海外ドラマの気になる若手俳優(2021年秋版)
厳選!ハマる海外ドラマ
第73回プライムタイム・エミー賞関連の作品から最近の注目作まで、海外ドラマの気になる若手俳優(例外あり)をピックアップ! 「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」シーズン4や「ザ・クラウン」シーズン4から「ノーマル・ピープル」や「クルーエル・サマー」など、映画ライター2人が個人的な好み全開で白熱の対談をしました!(取材協力・山縣みどり、文・今 祥枝)
10代ながら体当たりの演技は圧巻!マッケナ・グレイス「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」
今:まずは最大の推しドラマ、「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」から。シーズン4は、これまで以上にジューンと侍女たち、またギレアド共和国外の人々の闘うべし! という姿勢が過激かつ壮絶。言葉を失うシーンも多いけど、2017年にトランプ政権下でシリーズが始まった時よりも現在進行形の物語という色合いはさらに強まっているように感じられます。
山縣:近いところでは8月にタリバンに再び制圧されたアフガニスタンの女性たちの苦境や、9月1日には米テキサス州で妊娠6週前後のごく初期から人工妊娠中絶を禁止する法律が施行されるなど、今まさに世界各地の女性が直面している問題に重なるよね。ギレアド以前の世界でジャニーン(マデリーン・ブルーワー)が最初に中絶に行った場所でひどいことを言われるんだけど、似たような場面は映画『17歳の瞳に映る世界』(2020)で描かれている。女性の人格が無視されつつある現状そのものだよね。
今:シーズン4ではまず第1話に登場する、マッケナ・グレイスが演じるギレアドの性的不能な高官の幼妻、キーズ夫人がインパクトありました。この闘いが主人公ジューン(エリザベス・モス)らの世代から次世代へと受け継がれて行くのだということを強く印象づけてますよね。
山縣:キーズ夫人の境遇もまた、イスラム諸国やアジア圏でも児童婚や幼い子供の集団レイプなど、子供を取り巻く過酷な現実そのものに思える。マッケナは自分と同じ年齢の役として、この脚本を読んで大人の世界の醜さや残酷さを知ったのかと思うと、なんだか早すぎるという気もしてしまうけどね。周囲の環境によって大人にさせられて行く女の子というのはすごく悲しい。
今:マッケナは現在15歳。撮影当時はもっと若いはずだけど、体当たり演技は本当に素晴らしかった。子役時代から出演作は多く、映画『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017)や『キャプテン・マーベル』(2019)で主人公の幼少期を演じているけど、近いところではコメディーシリーズ「ヤング・シェルドン」の天才少女ペイジ役がとっても良くて。でも「ハンドメイズ・テイル」で次のステージに上がった感がありますね。
山縣:わたしはコメディーの演技がうまい俳優が本当の演技派だと思っているから、マッケナの今後に期待してる。
今:シーズン4の第1話でキーズ夫人がやや弱気になっているジューンに対して、「戦わないならなぜここへ来たの?」と言い切るでしょう。あの場面のマッケナの演技に鳥肌が立ちました。この強さ、闘う姿勢と強い意志はZ世代の主張だなとも思った。気候変動の問題などもそうだけど、Z世代には闘わなければ死ぬという切迫感がある。一方、キーズ夫人の言葉にはっとするジューンの表情に、ギレアドが誕生する前に、もっと早くから闘うべきだったという後悔がにじむ感じが胸に痛かった。モスは相変わらずうまいなあと思う。
山縣:追い込まれないと立ち上がれなかったというのも事実で、そこも現実と重なるのかな。
今:そこはわれわれ大人は考えさせられますよね。シーズン4ではレジスタンス活動が過激になっていくというのもあって、これまでに累々と屍を乗り越えてきたフェミニストたちの姿がジューンたちに重なる気がして。改めてわたしたちはそうした闘う女性たちの子孫なんだなと痛感しました。
山縣:そうした尊い闘いがあるからこそ今がある。そのことを映像で見せてくれていてわかりやすいのが、このドラマの本当に素晴らしいところだよね。あとマッケナ自身がこの役を通してどう思ったのかはわからないし、どこの国でもいろんな考え方の子がいていいんだけど、心の底にはジューンたちのように闘う気持ちを持ってほしいなと思う。
今:このドラマではギレアド側にくみする女性たちにも魅力がありますよね。イヴォンヌ・ストラホフスキーが演じるギレアド共和国の高官の妻、セリーナや、なんといっても侍女たちを訓練するリディアおば! アン・ダウドは舞台でも確固たるキャリアのある大ベテランだけど、「LEFTOVERS/残された世界」での異様な存在感に圧倒されました。そしてリディアおばとくると、テレビ的には今が旬な感じで勢いを感じる(笑)。
