しかしあえてBESTに選びたいのはブライアンの肉弾アクション。崖から落ちる敵のバスから脱出しようと、運転席から飛び出して宙づりになり、バスをよじ登って崖の縁へとダイブ。あわや届かないところをレティが運転するダッジ・チャレンジャーが崖スレスレに滑り込み、かろうじてウィング部分につかまって九死に一生を得るという離れ業。実はブライアンは、ドミニクと並ぶW主人公なのに、シリーズを通じて見せ場を他のキャラに持って行かれがちという“損することが多いイケメン”でもあった。しかし『SKY MISSION』はブライアンのアクション的な見せ場も多く、ウォーカーの夭折が惜しまれてならない。
無人車両が押し寄せる“ゾンビ・カー”チェイス『ワイルド・スピード ICE BREAK』(2017)
荒唐無稽なアイデアもエスカレートの一途をたどり、ついにSF感まで漂い始めたのが『ICE BREAK』のニューヨークでのカーチェイス。シャーリーズ・セロンふんする邪悪な天才ハッカーがマンハッタンの自動車を片っ端からハッキング。膨大な数の車が無人のまま迫ってくる異様な光景は、スタッフから“ゾンビ・カー”と呼ばれていた。ちなみにここでも「ワイスピ」はCGまかせにしたりはしない。無人運転に見せかけるために凄腕のスタントドライバーたちが車のシートに変装したりしながら実際に運転しているのだから驚かされる。スタントの皆さん、ご苦労様です!