隠れた名作も!俳優が監督した映画作品
今週のクローズアップ
監督としても活躍を続ける名優たち。クリント・イーストウッドやロバート・レッドフォードといった先達より下の世代の活躍を紹介します。(編集部・大内啓輔)
エドワード・ノートン
演技派として評価の高いエドワード・ノートンは『僕たちのアナ・バナナ』(2000)で初監督に挑戦しています。本作ではベン・スティラーとジェナ・エルフマンを共演に迎え、ユダヤ教の聖職者であるラビとカトリックの神父になった親友同士と、二人のもとにやってきた女性の関係が描かれます。ニューヨークを舞台に、宗教と友情をめぐる三角関係が丁寧に演出された良質なラブコメに仕上がっています。
それからおよそ20年、エドワードが再びメガホンを取った『マザーレス・ブルックリン』(2019)は1950年代のニューヨークを舞台にした、恩人であり友人でもある男性殺害の真相を探る探偵の姿を描くノワール作品です。往年のフィルムノワールのような雰囲気も感じられ、主人公の私立探偵を演じるエドワードをはじめ、ブルース・ウィリス、ググ・ンバータ=ロー、ボビー・カナヴェイル、チェリー・ジョーンズ、アレック・ボールドウィン、ウィレム・デフォーといった俳優陣のアンサンブルにも注目です。
ユアン・マクレガー
ユアン・マクレガーにとって初の長編監督作となったのは『アメリカン・バーニング』(2016)。『ポートノイの不満』『白いカラス』などの原作者としても知られる、ユダヤ系アメリカ人作家のフィリップ・ロスの小説を原作に、激動の1960年代アメリカで一人娘が過激な反戦運動に身を投じたことから崩壊する家族の姿を描きます。本国アメリカでも評価は高くなく、日本での劇場公開もささやかなものでしたが、複雑な問題を投げかける原作をもとに、格調高い雰囲気を湛えた作品に仕上がっています。本作ではジェニファー・コネリー、ダコタ・ファニングと家族役で共演。自身も苦悩し続ける父親を熱演しています。
そんなユアンが監督デビューを果たしたのは、1999年に製作された短編オムニバス映画『チューブ・テイルズ』に収められた一編。この企画はロンドンのカルチャー情報誌「タイムアウト」が地下鉄(チューブ)をテーマに短い物語を一般募集し、9人のクリエイターがお気に入りのストーリーを監督して1本の映画のようにしようというアイデアから生まれました。ユアンによる「ボーン」は、偶然目にした写真に写っていた、見知らぬ女性に恋をするミュージシャンが主人公。ほとんどセリフもなく、音楽も心地よい余韻たっぷりな作品です。ちなみにこの企画にはジュード・ロウも監督として参加していました。
アンジェリーナ・ジョリー
人道支援家としても活動するアンジェリーナ・ジョリーは、1990年代のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を背景とした『最愛の大地』(2011)で第69回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞にノミネートされました。恋人同士でありながら内戦によって敵になってしまったムスリム系女性とセルビア人男性の愛の行方を追う作品です。続く『不屈の男 アンブロークン』(2014)では、第2次世界大戦で日本軍の捕虜となったオリンピックアスリートが虐待に耐えながら生き抜く姿を正面から描き、監督としての覚悟をうかがわせました。なお、本作ではミュージシャンのMIYAVIが俳優として本格的なデビューを飾っています。
アンジェリーナ・ジョリー・ピット名義で監督した『白い帽子の女』(2015)では、脚本のほかに、夫だったブラッド・ピットと共に製作と主演を務めました。二人の共演は交際のきっかけとなった『Mr.&Mrs.スミス』(2005)以来のこと。1970年代初頭の夏の南仏を舞台に、それぞれに問題を抱えた夫婦が変化していく様子が官能的でフランス映画のような雰囲気で描かれていきます。
Netflix配信の『最初に父が殺された』(2017)では、再び骨太なテーマに挑みます。クメール・ルージュ時代のカンボジアを生き抜いたルオン・ウンの回想録をもとに、5歳の少女が過酷な運命の中で生きる様子を描きました。アンジェリーナの息子でカンボジア出身の養子であるマドックス・ジョリー=ピットが製作総指揮を務めています。