山縣:すごく複雑なキャラクターだよね。リディアおばの侍女たちに示す共感や哀れみのような感情と、でも国の繁栄のために子供が必要だと考える一方で侍女たちの仕事に対して不快感もあるように見える。どうにも謎めいた人物をアン・ダウドがとてもうまく演じていて、だからこそみんなが興味を持っている気がする。イヴォンヌ・ストラホフスキーはそもそもが美しい人だけど、「CHUCK/チャック」の頃から考えても本当に洗練された俳優になったなと思う。
今:長尺のドラマシリーズだからこそ、それぞれのキャラクターを掘り下げることができるというテレビの利点も生きてますよね。セリーナはどこかでジューンと通じるものがありながらここまで来たわけだけど、その揺らぎみたいなものがどちらに振れて行くのか、この後の展開はすごく気になる。2時間程度の映画では単なる脇役で終わってしまいそうな俳優も、シリーズものだと期待以上の存在感を見せて、シーズンが進むにつれて重要なキャラクターに成長して格上げになる俳優が出てくるのもテレビの醍醐味。
ミステリアスな演技が魅力!マックス・ミンゲラ「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」
山縣:わたしの中ではフレッドの運転手で“目”としてのし上がったニック・ブレイン役のマックス・ミンゲラがまさにそれ! ジョセフ・ファインズ演じる司令官フレッドとかわかりやりやすいキャラだけど、ニックはすごくミステリアス。多分、ギレアド誕生後に目覚めたジューンの夫よりも、実は女性の生きる権利について、誰もが同じ権利があるということを理解している人だと思う。でも、ギレアド以前は大した仕事もしていなかったけど、ギレアドで自分でものし上がることが可能となった時、権力と正しい考え方を秤にかえて権力を取った人。ジューンを愛しているけどどうするんだろうという興味がとても湧く。
今:『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)のオスカー監督、故アンソニー・ミンゲラ監督の息子さんですよね。
山縣:子役としてパパの映画にエキストラ出演して、脚本家・監督デビューも果たしているけど「ハンドメイズ・テイル」で俳優としてものすごく伸びた。エピソードの積み重ねの中でキャラクターに深みを持たせて、実力を示せていると思う。
今:ほかにもアレクシス・ブレデルやマデリーン・ブルーワーといったキャストはいずれも熱演。アンサンブル演技の素晴らしさをぜひ味わってほしい作品です。といういことで、駆け足ですが次は「ザ・クラウン」シーズン4を。
まるでチャールズ皇太子本人!?ジョシュ・オコナー「ザ・クラウン」
山縣:シーズン4も見応えがあったけど、わたしは断然ジョシュ・オコナー! 『ゴッズ・オウン・カントリー』(2017)や最近の公開作 だと『幸せの答え合わせ』(2018)も良かったけど、声までチャールズ皇太子に似せている役づくりはすごいと思った。猫背なところにすごい卑屈さを感じてうまいな~と。チャールズの歪みさ加減は、ダイアナ妃に嫉妬するあたりが本当に最悪と思ってしまうな。
今:エマ・コリンのピュアなダイアナとの絶対に相容れない深い溝を伝えるエピソードとして、誕生日のプレゼントを渡すシーンには心の底からぞっとしました。ほとんどホラー……。
山縣:あの時のダイアナに向けるチャールズ=オコナーの目の演技も忘れられない。ぜひ多くの賞で評価されてほしい!
今:「ザ・クラウン」はエリザベス2世役のオリヴィア・コールマンを筆頭に殿堂入りと言いたくなる名優・名演技が堪能できるシリーズですが、シーズン4はジリアン・アンダーソンのサッチャー首相も良かった! ジリアンは「X-ファイル」のスカリーで止まっていた人も多かった気がしますが、舞台のほか最近だと「セックス・エデュケーション」などのテレビシリーズでの起用のされ方もいいですよね。
山縣:本当に素敵だよね。サッチャー役は、ここぞとばかりに実力を見せつけるような気合いと貫禄があって素晴らしかった。イギリス英語もいつもすごいなあと思う。映画でちょっとした役で彩り? にされるぐらいなら、しっかりテレビでやりがいのある役をやってほしい実力のある俳優は結構いる気がする。
今:それはありますね。サラ・ポールソンとか映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2017)でスピルバーグに起用された時はおおっと思ったけど、つまらない役でがっかりした記憶が。自分がファンだから余計にそう思ったというのもありますけども。
清楚で等身大な感じがいい!フィービー・ディネヴァー「ブリジャートン家」
今:エミー賞作品賞候補作としては異色の「ブリジャートン家」は、主演2人のキャスティングの勝利ですよね。プロデューサー・ションダ・ライムズのヒットメーカーとしての嗅覚みたいなものには頭が下がります!