ジョディ・フォスター
アカデミー賞主演女優賞受賞を獲得した『羊たちの沈黙』公開と同じ1991年に『リトルマン・テイト』で長編映画監督デビューを果たしたジョディ・フォスター。自身が演じたシングルマザー、周囲に馴染めない天才少年や児童心理学者という三者の関係を温かく描きだしました。名女優ダイアン・ウィーストとの共演も見どころです。続く『ホーム・フォー・ザ・ホリデイ』でも同じくシングルマザーを登場させますが、こちらでは演出に専念。複雑な家族の姿をユーモアを交えながら描き、高い評価を集めたことで監督としての地歩を固めます。
その後も『マーヴェリック』(1994)に続いてメル・ギブソンと共演した『それでも、愛してる』(2011)、財テク番組占拠事件の行方を追うジョージ・クルーニー主演の『マネーモンスター』(2016)を監督しています。また、テレビシリーズ「ブラックミラー」のエピソード「アークエンジェル」(2017)を担当しているほか、映画プロデューサーとしての活躍も光ります。
イーサン・ホーク
イーサン・ホークは『チェルシーホテル』(2001)で長編映画監督デビュー。数多くの作家やアーティストが滞在したニューヨークのホテルを舞台に、成功を夢見る人々をめぐる5つの物語が紡がれます。詩的なムードが漂い、イーサンから捧げられた古き良き時代へのへのオマージュといった趣です。
1996年には小説「痛いほどきみが好きなのに」を出版し、2006年に自身が監督を務めて映画化しました。こちらもニューヨークを舞台に、新進俳優の主人公とシンガーソングライターの卵のもどかしい恋模様が描かれます。ほかにもイーサンは人生に迷っていた時期に出会ったというピアノ教師のシーモア・バーンスタイン氏にカメラを向けたドキュメンタリー『シーモアさんと、大人のための人生入門』(2014)も手掛けています。
トム・ハンクス
トム・ハンクスの初監督作品は1960年代にスターを夢見たロックバンドの青春や恋を描く『すべてをあなたに』(1996)。古き良きアメリカを舞台にした青春感あふれる物語はもちろん、すべてオリジナルだという劇中に登場する楽曲たちにも注目です。それからトムは2011年に『幸せの教室』を久々に監督し、自ら主演も務めています。ジュリア・ロバーツを共演に迎え、失業で一念発起して大学に入った中年男性による人生の再出発を描きました。
メル・ギブソン
何かとお騒がせなメル・ギブソンですが、監督としても存在感抜群なことは周知の通りです。1993年に『顔のない天使』で監督デビューすると、1995年の『ブレイブハート』でアカデミー賞監督賞を受賞。多額の私財を投じてキリストの最期を題材にした『パッション』(2004)、マヤ文明後期の中央アメリカのジャングルを舞台とした『アポカリプト』(2006)、第2次世界大戦に従軍した衛生兵をモデルにした『ハクソー・リッジ』(2016)でも、ヒットメイカーとしての存在感を見せつけました。
ベン・スティラー
監督しての活躍もお馴染みになってきたのはベン・スティラーです。1990年代の「X世代」を描いた『リアリティ・バイツ』(1994)で高い評価を獲得して以来、コンスタントに監督作を発表しています。ジム・キャリー主演の『ケーブルガイ』(1996)、超売れっ子のスーパーモデルが主人公の『ズーランダー』(2001)のほか、戦争映画のパロディーを織り交ぜて映画作りの現場を風刺した『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(2008)、ジェイムズ・サーバーの短編小説「虹をつかむ男」を再映画化した『LIFE!/ライフ』(2013)、続編『ズーランダー NO.2』と、俳優業とも並行してコメディーに徹した作品作りを続けている貴重な存在です。
ベン・アフレック
イーストウッドとキャリアを重ね合わされることもあったベン・アフレックは『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(2007)で長編監督デビュー。地元ボストンを舞台にしたデニス・ルへインの犯罪小説を題材に、少女失踪事件をきっかけにアメリカに巣食う深刻な社会問題が浮かび上がる模様を描きました。弟のケイシー・アフレックを主演に迎え、さまざまな立場の人間が絡み合う様子を堅実に演出しています。チャック・ホーガンの小説を原作にした『ザ・タウン』(2010)では、舞台を同じくボストンに据えて主演も兼任しました。
そんななか評価を確実なものにしたのが、引き続いて監督と主演を兼任した『アルゴ』(2012)です。1979年に起きたイランのアメリカ大使館人質事件を題材にした実録サスペンスで、見事アカデミー賞作品賞を受賞しました。2016年には再びルヘイン作品が原作の『夜に生きる』を監督しますが、これまでの監督作を超えるものではないと評価されました。監督としての新境地に期待したいところです。
ジョン・ファヴロー
『ルディ/涙のウイニング・ラン』(1993)で俳優として本格的に映画デビューを果たしたジョン・ファヴローは、2001年に二人のボクサー志望の青年が犯罪に巻き込まれていく姿を描いた『メイド(原題)/ Made』で映画初監督を務めます。そして今もクリスマス映画として愛される『エルフ ~サンタの国からやってきた~』(2003)の成功により、監督としての手腕を認められます。
その後は大ヒット映画『ジュマンジ』(1995)の舞台を宇宙に移した『ザスーラ』(2005)、マーベル・シネマティック・ユニバースの第1作となる『アイアンマン』(2008)、インディペンデント映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』(2014)、ディズニー映画『ジャングル・ブック』(2016)などを手掛けており、作風の多彩さを見せています。2019年には超実写版と銘打った『ライオン・キング』の新作映画で大きな話題を呼びました。
ジョージ・クルーニー
ジョージ・クルーニーは『マルコヴィッチの穴』(1999)、『エターナル・サンシャイン』(2004)などのチャーリー・カウフマンが脚本を担当した『コンフェッション』(2002)で監督デビュー。本作ではサム・ロックウェルが主演を務め、70年代の著名なテレビプロデューサーでCIAの秘密工作員としても暗躍したチャック・バリスの半生が描かれます。その後も過去のさまざまな時代を題材にして、『グッドナイト&グッドラック』(2005)、『かけひきは、恋のはじまり』(2008)、『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』(2011)、『ミケランジェロ・プロジェクト』(2013)、『サバービコン 仮面を被った街』(2017)をコンスタントに発表しています。
ショーン・ペン
1991年の『インディアン・ランナー』を皮切りに、映画監督としても高い評価を獲得しているショーン・ペン。自身の映画監督作品には出演しないという方針で、ジャック・ニコルソン主演の『クロッシング・ガード』(1995)と『プレッジ』(2001)、エミール・ハーシュ主演の『イントゥ・ザ・ワイルド』(2007)などを監督しています。2016年には、シャーリーズ・セロンとハビエル・バルデムの共演でアフリカ内戦の過酷な現実を描いた『ラスト・フェイス』を手掛けましたが、残念ながら評価は芳しくなく、日本での劇場公開も見送られました。
シルヴェスター・スタローン
『ロッキー』シリーズで監督を務めるシルヴェスター・スタローンの初監督作は『パラダイス・アレイ』(1978)。その後『ステイン・アライブ』(1983)、『ランボー 最後の戦場』(2008)などを手掛けており、スターが集結した『エクスペンダブルズ』(2010)では自身の監督作として(主演作としても)興行的に最高の成績を記録しました。
ドリュー・バリモアほか
監督作を持つ名優は数多くいますが、ドリュー・バリモアもその一人。1960年代から流行したローラーダービーを題材とした『ローラーガールズ・ダイアリー』(2009)は、『JUNO/ジュノ』(2007)で話題をさらったエレン・ペイジが主人公を好演しました。また、『ファーゴ』(1996)などで知られるウィリアム・H・メイシーは初監督作品『君が生きた証』(2014)で、銃乱射事件で死んだ息子の遺した楽曲を自らが歌っていこうとする父親と、その曲に心打たれたミュージシャン志望の青年の交流を描きました。さらにはダスティン・ホフマン、トミー・リー・ジョーンズ、ジョニー・デップなどなど、枚挙にいとまがありません。これらの作品を名優の顔を思い浮かべながら鑑賞すれば、新たな発見があるはずです。