山縣:どんどんスターも輩出しているし、みんなが観たいものをよくわかっている。それが一番難しいんだけど、今の時代にマッチした天才プロデューサーだよね。レゲ=ジャン・ペイジの明らかにきらきらとした王子様っぷりも素敵だけど、わたしはやっぱりフィービー・ディネヴァーの抜てきが肝だなと。普通にかわいい人という印象で、視聴者が自己投影しやすい親しみやすさがある。社交界の今シーズンの華ではあるけど、パン屋さんで働いてそうな子というか、どこにでもいそうな等身大な感じがするのがいい。
今:確かに。あとエミー賞候補から漏れたのが残念だったけど「地下鉄道 ~自由への旅路~」のプランテーションで奴隷として働く主人公コーラ役の南アフリカ出身の新鋭、トゥソ・ムベドゥの熱演も忘れ難いです。
山縣:第二のルピタ・ニョンゴかなと思いながら観てました。キャストやクルーのメンタルヘルスを支えるセラピストが常駐していたほどの過酷な人種差別を体現しなければならない撮影現場での経験は、今後の糧になると思う。差別する側のジョエル・エドガートンが怖すぎたんだけど、彼もこの役を演じるのは勇気がいっただろうなと。そうした作品作りにおけるバリー・ジェンキンズ監督の細やかな俳優や関係者への配慮も、さすがだなと思うし、今の時代には映画やテレビの現場はそうであるべきだよね。
今:「メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実」はケイト・ウィンスレットの作品だと思うけど、エヴァン・ピーターズが良かったことだけは言っておきたい!
山縣:いい感じで大人になったと思う。子役の時は、ちょっと伸びなさそうかなと思ったけど、今回のコリン・ベイゼル刑事役の普通の人感が良かった。「アメリカン・ホラー・ストーリー」のイメージも強いけど、こっち系の路線でいくと、息も長そうな気がする。
今:あと「クイーンズ・ギャンビット」のアニャ・テイラー=ジョイ! 他の既存の俳優にはない個性が、めちゃくちゃ役にハマっていました。
山縣:急速に伸びたよね。アルゼンチンとイギリス育ちで、父親はアルゼンチンのスコットランド系、母親はアフリカ生まれのスペイン系とイングランド系。イギリスに移住してから「ハリー・ポッター」を読んで英語を学んだとトーク番組で話してました。ヨーロッパの香りがするのもアメリカでの人気の理由の一つかな。あと印象に残る個性的な顔立ちだけど、年齢を重ねてもいい感じになりそうだからアニャの時代はしばらく続きそう。
放ってはおけないと思わせるメンヘラ演技!デイジー・エドガー=ジョーンズ「ノーマル・ピープル」
今:去年のエミー賞候補作でしたけど、これは語っておきたい。マリアンとコネルの愛の変遷を描いたアイルランドのドラマ「ノーマル・ピープル」も良かったですよね~。
山縣:マリアン役のイギリスの俳優、デイジー・エドガー=ジョーンズがあまりにもかわいくて。インセキュア(不安定) で自己肯定感が低くてメンヘラな感じとか、もう守ってあげたい気持ちでいっぱいに。
今:マリアン役は若さゆえの恋愛に対する不器用さとか自分を傷つける相手に向かってしまう感じが、つらいけどよく伝わってきてデイジーのキャリアでも重要な作品になったのでは。個人的にコネル役のポール・メスカル(アイルランドの俳優)がモテるキャラなのが、そうなのね……とちょっと思ってしまった。
山縣:スポーツができて成績も良くて背が高くてかっこいいと言われているけど、え? とは思う。でもそこが現実的なんじゃないのかな。コネルはどこにでもいるちょっとかっこいい男の子という雰囲気があって、いたら現実的に彼氏にしたいタイプなのでは。普段は感情をあまり表に出さずに人の話を聞いているけど、デイジーとの関係の中だけで感情を吐露する。そこからの成長ぶりも良かった。舞台でキャリアを積んできただけあるなと思う見応えのある演技でした。
今:濃密なベッドシーンも含めて、この2人でなければここまでの作品にはならなかったと思わせる説得力がありますね。
アジア系の新星にも期待!マイトレイ・ラマクリシュナン「私の“初めて”日記」
今:その他の新作で気になる作品の若手俳優を。アジア系の活躍は映画でもテレビでも目立つけど、「私の“初めて”日記」のマイトレイ・ラマクリシュナンがイチオシ! 才能あふれるミンディ・カリングほかが手がけるインド系アメリカ人女子高生の青春ドラマ。
山縣:スリランカのタミル系カナダ人の俳優、すごくいいよね。わたしたちの年代が観てきたドラマにおけるインド系アメリカ人は、大体がすごく訛った英語を話すキャラクターで。だからマイトレイが演じるデービーのいかにもアメリカのティーンな感じが新鮮だった。学校では国連と呼ばれている親友3人組もアジア系、レズビアンと個性的で楽しい。テレビシリーズの主役が人種マイノリティーで、これまで白人中心だった学園青春ドラマで生き生きとした日常が描かれるのはすごく意義があると思う。
今:デービーが好きになるパクストン(ダレン・バーネット)も、日本の血を引いていますね。
山縣:口の端っこがキュッとあがるのがかわいいの。アジア系の男子を好きになるといえば「モキシー ~私たちのムーブメント~」のニコ・ヒラガも大好き!! すごく魅力的だよね。
今:わたしはニコール・キッドマン主演「ナイン・パーフェクト・ストレンジャー」のフィリピン系カナダ人のマニー・ハシントを観て、「グッド・プレイス」のコミカルでとぼけたジェイソン役とのギャップに驚いてしまった(笑)。
山縣:かわいい&かっこいいし、ナイスボディだよ! 『トップガン マーヴェリック』にも出演しているし、演技の幅が広くて今後も期待できそう。
キレッキレのジェイレン・バロンにくぎ付け!「ブラインドスポッティング」
今:次はまだあまり認知されていないけど、多くの人に観てもらいたい同名傑作映画の続編ドラマ「ブラインドスポッティング」。ミュージカル「ハミルトン」でブロードウェイデビューを果たした主演のジャスミン・セファス・ジョーンズやヘレン・ハントなど、このドラマもキャストも魅力的。中でもトリッシュ役のジェイレン・バロンの強烈な個性は目を引く。「シェイムレス 俺たちに恥はない」のドミニク役や「レイヴン ~少女とポニーの物語~」の主演などなど売れっ子です。
山縣:キレッキレのトリッシュは、とにかく笑わせてくれるよね。個性も演技力もあるから今後の活躍も約束されているようなもの。あとわたしはドキュメンタリー映画『リル・バック ストリートから世界へ』(2019)も話題になったリル・バック推し。このドラマにも出演しているんだけど、彼が振り付けた登場人物の心境を表してもいるダンスの振り付けが素晴らしい! ふとした瞬間にダンスが始まる一連の流れが本当に素敵。
今:詩的でもあって見入っちゃいますね。舞台となるオークランドやブラック・アイデンティティなど語りがいのある作品です。ラストはトレンドの90年代が舞台&ガールクラッシュものとしても興味深い「クルーエル・サマー」で締めましょう。
変貌するキアラ・オーレリアに驚き!「クルーエル・サマー」
山縣:ジャネット役の新鋭キアラ・オーレリアが93年、94年、95年の3つの時代に、さなぎが蝶にかえるような変化を体現していて秀逸! そのジャネットが憧れて人生を取って代わるケイト役は「マーベル クローク&ダガー」のタンディ役も良かったオリヴィア・ホルト。この2人はすごくいい演技をしていた。この手のガールクラッシュ的な作品って、『ルームメイト』(1992)とか昔ながらの題材ではあるんだけど、時間軸を交錯させながらうまくエンターテインメントとして見せていたよね。
今:友達のマロリーを演じた新鋭、ハーリー・クィン・スミスも良かった。ケヴィン・スミス監督の娘なんだけど、すごくアウトサイダー的な役が似合いますよね。ぜひ我が道を行ってほしい!
紹介した主な作品:
「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」Huluにて独占配信
「ザ・クラウン」はNetflixにて独占配信中
「ノーマル・ピープル」はSTARZPLAYにて独占配信中
「ブリジャートン家」はNetflixにて独占配信中
「私の“初めて”日記」はNetflixにて独占配信中
「ブラインドスポッティング」はSTARZPLAYにて独占配信中
「クルーエル・サマー」はAmazon Prime Videoにて配信中
今祥枝(いま・さちえ) 映画・海外ドラマライター・編集者。『日経エンタテインメント!』『小説すばる』『BAILA』などで執筆。当サイトでは「間違いなしの神配信映画」の企画・編集・執筆担当。Twitter @SachieIma